冬の大規模即売会2
冬の大規模即売会三日目、当日。
今日の柚木先輩はいつもの如く長い髪を後ろで纏め、黒の帽子を目深に被って男物のスーツ姿で上下を揃えている。
どうしていつもその恰好なのか聞いてみたら、好きな特撮ヒーローのコスプレなんだそうな。
柚木先輩がコスプレしている探偵さん役の俳優さんはぱっとしないけど、もう一人の相方さんはCMでもよく見る俳優さんなんだとか。
「あの俳優さんも恰好良いんだけど、こっちの探偵役の俳優さんの役の好きっぷりがボクは大好きなんだ」
と、柚木先輩は熱っぽく私に語ってくれた。
柚木先輩の特撮オタクな一面を垣間見てしまった気分だ。
アカリと桜花は相変わらずコスプレ衣装の入ったキャリーバッグをガラガラと引いている。
はぁ……今日はどんなコスさせられるんだろう。
なんかまた桜花が新しく衣装を作ったって言ってたんだけど……どんな格好させられるのやら。
「早朝なのに相変わらずすっごい並んでるねぇ……」
分厚いコートとマフラーに身を包んだ月依がそう呟く。
隣に並んでいるサクヤちゃんも同じく分厚いコートとマフラーに身を包んでいる。
「まぁ……並んだ先には夢があるからね」
「その結果がお姉ちゃんの部屋の有様なんだね」
「それはそう。買わずに後悔するより買って後悔しろって格言があってですね」
「お姉ちゃんのお金だし、お姉ちゃんの好きなことだから別にどうでもいいけどさ」
言いながらクスリと微笑む月依。
「そうだ、用事済んだらまた雑貨ものが売ってる場所に連れて行ってよ」
「私も新しい髪留めを欲しいです」
「うん。それじゃみんなでまた見に行こうか」
そう言って私も月依とサクヤちゃんに微笑み返す。
私の言葉に二人も笑顔で答えてくれた。
「ほうほう相変わらず見せつけちゃってくれるね、この学園公認バカップルプラスワンは」
「そうだねぇー……お熱い三人で真冬の寒さも吹き飛んじゃいそうだよ」
「いいんですよ、私達はバカップルですから、ね、月依。サクヤちゃん」
そう言って二人を抱き寄せて見せつけてやる。
「わわ……お姉ちゃん近い。顔近いから!」
「陽花さんはずかしいです……」
そんな私を二人は真っ赤な顔をして拒絶する。
思いっきり二人に嫌がられてしまった。
うう……お姉ちゃんちょっと悲しい。
そんな話をしながら私達はサークル入場をし、柚木先輩のサークルスペースへとたどり着く。
そこには相変わらず山の様に積まれた段ボールの山。
ああ……今日もこれ売るんだなぁっていうのを実感させられる瞬間だ。
とりあえず机に乗せられた広告を片付けながら柚木先輩と設営作業へと移る。
夏に桜花とアカリが先に入場していたのあって今回は手際よく設営作業は終わった。
「それじゃ、コスプレの方よろしくね」
「はーい。それじゃ、行くよ、皆!!」
柚木先輩の声に元気よく返事をする桜花。
あー……やだなぁ……コスプレしたくないよう。
桜花が作ったんでしょ?
絶対ろくでもないコスだよう……。
―――
そしてコスプレ登録して更衣室で着替えました。
皆は可愛いフリフリのアイドルっぽいメイド服です。
超可愛いですね。
今すぐここで写真に撮ってしまいたいくらい。
でも何故私だけ柚木先輩と全く同じ黒帽子に男物のスーツ姿なんでしょうかね。
しかもベルトがなんか玩具のベルトなんですけど……。
髪の毛もなんか俳優さんの写真を見ながら念入りにセットされたんだけど。
ほら、今入って来た人、私の事思いっきり二度見してるんだけど。
絶対「女子更衣室に男がいる!」って思われてるんですけどおおおおおお。
オノレ桜花。
許すまじ。
「あはははは、やっぱり陽花はその恰好が一番似合ってるって」
「うんうん。超似合ってる。さすが桜花の見立てだね」
「まぁ、確かにお姉ちゃんらしい恰好だよね」
「陽花さん恰好良いです」
口々に私の格好について賛辞を贈る四人だけれど。
正直全然嬉しくないんですけど。
ほら、また今、入ってきた人が一瞬ビクッとして出て行ったよ?
警備員さん呼びに行ったんじゃないよね?そうだと言ってよ!
ここに居たらいらない混乱を招きかねないから私は早々にスペースに戻ることにするのだった。
スペースに戻ると。
「いやー……こんなに、このコスが似合う女の子は他に居ないんじゃないかな」
と、柚木先輩は大絶賛してくれたけど。
正直、私は全然嬉しくありません。
私、女の子なんです。
れっきとした女の子なんですううううううう!!!!!
「それじゃ、私、いつも通り島中回ってから手伝いに戻りますね……」
「うん。大手サークルの方は桜花ちゃんと一緒に回ってくるからお願いするよ」
「売り子は私達でなんとかするから、早く帰ってきてよね、陽花」
「はーい……」
「なんか、元気ないね。お姉ちゃん」
そりゃ元気も無くなりましょうとも。
こんな男の子に勘違いされるような格好させられたら。
そんな訳で私は即売会中この男装探偵コスプレで過ごすことになるのでした。
ああ……もう。
どうして私ばっかりこんな目にあうんだろう……。
アカリだけじゃなくて桜花にもお仕置きが必要かなー?
そう思いたくなる私なのだった。




