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禁色の闇姫  作者: ときおう慧実
一章 相生の正妃
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番外編 友情と親愛、そして

セラフィーナ結婚式のワンシーン。

 花弁が舞う。この国で最も尊い、緑色の花弁が。


 祝福の言葉を、民の歓声を聞きながら、奥深くにある部屋の扉を背で閉める。途端に、花嫁の顔から笑みが消える。


「お疲れ」


 滲む視界の中で、耳は正確に欲しい声を捉える。目から一粒、耐え切れなくて滴が零れた。

 安堵と羞恥とで口元が歪んだ。


「駄目ね。式も終わって、覚悟なんて決めた筈なのに」


 親友たる護衛官の顔を見たら、耐え切れなかった。自分の弱さが溢れた。

 それでも護衛官は、花嫁の目元を拭った。


「口づけを贈っても?」


 それは、相手への願いを籠めてのもの。もう一人の親友は主賓来賓の為、式の前日に贈ってくれた。


「勿論」


 頷くと、彼は軽くその長身を屈めた。

 もう一人の親友たる大公と同じように、まずは額に口づける。そのまま顔を傾けて、頬にも。

 知人よりも友人よりも。家族と親友にしか許さない口づけを。


 いつもとなんら変わりなく、いつもと全て同じでの口づけは、自然と体の強張りを取ってくれた。


「ありが……」


 謝辞を言おうとして、言葉を失った。解けた筈の強張りが、倍以上になって戻ってくる。

 腕に、柔らかな口づけ。

熱が一瞬にして、全身を駆け巡る。意味を測ろうとして、また泣きたくなる。


「っつ……!」


 喉に声が詰まる。


 言いたい。何重にも蓋をして、鍵をかけて。誰一人として明確にはしなかった思いを。

 それでもこんな時でも、貴方が取ったのは言葉ではない。


「幸せに、セフィ」


 掠りも揺ぎもしてはくれない。


「貴方も、イシュ」


 願いを返し、笑みを返す。部屋の外に出ると、ここに居る筈ない親友がいた。


「攫われないんですね」


責めているような、呆れた声。普段だったら反射的に噛み付く。


「なにを言っているの? コンラッド」


 それなのに、出た声は、笑みは、それはもう【正妃】のものだった。


 大公の目が見開かれ、一瞬だけ涙が見える。だがそれはほんの一瞬のことで、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。


 そしてまた公の場に出ようとする前に、口づけを贈られる。それは勿論、額と頬にだけ。


 廊下を抜け、侍女が控えながら外門を出る。また一面に、緑の花弁が舞う。

 淡い淡い緑。最も尊い色にして、決してそれそのものの色ではない。


 本来の最尊色は、飲み込まれそうなほど深い翠。変わらない新緑。だけど、この国にそんなにも深い翠の花弁はない。


 淡い緑が視界に広がる。愛らしい美しさ。その色を瞳に持つ人が、道の先で待っている。

 手を取られ、そのまま腕に口づけられる。


「セラフィーナ。我が王妃よ」

「我が王よ」


 その名を返すことはない。私が欲しいのは、腕への口づけで欲しいのは、唯一人。

 それでも、私はセラフィーナ・フラウリーノ=ドゥーコ・ユルハ。公爵家令嬢。末端であろうと、王族。

その血から逃げることは許されない。一生。それでも、


夢物語、ね。


贈られた口づけを思い出す。額に頬、そして腕。


 それでもいつか、その口づけを返すことが出来たら。

 友情と親愛と、そしてもう一つを貴方に贈ろう。






 ユルハ公爵令嬢セラフィーナ。王国最強魔術師の名に、ジンデル国王妃が加わった。

診断メーカーで色々と面白いお題は出たのですが、どうにも本編に載せるには数が多すぎる上に訳わからんものが多いので、別に番外編集で書きたいと思います。

本編に関係ないSSを投下します。

本編(此方)の次話から、二章になります。


今年も宜しくお願い申し上げます

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