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第3話 彼女に怒りの矛先

 俺は、目を覚ました。

 隣の部屋にいた彼女は、朝のシャワーを浴びているらしい。

 父親に体を汚されたのだ。


 せめて、シャワーで体を綺麗にしたいのだろう。

 俺が顔を洗いに行くと、彼女が脱衣所から出て来た。

 昨日と変わらず、可愛らしい笑顔で俺を出迎えていた。


「宋史君、おはよう!

 良く眠れた?」


「ああ、眠れたよ……」


 本当は、良く眠れなかったが、君の喘ぎ声のせいで眠れなかったとも言えない。

 どうやら彼女は、このままの生活を続けて、この家庭を守る事にしたようだ。

 確かに、今、ここで俺に訴えても、大したアドバイスをする事もできない。


 だが、このような生活を維持しても、待っている彼女の未来は明るいものではない。

 父親との性交により、妊娠したり、風俗業へ行く事がほとんどの状況だった。

 顔が可愛い分、彼女の心が折れて仕舞えば、すぐにでも可能だろう。


(まあ、風俗業と言ってもピンからキリまである。

 ソープのような体を売る仕事から、接客業のキャバクラやストリップのようなパフォーマンスみたいな物もある。


 コイツなら可愛いからどこでも売れるだろうが、せいぜい体を傷付けないキャバクラやストリップくらいを目標にするんだな。

 ある程度のお金を稼げれば、次の事業に乗り出す事もできる。


 勉強をして大学へという奴もいるが、自分の体を守る事もできないなら、大半が風俗業に落ちるだろうな……。

 俺には、批判するほど出来た人間でもないが……)


 廊下ですれ違った彼女からは、石鹸の良い香りが漂っていた。

 昨日までは苦労知らずの箱入り娘と思っていたが、現実ではそうでも無かった。

 父親から逃げる為に、友達を家に呼んだり、友達の家に行ったりしていたのだろう。


 昨日の夜は、それが裏目に出てしまったようだ。

 彼女が然るべき所へ訴えれば、ある程度の改善はされるのだろうが、彼女本人がこの偽りの幸福にしがみつこうとしているのなら、俺が止める事もできない。


(まあ、関わり合いになるのはごめんだ。

 今日が過ぎれば、また普通のクラスメートになるんだ。

 俺が、彼女の親を訴えたところで真剣に聞く奴もいまい……)


 俺は、背中越しの彼女を一目見て、別れの挨拶をしていた。

 彼女は一瞬止まり、トタトタと逃げるように歩いて行く。

 この家から一歩外へ出れば、俺と彼女はいつもの関係に戻るのだ。


 俺が顔を洗い終わると、彼女が朝ご飯を用意してくれていた。

 彼女が笑顔で俺を迎え入れ、一瞬だけ新婚の夫婦のように感じる。

 ピンク色のエプロンがとても似合っていた。


「へへ、私が作ったんだよ!

 お口に合うかな?」


「ああ、ありがとう……」


 昨日の夜の出来事がなければ、彼女で新婚の妄想もできていただろう。

 だが、今の俺が感じる彼女は、気弱で可哀想な女の子だった。

 俺は処女萌えでもないが、彼女に恋心を抱いている者なら幻滅するだろう。


 だが、悪いのは彼女本人ではないのだ。

 然るべき措置を取っていない事は認める。


 それでも、彼女は恐怖に怯えて、なんとか父親の恐怖から抜け出そうとしている事が窺えた。

 俺を家に呼んで、嫌な事を回避しようとしていたのだ。


(コイツの努力は認めてやるよ!

 だが、このままではダメだろうな……。


 本人が勇気を出さなければ、変わる物も変わらない。

 まあ、赤の他人の俺が言えた事でもないが……)


 俺とダリアは、沈黙したまま朝ご飯を食べていた。

 テレビにニュースが流れているが、記憶に留めておく事ができない。

 俺と彼女は着替えを終え、学校に向かう。


 彼女の父親は寝ているのか知れないが、起きては来なかった。

 彼女の母親も、彼女が学校へ行った後で帰って来るようだ。

 夢のようだと思っていた家庭は、嘘と虚構で塗り固めた儚い城だった。


「行ってきます!」


 精一杯明るく挨拶して、俺や他の人に悟られないようにしている。

 俺は、後ろを黙って歩いて行く。

 その姿が余りにも滑稽に見えていた。


「まあ、良い子だわ……」


「スッゲー可愛い女の子♡」


 通り過ぎる人々は、そのように彼女を見て語る。

 彼女の真実を知れば、大半の者の見方が変わるだろう。

 可哀想などという言葉が出れば、まだ良い方だ。


 男共の中には、処女中ということ失礼極まりない見方をする奴もいる。

 たとえレイプだとしても、処女を失っていれば誹謗中傷するのだ。

 別に、彼女の恋人や夫になる予定でもないのに、彼女を致命的に傷付けてしまう。


 2次レイプと呼ばれ、レイプされた女性を更に苦しめる恐るべき状況だ。

 彼女自身も望んでいたとか、彼女にも非があるという見方だ。


 もしも、彼女がレイプされている事実を知れば、面白半分に広げて、彼女自身が存在する事も社会的に抹殺してしまうだろう。

 それほどに恐ろしい状況へ発展するのだ。


(まあ、仕方ないのか……。

 人は、自分が犯人や殺人者に定められないと知れば、容易に残酷になる者だ。

 イジメや軽犯罪だってそうなのだ。


 それに、このままでは、彼女は遠かれ近かれ、その内体を売った商売になるだろう。

 彼女自身が望まなくても、親や周囲の住人がそう勧めたり、彼女がそれしかできない状況に追い込むだろうな……。


 自らの犯罪を隠したり、いずれは邪魔者と処理して見えない所に行かせるのが落ちだ。

 まあ、俺は、彼女と大して親しくもないからどうする事もできないけど……)


「やめてよ!」


 俺が彼女と歩いていると、笑っていた彼女の顔が曇る。

 俺は、思わず彼女の顔を見てしまった。

 プルプルと震え、顔を涙でいっぱいにしていた。


「お前、まさか、俺の心の中を……」


「うん、聞こえているよ!

 私の将来を勝手に決めるのはやめて!


 私は、幸せな生活をしたいだけなの!

 それだけなんだよ!」


「今まで、ずっと知っていたのか?

 俺の考えが……」


「うん、危険な感じはしなかったから、家にも呼んだ。

 結果は、裏目に出ちゃったけどね……」


「そうか……。

 だが、俺を恨むのはお門違いだ。

 お前が本当に幸せを掴みたいになら、ここでどうにかしないといけない。


 このままの生活を続けるか、警察や大人に事情を話して助けてもらうかだ。

 悪いとは思っていたけど、携帯電話に音声を録音してある。


 これを持って警察へ行けば、真剣に話を聞いてくれるだろう。

 俺にできるのは、ここまでだ……。

 お前がどうしたいのか、自分で決めるしかない!


 彼女は、俯いたまま動けないでいた。

 やはり、そう簡単に決断できるような簡単な内容ではない。

 彼女は、ずっとそのままの生活を望むだろう。


 俺はそう思って、彼女から離れようとする。

 すると、俺の制服を掴んで来た。

 彼女は、俺にこう問いかける。


「ねえ、私がみんなに事情を話して、友達がいなくなっても、宋史君だけは一緒にいてくれる?

 数日だけでも良いから、一緒にいてくれるのかな?」


 彼女は、弱々しい声でそう尋ねて来た。

 多分、彼女が真実を語れば、自分の味方がいなくなる事を恐れているのだろう。


 いくら友達や先生といっても、自分の事で精一杯だ。

 ましてや、彼女が良くない噂に成りかねない人物だったら、自分の評判を守る為に切られるのが普通だ。


 下手に仲良くしていても、体が目的で付き合っているとか、同じ境遇だからという噂になる事は明白だった。

 彼女は、小刻みに震え、恐怖で怯えていた。


「俺は、変な噂ができて、問題になるほどできた人間でもない。

 どうせ、何のヤル気も起きなくて、教師からも見捨てられているんだ。

 今更、噂の1つや2つで落ち込む男じゃねえよ!


 それよりも、俺なんかと一緒にいても良い事なんてないぞ。

 会話も詰まらないし、見返りなんて用意もできない。

 ただ一緒にいてやるくらいしかできねえよ!」


「それでも良いよ……。

 うんん、宋史君と一緒に居たい!


 宋史君が居てくれるなら、私の境遇を警察の人に言えるよ……。

 本当は、どうなるのか怖いけど……」


「ふう、乗りかかった船だ。

 警察には、一緒に行こう!

 厳しい対応になると思うけど、凹むんじゃないぞ!」


「うん、ありがとう……」


 その日の夕方、俺とダリアは警察に行き、全ての事情を話した。

 大人達が動いて、彼女の父親は強姦罪で逮捕された。

 案の定、世間は世知辛く、一気に学校全体に噂として広がっていた。

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