真相
――状況を、整理しよう。
綾は、フリッツ達と、ターゴ達から聞かされた、怒涛のような情報の津波を、何とか頭の中で整理して、一つ一つ言葉として紡ごうと、努力した。
「まず、貴方がフリッツ王子。フラグレア王国の王太子ご本人」
「ああ。その通りだ……」
フリッツ王子だとアルトエレガンに紹介された少年が、鷹揚に肯いた。そして、若干言葉を詰まらせた綾を見流さず、詰め寄るように言葉を浴びせてくる。
「王子様っぽくないって思ってるんだろ? なあ、思ってるんだろ??」
「ええっと……」
「こらこら。絡むな絡むな。フリッツ」
「悪かったなー! 王子様っぽいビジュアルしてなくて悪かったなコンチクショー! こちとら、先祖代々モブ顔の母方似だよ!
どいつもこいつも、人の顔を見るなりがっかりしやがって! コンチクショーめ!」
アルトエレガンに諫められるも、何だかやさぐれた風にへそを曲げてしまった。
コンプレックスらしい。色々と。
「で、次にあなたが……」
「どうも、初めまして」
同行していた幼女が、優雅に一礼して、
「私が、ユカ・リュウゾウイン……公爵家の子女であり、王子の本当の許嫁です。
金髪でもドリルでもありませんが、公爵令嬢です」
「リュウゾウイン家……! 聞いたことがあるわ!」
幼女が名乗った家名に、アイが反応した。
「確か、フラグレア王家開闢以来の名門で、初代は異世界から召喚された勇者だったとか……!」
「ええ、そのリュウゾウイン家です。
飛び級で、魔術学院に入学させていただいています」
ふふん、と殊更におのれの家門を誇って見せるユカ。なんというか、子供が背伸びしているようで、庇護欲というか……頭をなでてあげたくなる、そんな欲をそそられる姿であった。
ふと、ディンブルゲンにいるイザベルの事を思い出してしまう綾であった。
というか、この子と許嫁、という事は……
「…………」
「……み、見るなぁぁぁぁっ! 俺をそんな目で見るなぁっ!
親が勝手に決めたんであって、俺の性癖ではなぁい!」
「あらやだ王子ったら……二人きりで過ごした熱い夜を、忘れてしまったのですか?」
「それ、お前が夜、『眠れないからご本読んで』って、せがんできただけだよね!? 確かにやたらと熱い内容の漫画だったけれども!」
……綾はこの二人に、貴族政治の闇を見た気分になった。
まあ、本人達が割とノリノリっぽいのが救いだろう……悲鳴を上げるフリッツは無視して、無理やり、そう考える事にする。
「……それで、貴方が……」
「アレックス・フレロー」
スキンヘッドの男が、妙な迫力を隠そうともせずに、応えた。
「現騎士団長の長男で、間違いない。
階級は子爵」
「……公爵じゃあ、ないんですね」
「現場からの叩き上げだからな、私の父は」
「その恰好、ひょっとして、超人志願者だったりします?」
「よく間違えられるが、貴女のように乙種超人を目指してはいないよ」
綾の超人志願は、こちらにも正しく伝わっているようだった。アレックスは綾の仮定に否と答えた。
「戦闘能力として超人を目指しているのは事実だが、超人組合に所属するつもりはない。
莫大な金銭的待遇や、各種の特権は魅力的だが、参政権を失うのは貴族として致命的だからね」
「戦闘能力だけを高めて、超人組合に所属しない、なんて出来るんですか?」
「出来るよん」
視線を向けられて、アルトエレガンが答えた。
「ただし、その戦闘能力が原因で起こる諸々のトラブルに関しては、全部自己責任でおっかぶる事になる。戦闘の余波で損なわれた諸々の保証とか、政治的な横やりからのガードとか、住む場所の確保とか……その辺り、超人組合はしっかりしてるからね」
「それらのデメリットを秤にかけて、超人組合に所属するかは個人の自由意志だ。
在野の人材の中にも、その辺りを考えて組合に所属してない、超人クラスの戦闘能力者は多数いる。
お前の知ってる範囲だと、タオローの爺さんなんかがそうだ」
タオローの名前を闘から出されて、そうなのかと綾は納得した。
「ああ、私がこのスタイルを貫いているのは、タオロー老師のように一種の高みへ上るための準備なのだよ……だというのに」
何かを思い出したかのように、アレックスの眉間の皺が深くなっていく。
「周囲の連中は、やれ見栄えが悪いだの、やれ騎士団長の息子なのにもやしだのと……私が、このスタイルを保つのにどれだけ努力しているか、知りもしないで言いたい放題……!
最低限の水と塩だけで過ごす苦しみが貴様等にわかるのか……!?」
「ま、まあまあ、落ち着けアレックス……! 俺は、頼りにしてるから。な?」
「もったいないお言葉です、王子……!」
王子にたしなめられ、思い出していた怒りを鎮めるアレックス。そして、話題は四人組の最後の一人に向かうのだが……綾の視線がそちらに向かうのを見たフリッツが、頭を押さえてこう言った。
「……エルネスト」
「はい……! 何でしょうか!? 王子!」
「とりあえず、お前は一旦、筋トレやめろ!」
「えー!?」
逆立ち腕立てをしていた筋肉モリモリマッチョマンに、フリッツからストップがかかった。マッチョマンは、その指示にいたく不満げであった。
「せめて、せめてぶら下がり運動をしながらでも……!」
「やめろつってんだろうがこの筋肉馬鹿!!」
「ええっと……」
目の前で行われる漫才に戸惑いつつ、綾は当事者の名を呼んだ。
「エルネスト・シュターデンさん」
「はい! なんでしょう、お嬢さん……!」
「……魔術学院院長の、お孫さんで、家門は公爵」
「その通りですが! 礼儀作用などは不要! 私はまだまだ、半人前です故に!」
なおも逆立ち腕立て伏せを繰り返しながら、エルネストは無駄にさわやかな笑みで言い放った……気圧されてしまったのは、迫力とかではなくリアルで感じる汗臭さ故にである。
「……いろいろ聞きたい事はありますが、何で筋トレ……?」
「健全な肉体に! 健全な魔力は宿る! と、昔から申します!」
綾が感じた疑問による単純な質問に対し、エルネストは逆立ち腕立て伏せをしながら、リズムに乗って答える。
「故に! 私は! シュターデン公爵家の! 跡継ぎとして! 日々弛まぬ! 鍛錬を!」
「……で、本音は?」
王太子からの問いかけに、臆する事も恥ずかしがる事もなく、勢いのままにエルネストは答えた。腕立て伏せはつづけたまんまで。
「筋肉って! いいよね!」
「とまあ、こういう馬鹿だから、聞き出せることはなんもないよ」
王子はエルネストの扱いになれているのか、チベットスナギツネのような悟った目をして綾に先を促した。
「……で、貴方が、ターゴ・サックさん……」
そして、綾にとって本題ともいえる人物にたどりつく。
ターゴ・サック。フラグレア魔術学院において、王太子の名を騙り、周囲を巻き込んだ三文芝居を繰り広げていた、男の正体は……
「……オラ、お貴族様でもなんでねえべ! 単なる田舎者の学生だべ! ただのターゴ・サックだぁ!」
特に何かを問うまでもなく、声を大にして自己紹介をしてくれた、
整った容貌をそのままに、口調だけが彼自身の素……自己紹介を信じるなら、フラグレア王国の片田舎出身お上りさんのモノになっていた。訛の強い口調は、その美貌から繰り出されると、破壊力抜群だった。
目幅の涙を流し、鼻水を垂らすその姿に、魔術学院で見せたカリスマ性は欠片たりとも感じられない。
「学院には、魔術つこうた農業学ぶために来ただけなのに、なしてこんな目に……!」
「ほらほら、ターゴさん。泣かないでください」
そして、その傍らに立ち、ターゴの頭をポンポンと叩いてなだめているのが……
「そして、貴方がカミーユ・アルターさん……ご当人、と」
「はい……そうです」
黒髪黒目の、何処にでもいる純朴な少女。
本人の自己申請を信じるのならば、ターゴと同じく田舎から、貴族の紹介をもってやってきた当人で間違いないという。
そして、綾が魔術学院内で、それぞれの役回りだと説明された人々は……
「ちょっと待ってください。情報量が多すぎて、頭の処理が追い付かなくて……」
「まあ、無理もない。我々も、事態を把握するのだいぶん手間取った」
頭を抑える綾に、アレックスは一定の理解を示した。綾はお言葉に甘えて、与えられた情報の整理を続ける。
「アンディ・ボルガードさんと、ロイヤル・サンバイザーさん、エリス・マーキュリーさんは……」
「それぞれ、家門は子爵、男爵、伯爵だな。マーキュリー家も実態はお情けで爵位が残ってるだけの貧乏貴族だ。
今現在彼らが名乗っている身分も爵位も、全てが偽物だ」
綾が最も衝撃を受けた事……綾が今日面識をえて顔と名前が一致する貴族達の大半が……シャレにならないレベルの身分詐称を行っていた、という事だった。
しかも、周囲箸の身分詐称に気づかないどころか、率先して受け入れている。これは、どう考えても……
「広域に催眠魔術を用いたなりすまし……! 事実なら、処刑ものの大不敬罪よ……!」
アイが、冷や汗を流しながらその視線をターゴに向けた。順当に考えれば、目の前にいる、ターゴ・サックを含めた人間の犯行と、とらえるべきなのだが。
「……うう、カミーユさん……おら、オラ……!」
「よしよし」
人目をはばからずカミーユに泣きつくターゴの姿から、そんな大それたことを思いつくような悪辣さは感じられない……いや、そもそも、王太子を演じ続けるのなら、わざわざ本物の元まで出向いてこんな醜態をさらすこと自体が不合理であった。
「……疑問が多すぎて、何から言えばいいのか、わかんないんですけど……」
「だろうね」
「……問題に、ならないんですか……?
そんな事したら、いくら催眠魔術が完璧でも、校外から見たらモロバレなんじゃあ……」
綾は、ゴルディアスの結び目のように絡まった疑問の中から、一つを取り出して投げかける。問いを受け取ったのは、この中で最も責任ある立場の、フリッツだ。
「問題に、なってないんだよ。困った事に。
王室でさえ、未だに魔術学院で起きてる事態に気づいてない……いや……おじさん。ひょっとして……王室に通報とか、しました?」
王族の一員とは思えないほど気安く、フリッツは魔王アルトエレガンに呼び掛けた。フラグレア王室とアルトエレガンの親密度は、聞いていた以上に強いらしい。
「ああ。内々に処理しようとしてたお前にゃ悪いが……俺の口から、事態の一通りは伝えといたぜ」
「ああ、いや、その点は、気にしないでください。
どの道、俺の手に負える範疇は超えてますから……ちなみに、気付いてました?」
「うんにゃ。俺に言われるまで、全然全く気付いてなかった!」
「ですよねー……しっかりしてくれよ、親父殿……!」
「まあ、そこは俺がヘッドロックかけて〆といた。趣味で作っといて管理できないとかどんだけだよ」
親し気な会話を続ける二人の横で、綾はかつて闘に言われたセリフを反芻していた。
『綾の身柄は、俺が守り切る。それは保証する。
だが、いま学園内で起こってる、妙なトラブル。
これに関しては、口出ししかできん。その事を、よく覚えておけ』
あれは、これの事だったのか。
闘とアルトエレガンは、魔術学院についた時から、魔術学院で起きた異変に気が付き、手を打って動いていたのだ……! アルトエレガンが王室へと顔を出したのは、なにも綾の用件だけではない。この異変を王室への通報する事が目的だったのだ。そして、残った闘は、綾達の身柄を異変から守るために、常時気を張り巡らせていたのである!
ならば、口出し『しか』できない、というのは、いったいどういう意味なのか……?
次から次へと湧き出る疑問を言葉にできず、視線だけを闘に投げる。視線の先では、闘が見覚えのある書物を……
「え?」
それは、綾が肌身離さず所持していたはずの、『入門! オープンワールドの常識非常識!』のテキストであった。いつの間にか、荷物の中から抜き取っていたらしいそれに、闘はこれまた綾の文房具から失敬した付箋を貼りつけながら、さらに言葉を重ねた。
「もう一度言うが、これに関して俺達は口出ししかできん。
出来たとしても――これが、精いっぱいだ」
いくつかの付箋が張り付けられたテキストを綾の胸に押し付けて、一方的に宣言した。
「後は、お前が自分で考えろ。材料はすでに揃ってる。
後は料理人の手並みしだいだ」
「まず、俺達が、王都で夜遊びから帰ってきたら、最初の事件が起きた」
より詳しい説明を求める綾達に、フリッツ王子は語りだした。
……そもそも、王族の夜遊びが倫理的にどうなのか、という疑問は、いったん棚上げすべきであった。
「王都で色々とみんなでワイワイ遊んで、いざ帰ろう! となった時に……妙な、壁に阻まれて王立魔術学院に入れなくなったんだ」
「壁……? 魔術の結界、とかじゃなくて」
「とんでもない。不真面目とはいえ、こちとら魔術学院で英才教育受けてるんだ。
魔力を用いた結界なら、一目でわかる。
あれは、魔術とか関係ないもので作られた、別の何かだ。原因も理由も、さっぱりわからない」
自慢にもならない事を大真面目に断言するフリッツ。他の面々に視線を向けると、彼等も口々に賛同した。
「王子と同意見です」
「流石に、専門教育を受けていればあれが結界でないことぐらいはわかる」
「感触としては、無色透明のガラス板が立ちはだかっている、そんな感じです。
アレックスの身体強化の攻撃や、私の魔術をもってしても、びくともしなかった。
これは何かが起こっている、と王室に通報しようとしたら……」
エルネストが、その逞しい腕でシャドーボクシングを繰り出しながら、結論を口にした。
「王城の方にも同じ壁が張り巡らされてて、立ち入りできなかったのです。見ていると、入れないのは私達だけで、他の方々は普通に通り抜けられました」
「これはおかしいって事で、かろうじて行けた憲兵隊事務所に滑り込んで、事態を説明したんだが……そこでまた、妙な事になってね」
エルネストの筋トレにはもはや突っ込まず、王子が眉をひそめて言葉をつないだ。
「結論から言うと、王室に通報しても梨の礫だった」
「梨の礫……受け付けてもらえなかった、という事ですか?」
「それ以前の問題だよ」
綾からの問いに、王子は深いため息と共に答えた。
「仮に、あの壁の内部を結界と呼称しよう。私が事情を話して、結界内部に連絡を取ってもらおうと、人を派遣したとする。
その人材は、誰であれ結界内に一歩踏み込むと……忘れるんだよ。すべてを」
「忘れ……?」
「私という王太子から、緊急事態の要件を受けて城に向かった事自体を、別の都合のいい要件にすり替えてしまって、通報自体が行われないんだ。
これは、誰を送り込んでも同じだった。憲兵隊の隊長から一般隊員まで片っ端から送り込んだが、みんなすべて忘れて、事務所についてから事態を思い出す始末だった」
「魔術を使った遠隔通信とかは……確か、アハトベルンってそういう技術が存在しましたよね?」
「ああ。地球系列世界の電話をモデルにしたものがある。それを使って通報を試みても、無駄だった。
いや、通常の会話自体は行えるんだ。だが、我々が陥った状況に話題が及ぶと、酷いノイズが走ってね……しかも、相手の方には、何気ない違和感のない別の話題に聞こえるみたいで、対話がすれ違ってしまうんだよ。
これはおかしい。非常事態だと頭を抱えて一晩たった頃に……彼が、憲兵隊に自首してきたんだ」
王子に視線で促され、ターゴ・サックは抱えていた頭を上げて、語りだした。
「あの晩……オラは、いつもの通りに予習を終えてから、寝て……起きてみたら……
周囲のみんなが、オラを王子様扱いしだして……もちろん、オラははっきり言っただ。オラ、王子様じゃね。みんな、ふざけるのはやめてけれって……けど……
言葉が、口にした端から、変なノイズに変わって……周囲のみんなは、ノイズ自体に気づかなくて……しかも、オラの言葉も、訛が消えて王子様みたいになって……!
悪い夢でも見てる気分だっただ……! 何か、おかしな力が働いてる。そう気づくのに、時間はかかんねがった」
泣きながら震えるターゴの事を綾は笑う気にはなれなかった。
貴族制度が敷かれたこの世界の住人にとって、不敬罪ものの事件に巻き込まれたともなれば、生きた心地がしなかっただろう。それが、平民ともなればなおさらだった。
「……もちろん、オラはすぐに自首しようしただ!
こんな、不敬罪やらかして、おっととおっかに迷惑かけらんねぇ、って。オラが処刑されるのはしかたねにしてもせめて、自首してみんなに刑が及ぶのを防ごう、って。
けど、体が言う事効かねえんだ……怖気づいた、とかじゃなくて、オラ自身が、学校のルールに縛られてて……」
「学校のルール……ですか?」
「んだ。校則に反する行動は、一切できね。抜け出そうとしても体が言う事きかね。
幸い、校則に反しない範囲だと行動はでけたから、自由時間になってからすぐさま、自首したんだ」
「そこで初めて、私達は結界内部で起きている事態に気が付いたわけだ」
即ち……締め出された四人の立場に、なり替わっている者達がおり……そのなり代わりに関して、高度な催眠による情報操作が行われている。しかも、極めて強制力の強い催眠であり、当事者ですら体の自由が効かない状態に陥っている……!
「話がややこしいのは……他ならぬ事態の中心人物である、ターゴ自信に思い当たる点が一切ない事だ。私達も最初こそ、ターゴが何かしらの悪意をもって、一連の事態に関わってるんじゃないかと、疑った。
だが、まあ、見てもらえればわかると思うが……」
王太子は、ターゴに視線を向けた。ターゴは、カミーユに縋りつく事でかろうじて精神の安定を保っているように見えた。
「自首してきたことといい、その後の取り調べで集めた状況証拠といい……この一件に関して、ターゴは純粋に被害者だ。
多分、他の面々も同じ事だろうが……『容姿性格が役柄らしいから』程度の理由で巻き込まれた、被害者の一人にすぎない」
「被害者……」
「ああ。この現象が、偶発的なものか、意図的なものか……魔術的な実験の事故によるものか、何者かの悪意によるものかは、いくらでも仮説が立てられる。
確実に言える事は……王立魔術学院そのものが、強力な催眠魔術の影響下にあり、まるで劇場のように、与えられた役割をこなしている。
これが、事件の全て、と言ってもいい……魔術の反応がない事から――」
「王子……そろそろ……!」
なおも説明を続けようとする王太子に、ユカが何かを促した。
「何……!? もう、か!?」
「ええ。もう、です」
「くそっ、せめて、カミーユの下りまで……! いや、そもそも情報交換さえできてないぞ!?」
「え? 何ですか?」
顔色を変える王太子たちに、目を白黒させる綾に、ターゴが代わりに答えた。
「さっきも言った通り、オラとカミーユさんは、校則に反する事ができね。
門限が近づくと、体が勝手に学院に帰ろうとして動き出すだ……今も、頭の中で、声が……そろそろ、限界ですだ」
「ああくそ、そういう事なら仕方がない……行っていいぞ。ターゴ。明日もまた、いつも通りにここで、な」
王太子は、頭を抱えつつ、ターゴに離席を許可した。ターゴは立ち上がりながら姿勢を正し、王太子に敬礼して見せた。
「説明は、オラが道すがらしときます。
ああ、一つだけ……タオロー老師は正気でしただ。王子の仮定は、あってたみたいです」
「そう、か……なら、動きようもあるな。ありがとう、ターゴ。
寺門さん達も、そろそろ……」
「あ……」
そうか、と綾達も立ち上がらざるをえなかった。
時計を見れば、帰路にかかる時間を考えれば門限ギリギリ、これ以上の長話は出来そうになかった。いや、緊急事態なのだから、多少は構わないかと思うのだが……
「すまない、寺門さん。話の続きは、ターゴにしてもらってくれ……その上で、現状の打破に協力してもらえると、私個人としては、ありがたい」
「え、けど……」
「校則違反をしてでも話を聞きたい、そう思ってもらえるのなら、ありがたいが……今の学院で、校則違反をしたらどんな現象が起こるか、我々には想像もつかないからね。
お勧めできない」
「う゛」
この世界の魔術の権威ともいえる場所を、何者かが不特定多数を完全な支配下にしているような状態で、校則違反をするというのは、確かに怖い。
相手が、謎のルールで校則の順守を強制してくるとなれば、なおさらだ。
「さらに言えば、イザークおじさんの紹介できておいて早々に校則違反とか、おじさんの顔を潰すことになるから、個人的にもお勧めしたくないなあ」
「そう、ですよね……それじゃあ、失礼しますね」
「ああ。我々に協力するか否かは、じっくり考えてくれ。
我々は、ここにいるから、また明日……返事を聞かせてほしい」
まだだいぶ残っているドラゴンテールに未練を感じながら、綾とアイ、闘は席を立った。三人の背中に続きながら、アルトエレガンがフリッツに声をかける。
「まあ、改めて言うまでもないと思うが……フリッツ、今お前が直面してる状況に、俺らは手出し出来ん。事が、超デリケートな問題だからな」
「ええ。理解しています。その上で、口出しだけはしてくれたことも」
「ああ。だがまあ……ヒントくらいは出せる」
「?」
「事件のあらましはもう大方終わってる。解決も、放っておけば出来るだろう。だが、後始末をどれだけきれいにできるか、は話が違ってくる。
頑張れよ。フリッツ」




