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24 真実



 山の採石作業で、少なくない人間が命を落とした。たかが、石や砂利などを採取するために。それほどに、石や砂利が大切なものなのか?

 父は、やめればいいのに、頑固に計画を進める。周りがやめろという度に、父の心に火をつけてしまうようだ。


 クラスメイトは、私を気味悪がった。

 近づけば、自分も神の怒りに触れるのではないかと。誰もかれもが私をさけて、私をいないものと扱う。ただ、机の落書きなんかは続いていた。前よりも多くの落書きが、彼らが恐れていることを示していた。

 もう来るな。


 そのメッセージは切実だ。

 だって、みんな神の怒りに触れたくないから。そう、みんな・・・レオ以外のみんな。


「大丈夫か?トウコちゃん。」

 いつもと変わらない、トウコを心配する言葉。ここまで正義感が強く、自分を通せる人間も少ないだろう。

「ありがとう、レオ君。私は大丈夫。」

 当たり障りのない返答。トウコにはもう、レオに仕返しをする気はなかった。ただただ、人間という社会の縛りから解放されたいと思うのみ。だから、もうレオに対して思わせぶりなこともしない。


 トウコは、レオの誘いを断っていた。そのせいかレオは前にも増して、学校で声をかけてくるが、すべてそっけなく答える。

 そんなトウコに、意を決したようにレオは言った。


「トウコちゃん、今日一緒に公園に行かないか?いや、話ができるのならどこでもいいから・・・俺、話したいことがあるんだ。」

「ごめん、私はないから。」

「トウコちゃんになくても、俺にはあるんだ。お願いだ。」

 トウコはレオの様子を見て、引きそうにないと判断し、仕方なく誘いに乗った。




 レオと一緒に来たのは、いつか来た公園。前に来た時と同じようにベンチに2人して腰を掛けた。

 レオは黙って、公園を眺める。今のところ誰も公園にいない。もしかしたら、トウコが来た影響かもしれないと、少し過剰気味にトウコは思った。


「俺のこと、避けてるよね。」

 過剰なのはレオも同じようだった。別にレオを避けているつもりはなく、もう目的を遂行する気はないので、積極的な交流をしていないだけだ。

「別に、そういうつもりはないけど。」

「・・・俺が、みんなにハブられないようにするためか?」

 意味が分からず、トウコは内心首を傾げ、何も言葉を発せなかった。それを肯定と受け取ったレオが話し出す。


「俺が、トウコちゃんと関われば、俺までみんなから距離を置かれるって思っているんだろ?でも俺、みんなからハブられるより、トウコちゃんと話せない方が辛いよ。」

 前半部分で、レオの言うことに納得したトウコだが、後半は面倒に感じるだけだった。そんなことを言われても、トウコはどうせすぐに消える身。遅かれ早かれ、レオとは会わなくなる存在だ。


 何も言えなかった。

 何を言えばいいというのか?


「それとも、俺のことが嫌いになった?いじめだって、なくしてあげられない・・・助けられない俺のことを・・・」

「私は・・・」

 トウコは口にするか悩んだ。

 正直、ここまで正義感が強いのは、いっそ清々しいと思う。周りにいる人間よりは好感が持てるとまで思った。だが、それが何になるのかと思う。だから言った。


「私は、最初から嫌いだったよ。レオ君、あなたのことが。」

 レオはそれを聞いて言葉に詰まったようで、何も言わなかったが、少し時間をおいて聞いた。

「最初から、嫌いだったのか。」

「うん。レオ君。教えてあげるよ。」

 何を?と疑問を浮かべるレオの顔を見て、正直に話すことにした。


「私がいじめられたのはね・・・レオ君、あなたが原因だったの。」

 驚いた顔のレオに、トウコは苦笑を浮かべ続けた。

「気づいていなかったんだよね?わかってる。」

 そして、トウコは語った。いじめの真実を。


「そんな。」

 開いた口が塞がらないとはこのことかと、レオの顔を見てトウコは思った。

 頭を抱えて、うなだれるレオ。トウコは立ち上がった。


 もう帰る時間だ。といっても、まだ早いのだがアヤカシに早く会いたい。レオといても何の実りもない。


「待ってくれ。」

 歩き出したトウコは、レオの言葉に立ち止まる。


「俺は・・・迷惑だった?」

「うん。」

 即答するトウコに、レオは固まって、本当にもう何も言えそうになかった。それを見て、トウコはそのまま歩き出した。もう誰もトウコを止めるものはいない。




 どれくらいベンチに座っていたのかわからないが、気づけば日が暮れていた。レオは無気力に、帰らないと、と思い立ち上がった。


「ただいま。」

「おかえり~何?元気ないわね?」

 家に帰れば、そう母に言われた。母は何でもお見通しだ。


「どうしたの?またトウコちゃんがひどい目にあっていたの?」

「・・・」

 母には彼女のことを話している。それはもうほぼ毎日のように。俺は、彼女のことを心配していた。それが、裏目に出ていたとも気づかずに。


「俺のせいで、いじめられてたんだ。」

「トウコちゃんのこと?」

「そうだよ。俺が、変な正義感で助けたりしなければ!」

「あんた、やっぱり気づいてなかったの?」

 母の言葉に一瞬動きが固まった。母は気づいていたのか、いじめの原因を。


「あんたが原因だとしても、トウコちゃんがあんたと一緒にいたいと思えば、それでいいと思うわよ。」

「違う。本当は、迷惑だったんだって・・・俺のこと、最初から嫌いだったって。」

「あんたね、素直なのはいいことだけど、言葉通りに受け取りすぎよ?今のトウコちゃんの状況を考えてみなさいな。」

「どういう意味だ?」

「トウコちゃんがレオのこと避けてるってわかった時、レオはどう思ったの?」

「俺のために、俺から離れようとしてるって、思ったけど。」

「なら、今回何を言われたのか知らないけど、レオのためを思って、迷惑とか嫌いって言ったんじゃないの?」

「・・・そうなのか?」

「知らないわよ。私はトウコちゃんじゃないもの。でも、どう感じるかはあんた次第よ。」


 母と話して、俺は自分の部屋に戻ると勉強机の前に行き、椅子に座った。

 母の言葉はレオの気持ちを軽くしたが、まだレオには迷いがある。迷惑なら、身を引くべきだと思う。しかし。

 レオは、机の引き出しを開けた。そこには今使っていない古いゲーム機があった。もう電源も入らない使えないゲーム機だ。それには、一枚のはがれかけたシールが貼ってあった。

 とあるイベントでもらえた「コメンダー」のシール。このシールは、コメンダーに直接もらえるシールで、子供のころにもらったときは本当に舞い上がるほどうれしかった。


 でもこれは、レオが直接コメンダーにもらったものではない。

 このシールは、小さな女の子が泣きながら女の子の母に奪われ、レオの手に渡ったもの。


 レオの母は言った。この恩は必ず返せと。


「あの人は、旧家の奥さんよ。確か、そのお子さんの名前はトウコちゃん。あなたのために奪われ、涙を流した女の子の名前よ。覚えておきなさい。」


 レオは、決意を固めたようにシールを見て、引き出しを閉めた。



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