このは
夏の大規模即売会が終わって二日後。
私は大規模即売会で買ったものの物色を高速で済ませて。
私とヒルコちゃんは、月依とサクヤちゃんを日本においてタカマガハラへと戻ってきた。
私の家にあるコレクションの数々をこっそり物色されないか心配だったけれど、まぁ信用するしかないかな……サクヤちゃんもいるし大丈夫だろう。
ヒルコちゃんは長期間、家を空けていたのも有って実家の手伝いを当分しないといけないらしい。
うーん……まずはどうしようかな。
今どんな状況なのか詳しく知りたいんだけど……。
とりあえず、キクリ先生が何か知ってるかもしれないから聞いてみようかな。
うん。そうしよう。
と言うわけで、タカマガハラに戻った翌日、私はキクリ先生と連絡をとることにした。
キクリ先生は夏休み中にもかかわらず私の為に時間をとってくれて。
あまり人に聞かれたくない話をするということで進路指導室の使用許可もとってくれた。
本当にいい先生だなぁ……キクリ先生って。
そして私は進路指導室でこの一月の事をかいつまんでキクリ先生に報告する。
「そうだったのね。サクヤちゃん、行方不明だっていう話を聞いてたから心配してたのよ」
私の話を聞いてほっと胸を撫でおろすキクリ先生。
「すみません。全部私の我がままでやったことなんです」
「ううん。私も陽花ちゃんと同じ立場だったらきっと同じことをしていたと思う。あなたの行動は友達として当然のことだと思うわ」
そう言って微笑むキクリ先生。
「ありがとうございます……」
「で、肝心のアサマ家の動きの方なんだけど、私にも詳しく分からないのよねぇ」
「そうですか……」
「アサマ家の人間だけで躍起になって探して回ってるのだけは分かってるんだけど」
やはりキクリ先生の所にも何度かアサマ家の人間が状況を尋ねに来たらしい。
「やっぱりそうなんですね」
その辺は高千穂で那直兄さんから聞いてた情報と同じかぁ……。
「ごめんね、力になれなくて」
「いえいえ、私の方こそご心配おかけしてすみませんでした」
うーん……。
しかしキクリ先生でも分かんないかぁ……。
これはやっぱりあの人に会わないとだめかなぁ。
超気が進まないんだけど。
でもアサマ家のことを詳しく知ってる人なんてコノハさんしかいないか……。
「キクリ先生、私、上級生にツテがないんでコノハさんと連絡を取っていただけませんか」
あの人、神出鬼没だし、寮のどこにいるのかすら私は知らないんだよね。
それに私が呼び出したとか聞いたらあの人、何か勘違いしそうで怖いし。
先生に呼び出してもらった方が無難かなぁと。
「それ位かまわないわよ。それじゃ、ちょっと待ってて貰えないかしら」
そう言ってキクリ先生は部屋を出ていく。
―――
しばらくして。
キクリ先生はコノハさんを伴って進路指導室へと戻ってきた。
「お久しぶりです、陽花さん」
あれ……なんかいつもと違って大人しいな、コノハさん。
ていうか、何で丁寧語?
いあまぁ本来、私の方が年上だからこれが正しい姿ではあるんだけど……。
そんなコノハさんの様子に戸惑いながらも、とりあえず今のサクヤちゃんの状況を伝える。
「そうですか……。妹が色々面倒をかけましたね。本当に申し訳ないです」
言いながら深々と頭を下げるコノハさん。
なんだろう、なんか男の子版のサクヤちゃんを相手にしてるような錯覚に陥るんだけど。
なんかすごい違和感しかしない。
「いえ、これは私が勝手にやったことなんで。こちらこそご迷惑おかけして申し訳ありません」
「いえいえ。陽花さんが連れ出してくれなかったら、サクヤはきっともう嫁がされていたんです。ですから、連れ出してくれて本当にありがとうございます」
「そんな……私の方こそアサマ家の人達にご心配をかけてしまって……」
「いいんですよ、あんな家のことは。正直僕はうんざりしてたんです。あの家の風習には」
そう言ってため息をつくコノハさん。
「そう……なんですか……」
コノハさんはあまり本家のことよく思っていないのかな。
なんか色々難しいお家事情なのかなぁ……。
「だからサクヤが行方不明になったと聞いて心配でしたけど、どこかほっとしていました」
「ほっとしたって、どういうことですか?」
「同時期に親友の月依ちゃん達が日本に帰ったっていう話をアカリちゃんから聞きましたから。ああそういうことかってすぐにピンときましたよ」
なるほど……アカリから情報を聞いてたのかぁ……。
アカリは上級生にも顔が広いんだなぁ。
さすがクラス全員の情報を完全に把握するのはクラス委員長の務めとか言ってるだけはある。
「コノハさんには全部お見通しだったってことですか」
「まぁ、そういうことですね。伊達にサクヤのお兄様をしていませんよ」
そっか……分かってて本家に黙っててくれたんだ。
コノハさんってサクヤちゃんのことすごく分かってくれてるんだなぁ……。
「サクヤは日本で元気にしていますか?」
「はい。でもやっぱりどこか寂しそうな顔してますね……」
「そう、ですか……」
私のその答えを聞いたコノハさんの顔もどこか愁いを帯びているように感じた。
あれ……もしかして。
「コノハさん。もしかしてコノハさんもサクヤちゃんのこと……」
「そうですね。でもこのことは秘密ということにしておいていただけませんか」
そう言って口元を抑える仕草をする。
ほんと男の子版サクヤちゃんを相手にしてるみたいだ。
「わかりました」
この人、女たらしなのは実は演技だったのかな……。
だって、今のコノハさん全然普通なんだもん。
普通って言うか、むしろ良家の坊ちゃんって感じ。
普段女たらしなのは、ただ妹の気を引きたいだけなのかも……。
「それで……陽花さんはサクヤをどうしたいんですか?」
「私は、サクヤちゃんと二度と会えないなんてことになりたくありません。サクヤちゃんにはずっと笑っていて欲しいんです」
私は思ったまま、そう言葉にする。
「どうして他人の……しかも異世界人のあなたがそこまで親身になってくれるんでしょうか?」
「どうしてでしょうね……」
ほんと、改めてそう問われると答えに困ってしまうのだけれども。
「……サクヤちゃんが私の妹と……月依と親友だからでしょうか……」
姉を好きな妹と、兄を好きな妹。
二人は似た者同士だから。
親友のサクヤちゃんが悲しい思いをすれば、月依も必ず悲しい思いをする。
そんなのは、私は嫌だ。絶対に嫌だ。
そう思ってしまうのは私のわがままなんだろうか。
そして何より、あの日、聞いたサクヤちゃんの言葉。
私の将来はお兄様の為に花嫁修業ですと屈託のない笑顔で言ったサクヤちゃんの言葉を嘘にしたくない。
幸せそうな顔をしているサクヤちゃんの顔を見ていたい。
そう思う。だから。
「私は月依だけじゃなくて、サクヤちゃんにも幸せになってほしいだけです」
「意外とわがままなんですね、陽花さんは」
そうコノハさんに屈託のない笑顔で言われてしまった。
「私からも良いかしら?」
今まで黙って私達の会話を聞いていたキクリ先生がそう口を挟む。
「私もね、アサマ家の今回のやり方は正直気にくわない。大切な教え子を途中で嫁に出すなんてことしたくないの。だから、コノハ君。あなたに何か出来ることがあるなら力を貸してほしいの」
「キクリ先生、僕はまだ、しがない子供なんですよ?出来ることなんてたかがしれてます」
「でもあなたは将来アサマ本家を継ぐ事になるのでしょう?私達にできないこともできるはずよ」
「そう……ですね……」
そう呟いて暫く黙り込んだ後、
「僕に一日だけ時間をいただけませんか」
そう呟いたコノハさんの顔は何かを決心した男の子の顔だった。




