エピローグ
アルジェントの町に残されていたスコップはまだなんとか使用に耐えた。
それを使って町の片隅に二人分の墓を掘る。老人と、かつての仇を埋葬した後、彼女は短く祈った。
無力化したとはいえまだ異形使いがいる町にはあまり長くはとどまれない。
町を後にして、彼女は空を見上げた。相変わらずの曇り空。ぼんやりと白む空に太陽は見えない。荒野には乾いた風が吹く。
顔を下ろして左手の甲を見下ろした。異形使いの文様がそこにある。世界根幹へとつながる鍵がそこにある。
世界を手に入れれば死人も生き返らせることもできるかもしれない。ラウロを取り戻すことができるかもしれない。そんなことも考えた。
考えたが、試すことはしなかった。試さなくてもあの人はそばにいてくれる。
そう信じた。
ふと辺りが明るく照らされたことに気づいた。
顔を上げる。日の光が射していた。
見上げれば青空。遠く、彼方まで吸い込まれそうな。
彼女はしばらくそれを見上げた後、右手を顔の前に掲げた。
御使いが翼を広げる。空へと浮かび上がる。
彼女は雲の切れ目、鮮やかな青を目指して飛んだ。
どこまでも飛んで行けそうな気がした。