せかんどさいど
翌日のカムイの授業。
今日も新しいカムイの実習テストをすることになった。
名前は水呼。
読んで字の如く水を呼び出すカムイらしい。
昨日と同じく仮ライセンスの申請から始める。
今日は昨日と違い、仮ライセンスの申請で不適正の人がちらほらと出ている。
隣の席のヒルコちゃんも不適正だった。
私も昨日の蛍火があんな結果だったので、
不適正なんじゃないかと内心不安になりながら申請したんだけど……。
意外にも仮ライセンスの申請は通ってしまった。
「不適正だった人は気にしないでくださいね。昨日も言いましたが、そのライセンスの素養がないという結果なので、そのライセンスについてはもうスッパリと諦めてください」
「まぁしゃあないよなぁ。もともとウチの家系は水系のカムイの才能あらへんのよ」
「そういうものなんだ?」
「そういうもんらしいで。そないな訳で陽花はん、がんばってな」
「うん」
がんばろう。昨日の蛍火みたいにならないように。
「それではこれから水呼の実習を始めます。水呼はまず水を思い浮かべて、カードに力を流し込んでいくという感じですね。ただ水を呼ぶだけだとその辺が水浸しになってしまうので、コップの中に水を注ぐというイメージも忘れないようにしてください。お手本としてはこんな感じです」
そう言って先生はカードに力を籠めて、片手に持ったコップの中に水を注いで見せてくれた。
なんだか蛍火より断然難しい気がする。
「それでは昨日と同じように順番に見ていきますので、順番が来たら水呼を試してみてください」
そう言って先生は前列のクラスメイトから順番に水呼のテストを始めた。
そして暫くして私の順番になる。
「それでは、陽花さんどうぞ」
「はい」
水を思い浮かべて、持ってるコップの中にその水を注ぐ。
そうイメージしながら、カードに力を籠めていく。
カードが青色に光り、コップの中に水が注がれていく。
「おー……今日は上手くいったやん」
隣の席のヒルコちゃんが我が事のように喜んでくれている。
先生も少し安心したのか、微笑んでいた。
のだけど。
私が手渡したコップに注がれた液体に口を付けて先生はこういった。
「陽花さん、不合格です」
え゛。なんで。
とりあえず、私も先生から手渡されたコップを手に取り、呼び出した液体を口にしてみる。
う……水にしちゃなんか妙に苦い味がする。
「どれどれ」
そう言ってヒルコちゃんも私が出した液体を口にする。
「あははは。相変わらず陽花はんはおもろいことしよるなぁ」
思いっきり笑われた。
「サクヤはんもこれ飲んでみ」
ヒルコちゃんは私と月依を経由してサクヤちゃんにコップを渡す。
そして、私が呼び出した液体を口にするサクヤちゃん。
「あ……これ……お酒ですよ、陽花さん」
ええええええええええ。
折角うまくいったと思ったのにいいい。
むーーー。
昨日に引き続いて不合格って。
「ってヒルコちゃんにサクヤちゃん、お酒なんて飲んで平気なの?」
私だってまだ飲むのはアウトなのに。
「こっちの世界じゃ一般的な飲み物なんですよ。さすがに飲みすぎるのはご法度ですけど。私達くらいの年でも少しくらいなら飲んでも平気なんです」
そっかー。そういえば神様への貢ぎ物ってお酒だもんね。
タカマガハラでは普通に飲まれてたっておかしくないのか。
そうこうしているうちに、月依とサクヤちゃんの番も終わり。
結果は二人とも無事合格。
ホント、優秀だなぁ二人とも……。
そんな訳で放課後。
昨日と同じくまた私はキクリ先生と二人で補習を受けていた。
「それじゃ陽花ちゃん。水呼を試してみてくれないかしら」
「はい」
そう答えて私は水を思い浮かべて、持ってるコップの中にその水を注ぐ。
そうイメージしながら、カードに力を籠める。
カードは青色に光り、授業中と同様にコップの中に水が注がれていく。
「液体を呼び出して、コップに注ぐってこと自体は成功してるのよねぇ」
そう言いながら、先生はコップの中の液体を口にする。
「また失敗ね」
「呼び出してる液体はお酒なんですよね」
「そう。そこが問題なのよね。普通、水呼で失敗する時っていうのは、液体自体を呼び出せないとか、コップの中に水を注げないとかそういう類のものなの。でも、陽花ちゃんの場合はそのどれでもなく、呼び出している液体が水じゃなくてお酒ってことなのよね。昨日の蛍火もだけど、原理的には上手くいってるはずなのよ」
そう言って頭を抱えるキクリ先生。
「もしかしなくても、私、相当問題児ですか?」
「んー……ある意味教師泣かせよねぇ」
「あう……」
「ただまぁ。今までにないことを体験できて新鮮といえば新鮮なんだけどね」
そう言ってキクリ先生は苦笑する。
「もしかするとだけど……うーん……」
そしてキクリ先生は言いづらそうに続ける。
「これからのカムイの実技テストも似たようなことになるかもって、
そう覚悟はしておいた方が良いかもしれないわね」
「そう……ですか……」
「まぁさっきも言ったけど原理的には上手くいってるのよ、両方とも。きっと何かが足りないだけ。その何かがわかれば上手くいくと思うのよね」
「足りないもの、ですか」
「それが何かは、残念ながらさっぱり分からないわ。昨日も言ったけどそのうち上手くできるようになるわよ」
「だと良いんですけどねぇ……」
教室に残った私達二人は少し重苦しいため息をつくのだった。
―――
「そうかー。やっぱ上手くいかへんかったかー」
たまたま食堂に来ていたジャージ姿のヒルコちゃんと会ったので、
一緒に夕食をとりながら補習の結果を報告する。
因みに二人とも日本風定食セットだ。
なんでなのか聞いてみたところ「ウチ、日本食、好きやねん」と、
満面の笑みで答えられた。
「せやけどさ、お酒出せるって結構ええんとちゃうかな」
豚の角煮を摘まみながらヒルコちゃんはそういう。
「なんで?」
「そのお酒使うてお金儲けできるやん」
いや、まぁ確かにできそうだけど。
「でもそのお酒、成分が不明なんだけど」
そもそもそのお酒を大量に飲んで大丈夫なのか保障ができない。
「そこはまぁ陽花印の銘酒とか言うて顔写真でも付て売ればいいんとちゃう」
なんかどこかの地方の有機野菜農家みたいな売り方だなぁ。
「私の写真なんか付けても全然売れないからね」
「せやろか?んー……ほな月依の写真でもええか」
「確かに月依の写真だったら買う人いそうだけど」
でもそれ作成者偽造だからね。バレたら炎上ものだよ、きっと。
「僕は陽花ちゃんの写真でも、いくらでも買えるよ」
その言葉と共に私の肩に手が置かれる。
「……!?」
言うまでもなくサクヤちゃんのお兄さんだった。
「コノハはん、そないなことしてるとまたサクヤはんに説教くらうで」
へー……コノハっていうんだ、サクヤちゃんのお兄さん。
「ははは、大丈夫。サクヤは今頃、月依ちゃんと露天風呂さ」
そういえばここに来る前にそんなこと言ってたなぁ、月依。
ていうか、何でそんなことまで知ってんの、コノハさん。
「さよか。ほな、あとでチクっといたろ」
「それはちょっと勘弁してほしいかな」
そう言いながら、もう片方の手で髪をかきあげる。
「……」
「そういえば、自己紹介がまだだったね、僕の名前はコノハ=アサマ。サクヤのお兄様さ」
とりあえずそれは良いから、いい加減その手を私の肩からどけてくれないかなぁ。
食事の邪魔なんだけど。
「私は霧島陽花です」
愛想のない声でそう返す私。
「そういうクールな所もキュートだね、陽花ちゃんは」
その言葉にぞわぞわっと身の毛のよだつのを感じる。
サクヤちゃんには悪いけど、やっぱ苦手だわ、この人。
こんな事してる人間は二次元の中で十分だ。
「コノハはん、いい加減、陽花はんから離れんと、ウチが説教するで」
「ははは、それはそれで良い提案だね」
「「……」」
駄目だこの人。
言葉がまるで通じない。
二人で、はぁとため息を付いていると。
「お、に、い、さ、ま?」
とドスのきいたそんな声がコノハさんの背後から聞こえてきた。
恐る恐る振り返るコノハさん。
そこには浴衣姿に身を包んだサクヤちゃんと月依の姿があった。
「あはは……。これは……いわゆるスキンシップというやつだよ」
「それじゃ、皆さま。私は今日はこれで」
そう言うとサクヤちゃんはコノハさんの耳を掴んでズリズリと音を立てて引きずって行った。
「痛い……!今日も痛いぞ!妹よ!」
その声を聴きながら私達は再び夕食の続きをとることにするのだった。
改めて推敲していたら数字部分があったので漢数字に直しました。
というかどっちが見やすいのかなぁてのもあるんですが。
とりあえず漢数字使っときます。




