絶対、復讐してあげますっ!!
それは、中間テストも終わり一息ついた週の週末の日のこと。
さてさてやってきましたよ、遂に私がアカリに復讐する機会が。
カムイの教科書を捲っていたらちょうど良さそうなカムイを見つけたのだ。
アカリに試すカムイの名前は温性心穏。
普通はやんちゃなナノ君みたいな反抗期の子に対してに使って一時的に大人しくさせるカムイらしいんだけど。
ここはナノ君に負けず劣らずやんちゃなアカリに対して使わせていただきます。
一応補習も受けて、キクリ先生から正式ライセンスの許諾も得ている。
というわけで、私はアカリが油断している時を狙って温性心穏をかけてやることにした。
「ねぇねぇアカリ。ちょっとそこに座っててくれないかな」
珍しく生徒会室でくつろいでいたアカリにそう声をかける私。
「なになに?なんかの新しいマッサージ?」
なんてアカリは暢気にこたえて私のいう通りに椅子に座りながら紅茶を飲んでいる。
そろりそろりと私はアカリの背後に歩いていき。
アカリの肩に手をあて。
「アー……結構こってるねぇ……じゃあ、目を閉じて?」
「うん、こうかな?」
アカリは律義に目を閉じてくれた。
なので、私はもう片方の手にカムイのカードを持つ。
そんな様子を月依やカノは何してるのやらと、半目で私をみているだけ。
サクヤちゃんは私の思考を読んだのかオロオロしていた。
へへへ、またしばらくの間、大人しくしてもらうよ、アカリちゃん♪
去年、天御中祭で見せたお嬢様妹モードのアカリのイメージをカードに籠める。
そうすると私のカードが白く強く輝き、その光がアカリの体全体に広がっていく。
「おおお……なんかこれ体全体が痺れて気持ちいいいいい」
え、何それ。
そんな効果あるんだこれ。
まぁいいか。
とりあえずこれで、温性心穏は完了したはず。
これでたしか一、二日はアカリの性格が穏やかに……。
「で、もう終わったの?陽花?」
そう言って目を開けて振り返ってくるアカリ。
私は慌てて片方の手に持ったカードを後ろ手に隠す。
うーん……なんか……変わってなくない?
おかしいな。
カードの光りはちゃんと強い光だったから成功するはずだったんだけどなぁ……。
「うん、もう終わったから」
適当にそう誤魔化し私はその場を離れる。
んー……アカリみたいな子にはこれ、効果ないのかなぁ……。
そう思いながらボンヤリとアカリを観察する。
しばらくして桜花が生徒会室へとやってきて、二人揃って元気よく出て行ってしまった。
うーん……やっぱり失敗してしまったらしい。
「で、お姉ちゃん、アカリに何したの」
私は月依にそう問われて、
「アカリに妹お嬢様モードになってほしくて、温性心穏を使ってみた」
と申告する。
その言葉にカノがフフっと吹きだして、
「なら、きっとちゃんと効果あるわよ」
と相変わらず思わせぶりなことを言う。
まあ効果あるならいっか……。
「じゃ、そろそろ私、高千穂によって帰るよ。またね」
「はいはい、またね陽花」
「また後でね、お姉ちゃん」
「またです。陽花さん」
結局その日、一日、アカリの様子は変わることはなく桜花と一緒にはしゃぎまわっていたらしい。
―――
翌日の土曜日。
ドンドンドンっとドアを叩く音で私は叩き起こされた。
「陽花、大変大変」
ドアの外から響く桜花の声。
寝ぼけ眼でドアのロックを開けるとそこには、いつも髪の毛の一部をツインテールにしてるお洒落さんの桜花がそんなこともせず、ボサボサの頭で立っていた。
「何があったっていうのよ、桜花」
とりあえず、そんなボサボサ頭の桜花に問いかける。
「アカリが!アカリがおかしくなっちゃったの!!」
アカリがおかしいのはいつもの事じゃないのと思いつつ。
思い当たることが一つ。
昨日試した温性心穏だ。
もしかして今頃になって効果が発揮されたんだろうか。
だからカノは『きっと効果あるわよ』なんて言ってたのかな。
タイムラグあるなら教えてくれればいいのにさ。
まったく相変わらず、意地が悪い。
「なんか嬉しそうだね?陽花」
「ん?そんなことないよ。うん、心配だなー」
「陽花、アカリに何かやったでしょ……」
「そんなことないよー、いやだなぁ。桜花ったら」
「絶対何か隠してる……」
とりあえずパジャマの上からパーカーを羽織り桜花と一緒にアカリの部屋へと向かう私だった。
―――
で、そのアカリの部屋にはフリフリのドレスに身を包んだアカリがたおやかな姿で椅子に腰かけていた。
「まぁ、どうなさったんですか、お姉様方」
そして私達の姿を見るなりこう問うてくる。
「ほら、変でしょ?」
「うん。正直気持ち悪い」
「気持ち悪くないよ。愛らしくてめちゃくちゃかわいいじゃない!」
そう言って思いっきり全力で私の言葉を否定してくる桜花。
なんだ、やっぱ桜花、アカリの事好きになってるんじゃない。
「ほら、ちゃんとよく見て」
その言葉と共に私をアカリの前に押し出す桜花。
「?」
そんな私達の様子を見てアカリは顎に手を当てて頭にクエスチョンマークを浮かべている。
まぁ確かに、可愛いちゃ可愛いよ?
普段ポニテにしている燃えるような赤い髪も、今日は降ろしていてなんだか本当のどこぞのお嬢様みたいだし。
サクヤちゃんが和風お嬢様だとしたら、このアカリはさしずめ洋風お嬢様ってところかな。
でも普段のアカリの行動がアレなだけに私はやっぱりこの感想になる。
「うん。気持ち悪い」
「えー……もういいよ。まったく。このアカリの良さが分からないなんて!」
私の言葉にプリプリと怒りながら、妹お嬢様モードのアカリに背後から抱き着く桜花。
「桜花お姉様、苦しいです……」
桜花に抱きしめられて、伏し目がちに頬を赤らめそう呟くアカリ。
う……ちょっと可愛いって思っちゃったじゃんか、アカリのくせに。
「ほんとかわいいなぁ、このアカリも」
言いながら頬ずりしている桜花。
「じゃ、私、お邪魔みたいなんで、後は二人でよろしくやっててください」
片手をあげそう言葉を言い残し私は部屋を後にすることにした。
「な、なんでそうなるかな、陽花!」
「そ、そんな……よろしくなんて……」
という、それぞれの抗議の声を背中に聞きながら。




