頼み事
周りがドンドン静かになっていく中、俺は一人で考え事をしていると、ふと馴染みのある気配を感じた。その気配の方に視線を向けると、フェリーゼがこちらに飛んでくるところだった。
「少し来るのが遅かったみたいですね。やはりあなたが人間達を撃退していましたか」
分かりきったような口調で話しかけてくる。無性に腹が立つが、人間達に比べればいくらかマシだった。少しカマをかけてみるか。
「遅れてきたではなく、遠くで高みの見物でもしていたんだろう? なぜだか知らないけど、分かるんだよ。あんたの眷属になっているせいかもな」
「えぇ、遠くから一部始終を見させていただきました。それであなたに折り入って頼みというか…、命令します。攻めてきた人間達の兵器は危険です。あれを破壊するために、人間達の住む街を徹底的に破壊してきなさい!」
「断る!」キリッと返事をすると、フェリーゼがキョトンとした表情で暫く沈黙した…。
「あなたは私の眷属となっているのですよね? なぜ断れるのですか?」
「眷属だからってなぜ、フェリーゼの命令を聞かなきゃならないんだ。俺は俺の意思で行動する。あんたに助けられた恩はあるが、それでも命令なんて到底受け入れられないね」
「違います」とフェリーゼは首を左右に振る。フェリーゼが精霊の眷属について説明してくれた。どうやら眷属になると上下関係ができ、上位の存在からの命令に逆らえなくなるらしい。そのため、俺はフェリーゼから敵対しない限り、放置プレイをされていたみたいだ。なぜか命令が受け付けない体になっていて、安堵していたが、何れは命令を聞かなきゃいけなくなる場合もあるかと思うとぞっとする。
「命令できないとなると、あなたの存在は看過できませんね。今後どういう扱いにしましょうか…。」
フェリーゼが考え込んでいるところを、「フェリーゼ様、どうかお待ちを」とトレント達が仲裁をしてくれる。
「ソラはワシやドワーフ達を守るために、頑張ってくれました。命令せずとも、人間達を無力化するアイディアを考え、実行してくれると思います。敵対的な行動は何卒お控えください…」
フェリーゼがトレント達を見定めた後、俺に視線を向ける。
「ソラ。あなたはいい仲間を持ったようですね。いいでしょう。あなたに少し時間を与えます。一月以内に人間達が持つ兵器を破壊、若しくは無力化して下さい。あなたなら出来るでしょう? この森に住む者達のためにも…ね。では一月後にまたお会いしましょう」
そういうとフェリーゼは飛び去って行った。トレント達は大精霊が来たせいですっかり酔いが覚めてしまったみたいだ。次々と起き上がって、俺に懇願してきた。
「ソラ。ワシ達からも頼む。人間達がもう攻めてこない様にしてほしい。この通りだ」
トレント達が頭を次々と下げてお願いしてくる。こんなことされたら断れないじゃないか。俺は頭を掻いてどうしようか悩んでいると、ザッザッと足音が聞こえてきた。足音がする方に視線を向けると、そこにはガイアスが立っていた。
「ガッハッハッハ。ソラ、お主フェリーゼの眷属なのに凄いじゃないか。命令を無視できるなんて、そんな話今まで聞いたことないぞ。お主はやはり普通の精霊とは違うのかも知れぬな」
恐らく遠回しに、前世が人間だったことを指摘しているのだろう。リンが暴露したときに一緒にいたトレントが広めていなければ、トレントのほとんどは俺が人間だったことを知らないからだ。
「それより、ドワーフの村の長として、ワシからもお主にお願いがある。お主が人間達の兵器を破壊してくれるというなら、ワシ達はお主に全面的に協力する。どうだ、お願いできるか?」
フェリーゼにトレント、そしてドワーフ達からもお願いされるとは、嫌なモテ気が来たものである。可愛い女性限定で来て欲しい。
「一月時間を貰ったからな、少し考えさせてくれ。もし人間達のところに攻めるなら作りたいものがあるから、その時には協力してほしい」
「ガッハッハッハ。いい返事を待つとしよう。さてと、ジョッキが空になってしまったわい。酒を飲みながら待たせてもらおうか」
ガイアスはジョッキを片手に笑いながら、酒場の方へ戻っていく。もうこれは決定事項な流れだが、リンやマシロ達とも話し合ってみたい。俺はリンやマシロが起きてくるまで、人間達を攻めるにはどうしたらいいか、ひたすら一人で考えることにした。
夜が明けて、段々と周りが明るくなってきた。俺はトレント達に別れの挨拶をした後、酒場に向かって歩き始めた。酒場に着くと、酔いつぶれているドワーフ達がそこら中に溢れていた。元気なのはカウンターでお酒を飲んでいるミカだけだった。
「おはよう、ミカ。朝まで飲んだくれの皆に付き合ってたのに元気そうだな。それよりも一人で飲んでいるのか? よく酔わないな」
「やぁ、ソラ。あたしはお酒に飲まれたことはないんだ。だから最後まであたしがこいつらの相手をしてあげてるのさ」
ミカはそういいながら手酌で酒を飲み続けている。どうやらかなりのうわばみらしい。俺は辺りを見回しながら、「リンとマシロは奥で寝てるのか?」と尋ねると、「あぁ、そうだよ。リンはともかく、マシロはもうそろそろで降りてくるんじゃないかな。あたしの手伝いをするって張り切ってたからね」と奥の扉に視線を向けていると、扉がガチャッと開いてマシロが出てきた。
「ソラ、ミカおばさん。おはようございます。何の話をしていたの?」
「噂をすれば…だね。丁度ソラがマシロちゃん達がどうしているのか聞きにきていたところさ。昨日は色々あったからね。ゆっくり話したいこともあるだろうさ」
ミカが眠たそうに欠伸をしだした。酔いには強くても眠気はそこまで強くないみたいだ。それを見たマシロが助け舟を買って出る。
「ミカおばさん、私が代わるから、寝てきたら? ソラ。もう少し落ち着いたときに皆と話をしましょ。リンお姉ちゃんもそろそろ起きると思うから起こしてもらえる?」
「有難う、じゃ、あとは頼んだよ」と手に持ってるお酒を飲み干すと、奥の扉に入っていってしまった。「ソラ、リンお姉ちゃんの部屋は一番奥の右の部屋よ」とマシロは酔いつぶれたドワーフを介抱しながら教えてくれる。それを羨ましいと思いながらも、奥の扉を開ける。長い廊下に左右に扉が5つずつある。一番手前はトイレみたいだ。看板が掛けてある。俺は一番奥の右側の扉まで移動すると、トントンと2回ノックをすると、中から「だ~れ~」と声が響いてきた。リンはもう起きているみたいだ。「ソラだ、あけてもいいか?」と聞くと、「いいわよ」と返事が返ってきたので扉を開ける。
そこには全裸で寝ぼけ眼でベッドから起き上がったリンがいた。俺は咄嗟に扉を閉め、「なんで全裸なんだ! 服はどうした?」と聞くと、「あー、暑くて脱いでたの忘れてたわ! ごめんごめん。」と何も気にしていない様子で答えてくれる。俺の体に心臓があったらバクンバクンと破裂するかと思うくらいドキドキしたと思う。リンの裸が脳裏から離れない。どうしてくれるんだリンと内心思っていると、扉が開いて、リンが出てきた。
「ソラ。何してるの? 起こしに来てくれたんでしょ。さぁ、いくわよ」
俺の気持ちを知らず、リンは俺の手を引っ張ってマシロのところまで連れてってくれる。
「マシロ、おっはよ~。何か食べるものな~い? お腹すいちゃった~」
「おはよう、リンお姉ちゃん。ソラも有難う。そこに軽食を用意してあるからそれで我慢してね。片付けが大変だからそれくらいしか出来なかったの」
酔いつぶれていたドワーフ達が綺麗に椅子に座り、上半身はテーブルにうつ伏せになって寝かせられていた。テーブルにあったお皿やジョッキも粗方片付けられている。マシロの家事スキルが高すぎる。そう感心していると、リンは既に軽食を食べ終えていた。
「ん~、おいしい~。これマヨネーズが使ってあるわね。卵が違うのかな? 少し味が違う気がする」
指までなめて、そんな光景を見たらさっきのリンの全裸シーンがまた復活しちゃうじゃないか! 俺のドキドキをどうしてくれるんだ。そうとは知らないリンは周りをキョロキョロ見回した後、「ガイアスがいないわね、私、ちょっと探してくる~」といって酒場を飛び出して行ってしまった。
「リンは落ち着きがないな。動かないと死んでしまうんじゃないか?」
「ふふふ、確かに、暇なときは良く死にそうな顔をしていたね。リンお姉ちゃんがじっとしているときは体調が悪い時だけだからね」
クスクスと笑いながら片付ける手を止めないマシロはマジ天使だと心の中で強く思った。床をよく見て見ると、食べかすがそこら中に落ちていた。俺も片づけを手伝おうと、手を掃除機の様に変形させ、掃除機の要領で床を掃除する。イメージはサイクロン掃除機だ。遠心力の力でゴミがドンドン吸い込まれていく。それを見たマシロが「何それ? 床が凄く綺麗になっていってる! それも前世の知識なの?」と驚きを隠せない様子だった。
俺は胸を張って「そうだよ。すごいだろ。こんなのがあっちではゴロゴロあったんだよ」と話すと、マシロが目をキラキラ輝かせて称賛してくれた。まあ、作ったのは俺じゃないんだけどね。吸ったゴミはゴミ箱に捨てていく。するとすぐにゴミ箱は一杯になった。掃除機は素晴らしい! 掃除機作った人有難うと心の中で感謝しておく。
遠くの方から「うぉおおおおおおおおお」とリンとガイアスの雄たけびが聞こえてきた。そして徐々にだが近付いてくる。酒場を出て何事かと思っていると、リンが「いっちば~ん」と言いながら手に大量の布を抱きかかえて戻ってきた。ガイアスも大量の布を抱えながら遅れて戻ってくる。
「二人して何やってるんだ、こんな時に。リンはガイアスを探しに行くんじゃなかったのか?」
「そうだったんだけど、人間達が今どうしているのか気になって二人で偵察にいっていたの。そしたらもぬけの殻だったわ。テントもほったらかしで勿体無いから拝借してきたの! 二つはもらう予定なの。良いでしょ~」
胸を張りながら偵察を自慢してくるリンの頭にチョップを入れる。
「二人してなにやってるんだ。 他に知っている人はいるのか? 何かあったらどうするつもりだったんだ」
「ソラ。出かける前にトレント達には伝えていったし、ワシも一緒だから大丈夫だと思ったんだ。心配させて悪いな」
溜息を吐くと、酒場からマシロが出てきた。
「ソラ。今に始まったことじゃないでしょ。それより、片付けも終わったし、リンお姉ちゃんも帰ってきたことだし、何か話があるんでしょ? ガイアスおじさんの家でも貸してもらってそこで話をしましょ」
俺はマシロの提案に乗り、ガイアスの家にお邪魔することにした。ガイアスが先導して家まで連れてってくれる。ガイアスの家は二階建ての竪穴式住居みたいな家だった。周りの家よりも一回りも大きく、二階と言ってもロフトみたいな作りだった。中に入ると大きなテーブルに椅子がたくさん並んでいた。ここで村の大事な話をしたり、ついでに酒を飲んだりしているらしい。空いている椅子にそれぞれが座り、俺は今後の予定を話し合うことにした。
フェリーゼに命令されるが、効かないソラ。精神攻撃に耐性があるみたいです。




