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案内人は異世界の樹海を彷徨う  作者: 月汰元
第8章 多忙を極める案内人編
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186/240

scene:183 マナ研開発の事業拡大

感想とレビューを頂きました。

ありがとうございます。

 伊丹さんがクロエのコンサートへ行った日、俺はマナ研開発の研究所に来ていた。最初の頃よりセキュリティが厳しくなり、入口には二人の警備員が常駐している。

 薫から渡されたカードキーを使って中に入り、神紋術式解析室へ向った。

 そこには薫自身が設計開発した解析マシンが設置されていた。元々研究所には薫の自宅にある神紋術式解析システムの簡易版が置いてあったのだが、その簡易版のシミュレート機能を強化したものが解析マシンである。

 現在、その解析マシンは『神威光翼の神紋』の<光翼衛星>を元に作り出した<黒翼衛星>の機能をシミュレートしていた。

 解析室に入った俺は、端末の前に座る薫が忙しそうにキーボードを叩いている様子を目にして少し待つ事にした。しばらくして準備を終えた薫が、背後を見て俺を確認しニコッと笑う。

「来ていたの……声を掛けてくれたら良かったのに」

「邪魔しちゃ悪いような気がしたんだ。準備は終わったのかい」

「ええ、最終チェックも済んだからシミュレートを始めるよ」

 薫は他の研究員に合図するとエンターキーを叩いた。

 大型ディスプレイの中にシミュレートの結果が表示され始める。

 画面上の地上で魔粒子の塊が生まれ、それが魔力により押し出されるように宇宙に向けて昇って行く。成層圏を抜け宇宙空間へ出た魔粒子の塊は翼を広げるように魔粒子を捕獲する魔粒子収集スクリーンを広げ、宇宙の彼方から飛翔して来る魔粒子を捕獲する。

 魔粒子は地球の電離層やオゾン層により弾かれ、全体の数パーセントしか地球に到達しないと分かり、それなら宇宙空間で集めようと開発されたのが、この<黒翼衛星>である。

 <黒翼衛星>にはクラダダ要塞遺跡で見付けた魔導工学関係の書籍から解析出来た知識が使われていた。魔粒子を捕獲する魔粒子収集スクリーンは、その知識なしでは開発不可能だっただろう。


「黒翼の展開速度が設計値より遅いですね。魔力の伝達経路に問題が有るのかもしれません」

 研究員の一人が声を上げて報告する。

「魔粒子捕獲率はどう?」

 薫の質問に別の研究員が。

「予想通りですが、捕獲した魔粒子の輸送に問題が生じているようです」

 薫は全体の数値を見て、電離層付近で魔粒子が停滞しているのに気付いた。

「神紋術式に変更が必要なようね。後日、検討しましょう。続けて」

 発生した問題をチェックしながら最後までシミュレートを終わらせた。

「ご苦労様、今日は終わりにしましょう」

 シミュレートの様子を見ていた俺は、薫に声を掛ける。

「お疲れさん。問題はいくつか有ったけど成功しそうじゃないか」

「まあね。苦労したんだから」

 結果がまあまあだったので、薫の機嫌も良さそうだ。

 俺たちが宇宙で魔粒子を集めようとしているのには訳がある。マナ研開発は日本の魔粒子が噴出している地点『魔粒子源泉』を確保したのだが、そこで採取出来る魔粒子量が少なかったのだ。

 日本国内の医療関係だけで使うというのなら十分かもしれないが、世界を相手に商売をしようと思うと足りなかった。世界各地の『魔粒子源泉』を確保するというのも考えたが、石油と同じように資源ナショナリズムが盛り上がり国有化されるような事態になれば、マナ研開発は大きなダメージを受ける。

 それらを考慮した結果、<黒翼衛星>の開発に乗り出したのだ。

 <黒翼衛星>は魔法であると同時に巨大な魔粒子収集管理施設となる。非常に魅力的な施設なのだが、建設費が巨額となるので、すぐに建設という訳にはいかない。


 俺と薫は応接室に移動して、今後の予定について話し合った。

「メディカル・マナパッドは今年の冬から販売が出来そうよ」

「やっとか」

 俺が言うと薫が。

「色々有ったから、やっとかと思うけど、医療器具としては異例の早さだそうよ」

「そうなんだ……処で、メディカル・マナパッドの次は何を考えてるんだ?」

「考えてはいるんだけど、まだ決めていないの。今は活性化魔粒子の注文が多くて、それに応えるのが精一杯なのよ」

 日本が活性化魔粒子を開発したと知った世界各国は、活性化魔粒子を売ってくれと日本政府に迫った。

 最初、日本政府は開発中のものだからと販売を渋った。日本国内で研究を進めてから世界に販売したいと政府は考えたようだ。だが、アメリカや欧州各国から強い外圧が掛かり魔粒子の販売を承知した。

 日本政府は販売を決める前に、マナ研開発へ相談に来たらしい。どれくらいの量を販売可能か確かめる為である。そこで、どういう経緯で魔粒子販売が決まったのか役人から聞いた薫は、そんな弱腰で大丈夫なのか尋ねたそうだ。

「これまでずっとこんな感じでしたから大丈夫じゃないですか」

 と全然大丈夫じゃない答えが返って来たと薫は嘆いた。


 取り敢えず、マナ研開発は採取量の半分を自社内で使うので残り半分を販売可能だと返答した。

 マナ研開発が魔粒子の販売を開始すると大量の注文が舞い込んだ。世界各国の研究所からの注文である。何に使うのかは分からないが、半端でない量の注文にマナ研開発は大忙しとなった。

 マナ研開発が販売した魔粒子のほとんどは魔法や魔粒子自体の基礎的研究に使われたが、一部の国の研究者はマッドな実験に使った。

 その所為で大騒ぎとなるのだが、今の時点では表面化していなかった。

 そんな騒ぎが起こると予想していない俺たちは<黒翼衛星>の開発計画を練り、魔粒子販売の御蔭で豊富になった資金を何に投資するか、夜まで話し合った。


 翌日、伊丹さんと一緒に今回の依頼者と打合せを行った。

 相手は荒武者になりたい仙崎である。身長は高くないが厚みのあるガッシリした体格である。浅黒い顔は自信に溢れており、挫折を知らないように見える。

 JTG支部の応接室で会った仙崎は三〇歳ほどで、ソファーに座るなり装備について確認を始めた。

「指定した装備は用意出来るんだろうな」

「鎧はワイバーンの飛竜革鎧、武器は剛雷槌槍と呼ばれる魔導武器を用意してござる」

 伊丹さんの言葉を聞いて一瞬不審げな顔をした仙崎を適当に誤魔化し、装備はそれでいいか確認する。

「鎧はワイバーンか、いいだろう。だが、剛雷槌槍という魔導武器は初めて聞く武器だ。どんな奴なんだ」

 俺が剛雷槌槍の説明をすると仙崎は顔を顰め。

「源紋とかの説明はいい。知りたいのは武器の威力だ。その槍はオーガを倒せるのか?」

「使い方次第ですが、倒す威力はありますよ」

「そうか。いいだろう」


 俺は魔法を得意とする案内人山崎の所で修行したと聞いているので、神紋杖が必要か尋ねた。

「要らん。今回は武器による戦い方を鍛える予定だ」

「ああ、それで迷宮なのござるな」

 迷宮には多種多様な魔物が居るので、それらと武器を使って戦えばいい修行になるだろう。

 ただ問題が一つ有る。迷宮に入るにはハンターランクが三段目以上だと証明しなければならない。今回は転移門を使って移動するので登録証が持ち込めず、再発行するには仙崎が修行していた国のハンターギルドから仙崎の情報を取り寄せなければならない。

「ギルド支部長に再発行について聞いたのですが、情報が届くまでに時間が掛かると言われました」

 仙崎が修行していた国は魔導先進国の一つであるクノーバル王国である。馬車の旅なら一ヶ月以上掛かるらしい。

「それで、どうしたらいい?」

 仙崎は不満そうな表情を浮かべて尋ねる。

「一番簡単なのは序二段ランクからやり直す事です。通常依頼を一〇件熟せば三段目ランクにはなれますので、迷宮に入れます」

 仙崎は『魔力袋の神紋』を授かっているので、序二段ランクから始められる。ただ通常依頼一〇件と聞いて不満そうな表情を強めた。

「仕方ない。だが、依頼は討伐依頼だけにする」

 討伐依頼と採取依頼を組み合わせた方が効率的なのだが、依頼人の希望ならしょうがない。


 最後になって仙崎が変な事を聞いた。

「迷宮都市の周辺に竜は居るか?」

「どんな竜でござるか?」

「三つ首竜クラスの竜だ」

 師匠の山崎さんから伊達さんが三つ首竜を倒したと聞いたのかもしれない。

「樹海の奥に行けば居るでしょうけど、案内は出来ませんよ」

「何故だ?」

「危険だからに決まっています。もしかして竜を倒すつもりなんですか?」

 仙崎が頷き。

「目標としてはそうだ。いつかは竜を倒し日本一の荒武者となってみせる」

 その意気込みはいいのだが、武器や防具に拘る処を見ると武器を使った戦いを苦手にしているのだろうか。それとも大物を狙っているのか。

「今回の依頼で狙っている魔物は居ますか」

「山崎師匠からはナイト級下位の魔物を狩れるくらい強くなって来いと言われている」

 ナイト級下位と言えば、帝王猿や大鬼蜘蛛、雷黒猿などになる。俺と伊丹さんはなるほどと納得した。

 仙崎のハンターランクは幕下、ソロで討伐可能だと言われているのはルーク級中位までの魔物である。二つ上のナイト級下位の魔物を実力で倒すのは難しい。

「言っておくが、装備を指定したのは合理的な判断からだ。修行で死んだら元も子もないからな」

 いい装備を揃えるという事自体は、堅実で賢い方法である。俺も最初から竜爪鉈を使っていたのだから文句言える立場にないが、装備だけに頼るのではなく色々戦い方を工夫しギリギリで頑張って来たつもりだ。

 仙崎が依頼期間が終わった後、装備をクノーバル王国へ届けられるかと聞いてきた。

「装備はレンタルでなく買い取るという事ですか?」

「そうだ」

 改造型飛行バギーが有るので、クノーバル王国までなら四、五日で行ける。

「可能ですが、その分の費用も掛かりますよ」

「費用なら問題ない」

 仙崎は資産五百億円と言われたIT企業創業者の子供で、父親が死亡し莫大な遺産を受け継いだらしい。

 父親の事業を継承する才能はなかったらしく会社を売り、自分らしい生き方を求め今は日本一の荒武者を目指しているそうだ。

 その後、打合せを続け依頼人が納得した処で解散した。


 仙崎と別れた後、俺と伊丹さんで雑談を交わす。

「何だか酒が飲みたい気分でござる」

 打合せの後半、仙崎が遺産を受け取ってから、どんな贅沢をしたかの自慢話になり俺たちを苛つかせた。

「伊丹さんはお座敷遊びとかしないんですか?」

「……料亭で芸者を呼んで遊んだ事はござらん。そんな金が有るなら良い日本刀を買うでござる」

 伊丹さんらしい答えだった。

 因みに俺も伊丹さんも金持ちになっていた。案内人としての収入も多くなっているのだが、その他の収入源も増えた。他の収入源と言うのは魔導飛行バギーの販売と抓裂竜狩りの報酬、それにマナ研開発の株券である。

 魔導飛行バギーの販売代金は、マナ研開発に投資したので残っていないが、抓裂竜狩りの報酬はまるまる残っていた。

 最後の株券であるが、マナ研開発は活性化魔粒子の販売で物凄い黒字になるらしく、高額の配当金が支払われるそうだ。

 俺が金銭的に豊かになったと知っている東條管理官からはセキュリティのしっかりした高級マンションに引っ越せと言われている。だが、日本で生活する時間が少なく、一人暮らしの俺は躊躇っていた。

 それは伊丹さんも同様らしく、相変わらず安アパートに住んでいる。

 俺たちは引っ越すなら、どんな部屋がいいかで話が盛り上がり時間が過ぎた。


 伊丹さんが行き付けの飲み屋に行ったので、俺は久しぶりにゲームセンターへでも行こうかとJTG支部を出ようとした時、スマホが鳴った。見ると東條管理官からである。

 来てくれと言われたので、東條管理官の部屋に行くと初対面の軍人らしい人物が来ていた。軍人だと思ったのは姿勢や雰囲気がアメリカ軍や自衛隊の知り合いと似ていたからだ。

 頭を下げて挨拶し、何の用か東條管理官に尋ねる。

「まず、こちらを紹介しよう。イギリスのマルヴィン大佐だ」

 自己紹介するとマルヴィン大佐が流暢な日本語で話し始めた。

「イギリスは異世界での移動手段を研究していたのだが、あまり成果は出ていなかった。そこにアメリカ軍が魔導飛行バギーの活用を始めたと情報が入ってね」

 イギリスも魔導飛行バギーを購入したいという話なのだろうが、イギリスの案内人たちが活動する異世界の地域は遠過ぎる。

「もちろん、輸送の問題は承知していたので、半端諦めていたのだが……開発者である君に何か方法がないか確かめようと訪問しました」

 魔導飛行バギーの事は公開していないはずなのだが、公然の事実として普通に話していた。

「魔導飛行バギーの件はアメリカ軍の駐屯地で知ったのですか?」

 俺が質問するとマルヴィン大佐が曖昧に誤魔化す。

「我々にはいくつかの情報網がありますから」

 俺は東條管理官にチラッと視線を向けた。タイミングが良すぎる。昨日、高速空巡艇の話を東條管理官としたばかりなのに……JTG支部に盗聴器でも仕掛けられているのだろうか。


 東條管理官が開き直って話を始めた。

「まさか、この支部に盗聴器を仕掛けたのですか?」

 マルヴィン大佐が苦笑して否定した。

「我々はそんな下品な真似はしません。ただここには多くの盗聴器が仕掛けられているようです。気を付けられた方がよろしい」

 東條管理官が憮然とした表情になった。

「冷たい空気が吸いたくなりました。屋上へ行きませんか」

 大佐に言われて三人で屋上に行った。屋上には盗聴器が仕掛けられていないからだろう。

「さて、後で調べられると判ると思いますが、最近この支部は注目され始めました。原因はミコト君の魔導飛行バギーにあります」

 俺はちょっと納得出来なかった。魔導飛行船の技術は元々異世界に存在したからだ。その事を指摘すると。

「しかし、その技術は国家機密として秘密にされています。特に魔導先進国が集まるデヨン同盟諸国はそうです。日本もそうですが、韓国や北朝鮮、ロシアもデヨン同盟諸国が持つ魔導飛行船の技術を手に入れようと活動していましたが駄目でした」

 そこに魔導飛行バギーを俺たちが開発したので注目が集まったのか。

「あなた方は高速空巡艇を開発されるそうですね」

 盗聴器は仕掛けていないと言っていたが、盗聴器から発せられた電波はしっかりと聞いていたようだ。

「まだ、具体的な計画ではないんだけど」

 俺が反論するように言う。

「我々も全面協力するので、是非開発して欲しい」

 俺の脳裏に怒った顔をするカリス親方とドルジ親方が浮かんだ。

「我々だけでは決めかねるので、時間を下さい」

「もちろん、構いません。ですが、日本政府は必ず開発に前向きになると確信しています」

 きっと根回しするんだろうなと思いながらマルヴィン大佐の顔を見た。高速空巡艇の開発が決まったかのような自信たっぷりの顔をしている。


 大佐が去った後、東條管理官は急いでJTG本部へ連絡した。盗聴器の件を知らせたのだ。翌日、大々的に盗聴器の調査が行われ、数多くの盗聴器が見付かった。

 俺たちの支部に仕掛けられた盗聴器は最近仕掛けられたもののようだった。アメリカの駐屯地で魔導飛行バギーが活躍し始めたのを知った諸外国が、魔導飛行バギーの出処を調べ始めたのがきっかけだろう。

 しかも、俺が所属する支部だけではなく全部の支部で見付かった。JTGの理事たちは衝撃を受け、JTG全体のセキュリティが見直され定期的に盗聴器のチェックが行われるようになった。

 一方、高速空巡艇の開発計画はイギリスも加わり大事になっていた。協議の結果、御手洗教授が設計した空巡艇を元に開発される事になる。

 日本とイギリスの研究者や技術者が大勢参加し異世界の技術でも製作可能な安全で快適な飛行船を目指し開発が進み始めた。


2017/7/11 誤字修正

2017/7/18 修正

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