ドレッシング作成
リンに捕まってしまった。頼れるマシロとラピスはドレッシングの材料を探しに行ってしまったし、どうしたものか。仕方がない。分かる範囲で教えるしかないか。
俺は、元居た世界では魔素がなく、魔法がないこと。そのため、雷属性みたいな電気をエネルギーとして、色々な機械を動かせたこと。この森の樹々を遥かに上回る高さの建造物がたくさんあること。リンの全速力より遥かに速い乗り物。そして空飛ぶ飛行機などがあることを話した。
「そっちの世界では想像も出来ないようなものがいっぱいあるのね! いつか行ってみたいわ~。それでこっちで作れそうなものとかありそう?」
期待の眼差しを向けられても、無理なものは無理だ。なんせあることは知っていても構造を知らないんだ。作れるわけがない。風魔法か樹魔法を上手く使えたらプロペラの飛行機は作れるかもしれないが、出来ると知ったら作らされるに違いない。
「ごめん。あることは知ってるんだけど、構造は知らないんだ。だから、作ってって言われても作れないんだよ」
「そうなんだ。残念」
リンは肩をがっくり落として落ち込んでいる。みーにゃはそれを見かねて頬をペロペロと舐めて慰めている。みーにゃ可愛い…。そういえば、ラピスは俺の思考を読めるはずだ。木製の飛行機や車の玩具なら作って上げれるかもしれない。
「しょうがないな。ラピスに頼んで、木製の玩具なら作ってあげるよ。どんな形をしているかは分かると思うよ」
「本当! ソラ、大好き~♪」
リンの機嫌が戻ったみたいだ。でもそれを見たみーにゃには睨まれてしまった。余計なことをした。ますます、みーにゃに嫌われそうだ。もふもふしたいのに…。俺は溜息をついて窓を見てみると、外が薄暗くなってきている。色々と話をしてたらもうそんな時間なのか。そう思っていると、マシロとラピスが丁度帰ってきた。
「うふふん、油がいっぱい取れそうな種と実を見つけてきたわ。マシロはたくさんの香草や果物を取ってきたわね」
「ラピスこそ、あまり持てないのに良くそんなに見つけてきたね。今日の夕食は期待してていいわよ!」
マシロとラピスの顔が少し火照っている気がする。かなり興奮しているみたいだ。二人ともここまで料理に関心があるなんて意外だ。リンは椅子に座りながら足を交互に前後させている。どうやら、リンは料理を見守るだけで参加する気はないみたいだ。なんでも関心があると思っていたが、料理に関しては無関心なんだな。意外。
「ねぇ、ソラ。どうやったら種と実から油が取りやすいの? 棒で潰せばいいの?」
「棒で潰してでも取れると思うけど、『万力』とかで押しつぶした方がいいかもしれないな。ラピス、俺の思考を読み取って、樹魔法で作ってみてくれない?」
俺は学校の技術室にあった万力を思い浮かべた。ラピスは俺の体に触れて思考を読み取り、木材を樹魔法で加工して万力を作ってくれた。
「万力の下に油を取る器を置いて、この歯みたいな所に種や実を挟んで、この棒に体重をかけて回すと押しつぶせるはず。やってみて」
「それ私がやりたい! やらせてやらせて!」
料理には関心がないのにこういうのは食いついてくるのね。それを見たマシロはキッチンでサラダの準備を始めた。すぐ試してみたいらしい。
リンは体重をかけながら万力の棒を回し始めた。すると、種が押しつぶされて油が出てきた。固定してない万力で不安はあったが、種や実を潰すくらいなら大丈夫だったみたいだ。
「これに香草や果汁を加えて混ぜてみて。組み合わせ次第ではかなりの種類が作れるはずだよ」
まずは一種類が完成した。マシロの方もサラダのセッティングが終わったみたいだ。ドレッシングをかけたくてうずうずしている。だが、リンがそれを許さなかった。リンがサラダにドレッシングをかけていく。
「完成! 早く食べてみよ!」
リンとマシロがサラダを突いて食べ始めると、二人とも耳がピーンと上に上がった。どうやら美味しいみたいだ。そのままシャクシャクと食べ続けている。
「美味しい!! 野菜がこんなに美味しいなんて初めてかも! マヨネーズもかけたらどうなるんだろ!」
「うん。美味しいね! 料理を作る楽しみが増えてるから嬉しい~」
珍しくラピスもサラダを食べている。両手いっぱいの葉野菜をシャリシャリと食べていく。
「うわ! ほんとに美味しい! 今度から水だけじゃなくて野菜も食べようかしら? いやドレッシングを飲むのもありね!」
ドレッシング直飲みはどうかと…。でも花の妖精だから問題なさそうか。
「ねぇねぇ、ソラ! これにマヨネーズ? も付けたら美味しくなる?」
「マヨネーズの出来にもよると思うけど、もっと美味しくなると思うよ」
「やった! 明日は鳥の卵を見つけに、森を探索するわよ! 早くマヨネーズ食べてみたいもの!」
リンの鼻息が荒くなっていく。どうやら料理の問題は元居た世界にかかわらず、どの世界でも共通の課題みたいだ。みーにゃもゴロゴロ喉を鳴らしながらモクモクと食べている。
ふと気づいた。そういえば、リンとマシロは体をどう洗っているのだろうか?
「リン、マシロ。体や服ってどうやって洗ってるの?」
「え? ただの水で洗ってるだけよ? 他に何かあるの?」
どうやら、石鹸や洗剤の概念がないみたいだ。まあ、確かに、白い服が所々黄ばんでるし、気にはなってたんだよね。たしか、植物性の油と細かい粉末状の粉があれば簡単な洗剤が出来た気がする。
「植物性の油には食べるだけじゃなくて、洗い物にも使えたとも思ってね。ちょっと試してみようか」
押しつぶしてカラカラになった種を磨り潰し、粉末状にしていく。そして余った油に入れていく。どれくらい入れればいいのか分からないから、まずは試しに一つまみの量の粉末を入れていく。これで試してみよう。
「マシロ。これで服だったり、食器の気になる汚れを洗ってみて。上手くいけばいいんだけど」
「うん、分かった。食器で試してみるね」
マシロがキッチンへ行き、洗剤で試し洗いを行っていると、マシロの耳がピクピクと上下に動き出した。
「ソラ、凄いよ! 汚れがどんどん落ちてってる。 こんな使い方もあるのね!」
「それで髪や体洗うとスッキリすると思うよ。ラピスが持ってきた量だと厳しいと思うけどね」
「じゃあ、明日は、リンが卵の調達。あたしとマシロが油の調達ね!」
明日やることが決まったっと思っていると、床がガタガタっと鳴り出した。どうやらピナコが上に上がってきたみたいだ。きっとうるさくて気になって上がってきたに違いない。それともあれかな? 混ざりたい感じかな?
「あ、ピナコには果物でお酢が作れないかお願いしてみましょ! ピナコ、お願いできる?」
「ふへぇ~、わかった~。やってみるよ…」
寝る前にリンが卵を、マシロとラピスが油を、ピナコがお酢を造る準備に邁進していく。俺はそれを眺め、明日はもっと忙しく、そして楽しくなりそうだという思いに耽っていた。
ドレッシングで料理のぷち革命が起きました。




