夏の大規模即売会、一日目
夏の大規模即売会初日。
柚木先輩のサークルは最終日の参加だから今日は私と桜花だけだ。
初日に並ぶのは企業スペース狙いの人が大多数だ。
かくいう私と桜花もその大多数のうちの一人だ。
「桜花は刃物の限定グッズ買い漁りに行くんだっけ」
「うん。柚木先輩とキクリ先生にも頼まれたからね。陽花はいつもの植物さんのとこ?」
「だねぇ。それが終わったら適当に回るつもりだけど、今日はどっか他にいくとこある?」
「私は特にないかなぁー。刃物の限定グッズ買ってるだけで一日終わっちゃいそう」
「そっか。なら適当に他に桜花向けの本があったらお土産に買っとくよ」
「ほんと?ありがとね、陽花♪私も陽花好みのグッズあったら買っとくよ」
「うん。ありがと」
こういう場所ではオタクは持ちつ持たれつなのが、友人と参加してる時は一般的だ。
お互いまわるスペースを予め打ち合わせておいて、その人がまとめ買いをする。
そして買い終わったら、清算して戦利品の分配。
今回私達は被っているスペースは無かったけどお互いの好みの本やグッズは分かってるので、お互いに買いあおうっていうことだ。
世の中には複数人でレアものを狙って多々買っている人達もいるらしいけど。
私にはそんな伝手はないので、本当に欲しいとこだけを買ってのんびり回るスタイルだ。
「そういやアカリはどうしてるの?」
「んー……なんか陽花の部屋に遊びに行くって言ってたから、陽花の部屋にいるんじゃない?」
「何で私の部屋にいんのよ……」
絶対私の部屋の同人誌漁る気満々だよ?あの子。
十八禁も読めるようになったって言って大手を振って漁りまくってるに違いない。
「いや、ヒルコちゃんとか皆いるしさ、寂しいんじゃない?」
「じゃあこっちに連れてくれば良かったんじゃない」
月依やサクヤちゃんならともかく、アカリならこの行列にも耐えられそうだし。
「素人に夏の即売会は自殺行為だよ」
「いやー、アカリなら平気なんじゃないの」
「陽花はアカリのこと元気が取り柄の阿呆委員長だと思ってるんだろうけど。あれで結構繊細なとこあるんだからね、アカリは」
「えー……」
アカリが繊細かぁー……。
まぁ春先のアカリのあの姿を思い返すと確かにそういうとこもあるのかなぁと思ったりもするんだけど。
でもなー……。
普段がアレだからなぁ……。
今となってはあの春先が特殊だったんだなぁとしか思えないというか。
いくら親しい桜花がそう言ってもただの阿呆だとしか認識してない私にとっては、それ以上でも以下でもない。
「まぁアカリはあれで可愛いとこあるんだから、大目に見てあげてよ」
「その大目に見てあげてる結果が今の私なんですけどねぇ……」
ほんと、毎回騒動起こされるたびに何度復讐してやろうと思ったことか……。
この前は失敗したけど、今度こそ成功させよう、うん。
そう気持ちを新たにする私だった。
「それはそうと陽花の方はどうなのよ」
「どうって?」
「月依ちゃんとサクヤちゃんだよ」
「二人とは清い交際ですよ、本当に」
求められれば応えてあげてるし。
とは言ってもキスとかまではしないけど。
でもこの一年はあまり甘えてこないんだよね二人共。
生徒会の役員だって自覚がそうさせているんだろうか。
ただ、寂しい思いはさせてはいないはずだ。
「またまたー。でも最近テラスちゃんに構いすぎなんじゃない?」
「う……。それを言われるとちょっと辛い……」
「まーテラスちゃんほど可愛い子に懐かれてたら構いたくなるのも分かるけどさ」
確かに最近はテラスちゃんを相手にしてることの割合が増えてるのも確かだ。
それで二人から冷たい目で見られたり反省室送りにされることもよくあるし。
でもなー……あんな二次元から飛び出してきたような可愛いテラスちゃんに頼られたら構ってしまうのはしょうがないちゃしょうがないのだ。
「でも、それを言い訳にしないの」
「ハーイ……」
そんな話をしているうちに列の移動時間になり、私達はそれぞれの目的地の場所に向かうことになった。
「それじゃ、終わったら連絡するから」
「うん。また終わったらね。桜花」
私の方は初めの方こそ並んだけど、そこまで大渋滞することもなくすんなり買えたので、企業スペースを離れ、同人誌の頒布スペースへと足を運ぶ。
そして一つ一つのサークルを横目に見ながら良さそうな本があればふらふらーと引き寄せられては買ったり買わなかったりを繰り返した。
昼も手前になった頃やっとのことで、電話がつながる時間になり、桜花から連絡が入る。
けれど列が思ったより長くなって購入までまだまだ時間がかかりそうっていう話だった。
ので、私は桜花の労をねぎらう為に桜花好みの本を探すことにした。
うん。これなんかよさそう。
たまたま空いていた壁サークルで刃物の本があったので何冊か買っておくことにする。
昼過ぎに桜花からやっとのことで買えたという連絡が入り私達は戦利品の分配が出来るスペースで集合した。
「相変わらず陽花は買うの早いよね」
「そうかなぁ……」
私がバッグに詰め込んだ本の数をしげしげと桜花は眺めながらそう呟く。
これぐらい普通だと思うんだけどなー。
私が普通じゃないんだろうか。
「まぁ、いいや。これ、桜花の分」
「おー……かっこいいじゃんこれ。さすが陽花わかってる♪」
「どういたしまして」
そんなこんなで、私達はお互いに戦利品の交換をしたりして自前のバッグに詰め替え。
早々に帰路につくのだった。
駅前のコンビニで桜花がまた刃物の限定グッズにつられて並んだりしたけどね。
それはもうしょうがない。
限定グッズの魔力に勝てないのがオタクというものなのだから。




