劣等生と優等生
四月十日。
いよいよ異世界生活初の授業が始まった。
のだけれど。
世の中には優等生と劣等生が存在する。
それは万国共通だ。それは例え異世界であっても同じことだ。
そして、月依と私はまさにその典型的な模範例だった。
とりあえず私は高千穂からカムイのライセンスを取るために入学ってことになっているので、
普通の授業の単位は免除はされているのだけど、形だけは受けないといけないことになっている。
ので、普通の授業を聞いているのだけれど。
うん。昨日一昨日予習をしながら、なんとなくそうなんじゃないかと思ってはいたけれど、分からない。
さっぱり授業についていけない。
それでもなんとか先生の話に耳を傾けてはいるんだけど。
古典や歴史の授業なんかは神話に関するアニメとかゲームに興味あったから、なんとなーくだけどわかるような気がする。
でも科学や数学の授業なんかはさっぱりわからない。
だって今の日本の科学水準からいっても全然わかんないことのオンパレードなんだもの。
ただですら頭のデキが悪い私なのに、こんなの分かるわけないじゃない……!
そんな授業の内容を右の耳から左の耳に聞き流しながらぼんやりと隣の席の妹を見る。
おー……なんかすごいノートにびっしりとメモしてる。
妹のノートは日本語とタカマガハラ語が入り混じってものすごいことになっていた。
異世界の授業なのによくついていけてるなぁ……。
我が妹ながら感心する。
頭のデキからして違うんだろうなぁこの妹は。
つくづくそう感じてしまう。
そんなわけで私は普通の授業に関してはついていくことを早々に放棄した。
だってしょうがないじゃない。
私は平凡な日本人なんだもの。
でもただ授業中に座っているだけなのは、クラスの皆になんだか申し訳ないので
少しでもタカマガハラの言葉を覚える努力だけはしておくことにした。
翻訳機があるとはいえ、機械に頼ってるだけってのもアレだしね。
というわけで、そんな内職をこそこそやっていると。
「陽花はん、陽花はん」
ヒルコちゃんが小声で私に話しかけてくる。
「何?ヒルコちゃん」
書き取りをしていた手を休めヒルコちゃんの方を見やる。
「陽花はんは授業の内容、聞いとらへんの?」
「んー……日本とは全然違うから分かんなくて」
「そうなんかー。キクリ先生、これでも結構わかりやすう教えてくれてはるんやけどなぁ」
そ、そうなんだ。
「それに一応、私、日本の学校卒業はしてるから普通の授業は単位免除されてるんだよ」
「へぇ。そら羨ましいことやね」
「でも代わりと言っちゃなんだけど、こっちの言葉くらいは覚えようと思って文字の勉強中」
「そかそか。それは邪魔してもうたな。がんばってな」
そう言ってヒルコちゃんは再び授業に集中する。
と、同時に隣の席の月依につんつんと呼び掛けられる。
「何?月依」
「お姉ちゃん。別に聞いてなくても良いからせめて授業中は喋らないの」
「はい……すいません」
普通の授業中はできるだけ目立たないように内職してよう。うん。
そして、本日最後の授業。
私にとって絶対に避けようのない授業の時間がやってきた。
カムイについての授業だ。
こればっかりは分からないから聞き流す、ということは許されない。
「それでは皆さんにとっても初めての授業となります、カムイについての授業をはじめますね」
そうキクリ先生が告げる。
「簡単に言えば、カムイというものは自然の力をこのカードを介して様々な形で発現させるというものです。昔の人達はカード無しでも使用できたのですが、現在ではこのカードを介してでしか発動できないようシステム的に管理されています。それは異界についても同様です。何故そのようなシステムになったのかは歴史の授業でも説明しましたが、悲しい事にカムイを悪用する人たちが出てきてしまったというのが理由です」
昔の人はライセンス無しでも使えたってことかぁ。
特別な力を悪用する人がいるっていうのは、どこの世界でも同じなんだなぁ。
「前置きが長くなりましたがこれから皆さんにはそれぞれのカムイ発動用のカードを配りますね」
そう言ってキクリ先生はクラスメイトの名前を呼びそれぞれに手渡していく。
「このカードは各々専用のカードとなります。決して無くしたりしないようにしてくださいね」
受け取ったカードを見るとタカマガハラ語で私の名前とIDらしきものが記述してあった。
「次にライセンスについての話です。ライセンスは仮ライセンス、正式ライセンスの二種類があって、まずは仮ライセンスをライセンスサーバーに申請するということから始めます。仮ライセンスが取得出来たら、実技テスト、正式ライセンス試験を経て、初めてどこでも正式にカムイを使用できる正式ライセンスの取得となります。因みに仮ライセンス中はこの学園内でしか発動できないよう制御されています」
要するに車の免許をとる時の要領と同じってことかな。
私は車の免許持ってないけれど。
「それじゃいよいよカムイについての実習をはじめます。今日は初歩中の初歩、蛍火の実習です。蛍火は名前の如く輝く光の玉を呼び出すカムイとなります。それでは皆さん、教科書の壱章、カムイの仮ライセンス申請を参考に蛍火の申請を行ってください」
先生の言葉を受け、クラスメイト達はそれぞれ仮ライセンスの申請作業を始める。
「陽花はん、仮登録できそうか?」
「うん。これぐらいなら全然大丈夫そう」
えっと…この端末に手をかざしながら、もう一個のこの端末にカードを差し込むっと。
『蛍火の適正有。認証致しました』
そんな機械的な音声が聞こえてきて、目の前の画面にも同様の表示がされていた。
とりあえずうまくいってホッとする。
普通の授業がダメダメなのに、肝心のカムイの授業でもダメダメだったら目も当てられない。
隣の席のヒルコちゃんや月依の画面をみると同じ陽に適正有の表示がされている。
「皆さん、仮ライセンスの申請は済みましたか?仮ライセンスの申請ができてない人は挙手してください」
挙手は無し。
皆上手く仮ライセンスの登録はできたようだ。
「因みに不適正と出た場合ですが、そのライセンスの素養がないという結果なので、そのライセンスについてはスッパリ諦めてください」
え゛。
それって努力しても何ともならないってやつ?
結構厳しいんだなぁカムイのライセンスって。
「それではこれから蛍火の実習を始めますね。カムイというものは先程もいいましたが自然の力を元にしています。ですので、実際に自然にあるものをイメージしながらそれを形にするというのが基本となります。蛍火の場合はまず小さな光を思い浮かべて、カードに力を流し込んでいくという感じですね。お手本としてはこんな感じです」
そう言って先生は何かを思い浮かべながら、カードをかざし力を籠めていく。
そうするとカードが淡く白い光を発し、先生の目の前に小さな光の塊が姿を現す。
「こんな感じです。それじゃ順番に私が見ていきますので、順番が来たら蛍火を試してみてください」
そう言って先生は前列のクラスメイトから順番に蛍火のテストを始めた。
暫くしてヒルコちゃんの番が来て無事、ヒルコちゃんは見事に合格した。
次はいよいよ私の番だ。
「それじゃ陽花さん、どうぞ」
そう言われて私は先生に言われた通り、小さな光を思い浮かべながら、
かざしたカードに力を籠めていく。
そうするとカードに淡い白色の光がともり、私の目の前に小さな光がぼんやりと現れた。
かと思った瞬間、バチンと大きな音を立てて、その光が弾け飛んだ。
「!?」
その大きな音でクラスメイトの視線を一身に集めてしまう。
え?え?何事?そんな声がクラス中から聞こえてくる。
「うーん。途中までは良かったんですけどねー。陽花さんは不合格ですね」
「うう……すいません……」
「それじゃ、次、月依さん、どうぞ」
「ははは。陽花はん、むっちゃ派手にヘタこいたなぁ」
そうヒルコちゃんが小声で私に声をかけてくる。
「うん……」
「まぁ、小さい頃からカムイに触れてたウチらとちごうて、陽花はんはほとんど触れたこともあれへんのやから、ヘタこくのもしゃあないしゃあないねん。次がんばろな」
「ありがと、ヒルコちゃん」
そんな話をしているうちに月依やサクヤちゃんの番も終わっていた。
結果は二人とも無事合格。
結局。
その日、クラスで蛍火のテストが不合格だったのは私だけだった。
数字を漢数字に変更しました。