婚約破棄編
前作を読んでいなくとも解るように書いたつもりです。
両親の馴れ初めが婚約破棄と言われたら、まあ反応に困るだろう。
とは言え、実際に僕達の親世代は、学生時代に三組もの婚約が破棄されている――王国の司書として知られるジョーンズ侯爵家の令嬢、大陸随一の魔術一家ドラゴネル公爵家の女当主、そして獣人部隊を使役する猛将クラン辺境伯の妹御と、揃って元婚約者から裏切られた身だ。
そのジョーンズ侯爵令嬢にして現ペンドラゴン公爵夫人が、僕の母。
彼女に婚約破棄を叩き付けたメイリオン侯爵子息は当然のように廃嫡され、次男がメイリオン侯爵の座を継いだ。そこに嫁いだのが、ジョーンズ侯爵家の次女――母の妹。家同士の繋がりは守った、と言うことだね。
ついでに言えば、ドラゴネル女公爵には、ペンドラゴン公爵家の庶子がちゃっかり婿入りしている。正妻をドラゴネルから迎えておいて、使用人に手を出すとは、祖父もよくやる。
祖父の不貞はさておき、ペンドラゴンの次子たる僕にとってドラゴネル公爵家は父方の、そしてジョーンズ侯爵家及びメイリオン侯爵家は母方の親戚、と言うわけだ。
既に大分面倒臭いが、ここまでが前提となる。
面倒臭くて読み飛ばしたとしても、ここから先は僕の従兄姉達の話と思っておいてくれればいい。
「クレア・メイリオン侯爵令嬢ッ!! 君との婚約を破棄させて貰うッッ!!」
なんでやねん。
何ぞ高らかに宣言されたが、この場はゴドディン王立学院のサマーパーティー。
そして何ぞ始めよったライエンス侯爵子息は、本来なら僕の従姉でもあるクレア・メイリオン侯爵令嬢と婚約しているはず。だが取り巻きのような友人のような面々を引き連れ、その婚約者に一方的に宣告する彼の傍らに寄り添うのは、クレア嬢とは似ても似つかぬ儚げなお嬢さん。
なんでやねん。
まあ、こうなるかも知れないと言う話は、一応聞いてはいたけれど。
実際なっちゃうと、何だかなぁ……としか。
先述の通り、メイリオン侯爵夫妻は婚約破棄の後始末として縁付いた。した方の弟と、された方の妹。やらかした長男を追い出したとは言え、今も少々肩身が狭いと、義叔父は言う。
肩身が狭い割に、婚約者から放置された娘を、姻戚とは言えペンドラゴンの僕に頼む辺り、太々しいと思う。他親族にも同年代かつフリーの子息はいるのにね。
かてて加えて、婚約破棄をされた当人の息子だよ。まあ、引き受けたけどさ。
自慢でも何でもなく、我がペンドラゴン公爵家はゴドディン王国建国から続く、筆頭公爵家。建国を助けた二頭のドラゴンのうち、白いドラゴンの末裔とされる、《白竜公》だ。黒いドラゴンの血筋である《黒竜公》ドラゴネル共々、今も国内外で多大なる権勢を奮っているし、自覚もある。
なのでクレア嬢も堂々と、白きドラゴンの仔である僕の隣で、ライエンス子息を迎え撃つ――
「そのお話、謹んでお受け致しますわ」
そこから始まる醜い言い争い。
やれ、可愛げがないだの、隣にいる男は何だだの。エスコートを放棄したのはそちらだから備えたまで、うんそうだね、でも必ずしも僕でなければいけない理由はなかったね、引き受けたけど。
だって、何か嫌な予感がしたんだよ。
今も彼らは、ここが学院のパーティー会場であることも構わず、侃々諤々喧々囂々。学院行事の一つであるサマーパーティーは生徒の自主性を重んじるイベントだとかで、基本的に大人の目が入らないから、トラブルがあっても先生方が処理してくれるわけではない。
それをいいことにライエンス子息の友人達も、自分達の婚約者がクレア嬢と結託して一人の女子生徒を傷付けたと、次々に婚約破棄を宣言する。
そこに近付く人影に気付いたようで、クレア嬢は一旦口を閉ざした。遅ればせながらライエンス子息も、気不味そうな顔をする。今更だね。
皆がそれぞれ着飾ったパーティー会場でも、学院の制服をきっちり着こなした二人は、生徒会の腕章を着けてもいて。
この場に現れた今期の生徒会長ことアンブロシウス・ドラゴネル――ロージィ兄さまは、双方の顔を見てこれ見よがしに溜息を吐いた。兄さまの乳兄妹と言うこともあって、共に生徒会で働くジェイン・トプセル男爵令嬢もご苦労様だね。
さて、割って入った生徒会長は、その姓が示す通りドラゴネル公爵家の嫡子。王族が在籍していない現在、学院に通う生徒の中では最も社会的地位が高い人物だ。家格で言えばうちと同等だけど、僕は後継ぎじゃないし、年下だしね。
一瞬僕に訝し気な視線を向けたロージィ兄さまだが、すぐに生徒会長の貌に戻って彼等を窘める。
「君達、それは今ここでやるべきことなのかな」
とは言えこの丸々とした体格ゆえか、兄さまを陰で侮る者もいる。
真っ直ぐな黒髪と涼やかな切れ長がエキゾチックな当代《黒竜公》は、月女神にも例えられる美貌を誇るのだが。一方でその息子はこの通りの見目だ、《満月の君》と皮肉交じりの二つ名を囁かれるほどで。
魔術科の生徒達からは、同世代最強の術者として畏怖の目で見られているようだけど――魔術科ではない人間に魔術で負ければ怨嗟の声を撒き散らす彼等も、兄さまには「ドラゴネルじゃしょうがない」と尻尾を巻くほどだ。
加えて騎士科の先輩方曰く、学院武術大会でも毎年騎士科や練兵科の生徒達を、魔術なしの素手で叩きのめしているらしい。なるほど、楽しそうだ。その時に向けて剣技を鍛えねば……と意気込む僕を見て、何故か一同はドン引きしていたが。
でも領地経営科や淑女科のスカした面子には、兄さまの凄さはどうにも解らないらしい。学業でも優秀な兄さまなのに、彼等と来たら精々「何か地位と魔力が高いデブ」程度の扱いである。節穴かな。
「まあ、失礼。そうですわね、皆さまの前で、恥ずかしい姿を見せてしまいましたわ。
ですが、ドラゴネルさま」
クレア嬢も兄さまを舐めている節があるけれど、表向きは次期公爵に向けて丁寧に応じる。
その視線が示す先には、婚約者の浮気相手。この、いかにも庇護欲を掻き立てそうなタイプのお嬢さんは、確か伯爵家の養子で、僕と同じ一年生。
その一年生が同級生やら先輩やら数名の男子生徒を誑かしたとあって、周囲の女性陣は冷ややかだ。しかも揃いも揃って実家の地位が高いか財力があるかで、タイプこそ違えどそれぞれ美男子と言える相手ばかりなのだから。
と言うことは、もし僕やロージィ兄さまも顔や体型が整っていたら、彼女に狙われていたのだろうか。実際に煩わされずに済んだ現状を鑑みると、僕の童顔も兄さまの体型も怪我の功名と思えて来る。
それにしても、この状況――両親から聞いた、かつての騒動を思い出す構図だ。
当時も一人の子爵令嬢が、王子やら侯爵子息やら、学院内の高位の貴公子達を誑かしたと言う。誑かされた彼等もまた、自分達の婚約者が少女を虐げたと今みたいなことを訴えて婚約破棄を叩き付け、返り討ちにされたんだとか。
クレア嬢もまた、ライエンス子息を返り討ちにするつもりなのだろう。
「そちらの……ホリンシェットさん? と言ったかしら。彼女のペンダント、可怪しいと思いません?」
「ペンダント?」
クレア嬢の言葉に、ロージィ兄さまは件の女子生徒の胸元に目をやった。
例の伯爵令嬢はきゅっと身を竦ませ、指摘されたペンダントを手の中に握り込むけれど。
「……言われてみれば、そうだね。なるほど、これは気付かなかった私も迂闊だったな」
「な、何だと言うんだ、一体」
「ローレル・ホリンシェット伯爵令嬢——そのペンダント型の魔道具は、どこで手に入れた物なのかな」
「魔道具!?」
ドラゴネル家と言えば大陸随一の魔術師一族でもあり、嫡男たる兄さまは僕等世代では最強の術師。その兄さまが今の今まで気付かなかったと言うのだから、僕達が尚更気付くはずがない。
持ち主当人はおろおろと震え、ライエンス子息が彼女を兄さまから隠すように立つ。
「そ、そんな……わ、私、何も……」
「ドラゴネル会長、彼女を怯えさせないで戴きたい」
次期《黒竜公》が如何に優れた魔術師であるかは、周知の事実。「何か地位と魔力が高いデブ」程度の認識でしかないだろうライエンス子息達も、そこはちゃんと理解しているようだけれど。
「ローレルのペンダントが魔道具だとしても、それがどうしたんだ」
「会長ほどの術師が今の今まで気付かなかった程度だし、大した魔力でもないのでは」
「ただのお守りじゃないの?」
「そ、そうですわ。会長さんが気になさるような、そんな大層な物ではないです」
「……へえ?」
空気が、変わった。
顔面の肉にめり込んで判りにくいが、ロージィ兄さまはそれはそれは不思議な色の瞳を持っている。銀の中に蒼と翠を僅かずつ垂らしたようなそれは、見る角度や当人の魔力によって、色合いが変わるのだ。
平素は碧灰とでも言える色した瞳が、濃い蒼に——同時、瞳孔が爬虫類めいた縦長に形を変えて行く。
丸い巨体を包むは、常人にはない、ドラゴンの気迫——
「……若」
黒きドラゴンの末裔が竜気を纏えば、大概の人間は息苦しいほどの圧を覚える。それは圧倒的上位者からの脅しにもなるので、やり過ぎだと判じれば止めるのが、トプセル嬢の役目の一つ。
見た目は地味なトプセル嬢も、「デブの取り巻き」程度にしか思われてないらしい。真面目だし成績もまあいい方だし隙のないまとめ髪も清楚だし、先生方からの評判はいいんだけどね。一部の不埒な男子からは「おっぱいおっきい地味眼鏡」と下卑た視線を送られ、上から目線の女子から勝手に蔑まれてもいるようだ。
この竜気に顔色を変えずにいられる辺り、彼女も普通ではないと思うんだけど。
控えめな声に兄さまは薄く笑い、少しだけ圧を収めた。
「うん、でも、ジェイン。このペンダント、どう見てもうちのだよ」
『えっ』
——と言うことは。
「ち、違います! わ、私、泥棒なんてしてません!」
「そこまでは言ってない」
そのペンダントが実際にドラゴネル家の物なら、一介の貴族子女が簡単に入手出来るものではない。
きちんと管理されていれば。
「これは当家の恥ではあるけれど、確か祖父が亡くなった頃のどさくさで、遺産を掠め取ろうとした親族がいたと聞いているからね」
その頃に流出したものの一つだろうと、兄さまは溜息。ドラゴネルの先々代は早くに亡くなったため、まだ少年だった長男がとりあえず家督を継ぎ、より当主適正がある妹に譲ったそうだ。
普通ならそのまま長子が続けるもんなんだけどね。先代は変わり者だから。
だとしても。
「……そうだとしても……今更……」
ライエンス子息が眉を寄せ、今の持ち主も泣きそうな顔で。
「お、お返ししなくちゃいけない……の? こ、これは……死んだお母さんが、誕生日に、買ってくれたもので……」
「ローレル……」
「魔道具でなければ持っていても構わないと、私も思うけど……」
「洗脳の魔力を垂れ流すような危険なペンダント、あなたの手にあっていいわけがないでしょう」
「なんて?」
クレア嬢がとんでもないことを言い出した。
ロージィ兄さまやライエンス子息もぽかんとする中、思わず問い返した僕は悪くないと思う。
呆気に取られた兄さまも、深い息を吐いて額に手をやる。
「……ここで言わずともいいじゃないか……」
でも、ってことは兄さま、クレア嬢のそれは否定しないんだね。
え、じゃあ、そのペンダント……?
誑かされ組もこの考えに至ったか、ぎょっとした表情で例の伯爵令嬢を見るけれど。
「何を言い出すんだ君は! そ、それではまるで、ローレルが……い、いや待て! やはり変だ、大体洗脳だなんて、そんな危険な物なら、逆に何故誰も気付かなかった!?」
「それを言われると、本当に迂闊だったとしか言いようがないけれど——
こうして視てようやく気付いたけど、本来の術式を隠す認識阻害の術式も組み込まれているね、これ。とてもよく出来ている——何せこの私さえも欺いたほどだ」
ええと。
「ロージィ兄さま……自分の名声と実力を逆に言い訳にするのは、流石に狡いよ」
「そう言われると耳が痛いな。だが、実際そうなのだから仕方ない。
では、どなたか魔術科の先生にも視て戴こう。巧妙ではあるが、一度『そういうもの』と思えばすぐに看破出来るものだから。
……ふむ、メイリオン侯爵令嬢がペンダントの異常に気付いたのも、そのせいかも知れないな。不用意に婚約者に近付く相手だ、疑いの目で見てしまうのも仕方ない」
「その通りですわ」
まさかとは思うけど……もしかしてクレア嬢、ロージィ兄さまと言う学院最強の魔術師を引っ張り出すために、敢えて騒ぎにしたんじゃ……?
疑われてライエンス子息はクレア嬢を睨み付けるが、返って来るのは冷ややかな視線。
ロージィ兄さまも探るようにクレア嬢を見れば、彼女はそちらには含みを持たせた淑女の微笑で。
「でも、こうしてドラゴネルさまの証言も戴けて、助かりましたわ」
「私は内々で処理したかったのだけど……」
「してもいない罪を人前で被せられて、黙っていられませんもの。
さ、あとはその洗脳を解呪するだけ——」
「なっ……!?」
「ひ、ひどいです!」
初めに婚約破棄を言い出し始めた面々が騒ぎ出すが、兄さまが窘める。
「その前に、そろそろ場所を移動しよう」
もう手遅れだと思うけど。
クレア嬢に至っては、最早すべてをここで終わらせたいのかも知れない。兄さまの言葉をまるっと無視して、どこからかペンダントを取り出した。
今も例の伯爵令嬢の首にある、洗脳のペンダントに似たデザイン——加えてこちらは、僕にも判るレベルで既に魔力が渦巻いている。取り出したと同時に、クレア嬢が自分の魔力を込めたのだろう。
「これもドラゴネル公爵家から流出した一つ——ホリンシェットさんの洗脳の魔道具と対になる、解呪の魔道具ですわ!」
「え、ちょっと待て——」
ロージィ兄さまが止めるより早く、クレア嬢が掲げたペンダントが強く輝いて、そして。
何かが、弾けた。
ような気がした。
「……あれ……? 俺は、今まで……?」
ライエンス子息や彼の友人達が、揃ってぼんやりと首を傾げる。
きょとんと周囲を見回していた彼等は、やがて自分達と対峙する少女達に気付いて、これまた揃って顔色を変えた。
そして見せる反応は、今まで蔑ろにして来た婚約者への謝罪、あるいはその原因となった女子生徒への警戒と、個人差はあるけれども。
「ローレル……? 君は、俺に一体、何を……?
っ、ち、違うんだクレア嬢、これは……そ、そうだ、君も言っていただろう、洗脳魔術だよ!」
「だとしても先程の言葉、しっかり父にも伝えさせて戴きますわね。婚約破棄、でしょう? ええ、ええ、謹んでお受けしますと申したはず」
「いや、違う……違うんだ……。
っ、ローレル! 君も何か……!」
婚約破棄を宣言してから我に返ったライエンス子息だけれど、彼が途中で言葉を切ったのは、自分の無様さのせいだけではないだろう。
夜色の重圧——ドラゴネルの、黒きドラゴンの、気迫。
物理的な重力さえ感じるほどのそれに、周囲は揃って膝を突く——先刻はそれを咎めたトプセル嬢も、ただパーティーに出席してこの場に居合わせただけの無関係な者達も、すべて。
僕も気を抜くとバランスを崩しそうだ。
歯を食い縛り踏ん張っていれば、その竜気の発生源が静かに口を開いた。
「……クレア・メイリオン侯爵令嬢」
「っ……!!」
強気に婚約者を追い込んでいたクレア嬢は、今では僕の足元にへたり込み、呼吸するのもやっとの様子で、返事も出来ないほどだけれど。
「やってくれたね」
ガチギレドラゴネル降臨である。
そも、学院のパーティー会場と言う公の場で婚約破棄を言い渡すことが、非常識。
それを同じくパーティー会場に留まったまま返り討ちにしようとしたことも、同罪である。
「母の時は伯父が会場を氷漬けにして、物理的に使えなくしたそうだけどね。いっそそれくらいやらなければ、君達は止められなかったのかな。何にしても穏便に片付けられなかったのは、私の不徳の致すところだけど」
次期《黒竜公》を「何か地位と魔力が高いデブ」としか見ていなかった彼等ゆえに。
元々ロージィ兄さまはおとなしい性格をしている。魔術や武術では他の追随を許さないが、如何せん日常では穏やかに謙虚に過ごしているだけに、ナメてかかる輩も出て来るわけだ。
先程僅かに漏らした竜気だけで「こいつヤベぇ」と認識を改め、兄さまの場所移動の提言を聞いていれば、こんなことにはならなかっただろうに。
冷たく見下ろして微笑む兄さまは、当代ドラゴネル公爵によく似ている。顔のパーツは肉に埋もれているけれど、母君が纏う凄絶な色香の片鱗らしきものを、竜気の中に含ませて。
次期《黒竜公》が竜気を仕舞い込んで、ようやく皆が一息吐いたところで、発生源は僕へと手を伸ばした。
「君も他人事みたいな顔をするんじゃない」
「むぎぅ」
呆れ顔の兄さまに頬をつままれる。
どうして。
「あのね、ベンジャミン。君とメイリオン侯爵令嬢は従姉弟同士だから、身内枠ではあるとしても、安易にエスコートを引き受けるべきではなかったよ、この場合」
「ふぎぃ、で、でも、」
「学院所属の親戚なら、わざわざ君じゃなくていいだろうに。ペンドラゴンの名は君が思う以上に大きくて重いんだ。その君が軽率だから、考えなしの女狐が龍の威を借りてこんな真似を」
兄さまにしては珍しく辛辣である。それだけ腹に据えかねたのか。
「尤もドラゴネルの名でこの場を収められなかった私も、あまり言えたものじゃないけれど」
ようやく僕の頬から手を離した兄さまは、トプセル嬢に手を貸して立ち上がらせた。他の人間はしゃがみこんだままだが、構わず見回す。
竜気を収めたとは言え、見回す蒼眼は瞳孔が縦長のままだ。
そのドラゴンの眼とまず視線が合ったのは、例の伯爵令嬢——
「は、はわ……」
声を漏らした例の伯爵令嬢は、床を這って兄さまに近付いて行く。
あれ? 怯えているわけではないのかな。それとも命乞い?
「……素敵……しゅきぃ……♡」
『えっ』
見ればロージィ兄さまに向けたその顔は、どっからどう見ても恋に蕩けた乙女の表情で——
どういうことですか。
ふらつきながらも立ち上がった彼女は、薔薇色の微笑みで兄さまに迫り行く。一方のロージィ兄さまは顔を引き攣らせて一歩下がるが。
「ドラゴネル会長……♡♡♡」
『なんで————————????????』




