採取依頼ってこんなものね
ーーーあの後俺は依頼達成の代金を貰い俺の様子を見に来たマーク達にやむなく銀貨3枚を貸して貰うことになった。
俺は彼らにこの銀貨を後で絶対返すと心に決めた。
俺はお金の貸し借りは嫌いなのだ。
現実でもそのせいで辛酸を舐めさせられた。
だから、この世界でも油断しているときっとひどい目に遭うだろう。
後腐れなく返す。
俺のその熱意にウォルカだけではなく受付嬢まで苦笑いだったのは気のせいだろう。
その後受付嬢から冒険者についての説明を受ける。
本当は大体、ウォルカ達から聞いて知っていたが確認のためだ。
硬貨についても受付嬢に聞いた。
すごく驚いた顔をされたが「俺の故郷は物々交換しかない村だったので」とそれらしく話したら怪訝そうな顔をされたが説明してくれた。
この世界の硬貨の数え方はこんな感じだ。
10賤貨→1銅貨
10銅貨→1銀貨
10銀貨→1金貨
10金貨→1白金貨
10白金貨→1王金貨
一般的な市場では白金貨はそうお目にかかれないらしい。
ーーーギルドカードは割と高価なのだろうか
俺は手に入れたギルドカードを眺める。
「これで僕たちと同じ冒険者ですね」
横からウォルカが話しかけてくる。
「・・・・・ああ」
ウォルカの微笑に俺も笑顔で答える。
マークもニヤリと笑う
・・・・・ビッドは相変わらずだが
俺はもう彼らに敬語を使うのはやめている
短い間ではあるが彼らはいい奴らだと確信している。
そんな友達に他人行儀な態度をとるのはおかしいだろう
(・・・しかし)
ーーーしかし、俺に対する彼らの態度がこの世界転移後に現れた隠れた特殊能力やスキルの御陰だとしたらどうだろうか。
そうだとしたら俺は
・・・俺は
(いや・・・馬鹿らしいな)
仮に隠れた特殊能力やスキルの御陰だとしても俺の彼らへの態度は変わらない。
他者を貶めようと特殊能力やスキルを発動していることもないしこれからしようとも思わない。ーーー要は自分さえ見失わなければ大丈夫だろうと思う。
なぜだか今の俺には自分を見失わない絶対の自信がある
それは俺自身にも解らない。
プレイヤー補正だろうか?
・・・・・まあいいや
「マーク達はどうするんだ?」
これから彼らはどうするのであろうか
ーーー彼らは護衛依頼を達成し金も貰った。
この街を拠点として新たな依頼を受けに行くのだろうか
それともこの街を出ていくのか。
俺はとりあえず何処かの街にいく事もない旨を伝えた。
「僕たちもしばらくはこの街を拠点として活動するつもりです」
おお、よかった。
冒険者になったばかりの新人が気兼ねなく質問できる先輩は必要だしな。
「それよりお前・・・泊まる宿はどうするんだ」
宿。
マークに言われ忘れていたが
俺は金を持っていない。
「金は適当な依頼を今から受けるから心配ない、宿はお勧めを受付嬢にでも聞くことにするよ。」
俺はそう言った。
今からでも何か依頼があるだろう。
「そうか、宿に関しては心配ないと言うことか。・・・依頼はお前の実力なら問題はないな」
「心配する方が間違っていますね。貴方は将来有望な冒険者になるでしょう」
そこまで買いかぶられても困るな。
俺はFランクの新人冒険者だぜ?
「お前のようなFランクがいるかよ」
と言われてしまい困惑した。
そんなに凄いだろうか?
俺。
ーーーーーーーーーー
マーク達と別れた俺は依頼を受けた。
彼らは俺と別れた後宿を探すらしく早々と立ち去った
受付嬢に聞いたが何でもこのような街の評判の高い宿は早く予約を取らないと部屋が取れないらしい。
なるほど
そういうことにも気を遣わなきゃならんのか
各地を転々としている冒険者は大変だ。
ーーー俺はというと金がないので依頼を受けた
素寒貧だからな。
受けた依頼はリエールという名の薬草の採取だ。
報酬は銀貨1枚と銅貨5枚
ギルドカードの代金の半分だ
何?
しょぼい?
仕方がない
Fランクの新人が最初に受けれる依頼はこんなものだ。
それに俺がこれを選んだ理由としてはこれが一番割りが良かったからだ
他にもこの時間帯で残っている依頼はあり
家の荷物運びや屋根裏の修理の報酬は銀貨1枚に届かないくらいだった。
これがどういうことかというと
この街で平均的な宿の一泊の料金は銀貨1枚と銅貨3枚程らしい。
荷物運びと屋根裏の修理の報酬は銅貨8枚。
つまりそれらの宿の一泊の料金すら払えない。
最安の宿なら銅貨8枚でもギリギリ払えるらしいが
俺は普通の宿に泊まりたかった。
薬草採取の報酬が同じFランクの依頼と比べて高額なのにも理由がある。
Fランクの依頼の大凡は街の中での依頼が多いが、この薬草採取依頼は街の外へ行かなければならない。
ーーー街の外へ出るということは魔物に襲われる可能性があるからだ。
殆どのFランク新人はこの薬草採取の依頼を受ける場合、モンスターに襲われる危険性にビクビクしながら採取しなければならないのでなりたての新人は無難に荷物運びだのを受けるらしい。
俺がこの依頼を受けると決め、窓口にその紙を持って行ったが受付嬢に心配そうな顔をされた。
うん。
確かに強そうには見えないよね
俺。
(・・・Dランクに昇格できればそれなりにやっていく事も出来ると言うし)
それまで我慢だ。
俺はギルドカードを握りしめ街の外の未だ見ぬ薬草を求め門へと向かった。
ーーーーーーーーーー
森の中を俺はひたすら歩く。
・・・目的はリエール草4つなのだが
ものの30分足らずで終わってしまったよ
この依頼。
やり方は簡単だ。
「鑑定」スキルで森に生えている草を見ていく
同じような形と色をした毒草もあったがこのスキルの前では無意味なものだ。
「はぁ・・・」
スキル「上位探知」で確認したが
この森には思いのほか魔物が少ない。
街の近くに存在する森であるから魔物が定期的に駆逐されていて当然か。
しかし
あまりに簡単なので何か物足りなさを感じた。
ーーーいっそここら辺一帯の魔物でも狩りまくろうか?
「・・・いや」
目立つことは避けた方がいいだろう。
今日なったばかりのFランク冒険者が森の魔物を全滅させたと騒ぎになったりしたらどうする?
余計な物を呼び込むことになりこの街にいるのが窮屈になってくるかも知れない。
それは嫌だった。
そうだ。
現時点で分かる。
恐らく、俺はこの世界では圧倒的な力を持つ化け物みたいなものだ
それをきちんと理解していないと他の人々や自分を苦しめることになるかも知れない。
ふう、と一息つき
「・・・生きていくってどの世界でも辛いよ」
そんなことを考えながら街への岐路を歩く渡であった。