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38 捨てられた石



「レオ、また明日。」

「あぁ、またな。」

 学校が終わるとまっすぐ帰宅する毎日。友達と遊んで、帰りが遅くなって母に怒られることもあった日々がなつかしい。あの頃は楽しかった。


 学校に行けば、トウコちゃんがいて。挨拶をすれば笑って返してくれるし、ちょっとした会話もすごく楽しかった。話題なんて、昨日の夕食の話とかたわいもないことだったのに。


 クラスメイトも、トウコちゃんをいじめたりする悪い奴らだったが、気のいい奴ばかりで、一緒にいて楽しかった。


 でも、トウコちゃんがいなくなったら、学校はつまらない場所になって、クラスメイトは忌むべき存在となった。


 どうすればいいのかわからない俺は、とりあえず今まで通り生活している。


「おい。」

「?」

 突然、道端で声が聞こえたので振り返った。しかし、そこには誰もいない。横にも誰もいないし、気のせいかと前を向き再び歩き出そうとする。

「待て、ませ餓鬼。下だ。足元を見ろ。」

「は?」

 声の言うとおりに下を見れば、白い石があった。大きさは握りこぶしより少し大きいくらいで、表面がつるつるとした丸い石だ。道端に落ちていれば子供が拾って持って帰りそうな特徴的な石だが、レオにそういう趣味はないので興味はない。


「俺が見えるか?」

「・・・まさか、この石がしゃべっているのか?」

「石・・・そうか。今の俺は石なのか。とりあえず、俺を持って人気のないところに行って欲しい。人間がこの現場を見た場合、お前が石に話しかけているように見えるからな。」

「・・・それは困るな。わかった。」

 言われたとおりに石を持ち上げて歩き出すレオだが、ふと疑問に思った。この石と話をする必要があるのかと。しかし、もう石は手の中にあることだし、今更置き去りにするのもあれなので、そのまま家に帰ることにした。


「ただいま。」

「おかえり、今日も早いわね。」

「・・・別に学校ですることもないし。」

「そう・・・。」

 何か言いたげな母の視線から逃げるように、レオは自分の部屋へとまっすぐ向かった。


 部屋に入ると、石を机の上に置き、レオは机の前にある椅子に腰かけた。ここなら大丈夫と、レオは石に話しかける。

「まさか、家に上がることになるとは思わなかったぞ。こんな得体のしれない石をよく家に入れたな。」

「そうだな。で、話したいことは何?」

「・・・まずは、自己紹介としよう。俺は、アヤカシだ。付き合いの長い奴にはシロと呼ばれている。」

「シロ。真っ白い石だからか?」

「俺は、石ではない。今は石の姿をしているようだが、本当は真っ白い髪と赤い目をした男の姿をしている。覚えているか?」

「真っ白い髪・・・って、まさかトウコちゃんを連れ帰った、じじぃ?」

「そうだ。覚えていたか。」

「あぁ。あんな白い髪インパクトが強すぎて忘れられねーよ。でも、どうして石に・・・?そういえば、アヤカシって言ってたよな・・・」


 頭がこんがらがったようなレオに、アヤカシは今までのこと順を追って簡単に話した。


 自分がアヤカシなこと。トウコと出会ったこと。出会ったときにトウコは死んでいたこと。トウコが妖になっていたこと。

「そうか。俺が会った時にはもう、死んでいたんだな。トウコちゃん・・・」

「ここからが本題だ。俺は、主であるアノカミに力を封印されてしまった。その影響なのか知らんが、目覚めたらこの姿になっていたのだ。」

「・・・今、一気にすっ飛ばしたな。」

「面倒になった。それで、悪いが助けてもらいたい。」

「いや、無理。」

「なぜだ?」

「だって、神様を敵に回すってことだろ?流石に無理だろ?だいたい、人間の俺にどう助けろっていうんだ?まさか、俺を食って・・・」

 そう自分で言って青ざめたレオに、ため息をつくアヤカシ。


「俺はな、一応元は人間だから、人間を食うのに抵抗がある。安心しろ。」

「抵抗があるってだけじゃ、安心できないな。」

「それもそうだな。とにかく、助けてくれ。お前はトウコのことが好きだろう?これはトウコを助けることにもなる。」

「それは、どういう意味?」

 真剣な顔で訊ねてくるレオに、少し己を重ねて親近感がわく。俺も、トウコのためならなんだってやるつもりだ。


「アノカミがおかしい。もとから・・・トウコと出会ってからおかしいとは思っていたが、それは微笑ましいものに近かった。だが、今のおかしさは、どこか危ういような・・・」

 そう言って、目はないが目をつぶって思い出すようにアヤカシは話した。


 昨日のこと。ゆっくりとお茶を楽しむアノカミ。家でゆっくり過ごすのは、彼の日常だったが、最近はいろいろあったため珍しいひと時となった。

 そこへ、大きな音をたてて、家の中に入ってくるものがいた。

「アノカミ!トウコがっ!トウコがっ!」

「うるさいよ、シロ。言わなくてもわかっている。」


 そう言ってまったり茶をすするアノカミ。アヤカシの怒りは頂点に達する。

「お前!いい加減にしろよ!だいたい、お前がトウコに父のことを任せ、俺に手出し無用だなんて言うから・・・トウコが・・・」

「いなくなったからって、なんだっていうの?トウコはああ見えて妖だよ。人間ではない彼女に何の危険があるのか。」

 そう言って、ずずっと音をたて茶をすする。


「だが、あいつは・・・力の弱い妖だ。悪い妖に何かされでもしたら・・・」

「・・・」

「やはり、今から探しにっ・・・ぐへぇっ!?」

 話終わらないうちにアノカミが、アヤカシの鳩尾を蹴り上げた。


「な・・・何をする。」

 腹をおさえて、恨めし気にアノカミを見るアヤカシ。

「お前は、手出し無用だ。いいか、これはご主人様からの命令だ。」

「いまさら、何を・・・何が主人だ。」


「お前にチャンスはやった。でも、お前たちの関係は、進まない。シロ、お前とトウコはなんだ?」

「・・・なんだと言われても困る。」

「そこまでしかいけなかったお前が悪い。だから、僕が血迷ってしまうんだよ。」

 そう言って、アノカミはアヤカシを本気で殴り、気絶したアヤカシに術をかけた。


「もう、トウコの前に現れるな。僕がトウコと生きていくから。」

 気絶して聞こえないはずのアヤカシの耳に、はっきりと聞こえた言葉。それは、残酷すぎる言葉だった。

「シロ、もう君はいらない。」




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