第6話 夏祭りの夜
俺は、養母に用意して貰った浴衣を着る。
男用の浴衣など、すぐに着られるような簡易な物だ。
小物なども無く、落ち着いた柄の着物だった。
「サイズはピッタリだ。
どうやら、俺の為に用意してくれたのかな?」
今では、ユニクロなどで安くて丈夫な浴衣を売っている。
ダリアが浴衣を着るからという事で、俺の浴衣も買ってくれたらしい。
俺は、普段は夏祭りに行くようなタイプでは無い。
「本当は、人混みの多い所なんて嫌だけど……。
ダリアが喜ぶ顔は見てみたいからな」
俺は、古くなったサンダルを掃除しながら、彼女の準備ができるのを待っていた。
すると、部屋の戸が開き、彼女たちの気配がする。
俺が後ろを振り向くと、化粧をしたダリアと目が合った。
「どうかな?
髪をちょっとカールさせて、イメージチェンジさせて貰ったんだけど……。
私としては、ストレートの方が好きなんだけど……」
「まるで、本物のお姫様が現れたみたいで可愛いよ。
俺は、可愛くなかったり、変だったらそう言う。
その俺が可愛いと言う事は、自信を持って良いんだぜ!」
「ありがとう。
ちょっと自信が付いた。
花火大会は、この髪型で行くね」
俺とダリアは、腕を絡ませて道を歩く。
最初は、彼女がさり気なく俺を避けて歩いていたようだが、サンダルが履き慣れていない為に、盛大に転けかけた。
前屈みに転び、パンツが見えた事によって、彼女の方から俺にくっ付くようになって来た。
転けて、自分の浴衣を汚すのが忍びないのであろう。
俺の腕を軽く握り、転けても踏ん張れるように頑張っていた。
俺も、彼女を支える為に、少し前方を歩く。
彼女を引っ張って行くような形で歩いていた。
「わっ、ごめんなさい……」
それでも数度よろけて、俺の腕にしがみ付く。
その度にオッパイが当たり、心地良い感触を腕に感じていた。
俺は、他の男だったらメロメロなのだろうかと思いながら一緒に歩く。
俺には、女性特有の誘惑など効かない。
まあ、彼女の場合は、本気でよろけて転けているようだが……。
俺の心はすり減っていた。
オッパイの感触ごときで心を揺らせるレベルでは無い。
とはいえ、彼女のオッパイを避ける事もせずに、オッパイを腕に感じなら彼女を支えていた。
思えば、俺にも制欲があったんだな……、と思っていた。
しばらく転けるのを繰り返していると、サンダルのサイズが合っていない事に気が付いた。
「おい、サンダルのサイズが合ってないぞ!
だから良く転ぶんだよ」
「ごめん、叔母さんが色もセットで用意してくれたから、他の奴を履き辛くて……」
「まずは、安い物でも良いから、サイズの合ったサンダルを買おうぜ!
色は、ピンク色が良いかな?」
「わあ、良いよ、そんなの……」
「これ以上タックルをされるのもかなわん。
怪我もするかもしれないし、そこまで高い物じゃない。
気にせずに、好きな物を選べよ!」
俺は、彼女をおんぶして、近くのサンダル屋へ急ぐ。
祭りの屋台で売っている物なので、質は悪いが、値段は安かった。
今日一日持てば良い、そう思って買う。
「好きな物を買えよ。
ただし、サイズはよく見て買えよ。
また、サイズが合わなかったら意味ないからな」
「うわ、ありがとう。
なるべく丈夫で長持ちする奴を買うね。
うーん、これが良いかな?」
彼女は、ちょっと柔らかめのサンダルを選んだ。
俺はサイズを確認して、彼女が履きやすい事を確認する。
転びそうでもないので、俺もOKを出した。
「ほらよ、今までのサンダルは、俺が持ち帰ってやる。
袋に入れて、俺に渡せ!」
「え、良いよ。
サンダルまで買って貰ったし、そこまでして貰うわけには……」
「俺がしたいんだよ!」
「じゃあ、お願いします……」
彼女は、今まで人に遠慮していたようだ。
俺も、他人に対してそういう接し方をする時はある。
自分がしていると気付かないが、他人がしているともどかしく感じていた。
あらかじめ彼女に期待させない方が気が楽だった。
祭りの屋台で挑戦しても、景品を1つも落とした記憶が無い。
水風船でさえ、お情けで一個貰えるのが関の山だった。
変に、彼女を期待させるのは、俺が緊張してしまう。
先に宣言する事で、要らぬプレッシャーを背負わなくて済む。
俺は、サンダルの入った袋を背中に回し、こう宣言する。
「言っておくけどな、俺はゲームとか、輪投げとかが苦手だ!
ついでに、運もない!
屋台で買い物をする時は、食べ物中心で行こう!
本当は、お前にカッコ良いところを見せたいんだけどな……」
「うん、私もゲームとか苦手……。
ゲームセンターとかでも、3千円使っても景品が取れない自信はあるよ!
それよりは、食べ物を選んだ方が良いや」
「よし! まずは、綿あめを食べよう!
見た目的には、とても大きく見えるからな!」
「うん、叔父さん、1つください!」
俺は、彼女に奢るつもりだったが、彼女の方が早かった。
叔父さんは、彼女を見て機嫌を良くする。
どうやら特別サービスをしてくれるようだ。
「ほらよ、兄ちゃん。
彼女の為に作ってやりな!
ちょっと大き目にしても大丈夫だぜ!」
「うお、俺が作るのか?」
叔父さんは、俺に木の棒と袋を渡して来た。
砂糖を溶かして、綿あめを作るらしいが、俺には経験が無い。
不器用な俺を前にして、ダリアは期待を込めた目をしている。
「だから、期待すんなって……」
俺は、そう言いつつも綿あめ作りを挑戦して見る事にした。
割り箸を貰い、機械の中を適当に混ぜてみる。
「これって、見た目よりも難しいよな。
上下左右にバランス良くしないと、フワッという感じが出せないんだ。
まあ、見た目的には上手く行ったけど……」
「わあ、綿あめが出来ちゃった!」
見た目的には、美味しい綿あめが出現した。
俺が良いと思って機械から離す。
すると、割り箸が綿あめから外れ始めた。
どうやら真ん中が弱かったようだ。
ずるりと棒が外れて、大きな綿あめが地面に落ちる。
俺と彼女は、あっと声を出して落ちた綿あめを見つめていた。
「プッククククク、アハハハハ、落ちゃった。
受験シーズンだったら大変だよ、今は時期が違うから良いけど……」
「あめが重かったみたいだな。
慣れないと、真ん中の補強が……」
俺が叔父さんを見ると、物凄く笑っていた。
どうやら予想通りのようだ。
「いやー、彼女に良い所を見せようと思ったけど、心配しちゃったね!
じゃあ、叔父ちゃんが作った綿あめをあげよう!
はいよ、お兄ちゃん、400円ですよ!」
「ええ、1つだけ?」
ダリアは、叔父さんにもう一本貰えるようにお願いする。
なかなか強かな女の子だ。
つい、声に出してしまった感もあるが……。
「お嬢ちゃんには敵わないな……。
はいよ、お兄ちゃんの分だ!
浴衣の色に合わせた袋を選んであげたよ!
じゃあ、祭りを楽しんでね!」
「わああ、ありがとう!」
俺はこの時、女の子はお得だよなと感じていた。
大して可愛くない女の子でも、声や口調で可愛くする事もできる。
それが元々可愛いダリアなら、叔父さんをメロメロにする事も可能だった。
(こいつ、叔父さんキラーかよ!)
俺は声には出さなかったが、彼女には届いていたようだ。
ウインクをして、俺に笑いかけて来た。
女の子は強いなあ、と思う。
綿あめも食べ終わると、彼女がりんご飴を見ていた。
俺的には、チョコバナナの方が好きだったが、彼女が食べたそうにしていたので、先にりんご飴を買う。
「りんご飴か……。
俺的には、祭りの最後に買って、持って帰ってゆっくり食べるが……。
祭り中に食べ切れる大きさじゃないからな!」
りんご飴を舐めてはいけない。
飴が舌に貼り付き、血が出るかと思う時が何度も発生する。
赤い色も、俺の恐怖を煽っていた。
「りんご飴、1人じゃ食べ切れない。
一緒に食べて欲しい……」
彼女は、そう可愛く言ってきた。
りんご飴を2人で食べる。
それはもう、間接キスをしろと言っているような物だった。
「仕方ないな……。
食い切れなかったら、俺が貰うから、お前が先に食べろ!」
多少飴の皮が薄くなっていれば、一気に食べ終わる事も可能だった。
彼女が舐めた後のりんご飴ならば、俺は食べても良いと感じている。
なるべく間接キスだと悟らせないようにしながら、彼女にりんご飴を食べさせる。
飴を食べ始めて十分くらいしたら、彼女が飴を渡して来た。
どうやら飴によって舌が痛くなって来たようだ。
舌を出しながらこう語る。
「舌が赤くなっちゃった。
宋史君、残りを食べてくれる?」
「良いよ」
俺は、飴を受け取り食べ始めた。
飴が所々薄く、彼女が舐めた窪みなどができていた。
(間接キスか……。
ダリアも、ちょっと自信が付いたのか?
まあ、今日はキスしないけど……)
俺がそう思って飴を食べていると、ダリアの顔が耳まで真っ赤になった。
どうやら間接キスを意識し始めたらしい。
俺が舐めているのをチラチラと見ていた。
「美味しい?」
「ああ、りんご飴って、飴でコーティングされているから、りんごの鮮度も落ちてなくて美味しいよ!
飴も、程良い量だし……」
「そうか……」
「ほら、お前と一緒で舌が赤くなったけど……」
俺が舌を出すと、彼女がそれを確認していた。
しばらく沈黙の時間が続く。
どうやらディープキスを想像していたようだ。
(やっぱり、舌と舌が触れ合ったら気持ち良いのかな?
どんな感じなんだろうか?)
俺の考えを彼女も分かったらしい。
お互いに見つめ合って、キスしたい衝動が出始めていた。
ドーンという花火の音で、2人とも我に帰る。
もうしばらく見つめ合っていたら、自然とキスしていたかもしれない。
花火が始まったので、俺達は事前に知っていたベストスポットへ移動し始めた。
人気がなく、花火が見られる穴場があるのだ。




