その流儀
自らの側近であるスーツの男を、手振りで促してから、土方は歩み去っていく。
その後ろ姿を見ながら、ジャリーは嘆息して、
「やるんじゃないかと思ったら、案の定ね……闘ちゃんも、いい加減殺気を収めなさいな。
お婆ちゃんの顔を立てると思って、ね?」
「何故止めた」
お婆ちゃん呼びの強要には反応せず、闘は短く問うた。
「円卓の秩序を守る為、円卓同士の争いを収めた――そう言ったら、貴方は軽蔑するかしら」
「…………」
「何があったかの大体の流れは、かき集めたから知ってるわ……運が悪かったわね」
この世界に土方が来たこと、ウーンファースの襲撃。この二つは、全く意図しない偶然の筈だった。どちらか片方だけならば、闘とアルトエレガンのコンビで問題なく対処できただろう。
ただ、その二つが重なってしまった。土方の妨害がなければ、ウーンファースの誘拐は成功しなかったし、ウーンファースの誘拐の一件がなければ、土方が集落を滅ぼすこともなかった。否、そもそもの話、土方がこの世界に来なければ、エシャロットウルフを闘達が対処して、過激派を捕縛し、それで丸く収まっていたはずなのだ。
土方の狂気とウーンファースの執念が、闘の超人的な勘をもってしても、対応しきれない事態を、引き起こしてしまった。
「運? 運、だと――?」
だが、その言葉は闘のお気に召さなかったらしい。彼は、らしくもなく声を荒げて、今回の原因を断じた。
「悪かったのは運じゃない……俺だ」
「闘ちゃん」
「土方の行動、ウーンファースの行動、全部演算しきれなかった俺が悪い」
ストイックに自身を悪と断じ、吐き捨てる闘に、ジャリーは真剣に言い聞かせる。
「闘ちゃん……確かに、貴方の勘はすごいわ。けれど、完璧じゃないの。聖書に出てくるような、完璧な神様じゃないの。
超人は、ただ強いだけの、人間なのよ」
超人は、万能の神ではない。ただ、頑丈で、早く動けて、強いだけの人間だ。
そんな事は、闘が一番よくわかっていた。
わかっていたつもりで動いても、このザマだった。
「……土方はこの一件で、罰せられるか?」
「どうかしら……無限動力のあの子が敵に奪われたから、っていう大義名分は成立してしまっているし。
彼にとって、やりすぎて円卓から除名、なんていうのはいつもの事……何せ、彼の超人履歴の半分は円卓から除名されてた謹慎期間なわけだし。
むしろ、それを勲章にしてる節もあるわ……何度でも返り咲けるだけの、実力者っていう事ね。
頭の痛い問題よね。あの子に関しては。エルフ族もそう」
この世界のように、人間の倍程度のエルフならまだ問題ない。けれども、オープンワールドには、人間の数十倍の寿命を生き、万年を超えて齢を重ねるエルフもいるのだ。
「2000年……私達からすれば、歴史と言っていい長さだけど、長寿のエルフ族からすれば、大したことじゃないわ。その程度の歴史しか持たない若い組織に、昔からの慣習にケチをつけられたらたまったものじゃない……
不満はたまり、テロという形になり、土方ちゃんの派閥の援助者は増える一方……」
「その不満が、吹き溜まりになって腐った果てがあれだろうが」
「……何だったら、お婆ちゃんって、呼んでもいいのよ?」
――自分の派閥に入れば、土方に対抗する事が出来る。
暗にそう言って、ジャリーは闘の反応を待った。髪による拘束が解かれ、自由になった刀を腰の鞘に戻しながら、闘は答えた。
「断る」
「……闘ちゃん?」
「俺は、派閥には興味がない。
アルトの奴も……」
呆れるジャリーに背を向けて、闘はエシャロットの森だった場所を去る。
「その流儀で、いつか、奴を裁く」
固い決意を胸にして。
――無派閥で通していた草間 闘が派閥抗争に参入した瞬間だった。




