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後始末と帰還

 リンのやらかしのせいで、ユングの協力の元、今俺達は倒してしまった木の修復をやっている。と言っても俺は非力だし、風魔法しか使えないので見ていることしかできないが…。


 ユングが倒れた木を支え、リンが樹属性魔法で木を修復している。ガイアスが前言っていたように質量の大きいものほど魔力を使う様で、リンは汗水をだらだらと流しながら樹属性魔法で木を修復していた。


 最後の木の修復が終わる頃には、リンはお腹をぎゅるぎゅると鳴らしながら消耗しきっていた。魔力的にも体力的にも。


 木の修復が終わると、ユングからは「ソラ。しっかり見ていてもこの調子か?次からは後始末だけじゃ済まさないから肝に命じておけ」と言われて去ってしまった。


 リンが一緒にいるときに余所見をすると碌なことがない。自分の世界にあった道路飛び出しを抑える縄でも括り付けとくか?でも年頃の女の子にそんなことしたくないし、リンは樹属性魔法が使えるから植物性の縄なんて無いにも等しい…。


 地面に座っているリンを横目に見ながら、はぁと溜息をついていると、リンから珍しく弱々しい声が聞こえてきた。


「ソラ…。疲れて動けそうにないからおんぶしてくれない…?」


 確かにリンをよく見ると、足はがくがくしているし、顔面も蒼白だ。自業自得とは言え、全部の木を一気に修復させたのは負担が大きかったみたいだ。


「仕方ないからいいけど、俺の力でリンを担げないときはマシロを呼んでくるからな!それでいいか?」


 リンは小さく頷くだけで、それ以上は何も言わないし動かなかった。予想以上に心身ともに衰弱しているようだ。これは結構やばいかもしれない。そういえば作業中に水分補給もさせていなかった。


 俺はリンをおんぶできるか試すと、俺の力でもリンをおんぶすることが出来た!少しだけ優越感に浸りつつ、俺は酒場に向かって歩きながら移動する。流石に走れるほどの力は俺にはなかった。残念である。


 酒場に向かっている途中、リンはやたらと俺の背中に顔を埋めてくる。体の魔力が減っているので俺の体から魔素を呼吸で吸収しているみたいだ。犬吸いや猫吸いならぬ、精吸い、とでも言ったところか。まあ、それで少しでも魔力が回復するなら別に構わない。


 そういえば、リンに魔素を吸われて気づいたが、魔力が減るという感覚が最近は感じない。洗濯をしている時も魔力を使っているのに減っていることなんて気にもしなかった。俺、精霊として成長しているのかもしれない。


 リンには迷惑ばかりかけられているが、色々気づかされることもある。それを俺は伸びしろや成長と捉え、心に留めておきながら、酒場に向かって移動を続けた。


 酒場に着く頃には、日が暮れかかっていた。辺りはもう暗くなっている。酒場の入り口ではマシロが心配した顔をして待っていてくれていた。


「マシロ。リンが魔力の使い過ぎで衰弱しているみたいなんだ。後を頼めないか?」


 マシロは俺からリンを優しく抱きかかえると、酒場の奥へと向かっていく。それを見たミカが部屋までの扉を開けてくれる。すぐ部屋で寝かせてくれるだろう。


 ミカが戻ってくると、手招きされた。


「ソラ、こっちに来な。これをリンとマシロに持って行っておやり」


 俺はミカから夕食をおぼんごと受け取ると、酒場の奥へと向かっていった。扉が開いているので、どこの部屋にいるかすぐに分かった。


 部屋に入ると、リンは寝かされ、マシロからお水を飲まされてるところだった。俺は開いている台に夕食が乗っているおぼんを置く。


「ここに夕食を置いておくよ」


「うん。後は任せて、ソラは何かすることがあるんだったらそっちを優先してね」


 俺は開いている扉を閉めながら酒場へと戻ると、ミカが酒場を閉める準備をしていた。


「あんなに疲れたリンは初めて見たかもね~、いつも寝込むときは変なもの食べたときか変なとこいった後だったからね」


「確かに、最近だと雪で遊んできて寒さで寝込んでたな」


 二人して溜息を吐きながら、リンの行動に対して苦笑いする。


「それで、ソラはこれからどうするんだい?夜は暇なんだろう?」


 うーん、やれることがあるとしたら、マリンとノアに天然ガスを運ぶようにお願いするくらいか…。また一人行動になるけど大丈夫かな?


「一度エンデのとこに戻るくらいかな。一人で戻っても大丈夫だと思うか?」


「私が知っているし、帰り道にはトレントもいるんだろ?そのトレントを通じて話を通しておけば問題ないんじゃないかね~」


 確かに、ミカの言う通りかもしれない。俺はミカにお疲れの挨拶を済ませると、レントンの所へと向かった。


「やぁ、ソラ。こんな遅くにどうしたんだ?」


「あぁ、一度エンデの所に戻ろうと思ってね。レントン、遅くに悪いんだけど、これから一人で戻るって伝えておいてくれないか?」


「分かった。伝えておく。それと色々言われていると思うが、リンをもう少し抑えてくれないか?昔よりどんどん酷くなってきている気がするんだ…」


 うん、その原因の殆どは俺なんです。元居た世界の知識を使って色々作ったり試したりしているから…。心の中で色々な人に謝っておく。


「気を付けてはいるんだけど、リンと一緒にいると止めようとしたときにはもう遅い時が多いんだ。トレントの中でリンと一緒にいるエンデでも駄目なんだ。エンデに色々聞いてみると、多分誰が一緒にいてもやらかすって言われると思うよ」


 俺は逃げ道としてエンデの名前を出すことにした。エンデ、ごめん。名前使わせてもらうね。


 レントンとの会話が終わると、俺はエンデの所へ帰ることにした。


 空を飛んでエンデの所へ帰ってもよかったのだが、深夜の森を一人で行動したことがなかったので、今体験してみることにした。いつも誰かが一緒なことが多いからね。


 夜の森はシーンとして静かだった。時折、鳥や魔物の鳴き声が響いて来る。そして夜空の光が木の葉から零れて地面を照らしてくれる。昼とは違った光景で新鮮な気分だ。


 そんな気分を夢中になって満喫していると、気づいたらエンデの所に着いていた。体感時間がやけに短く感じられるひとときだった。


「やぁ、ソラ。こんな遅くに一人で帰ってくるとはなんかあったのか?リンがまたやらかしたと報告は受けたが…」


「あぁ、リンは後始末で魔力を使いすぎて衰弱して寝込んでる。マシロが付いてるから安心してくれ。今回はマリンとノアに頼みたいことがあって帰ってきたんだ。東にある沼地を知っているだろ?あそこに沸いているガスを運んでほしくてさ。俺だと浮いちゃって運べる量が限られちゃうんだよね」


「あぁ、あそこか…。ピナコはあそこで見つけたのだ。くれぐれも他の茸の妖精を見つけても連れて来てくれるなよ。数が増える分、隠すことが難しくなるからな」


「分かってる。どうにかしたいとは思ってるんだけど、今はいいアイデアが思いつかないんだ。状況を変えれる何かがあれば好転出来るんだろうけど、今はそれよりやることがあるからね。そっちを優先させるよ」


「分かればいい。ただそれをピナコには言うなよ。期待させて何か起こしたら守りきれなくなる…」


「分かったよ。エンデ」


 会話が終わるとエンデは寝てしまった。


 玄関に向かうと、玄関や窓がすべて開いていた。ピナコがせっせとお酒を量産しているのだろう。そういえばもうアルコール度数の高いお酒は必要なくなっていたのを思い出す。飛行船を造ってくれているお礼にドワーフ向けのお酒に作り替えてもらった方がいいのかもしれない。序でに頼んでおくか。


 玄関に入ると、ラピスとレイはノアの上に座って寛いでいる最中だった。一人で帰ってくるのは既に分かっていたらしく、驚いた様子はなかった。


「ソラ、お帰りなさい。災難だったみたいね。ご愁傷様。でも今まではあたしがいつもやってたんだからね!これであたしの気持ちが少しは分かった?」


「あぁ、ラピスの大変さが今まさに身に染みているよ。それよりもマリンはどこだ?マリンとノアに用があって帰ってきたんだけど…」


「マリンなら奥よ、奥。少し驚くだろうけど、気にしなくていいわ」


 ん?どういう意味だ?すると奥からんにゃ~んにゃ~と泣き声が聞こえる。みーにゃが鳴いているみたいだ。


 みーにゃを確認してみると、マリンが手を触手に変化させて猫じゃらしの様に操っていた。それに向かってみーにゃが二匹飛びついたりじゃれついたりしている。


 目をゴシゴシしてもう一度確認してみる。みーにゃが二匹いる。え、一匹増えてる!


「お酒作る様になってから扉や窓開けっ放しにしてるでしょ?そしたらみーにゃが連れてきちゃったのよ。どうせリンに見つかればどうなるか分かるでしょ?あたし達は受け入れるしかないの」


 外に出るようになったみーにゃが同族を連れてきてしまったらしい。性別は分からないけど、番だからみーにゃとは性別は違うと思う。


「確かに、リンが何を言い出すか想像できるな。そうそう、アルコールの強いお酒は必要なくなったから玄関や窓は開けなくて良くなると思うよ。直ぐには無理かもしれないけど」


「そう。分かったわ。どうせリンとマシロがいないんだから明日にでも閉めとくわね」


 ノアの座り心地がいいのか、ラピスとレイは一向に動こうとしない。レイから返事がないと思ったらすやすやと寝ていた。二人ともいいご身分である。


 そんな二人を横目にみつつ、地下室へと向かった。


 案の定、地下室には大量の樽が置いてあり、ピナコの姿がなかった。もう奥にあるベッド無くしてもいいんじゃないだろうか?

 俺は樽を一つずつ叩いて、音の軽い樽を探し出す。この樽、魔力探知でも中身があるかわからないからこうするしかないのだ。

 俺は音の軽い樽を見つけると、そーっと蓋を開けてあげる。そこにはすやすやと寝ているピナコがいた。予想通りである

 俺は頭を優しく撫でてピナコを起こす。俺を見たピナコがびくっとした後、辺りを見回し始めた。


「あれ、ソラだけ?リンは一緒じゃないの?」


「あぁ、今回は俺だけだ。ピナコ。悪いんだけど、アルコールの強いお酒は必要なくなったんだ。それでそのお酒を薄めて有る程度美味しいお酒に作り替えることって出来ないかな?」


「時間があれば出来るけど、数日じゃ出来ないと思うよ。それでもいいの?」


 飛行船の試運転もしたいし、日数的にはまだまだ余裕があると思う。


「十日以内に出来れば大丈夫だ。お願いできるかな?」


「分かった。それまでに作り替えておくね。おやすみなさい。ソラ」


 会話が終わると、ピナコは寝てしまった。俺は樽の蓋を閉めて、一階へと戻る。


 一階に戻ると、マリンとノアが待っていてくれた。ピナコとレイはマシロのベッドへ移動させられ、代わりにみーにゃ二匹を枕代わりにしていた。羨ましい限りである。


「パパー、用事って何~」


「ここから少し東に行った所に沼地があるんだけど、そこから湧き出ているガスをドワーフの村の側にある滑走路まで運んできてほしんだ。気球っていうのを膨らませるのに必要なんだけどお願いできるかな?」


「分かった~、お手伝いする~」


 これでマリンとノアに協力してもらうことが出来る。そういえばマリンとノアも精霊で生身ではない。あの幻想的な光景を見せてあげてもいいかもしれない。


 俺はマリンとノアを連れ、沼地へ向かうことにした。――あの幻想を、もう一度見るために。

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