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空白の肖像  作者: 音鳴 凪


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12/14

12. Confession

 私の前に、二人の少女が身を寄せ合っている。


 同じ髪、同じ肌、同じ瞳——。

 薄暗い部屋の中では、どちらがどちらか、見分けがつかないほどだ。


 混乱したまま、私はただ二人を見比べることしかできなかった。


「お兄様……」


 戸口の少女が、夢でも見るような足取りで、こちらへ歩み寄ってくる。

 その手は、すがるように私へと伸ばされた。


 だが、私の前にいた少女が、立ち上がり、伸ばされたその手を遮るように、もう一人の少女をそっと抱き寄せた。


「……お姉様」


 その声はどこまでも静かで、そして優しさに満ちている。


 抱き寄せられた少女は、ほんの一瞬、行き場をなくしたように身じろぎしたが、やがて抗うこともなく、幼い子どものように、その腕の中へ素直に身を預けていく。


 恍惚と潤んでいた目から、すうっと熱が引いていく。

 あれほど私へ向けられていた激しさが、妹の腕の中で、嘘のように溶けて消える。


「この人は、私の姉です。——双子の」


 初めから部屋にいた少女——妹は、姉を抱えたまま、静かに口を開いた。


 見知らぬあの白い部屋で出会った少女。


 初めて目にした時、少女は、澄んだ声で「ずっと待っていた」と微笑んでいた。

 その後、枕元でひそやかに何かを呟いていたとき、そこには何かに迷う色が含まれていた。

 そして、優しく私の身体を拭う手は、わずかに震えていた。


 時に感情が揺れているように感じていたのは、別の人間だったからなのか。

 私が接してきたのは、一人の少女ではなく、双子の姉妹だったのか。


「……私たちはずっと昔、ひどい事件で、たった一人の兄を失いました」


 姉の髪をあやすように撫でると、姉は嬉しそうに微笑んで目を閉じ、妹の肩に頭を預ける。


「姉は、兄を忘れられませんでした。来る日も来る日も、兄を返してと泣き続けて、そうしているうちに、だんだんと……」


 姉は静かに目を閉じたまま微笑んでいる。

 すぐそこにいる妹の言葉は、まるで何も聞こえていないかのようだ。


「そんなとき、あの人が——あの『先生』が、現れたのです。あの男は、兄を取り戻せる、姉の願いを叶えてやれると、そう言いました」


 兄の魂にふさわしい器を探し出し、そこに兄を取り戻す。

 それは、普通であれば、一笑に付すような世迷い言だ。


 しかし、この姉妹、特に姉にとっては、それこそ藁にもすがる思いだったのか……。


「私も、最初は……その話を、信じようとしました。姉が、あんなにも願うのなら。もう一度、兄に会えるのなら、と。でも——」


 その横顔に浮かんだものを、私はうまく読み取れなかった。

 後悔のような、怯えのような、けれどそのどちらとも違う、何か。


 人の心の弱さにつけこんで、その願いを餌にする。

 そんなあの男のやり口を思うと、知らず自らの手を握りしめていた。


 訊かなければならないことが、まだ山ほどあった。


 あなたたちは、なぜここにいるのか。先生の言う「器」とは、本当は何なのか。

 そして、私はこの姉妹を——。


 私が口を開きかけた、その時だった。


 どこか遠くで、大きな物音が響いた。


 硬いものが床に崩れ落ちるような、重い音。それは一度きりでなく、断続的に、少しずつこちらへ近づいてくる。


「先生が追ってきたのかもしれません。ここを出ましょう」


 囁くようにそう言って、妹は素早く立ち上がる。姉の手を取り、私を振り返った。


「待って、まだ——」


「話は、後で。今は急がないと」


 私は言葉を呑み込み、そっと立ち上がる。

 腕にも足にも、かなり力が戻ってきている。


「うまくできたかわからないのですが、薬を中和する注射を刺しました」


 首筋に走ったちくりとした痛みと冷たさを思い出す。

 意識を奪われたとばかり思っていたあれは、私を眠らせるためではなく、薬から醒ますためのものだったのか。


「……ありがとう。だいぶ動けるようになってるわ」


「入口の扉からは、出られません。あちらは、いつも閉ざされています」


 そう言って妹は、傍らに置かれていた古いランプを取り上げると、火を灯し、姉の手にそっと握らせた。


「お姉様、少し歩きますよ。これをお願いします」


 姉は素直にランプを受け取ると、優しく私に微笑みかけた。


「お兄様も一緒ね」


「もちろんですよ」


 答えたのは私ではなく、妹だったが、姉は満足そうに頷き、もう片方の手で妹の手を取る。


 私たちは部屋を出ると、ランプの頼りない灯りだけを頼りに、足元の暗がりを進んで行った。

 時折聞こえてくる足音を避けるように、妹は右へ、左へと道を選びながら、奥へ奥へと進んでいく。


 やがて、前方に、わずかに大きく開けた闇が見えてくる。


「あそこです」


 妹が、その闇の一点を指さして、私を振り返った。


「あぶないっ!」


 その肩越しの暗がりの中に、ぬっと、人影が立ち上がるのが見え、私はとっさに警告の声を飛ばす。


 妹が後ろを振り返った瞬間、闇から伸びた手が、妹の身体を力任せに突き飛ばした。


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