続『魂入れ』
そんなわけで、弐年生準決勝、壱組との試合。
試合開始と共に相手から拘束系のカムイ、蔦縛を使われて私は動きを封じられていた。
前の二戦で、このアタッカーはやばいと思われてしまったようだ。
……実際カムイを暴発させまくっているのだけれど。
縛っているのが蔦なので頑張れば拘束はとけるんだろうけど、残念ながら私の筋力じゃこの蔦縛の蔦は解けなかった。
ルール上アタッカーは自陣にはカムイは使えないので、ディフェンダーの月依に火呼を使ってもらい拘束を解いてもらって、月依の作った土壁に慌てて隠れる。
と思ったら今度は土壁の壁ごと、蔦縛で拘束されてしまった。
再び月依に火呼で拘束を解いてもらっても、次から次に蔦が湧いてくる。
うー……しつこいいいいいいいい。
なんなのこれ。
相手チームのアタッカーさんは触手プレイ好きなの?
変態さんなの?
なんだか少しイラっときてしまった。
とりあえず月依の火呼で拘束を解いてもらった隙に月依の近くまで後退する。
「……月依、鉄喚と風呼やっちゃっていい?」
「別にいいけど。できるだけ私達から離れたとこでやってよね」
「努力はする……」
そう言って私は鉄喚を相手の陣地に対して使い大量の砂鉄を呼んだあと、風呼を発動させた。
そうすると相手チームの陣地に砂鉄を含んだドデカい竜巻が呼び出される。
さて、これからどうしてあげようかな。
女の子を拘束プレイした罪を味合わせてあげようか。
口の端からニヘラと笑みがこぼれる。
完全に悪役のそれだなぁと思いつつも、使用するカムイをイメージしカードに力を籠める。
使うカムイは雷光。
普通の効果は雷の光を呼び出して、それを誘導して物体に当てて感電させたり破壊したりするカムイだ。
でも私の場合はその辺一体に、大小様々な雷を無作為に放電しまくるというとんでもない代物だったりする。
しかし今回の場合は違う。
雷を誘導する砂鉄の竜巻が目の前にあるのだから、ほぼ全ての雷光が相手チームの方へと向かっていった。
そして砂鉄の竜巻に雷光の稲妻が直撃し、竜巻に巻き込まれていた相手チームはあえなく戦闘不能。
準決勝も勝利を収めるのだった。
因みに防護服のおかげで相手チームは感電はしたものの怪我はなかった。
タカマガハラの防護服、すごい。
―――
試合終了後。
再び私はクラスの皆からドン引きされていた。
「陽花はんは怒ったらあんがい怖いんやなぁ」
ヒルコちゃんにまでそんな風に声をかけられる。
「そ、そうでもないよ……」
「いやいや。そないなことあんで?ウチもきいつけとこ……」
「いや、私のは全部仮ライセンスだからね?学園内でしか使えないからね?それ以外は普通の女の子だからね?」
「普通の女子は、あのようなえげつのないことせぬものじゃ……」
いつのまにやら透明の防御壁を片手に持ったテラスちゃんもそんなことを言う。
テラスちゃん、その防護壁どこから持って来たの!
ていうか私、そんな危険人物にみられてるの!
「失敗しかしないお姉ちゃん、だからできることだよねぇ……」
遠い目をしながら月依は笑いながら言う。
他人事の様にいってるけど、これ全部月依が考えた作戦だからね?
私が思いついたんじゃないよ?
こんなこと私の頭じゃ微塵も思いつかないし!
うう……単純なカムイの組み合わせでこのドン引きされようだと
複雑なカムイ使ったらどんだけ引かれることやら。
なんかもう私、『歩く人間大災害』のレベルを超えてる気がしてきた。
―――
弐年生決勝、拾参組との試合。
勝っても負けてもこれが最後だ。
相手チームもなんか微妙に腰が引けている気がする。
これだけドン引きされてるんなら何使っても良いかな。あははは。
半ばやけくそ気味ですよ、ええ。
そんなわけで試合開始早々、月依が鉄壁を張って自陣をガードしたのを確認してから私は嵐流を使用する。
嵐流の通常効果は嵐の流れを自在に操るカムイなんだけど、
私の場合はランダムに大小様々な嵐がその辺に巻き起こる。
風呼とは比べ物にならない規模で。
ただ相手チームもさすがに決勝に残ってるだけあって、月依が鉄壁を張ったのと同時に鉄壁を張っていた。
のでほぼ相手に効果なし。
それなら、今度は、ん~と……。
鉄壁に対する対策は……。
私の雷光はこっちの鉄壁にも誘導されちゃうから駄目だし。
えーっと……。
使えそうなカムイを思案しながらカードに力を籠める。
使うのは土壁だ。
私の土壁は土の壁を作ることはできるけどすぐに崩壊する。それはもうボロボロと。
そんなボロボロに崩れた土が嵐流に巻き上げられて両者視界がゼロになる。
のはずなんだけど、この砂塵の中、正確にこちらに雷光をしかけてくるので、私達は鉄壁の避雷針から離れることができない。
んー……こんな正確に攻撃来るのは遠見のカムイ使われてるなぁ……。
遠見というのは遠くの物を見る自己強化系のカムイだ。
「……どうしよ月依。たぶんこっちの攻撃が大雑把にしかできないの読まれちゃってるよね」
「うーん……さすがにどうしようもないかも」
珍しく月依も弱音を吐く。
一応この砂塵の中、サクヤちゃんは黙々と玉を運んでくれてはいるものの、
思うように玉を運べていないみたいだし。
「まー向こうも似たような状態だとは思うんだけど」
でも一つだけ向こうに有利な可能性もあるにはある。
手繰という指定した物体を思うように手繰り寄せるカムイの存在だ。
サクヤちゃんはこのカムイを上手く使うことができない。
「んー……向こうのポインターが手繰使ってるぽいからきついかなぁ」
月依も遠見を使って相手の状況を見てみたようだ。
「そっかー……」
「このままだと負けちゃうし。どうせならさ、派手にやっちゃっていいよ、お姉ちゃん」
「どういうこと?」
「ん。全部壊しちゃうくらいのカムイ使っても良いってこと」
えへへと月依は悪戯っぽく笑う。
「私はサクヤちゃんと一緒に鉄壁の中に籠っちゃってるからさ。お姉ちゃんが好きなようにやっちゃって良いよ」
好きなようにやっちゃって良いよって言われても……。
あれかー……あれやれっていうのかー……。
「相手チームの人、怪我しちゃわないかなぁ」
「まぁ、大丈夫なんじゃない。この防護服結構頑丈だし。あっちのリーダー、結構感も良いみたいだしね」
「あんまり気が進まないんだけどなー」
「私はさ、このまま何もしないで負けちゃうのは、嫌かな」
「……」
「だから、これは私の我がまま。お姉ちゃんがやりたくないならそれでもいいよ」
そう言って月依は寂しそうに笑う。
まったく……この妹は。
そんな顔されたらやりたくなってくるじゃないのよ。
「ちゃんと、サクヤちゃんのこと守りなさいよ!月依」
「……うん!」
そう答えた月依の顔は今まで見たどんな笑顔よりも最高の笑顔だった。
「サクヤちゃん!こっちに来て」
月依に呼びかけられて、サクヤちゃんは玉入れを中断してこちらにやってくる。
そして月依は鉄壁を自分たちの周りにどんどん張っていく。
相手チームもこちらが何かしようとしているを悟ったのか月依と同じく鉄壁を張っていく。
良かった。これなら誰も怪我しないで済むかな。
私が発動しようとしているカムイは暴風刃。
今学期最後に習うとされているカムイだ。
効果は対象を暴風の刃で切り刻む。それが鉄の塊であっても、だ。
そして私が発動するとそれはもちろん失敗するわけで。
効果範囲全体に向かって暴風の刃を飛ばしまくる超危険な失敗カムイだ。
キクリ先生からも使ったら駄目よと念を押されていた。
けれど。
私はこのカムイを使おうとしている。
それは誰の為でもない妹の。
月依の笑顔の為に。
私は暴風の刃をイメージしながらカードに力を籠める。
そうするとカードは緑色の光を発し始めて暴風刃が発動する。
私を中心とした効果範囲全体に向かってランダムに。
自陣の鉄壁と玉入れの籠を。
相手陣地の鉄壁と玉入れの籠を。
私の周りのありとあらゆる全てのものが次々と切り刻まれていく。
それはもう紙切れをナイフで切るようにスパスパと気持ちよく切り刻んでいったのだった。
―――
そんなわけで、私達は見事に反則負け。
そりゃ籠をあんなに見事にぶった切ったらそうなりますよね。
しかもキクリ先生にこっぴどく叱られてしまった。
でもまぁ……月依の笑顔が見られたから良いかな。
うん……月依のあんな嬉しそうな笑顔はそんなに見れるものじゃないし。
キクリ先生からお小言をいただきながらも、そんなことを考えていた私だった。
魂入れ編はこれで終了です。
ほのぼの路線なので稚拙な描写はお許しくださいませ。
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細かいとこですが今までお花のゲームってしてたとこを
植物のゲームに変えました。
さすがにお花のゲームじゃまんますぎなんで(汗




