22 離れていても
夕食を食べ終えたトウコが部屋に戻ると、まだいた2人に目を向けた。
「それで、何か用?用事もなくアノカミが来ることってないよね?」
「用事ないと来ちゃダメなの?」
そういうわけではないけど、アヤカシと違ってアノカミは忙しそうだから、用事がなければ来ることもないだろうと思ったのだ。
「確かにね。シロと違って僕は、役割があるから。」
「俺にだってある。」
「そうだけど、僕の傍にいるってだけの役割でしょ?」
「そんな役割を数えきれないほどの年数こなしているのだ。もっといたわってくれ。」
「いや、そんなの僕も同じだし。ま、感謝はしているけどね。」
アノカミの言葉に、若干アヤカシは照れたようでそっぽを向いてしまった。
「それで、本題なんだけど・・・トウコ。」
「!?」
アノカミが初めてトウコの名前を呼んだことに、トウコはかなり驚いた。しかも、アノカミの声色は真剣そのもので、何を言われるのかと不安が押し寄せる。
「あぁ、ごめん。たいしたことないよ。」
アノカミはいつもの雰囲気に戻り、優しく微笑んだ。
「つい、神として話をするとき、昔みたいな話し方になっちゃうんだよね。しかも威圧感も出ちゃうみたいで・・・不安にさせてごめんね。」
「ううん。それで、話って?神としての話と聞くと、かなり重要なことに聞こえるけど?」
「いや、本当にたいしたことないけど・・・一応確認を取っておかないとシロがうるさそうだから。」
「俺のせいなのか?」
「うん。」
アヤカシの言葉に即答するアノカミは、特に気負った様子もなく、そのままトウコに確認をした。
「それで、天使ちゃん。父親のことだけど、最悪殺してもいい?」
「うん。」
「はぁっ!?」
アヤカシが信じられないとでも言うように、アノカミを見る。
「だよねー。聞いたかい、シロ?」
「なんてことを言うんだ!トウコの父親を殺すなんて。」
「あ、確定ではないから。それに、天使ちゃんも別に気にしてないし。」
「うん。アノカミの怒りを買ったのなら仕方がないと思うし、別に私とは関係ないしね、もう。」
「トウコ・・・それでいいのか?お前の親だぞ?」
「私に親なんていないよ?だって私は妖だから。私は、私という死体から生まれたの。私自身から生まれたんだから。」
「それは、そうだが・・・」
「シロもさ、自分に置き換えてみなよ。」
「アノカミ・・・」
「君の両親が僕に殺されたらどう思う?」
「それは、馬鹿な奴らだと・・・何より俺は親の顔も知らないからな。親が殺されても気づけない。」
「君がそんな思考をしていて、天使ちゃんをどうこう言うことってできないよね?」
「・・・でも、トウコは両親と暮らしていて。」
「両親と暮らしているから何?大事なのは天使ちゃんの気持ちでしょ?」
「私の気持ち・・・」
アノカミの言葉にトウコが反応する。トウコにとって、トウコの気持ちを考えてくれるものは少なく、何か暖かい気持ちになる存在だ。
「そうだよ。僕はね、君の気持ち次第では、あの男を生かすつもりだし、できるだけ悲惨な目にあわないようにするつもりだよ。ま、僕の気持ち的には、あの男のすべてを踏みにじって、後悔しながら死んでいくように仕向けたいぐらいだけど。」
そう言って、酷薄な笑みを浮かべたアノカミをトウコは恐ろしく感じながらも見つめた。
「怖がらないで。君を怖がらせたり、悲しませたりするのは僕の本意ではないんだ。だから、君が悲しむのなら僕はすべてを我慢するさ。」
「なんで?なんで、そこまで私を気にしてくれるの?」
「好感が持てたから。ただそれだけだよ。」
「好感?」
レオがトウコに抱いている感情と同じものであろうか。しかし、どこかアノカミの好感は違って思えた。
「そうだね。違って当然だよ。君と僕とでは・・・格が違うから。」
そう言って、アノカミは悲しそうに笑う。
そんなアノカミに、アヤカシがため息をついて言った。
「お前らは、格が違うと頻繁に口にするが、それに何か問題があるのか?俺にはわからん。隣に行きたいのなら、行けばいい。」
「それは、僕が天使をもらってもいいということかな?」
「それはだめだっ!だいたい、トウコは物じゃないし、誰のモノでもない!」
アヤカシ慌てる様子を見てくすくすと笑うアノカミに、トウコはなんだかほっとした。
アノカミには笑っていて欲しい。なんとなくそう思ったのだ。
「それが、君の願い?」
アノカミは、トウコの瞳を覗き込んでそう聞いてきた。
「もし、それが君の願いというのなら、僕はずっと笑っていてあげるよ。でもね、僕が笑っていられるように手伝ってくれるといいな、ずっとね。」
トウコはアノカミの言葉に少し考えてから答えた。
「笑っていて欲しいとは思うけど、無理して笑わなくていいよ。幸せなら、楽しければ、笑いたければ・・・笑って。あなたの傍にずっといる保証はできないけれど、そばにいなくたってあなたを思う。それは約束できるよ。それであなたを笑顔にできるかな?」
「・・・うん。十分だよ。ありがとう。」
「俺は思ってくれないのか?」
トウコはそういったアヤカシの目を見た。かなり真面目に聞く様子は、かなりほほえましいし、こちらも嬉しい気持ちになる。
「アヤカシは?アヤカシは私のこと思ってくれる?」
「俺か。俺は・・・いつもお前のことを思っている。離れていても、お前がいつも何をやっているのだとか気になって仕方がなくてな。最近では自重できずに、すぐにお前のもとに来ているありさまだ。」
なるほど。最近よく顔を合わせると思っていたが、そういうことだったのか。
「私も同じだよ、アヤカシ。」
「トウコ・・・」
アヤカシの顔が少し緩む。いつもはかっこいいと思っていたが、その顔は少し可愛らしく感じられ、なごむ。
「あのさ。これ2回目だけど・・・僕のこと忘れてない?」
「・・・」
2人は、いつかのように「忘れていた」と心の中で言うのにとどめた。
「いや、確かに僕は心を読めるけど・・・会話して!僕と心の中で会話しないで!それ、もう会話でもないし!」
「アノカミ。私、あなたのことも離れていたって思っているから・・・」
トウコは後半、心の中で言った。今日のところは帰って欲しいと。
「俺も思っているぞ。お前、忙しい身の上だろ?用も済んだことだし、帰ったらどうだ?」
アヤカシはそうはっきり言うと、トウコを抱き上げ自分の膝の上に座らせた。
このバカップル共めが・・・アノカミはそう心の中で呟いたが、心を読めない2人には伝わらなかった。




