入学式は厳戒態勢
四月七日。
今日は新入生の入学式だ。
この辺も日本と全然変わらない。
ただ違う点は。
黒服を着たガタイの良い大人の人達が何故だかやたらと一杯いるということだ。
何なんだろうこの人達。
「なんか、すごいね。こっちの入学式」
「いやー、今日は特別なんだよ」
私の呟きにそう答える月依。
「どういうこと?」
「それは入学式が始まればわかるよ」
「???」
んー……どういうことだろう。さっぱりわからない。
ホームルームが終わり、入学式のために講堂へと皆で移動する。
生徒数がものすごく多いのもあって、講堂はとんでもなく大きかった。
壇上の背後と両脇の壁には登壇者を映す大きな画面が設置されていた。
私もライブ(もちろんオタク系)で一度行っただけだけど、
まるで埼玉にある多目的ホールみたいな感じだ。
そうこうしているうちに入学式が始まり、
校長先生からの言葉が最後に差し掛かった頃、校長先生はこう告げた。
「それでは最後になりますが、皆さんご存知のとおり、今日から新入生としてタカマガハラ皇帝、テラス=オオヒルメ陛下がこの学園の生徒となられます。くれぐれも失礼の無いようにしてください」
校長先生の言葉に続いて、壇上に上がったのは白髪おさげ髪の小柄な可愛らしい少女だった。
「私がタカマガハラ皇帝のテラス=オオヒルメだ。これからは皆と同じ一学生として、この学園に通うこととなる。この学園では皇帝としてではなく、同じ学園の仲間として接してほしい。あと私の事は皇帝陛下ではなく、テラスと呼んで欲しい。私からは以上だ」
あんなに可愛らしい子なのに、何だかとっても威厳のある物言いだった。
そこがまたなんていうかその可愛らしさに拍車をかけている。
めっちゃ私好みのお方だった。
「黒服の人達が一杯いたのってこういうことだったんだね」
「そういうこと」
入学式にこの国のトップの人が来るならそれは厳戒態勢にもなるよね。納得だ。
そんなこんなで入学式も終わり、今日もこれにてフリータイム。
昨日のリベンジとばかり、再び私達四人は、神楽耶でランチを取る。
昨日の女三人寄れば姦しいを反省してか、
今日はまともに何処に行こうか話を進めるヒルコちゃん。
「ショッピング言うたらやっぱ、ウィンドウショッピングやね。陽花はんこっちに来て間もないからこっちの普段着とか持ってへんやろ」
「そうだね。日本で着てたのを少し持ってきただけだよ」
というかこっちの世界の普段着ってどんなのなんだろう。
いまいち想像がつかない。
サクヤちゃんは和服だし、制服は日本によくある学園風の制服だし。
先生達の格好や、今日来ていた黒服の人達の格好も日本のスーツとほぼ同じだ。
こっちの世界の普段着って日本とそんなに変わんないんじゃないのかなぁ、
とも思ったりする。
でもまあ、折角の友達の提案なんだから断るのも悪いよね。
「ほな、決まりやな。皆で、陽花はんの服を見繕いにいこか」
そんな話をしていると、隣の席に異彩を放った人物がやってきた。
皇帝陛下だ。
物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回している。
その小動物のような姿もめっちゃ可愛い。
そんな皇帝陛下の所に、
「やあ、キミが皇帝陛下のテラスちゃんかい。可愛さの中に隠しきれない上品な威厳と物腰。とってもキュートだね」
昨日も聞いた、歯の浮くような言葉をのたまう男が再び現れた。
さすがに昨日私にやったみたいに馴れ馴れしく肩に手を置いたりはしていなかったけれど。
はぁ……ホント、女たらしなんだなぁ……あの人。
「……」
そんなお兄さんの姿を見て、サクヤちゃんは無言でお兄さんの所まで歩いていき、
「申し訳ございません、皇帝陛下。兄がご無礼を」
そう言って先日と同様、お兄さんの片耳を引っ張って
ズリズリと音を立てて引っ張っていく。
「痛い!今日は一段と痛いぞ、我が妹よ!!」
うん。これはもう日常茶飯事なんだなぁ……。
「月依が呆れるのも分かる気がするよ」
その光景を眺めつつ私はそう呟いた。
「でしょ」
そう言ってため息をつく月依。
「そこの三人。先程のはいったい何だったのだ?」
そんな姿を見ていた私達に向かって皇帝陛下が声をかけてくる。
「ただの兄妹漫才なんで気にしないでください」
月依は冷めた口調でそう答える。
「漫才とはなんなのだ?」
「うーん……簡単に言えば、じゃれあってるだけです」
あれってじゃれあってるって言って良いのかな……。
まぁ付き合いの長い月依が言うんだからそれでいっか。
「そうか。それは仲が良いことで良いことじゃの。それはそうと私は見ての通り一人でな。話し相手になってもらえないか」
そう言ってサクヤちゃんが出て行って空いた席に座る皇帝陛下。
「私達なんかでよければ。皇帝陛下」
「ああ、それなんだが。講堂でも言った通り、この学園の中では皇帝陛下はやめてくれないか?気軽にテラスと呼んで欲しい」
「そんじゃ遠慮なく、テラスはんって呼ばせてもらいますよって。ウチの名前はヒルコ=イクタって言います。よろしうお願いします」
ヒルコちゃんがまず自己紹介をする。
「私の名前は霧島月依です。日本からの留学生です」
それに続いて月依も自己紹介。
「ほー……日本からの留学生か。これはまた僥倖なことだな。一度異界の住人と言うのに会ってみたいと思っておったのだ」
もの珍しそうに月依を見つめる皇帝陛下、もとい、テラスちゃん。
「で、こっちは私の姉の霧島陽花です。同じく日本からの留学生です」
「なんと。そうであったか。しかしあまり似ておらぬのう」
「あはは……よくそう言われます」
そう言いながら私はそう微笑む。
「それで、さっきあの馬鹿男を引っ張っていったのはサクヤ=アサマちゃんです」
馬鹿男って……仮にも親友のお兄さんなのにちょっと酷い言いようだ。
いや、でもしょうがないかな。うん。
「先程のものはサクヤと申すのか。しかしえらい形相をしておったのう」
「普段は全然おとなしくて可愛らしい子なんですよ、サクヤちゃんは」
とりあえずサクヤちゃんの名誉のために、ちゃんとフォローしておく。
「そうなのか。先程の形相からは全く想像できんがのう」
一体どんな顔をしていたんだろうか、サクヤちゃんは。
ちょっと気になる。でも、知らない方が良いのかもしれない。
「ほんで、テラスはんはウチらとどんな話がしたいん?」
ヒルコちゃんがテラスちゃんに話題を振る。
「そうじゃのお。そもそもここは何をする場所なのか、教えて欲しいのだが」
「何も知らんで、ここに来はったんですか?」
「うむ。皆がここに入っていくのを見て何となく入ってみた」
「ここは食事をとったり、皆で談笑したりする場所やね」
「ほうほう。そうであったか」
「テラスはん、昼食まだやったら、ウチが案内するで」
「そういえば小腹が空いてきたとこだ。お願いして良いかの、ヒルコ」
「ほな、行こか」
「わかった」
そう言って二人は一緒に連れ立って昼食の注文を取りに行く。
「ヒルコちゃんって面倒見良いよね」
「ヒルコは基本的にお節介焼きだからねぇ……」
そう言いながら私たちは二人を視線で追う。
カフェの店員さんの前で、ヒルコちゃんがテラスちゃんに何か説明している。
「……」
そっかー。
私は友達に恵まれてるんだなぁ。
サクヤちゃんも、ヒルコちゃんもとっても良い子だし。
これも月依のおかげかな。
しばらくして二人が戻ってくると、早速トレーに乗った昼食に手を付けるテラスちゃん。
「ふむ。これは変わった味をしているな。宮廷では食したことのないものだ」
「それは、日本の料理でタコ焼きいうねんで」
「ほほー。異界の料理であったか」
「テラスはんは異界の料理とか食べたことないやろうなーって思うてな。それにしたんや」
「そうじゃのお。異界の料理なんて初めてじゃ」
「日本の料理を進めるのは良いんだけど、なんでタコ焼きなの?」
私はヒルコちゃんにそう尋ねる。
「んー。ウチな、なーんか小腹空いたときはタコ焼きって気分やねん」
「そうなんだ」
食べるものの一つ一つが小さいからちょうどいいのかな。
そう言っている間に、パクパクとタコ焼きをたいらげる、テラスちゃん。
そして、私達四人は学園の事について色々話をした。
基本、テラスちゃんが質問して、ヒルコちゃんが答えるっていう感じだったけれど。
見てて微笑ましい一時だった。
そうこうしているうちに、サクヤちゃんが戻ってくる。
お兄さんを連行して行ってからかれこれ小一時間程経っていた。
昨日の約二倍の長さだった。
きっとコッテリと絞ってきたに違いない。
サクヤちゃんが戻ってきた後は、サクヤちゃんも交えて夕方まで世間話に花を咲かせていた。
皇帝陛下というのも、何だか色々大変らしいというのがテラスちゃんの話でよくわかった。
小さい頃から宮廷内の家庭教師にみっちりと帝王学を仕込まれるのだとか。
私なら、途中で音をあげちゃいそうだなぁー。
そんな訳で……。
またもや私達四人はショッピングに行きそびれるのであった。
まぁ別に良いんだけど。
テラスちゃんっていう友達もできたしね。
数字を漢数字に変更しました。




