第85話 取水門の設置順番争奪戦!
※お詫び
昨日の前書きに、本編更新後に閑話を投稿する予定と記載しておりましたが、構成を見直し、閑話として予定していた内容を本編へ組み込むことにいたしました。
その際、前書きの案内を削除したつもりでしたが反映されておらず、誤った告知が残っておりました。
閑話の投稿をお待ちくださった皆様、申し訳ありませんでした。
※毎日 朝5時に予約投稿で更新中
「アリス様!」
リリィが勢いよくアリスの手を取った。
「この取水門を、ランバート領にも作っていただけませんか?」
「ランバート領にも、ですか?」
「はい! 私の領地にも、雨が少なくなると水量が減ってしまう川がありますの。この仕組みがあれば、田畑へ安定して水を届けられるかもしれませんわ!」
「それでしたら、ぜひ現地を確認してみたいですわね。」
アリスが答えると、リリィの顔が明るくなる。
「お待ちください。」
そこへ、レオナルドが割って入った。
「私の領地にも、水不足に悩んでいる村があります。次に視察するのでしたら、そちらを先にお願いできませんか?」
「まあ! 先にお願いしたのは私ですわ!」
「視察の順番は、申し出た早さだけで決めるものではありません。被害の大きさや、工事の必要性を調べてから決めるべきです。」
「でしたら、ランバート領も調べてくださいませ。きっと、こちらを先にするべきだと分かりますわ!」
「それは調査してみなければ分かりません。」
先ほどまで穏やかに取水門を見学していた二人が、いつの間にかどちらの領地を先にするかで争い始めていた。
「レオナルド殿。」
マクシミリアンが、リリィの隣へ並ぶ。
「今回は、ランバート領へ譲っていただこう。」
「マクシミリアン殿まで加わるのですか?」
「当然だ。婚約者の領地が水不足で困っているのなら、放ってはおけない。」
「マクシミリアン様……!」
リリィが感動したように見上げる。
二対一になったレオナルドは僅かに怯んだが、それでも引き下がらなかった。
「私の領地にも、生活のかかっている領民がいます。婚約者のためという理由だけで、順番を譲るわけにはいきません。」
「では、どちらの領地がより必要としているか、カイル殿下に決めていただこう。」
「そうですわね!」
三人の視線が、一斉にカイルへ向けられた。
「待て。なぜ私が決めることになっている?」
カイルが困惑していると、それまで黙っていたセドリックが口を開いた。
「その必要はありません。」
全員がセドリックを見る。
「最初に視察するのは、私の領地です。」
「なぜですの?」
リリィが目を瞬かせる。
セドリックは、アリスの隣へ静かに立った。
「アリス嬢は私の婚約者ですから。婚約者特権です。」
「「そのような特権はありません!」」
リリィとレオナルドが同時に声を上げる。
「なるほど。婚約者になると、視察する領地の順番にも優先権が与えられるのですね。」
アリスは納得したように頷いた。
「アリス嬢も納得するな!」
カイルの声が川辺に響き渡る。
物理学が各地へ広がるのは喜ばしい。
だが、その順番を巡る争いまで始まるとは、カイルも予想していなかった。
結局、四人は誰一人として譲らなかった。
自分の領地こそ先に取水門を必要としていると、それぞれが主張を続ける。
「もうよい!」
話が終わらないと判断したカイルが、声を上げた。
「どの領地を先にするかは、ここで決めることではない。必要性を調査した上で、王都へ戻ってから判断する!」
「では、ランバート領も必ず調査してくださいませ。」
「私の領地もお願いします。」
「私の領地もだ。」
「もちろん、私の領地もです。」
立て続けに要求され、カイルは額を押さえた。
◇ ◇ ◇
改めて、取水門を動かす大小の歯車を見上げたカイルは、
「しかし、この歯車の仕組みは、王宮の門にも使えそうだな……。」
「「「「「 !!!!! 」」」」」
アリス、セドリック、レオナルド、マクシミリアン、リリィが、一斉にカイルを振り返った。
「な、何だ?」
突然全員の視線を浴びたカイルが戸惑う。
「王宮の門は大きくて重い。開閉には何人もの兵士が必要だが、この仕組みを使えば、少ない人数でも動かせるのではないかと思っただけだ。」
「カイル殿下。」
レオナルドが真剣な顔で言葉を遮った。
「それはまた、いずれ考えましょう!」
「その方がよろしいかと。」
マクシミリアンも深く頷く。
「なぜ、お前たちが止める側に回っているんだ?」
「先ほど、ここでの新たな開発は禁止するとおっしゃったばかりではありませんか。」
「私は今すぐ作るとは言っていない。ただ、使えるのではないかと思っただけだ。」
「私たちも、最初は思いついたことを口にしただけでした。」
マクシミリアンの言葉に、カイルは何も言い返せなくなった。
その隣では、アリスとセドリックが、既に何かを考え始めている。
「王宮の門でしたら、こちらよりも大きな歯車が必要になりますわね。」
「釣り合い重りを使えば、さらに少ない力で動かせるでしょう。」
「待て! 今は考えるな!」
カイルの声が、再び川辺に響き渡った。
自分だけは彼らを止める側だと思っていたカイルも、結局は同じ穴の狢だった。




