続・その頃主人公
お待たせしました。
(・・・漸く街か)
全速力----とは云わぬも少々本気で駆けること約1時間弱。
-----俺は緊急連絡のあった街、ロイネリア付近へと到着する。当然、急いでいたので一番早い方法、自らの足を使って走ってやってきた。
街まで走って約1時間は尋常なことではない。
正直、スキルで移動速度を強化、それにより疲労をだいぶ軽減してたとしても遺跡から此処まで走ってくるというのは、卓越した技量と身体能力を持つ、ギルドの裏の仕事人と呼ばれている自分達でも仕事に支障がでるほどではないが----ちょっと怠くなる位に疲れる。
お荷物付きだと尚更だ。
「なんだこりゃ・・・」
「ん?」
ふと、そんな呆けた声を上げ立ち止まったのは俺でも隣にいる同僚でもない。自らの背後に居る、茶黒いローブを着た男・・・ワタルと名乗った男が驚いた顔で遠くにある街の方向を凝視している。
街までは未だ、幾分距離がある。
-----遠目で見ても分かるが、所々、煙が上がっているように思われ物々しく感じた。
彼のその声は呟きにも等しかったが、耳にしっかりと届いた。そして、俺は務めて義務的な口調で問いかける。
「・・・何か気になることでもあったのかな?」
「!・・・いや、何でもない」
彼は一瞬、何かを言い掛けると黙り込む。
・・・正直言って、この上なく怪しく感じる。
当然、俺だけではなく彼の後ろにいる同僚、ドレークは一層、疑念と警戒を強めたようだ。
・・・いや、それ以前にこの街に来るまでこの距離を自分逹と並走するスタミナといいスピードといい、色々言いたいことはある。
----遺跡から街まで走るしかない。
馬車で数時間掛かる距離を1時間ほどで走ろうとするなら、大体の人は根を上げてしまうであろう。
----そもそも、特殊な訓練を受けている自分達と彼の身体能力には大きな差というより壁がある。
そのため、もう一人の気絶している男を背負っている相方と違い、最悪、手ぶらの自分がこの男を背負っていこうかなぁと
----そう思っていたのだ。
ほんの1時間ほど前までは。
「自分で走れる」
最初は何を言っているんだと思った。
自分の耳を疑ったほどだ。
----しかし、この言葉の後、自分達の疾走に実際に難なく走って着いてきたので自分はもう何も言わなくなった。
だが、これだけは言いたい。
・・・本当にEランクなのかと。
----いや、別にEランクの冒険者を馬鹿にしてるわけじゃない。Eランクであっても実力がそれ相応では
ない、つまりは冒険者成り立てで尋常ではない者も----非常に数少ないが居ることにはいるだろう。
今、目の前に居るのがその稀有な存在になるわけだが
----それだけの理由ではなんとなく釈然としないものを自分が感じていることは確かだ。
(・・・まぁ、いいか)
彼のそのちょっと普通ではない身体能力にかなり興味があっても、自分の仕事範囲外だし、そんなことも言ってられないみたいだし、今は取り敢えず置いとく。
我慢我慢。
----それより
「・・・君が何を隠してるのかは知らないけど、それよりも街の状況が芳しくなさそうだ。このまま行くけど大丈夫かなぁ?」
「・・・ああ」
彼はそう呟くと、俯いた。
----遠くから見ても街の物々しい状況が分かるほどなのに即答か。
何を考えているのか分からない。
(・・・全く。)
ん?
脳内で「念話」の音が響く。
何だ何だ?
----って相手はドレークか。
----この「念話(メッセージ」の巻物は割と貴重であり、例え自分達であっても支給される数は少なく、限られる----多くは緊急事態などのやむを得ない場合などに使うんだけれど-----
こういう相方の連絡は結構珍しいことでもある。
けど。
<ねぇ、俺が言うのも何だけどこの巻物って結構貴重------<このまま奴を街に入れるのは正直言ってどうかと思うんだがお前はどうなんだ?>
唐突ながらも真剣な相方の声。
確かに考えてはいる。
----このままこの者と一緒に街に入るか否か。
----立ち入り禁止の遺跡で彷徨き、もう一人の魔術師と一緒に確保したワタルと名乗る男。
何も疚しいことはしていないと主張し、自分達の指示に従った男。
----あっさりと確保できたことに警戒、得体の知れなさを感じたが、強力な拘束無属性魔法、剛力の枷で捕縛しているこの男に今、何かできるとは思えない。
いや、別に警戒をしていない訳ではない----何せ、自分達の眼をかい潜り、遺跡に侵入する隠密性といい、ここまで自分達と同じく息一つ上げずに走り抜くスタミナといい、大した身体能力を持つ男だ。一見怪しげで貧弱そうな魔術師に見えるが、冒険者である。しかし、身柄が判明していても油断はできない。が、相手にしてみたら自分達二人に監視されているこの状況ではそのままおとなしくしているのが普通であろうとも考えられるし、何か悪巧みを考えていても発見された時点で終わっているとも言える。
----彼に遺跡で何をやっていたのか、どんな目的があったのか、それにこの男を発見したときの遺跡の状況、恐らくこの男と今、気絶している男の間に何かがあり、それが遺跡で起きた出来事の原因になっていると考えられる。問いただしてみても「答えられない」の一点張り、そして、倒れていたもう一人の方の男についての関係を探ったけどこれも不明。
自分達は裏の人間であるため非合法な手段にでてもよかったのだが、後回し。状況が状況だ。
その態度から何かの目的が遺跡にあって行動していたのは確かだ、しかし、自分の勘的には警戒こそすれ今の現状は問題はないと思っていた。
それは自分の腕に自信を持っていることもそうだが、それだけではない、職業柄、直感というのを当てにしている。自慢じゃないが、自分の直感は良く当たる。戦闘に於いても平時に於いても良く助けられているくらいだ。
(ま、何とかなるでしょ)
俺はその真剣な問いに軽い感じで念話を返し一瞬目線を合わすと、前に向き直り街を一目見る。
----相方は自分のそんな態度に一瞬の躊躇いを抱いたようだが、彼も裏の仕事に通じる人間の一人だ。万が一、問題が立ちふさがっても対処できると踏んだのだろう。
(・・・まぁ、そんなことになってもそうはさせないのが俺の役目だからね)
どうしても彼の同行を認めない、というのならば他にも方法はある。
----街が何者かに襲撃されているかもという非常事態に於いても、慌てずに次の行動を考える彼の頭の中は冷えている。
街を守ることは領主やその兵士の役目。
冒険書達もその戦いに駆り出されているという意味では責任の違いこそあれ同義だろう。
自分達の役目は日の目を浴びることのない裏の仕事。
優先されるべきは人助けではないのだ。
多少享楽的な所はあるが、彼も裏の人間。
----それがアウトロウと呼ばれる裏の男の考え方だ。
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(何だこの状況・・・)
渡はこの状況を理解しようと----いや、否応なく理解できてはいた。
「上位探知」で感じ取れるのは多くの人間----だけではなく、それと交戦しているであろうそれ以外の敵とおぼしき勢力の数が感じ取れた。
自らの異常な視力によって街には黒煙が彼方此方に見えることであるから祭りなどではない----争いの匂いがすることは容易に予想がついた。
しかし、そうであっても思わず「なんだこりゃ・・・」と呟いてしまったのもこのせいである。
自分が遺跡探索を行っている間にこれだ。
(・・・いや、そもそも街がピンチだと言うことは事前に耳にしていたじゃないか)
何がどのようにピンチなのかは知らなかった、いや自分がこの二人に聞かなかっただけで。
----ひとまずそう気を落ち着かせ、街を遠くから見ながら、渡は物思いに耽り
都合のいいこの身体は、瞬時に精神を鎮める。
----数週間とは云え、この街には愛着とまではいかないまでも、それなりの過ごしやすさというのは感じていたし、出来上がった人間関係も数少ないとは云え、決して希薄なものではない。知人以上友達未満といった所か。
もしかしたら今、自分に関わったそんな人達が誰かの助けを求めているのかもしれないのに「はいそうですか」と無視し切り捨てられるほど非情ではない、と言うのが自分の性質だと思っている。
----だが、どうしょうもない奴に関してはこの限りではない。普通に見捨てることが出来るような人間でもある。
しかし。
これから自分がこの街に何らかのアクションをかけるハメになってしまった場合----その可能性は高いように思える----どのように影響を及ぼすのか、これからどうなってしまうのかを天秤にかけている。
そう、考えるといまいち立ち向かっていくという踏ん切りが着かなかった。
----別に戦闘を恐れているわけではないし、その度胸が無いわけでもない。
----ただ、間違いなく自分の力を人前で披露すれば、否が応にも今後のこの世界での人生は波乱に満ちることになることは容易に想像できる。
それを恐れているわけだが。
渡は今までの経験で自分の力はそれほどのモノではないか----少なくとも周囲に混乱をもたらすものではないかと推し量る。
(・・・いや、待て待て)
はっと気付く。
----別に自分が力を披露し動くことを前提にしなくてもいいんではないか。
(・・・そうだ。きっと他の誰かが何とかしてくれる)
----自分勝手で冷たくはあるが、街の人達だけで、この世界の人達で何とかして欲しいと言うのが実情だ。
と、言うか、そうして貰わないと困るのだ。
-----今、自分が、こんな目立つような場所で動くわけにはいかない。
前にいる自分を捕らえた奴と後ろにいる奴は、決して弱いわけではないだろうし、ギルドの関係者だとすれば街の中にそのレベルの実力者達がいる可能性が高い。力のある冒険者達と一緒に任せても大丈夫なのではないか。
と、そう思わないとやっていけない。
----所で、何故彼、つまり渡は自分が動くこと前提な、そんな弱気な考えを真っ先にしてしまったのか
----それは
(街の中に強大な気配がする)
----のが理由からだ。
それも他の生物が霞むほどの気配が。
「・・・君が何を隠しているのか知らないけど、それよりも街の状況が芳しくなさそうだ。このままいくけど大丈夫かなぁ?」
「・・・ああ」
街からその気配をひしひしと感じていると、突然、前から声が掛かったので驚くも即座に、そして曖昧に返答する。
-----実は曖昧に返答しているのにも理由があり、これはギルドの関係者らしき者達に目立たないように、自らの情報を渡さないようにするためである。
遺跡から出たときも、幾つかの会話を曖昧に誤魔化してしているで、必要以上の情報は与えていないはずだ。
しかし、自分の煮え切らない態度によって相手が強硬手段に出てくることあるんじゃないか。とその時は、ふと、思ったが、そんなことはなかったため安心したのはここだけの話だ。
----内心、冷や汗を流しながらのらりくらりと問答を繰り返し、そして慣れないポーカーフェイス使いながらも切り抜けた。結果論だが今はそれでいいじゃないか。
----自分の怪しささは恐らく十分なモノとなっているだろうが、誤魔化さないで正直に話してしまうよりはマシだろう。
恐らくはちょっと身体能力の凄い冒険者程度に見られているだろう。
そのくらいなら沢山いるであろうし何も問題ない。許容範囲だ。
うん。
(・・・あぁ、今から彼処にいくんだっけ)
ぐいっと身体に巻き付く鎖で引かれるような感覚----自分の知らない恐らく生き物の動きを拘束する類の魔法だろう----を感じ、それに反応するように歩を進め始める。
そういえば。
前にいる男は街の強大な気配に気付いているのだろうか?
----先ほどの発言から気付いているように見えるし、気付いていたとしても、俺が聞くことによってその事情を何で自分が知っているのかと言うところで相手と問答になるだろう。
今でも限界ギリギリの切羽詰まったものだと感じているこんな状況でそんなことになるのは勘弁だった。
----いや、自分があの遺跡でこの二人に発見された時点で限界ギリギリか。
軽く現実逃避したくなる心情を抑えながらも、渡は街に向かっていくのだった
----が。
「悪いが君は外で大人しくしていて貰うよ」
----え?
君?
君って誰?
----ああ、気絶している男ですね。分かります。邪魔だもんね。
しかし、相手の男の視線の先には、自分がいた。
え?
俺?
「・・・なぜ?」
思わず聞き返す。
さっき街に一緒に入るみたいな事言っていたじゃん。
そういう流れだったよね?
----そんな俺の意志や意見は無視され、今自分は薄暗い何処かの牢屋にいます。
(・・・遂に俺も豚箱入りかぁ。臭い飯を食わされ続けるのは嫌だなぁ)
----そんなことを考えながら世の無常を考えるしかない渡であった。




