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その男はハゲだった  作者: 清河 桂太
エシャロットの森編
60/89

その流儀


 自らの側近であるスーツの男を、手振りで促してから、土方は歩み去っていく。

 その後ろ姿を見ながら、ジャリーは嘆息して、


「やるんじゃないかと思ったら、案の定ね……闘ちゃんも、いい加減殺気を収めなさいな。

 お婆ちゃんの顔を立てると思って、ね?」

「何故止めた」


 お婆ちゃん呼びの強要には反応せず、闘は短く問うた。


「円卓の秩序を守る為、円卓同士の争いを収めた――そう言ったら、貴方は軽蔑するかしら」

「…………」

「何があったかの大体の流れは、かき集めたから知ってるわ……運が悪かったわね」


 この世界に土方が来たこと、ウーンファースの襲撃。この二つは、全く意図しない偶然の筈だった。どちらか片方だけならば、闘とアルトエレガンのコンビで問題なく対処できただろう。

 ただ、その二つが重なってしまった。土方の妨害がなければ、ウーンファースの誘拐は成功しなかったし、ウーンファースの誘拐の一件がなければ、土方が集落を滅ぼすこともなかった。否、そもそもの話、土方がこの世界に来なければ、エシャロットウルフを闘達が対処して、過激派を捕縛し、それで丸く収まっていたはずなのだ。

 土方の狂気とウーンファースの執念が、闘の超人的な勘をもってしても、対応しきれない事態を、引き起こしてしまった。


「運? 運、だと――?」


 だが、その言葉は闘のお気に召さなかったらしい。彼は、らしくもなく声を荒げて、今回の原因を断じた。


「悪かったのは運じゃない……俺だ」

「闘ちゃん」

「土方の行動、ウーンファースの行動、全部演算しきれなかった俺が悪い」


 ストイックに自身を悪と断じ、吐き捨てる闘に、ジャリーは真剣に言い聞かせる。


「闘ちゃん……確かに、貴方の勘はすごいわ。けれど、完璧じゃないの。聖書に出てくるような、完璧な神様じゃないの。

 超人は、ただ強いだけの、人間なのよ」


 超人は、万能の神ではない。ただ、頑丈で、早く動けて、強いだけの人間だ。

 そんな事は、闘が一番よくわかっていた。

 わかっていたつもりで動いても、このザマだった。


「……土方はこの一件で、罰せられるか?」

「どうかしら……無限動力のあの子が敵に奪われたから、っていう大義名分は成立してしまっているし。

 彼にとって、やりすぎて円卓から除名、なんていうのはいつもの事……何せ、彼の超人履歴の半分は円卓から除名されてた謹慎期間なわけだし。

 むしろ、それを勲章にしてる節もあるわ……何度でも返り咲けるだけの、実力者っていう事ね。

 頭の痛い問題よね。あの子に関しては。エルフ族もそう」


 この世界のように、人間の倍程度のエルフならまだ問題ない。けれども、オープンワールドには、人間の数十倍の寿命を生き、万年を超えて齢を重ねるエルフもいるのだ。


「2000年……私達からすれば、歴史と言っていい長さだけど、長寿のエルフ族からすれば、大したことじゃないわ。その程度の歴史しか持たない若い組織に、昔からの慣習にケチをつけられたらたまったものじゃない……

 不満はたまり、テロという形になり、土方ちゃんの派閥の援助者は増える一方……」

「その不満が、吹き溜まりになって腐った果てがあれだろうが」

「……何だったら、お婆ちゃんって、呼んでもいいのよ?」


 ――自分の派閥に入れば、土方に対抗する事が出来る。

 暗にそう言って、ジャリーは闘の反応を待った。髪による拘束が解かれ、自由になった刀を腰の鞘に戻しながら、闘は答えた。


「断る」

「……闘ちゃん?」

「俺は、派閥には興味がない。

 アルトの奴も……」


 呆れるジャリーに背を向けて、闘はエシャロットの森だった場所を去る。


「その流儀で、いつか、奴を裁く」


 固い決意を胸にして。

 ――無派閥で通していた草間 闘が派閥抗争に参入した瞬間だった。





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