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【完結】無自覚転生令嬢の物理魔法  作者: 深谷 汎
第8章 代替魔導具 と 物理学普及

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第124話 現代に蘇る魔道具

※毎日 朝5時に予約投稿で更新中

アリスが考案した制御術式は、三つの役割に分けて作られた。


発生したマナの量を測る術式。


測定した量に応じて、変換部へ送る力を調整する術式。


そして、許容量を超えた時には、余分な力を外側の水路へ逃がす術式である。


それらが新たな試作機へ組み込まれた。


これまでの試作機と同じように、水が流される。


羽根が回り、軸から歯車へ力が伝わっていった。


「始動用の魔力を注ぎます」


研究員が術式へ魔力を流す。


中央の輪が、淡い光を放った。


測定器に、無属性のマナが検出される。


これまでなら、その直後に数値が大きく乱れ、安全術式によって装置全体が停止していた。


しかし、今回は違った。


発生したマナの量に応じて、変換部へ流れ込む力が自動的に抑えられる。


大きく上昇しかけた数値が下がり、一定の範囲で安定した。


「マナの変動、許容範囲内です!」


研究員の声が研究室へ響く。


無属性のマナが次の輪へ送られる。


水属性を与える術式が青く光り、その力が内側に置かれた石へ流れ込んでいった。


透明だった石の内側に、淡い青色が浮かぶ。


やがて、石全体が水面のような光を帯びた。


「水属性の魔力を確認!」


「魔石への定着も進んでいます!」


アリスは息をすることも忘れ、石を見つめていた。


光は消えない。


装置を停止した後も、石の中には水属性の魔力が安定して残っている。


研究員が慎重に石を取り外し、ランバート領から持ち帰った石柱の小型模型へはめ込んだ。


次の瞬間。


石柱の先端から、澄んだ水が流れ出した。


「……成功ですわ」


アリスの呟きが、静まり返った研究室へ落ちる。


一瞬の沈黙の後、大きな歓声が上がった。


研究員たちは互いに肩を叩き、握手を交わす。


長く失敗を重ねてきた者の中には、その場へ座り込み、目元を押さえる者までいた。


「やりましたわ!」


振り返ったアリスは、すぐ隣にいたセドリックの手を握った。


「成功しました! 本当に、水の力から魔石を作れましたわ!」


「はい。アリスの制御術式が、正しく働きました」


セドリックも、珍しく喜びを隠さずに笑っている。


アリスは、そのまま握った手を勢いよく上下へ振った。


少し離れた場所では、カイルとレオナルドが安堵したように息を吐いていた。


マクシミリアンは、水を流し続ける石柱を見つめる。


「長かったな……」


「ええ。ですが、これで終わりではありませんわ」


アリスが答える。


「分かっている。次は火山だろう」


「そのとおりですわ!」


即座に返され、マクシミリアンは僅かに肩を落とした。


「今くらいは、もう少し成功の余韻に浸ってもよいのではないか?」


「もちろん、十分に喜んでおりますわ。そのうえで、次の研究へ進むのです!」


「やはり、卒業単位を先に取得しておいて正解だったな……」


◇


水式試作機の成功を受け、ランバート領から持ち帰った古代魔道具の復元も進められた。


分解時に付けた番号と記録を基に、部品が元の位置へ戻されていく。


欠けていた術式には、古代魔道具そのものを削らずに済むよう、新たに作った補助術式が外側から接続された。


全ての部品を組み直した後、装置は王立研究所の実験水路へ運ばれた。


初めは僅かな水圧から。


異常がないことを確かめながら、少しずつ水量を増やしていく。


古代魔道具の内部で羽根が回り、長く止まっていた歯車が動き始めた。


やがて中心部の術式が光り、装着された石へ水属性の魔力が蓄えられていく。


一日。


三日。


七日。


水量や水圧を変えながら連続して動かしても、装置は安定していた。


生成された水の魔石も、全て正常に使用できることが確認された。


こうして、ランバート領の古代魔道具は、再び動く状態へ復元されたのである。


◇


次に始められたのは、火山抑制装置への応用だった。


初めに変更されたのは、属性を与える術式である。


水式試作機の入力部分と変換部分はそのままに、水属性を与えていた術式だけを火属性へ交換した。


水が流れ、羽根が回転する。


水流から得られた力が無属性のマナへ変わり、その後、火属性を与えられて石へ蓄えられた。


完成した石は赤い光を帯び、火の魔石として正常に機能した。


「これで、入力する力と、魔石へ与える属性が別々に変更できることが証明されましたわ」


アリスが言った。


水から火が生まれたわけではない。


水流が持つ力を無属性のマナへ変え、そのマナへ火属性を与えたのである。


残る課題は、水圧を受け取る部分を、火山の力を受け取る構造へ変更することだった。


ベレニケ領で測定された地熱、地下圧力、振動の記録が、改めて検討された。


火山の熱を受け取り、内部の流体へ伝える部分。


熱によって生じた圧力を、回転へ変える部分。


地下から伝わる振動を受け止め、変換部へ送る部分。


複数の入力を一度に受けても、変換されるマナが急激に増えないよう調整する制御術式。


水式試作機で確立した共通変換部を中心に、それらが一つずつ組み込まれていった。


試作。


測定。


分解。


改良。


再び試作。


ランバート領の古代魔道具を復元した時と同じように、実験と修正が繰り返された。


そして数か月後。


火山の熱、圧力、振動によって生じる力を吸収し、火の魔石へ移す代替魔道具が完成した。


◇


実証実験の場所に選ばれたのは、王国北西部にある無人の火山地帯だった。


周囲に集落はなく、現在も地下から熱と火山性の振動が確認されている。


万が一、装置に異常が起きても、人々の暮らしへ被害が及ばない場所である。


代替魔道具は火山の熱が集まる場所へ設置され、周囲には複数の測定器が置かれた。


実験には、王太子、カイル、開発班の研究員たちも立ち会っていた。


「起動します」


研究員が始動用の魔力を注ぐ。


代替魔道具の中心に刻まれた術式が光った。


地下から伝わる熱と圧力が装置へ取り込まれる。


変換部で無属性のマナとなり、制御術式によって一定量へ抑えられた後、火属性を与えられて魔石へ流れ込んでいった。


装置に並べられた石の一つが、ゆっくりと赤く染まる。


「火属性の魔力を確認!」


「変換量、安定しています!」


「周辺温度が低下し始めました!」


測定結果が、次々に報告される。


実験は一度で終わらなかった。


火の魔石を交換しながら、装置は何日も動かされ続けた。


地下圧力。


地表温度。


火山性の振動。


全ての数値が記録される。


七日後。


周辺の地熱と地下圧力は、予測された範囲まで低下していた。


火山性の振動も減少し、装置には異常が確認されていない。


「実証実験、成功です」


研究所の責任者が告げた。


一瞬の静寂。


それから、火山地帯に大きな歓声が響いた。


研究員たちは抱き合い、騎士たちも声を上げる。


カイルとレオナルドは固く握手を交わした。


マクシミリアンも、今度ばかりは喜びを隠そうとしなかった。


セドリックは、少し離れた場所で立ち尽くしているアリスの隣へ立った。


「完成しましたね」


「……はい」


アリスは、赤く光る火の魔石を見つめた。


前世では、制御できなかった力によって命を失った。


だが今世では、その時の失敗を使い、一つの土地を災害から守る装置を完成させた。


「今度は、制御できましたわ」


「はい。アリスが成し遂げたのです」


アリスは首を横へ振った。


「わたくし一人ではありません。皆様と一緒に完成させたのですわ」


王都へ戻った開発班を待っていたのは、王宮を挙げての祝賀会だった。


国王から正式に開発成功が発表され、開発に携わった研究員、技術者、騎士の全員が称えられた。


会場に大きな拍手が響く。


長く行き詰まっていた代替魔道具の開発は、ついに成功した。


古代文明だけが持っていた力を、現代の人々が理解し、自らの手で再び作り出したのである。


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