プロローグ
私は、天才物理学者と呼ばれ、物理の研究に人生を捧げる物理オタクだった。そして、日本の国立研究所で、私の人生の集大成である次世代エネルギー、今世紀最大の研究実験が行われた。そして……私は、実験の事故に巻き込まれ死亡した。最後に見た光景は、辺り一面まぶしい閃光に包まれた瞬間だった。
次に意識が浮上したとき、私は柔らかな光の中にいた。 視界はぼやけ、身体は思うように動かない。肺に流れ込んできた空気が異様に冷たく感じられ、私は反射的に声を上げた。
「……生まれた! 元気な女の子ですよ、伯爵様!」
その声を聞いた瞬間、私は理解した。 どうやら私は、前世の記憶を保持したまま、別の世界に転生してしまったらしい。
ベレニケ伯爵家の令嬢アリスとして生を受けた私は、この世界に強い関心を抱いた。 なぜなら……この世界には、前世には存在しなかったエネルギー――『魔力』が存在していたからである。
物心がつく頃になると、
「お父様、なぜこの火は、燃料もないのに燃え続けることができるのですか?」
「それはね、アリス。神様が与えてくださった魔力が、精霊を通じて顕現しているからだよ」
父の優しい答えを聞きながら、幼い私は内心で首を振った。
(神や精霊……それは既存の概念に当てはめただけの便宜上の呼称に過ぎない。実際には、空気中のマナ粒子が特定の振動数で励起され、熱エネルギーに変換されているはずだわ)
私は庭のベンチに座り、指先に小さな火を灯した。 周囲の者はそれを「火属性の魔法」と呼んだが、私にとっては「熱力学の制御実験」だった。
ベレニケ伯爵家の家族は、そんな少し「変わった」私を、深い愛情で包んでくれた。
「アリス、またそんな難しい顔をして本を読んでいるのかい? 今日はヨハン兄様と遊ぼうよ」
兄のヨハンは、私が書斎で描いていた複雑な数式――魔法陣を物理学的に分解したメモ――を覗き込んで、苦笑いを浮かべた。 彼らには、私が何を研究しているのか全く理解できなかったのだ。 だが、「アリスは賢いからね」と言って、私の奇行(と彼らには見える探究活動)を止めることはしなかった。




