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教皇の異世界物語  作者: しらす御飯
13/34

人助け②

良いお年を。

 夕暮れ時の森の中、俺と先程助けた少女ーーーライネの話を聞きながら歩く。


 ライネは俺とは多少の距離を取っている。


 ・・・まあ、自分という存在に関しては警戒されても仕方ないかなとは思うからいちいち気にはしない。


 そんな彼女を横目で見ながら


「・・・それでやむなく逃げてきたと」


 そしてライネは難しい顔をしながら


「ええ、アレは私一人の手には負えないわ、・・・だから私は街に戻ったら直ぐにこの事をギルドに報告するつもりよ」


「なるほど」


 ーーー彼女の話を聞くところによると、ロイネリアの街から離れた旧時代のダンジョンーーーパルゾム遺跡があり、その奥の階層である依頼を達成する寸前に恐ろしく強くて変わった魔物モンスターが現れ、命からがら逃げてきたそうだ。


 そしてこの魔物モンスターの情報を持ち帰らないと不味いなと思ったライネは街に向かう途中、先程の大量の小鬼ゴブリン共に追われ、絶体絶命の状況に陥っていた所を俺に救われたのだそうだ。


 話は兎も角、俺としてはその魔物モンスターが気になるところだ。


 そのダンジョンのレベルとは不釣り合いな程の強さをもつ魔物モンスターらしい。


 NWC2風に言えば突然変異したレアモンスターと言ったところだろうか


 そう考えると興味が湧いてきた。


「どんな奴なんだ?」


「・・・蟷螂みたいな大きな奴よ」


「蟷螂?」


「ええ、大きさは5mはある黒くて巨大な蟷螂。・・・私の魔法では殆どダメージを与えられなかった、と言うより自分が殺されないようにするのが精一杯だった・・・あの遺跡は全ての階層が探索済みだからそんな危険な魔物モンスターはいないはずなんだけど」


 そう言いながら、その時のことを思い出しているのかーーライネはブルリと身体を震わせる。


「へぇ・・・」


 ーーー例えるならば序盤のダンジョンでいきなり中盤以降で戦うような高レベルの魔物モンスターが出現したときのような理不尽さだろうか。


 そのダンジョンが適正レベルの冒険者がそのレベルの魔物モンスターに遭遇したら、殆どの場合は為すすべもなく殺されてしまうだろう。


 ーーーライネの言っている蟷螂の出現するダンジョンが余り人の来ない場所なら、此処まで焦る必要はないのだが


 現実はそう甘くない。


 ーーー実際には街からもさほど距離もなく、低位の魔物モンスターばかりなので、冒険初心者から中級者位までが狩場として練習するにはいい場所だそうだ。


 もしも、ギルドがこの事実を未だ知らぬ場合


 その魔物モンスターに遭遇してしまう哀れな犠牲者、つまりは冒険初心者の被害が飛躍的に増大するのだ。


 ーーーそれだけではない。


 その魔物モンスターがダンジョンを抜け出したなら、その遺跡から決して遠くはないロイネリアの街にも被害がでるかも知れないのだ。


 此処はゲームではないからこの世界ではそういうことも可能かも知れない。


 ーーーいや、ゲームの頃であっても幾つかの条件が有ればダンジョン内の魔物モンスターを外へ出すのは可能だった。


 というわけで軽視は出来ない。


 早急に対処しなければ不味い事態になる。


 ーー俺はそんなことを考えながら彼女の方を向く


 と、ライネは訝しげな視線で俺を見ていた。


「・・・まさかとは思うけど、一人で戦ってみようと思っていない?」


 ・・・平穏を信条とする俺だが、NWC2ゲーマーとしての性かそう言われると未知のモンスターと闘いたくはなる。


「ん・・・ああ、そうだな」


 そう答えると彼女は


「・・・とても危険な相手だから1人では難しいっていう私の話は聞いていたわよね」


 ややジト目で見てくる。


 闘いたいものは仕方ないだろう。


「ああ」


 適当に相槌を打つ。


「じゃあ何でそうなるの?」


 何でかって?


「そりゃあ決まっているだろう・・・見てみたいからだ」


 その発言に呆然とするライネ。


 数瞬ほど考え


「・・・あなたがかなり高位の魔術師だと言うことは先程の結界を見たときから理解しているわ」


「じゃあ・・・」


 その言葉を紡ぐ前に彼女は俺をじろりと見て


「でも、その蟷螂を倒せるという確証はない。というよりたった一人で、かつ魔術師がアレとやるのは危うい・・・まず此処はギルドに相談してから討伐部隊や派遣部隊を送って貰うのが確実だと思うわ」


「ぬ・・・」


 ーーーぶっちゃけ言うとその蟷螂対俺一人でも大丈夫な気がするが、言っていることは正論なので此処まで言われては返す言葉もなかった。


 と、いうよりこれからギルドへその危険な蟷螂の報告をするのならば直ぐに討伐隊が結成されて狩られることになるだろうからーーー俺がそいつを見られるのは万が一にでもその討伐が失敗した後、遺跡にこっそり・・・ということになってしまうので何とも言えないのだが。


 とにかく、とライネ。


「なるべくこの事をギルドに早く知らせて対応して貰わないと・・・冒険者は多かれ少なかれ皆、死を覚悟していなきゃいけないものだけれど、無用な犠牲は抑えるべきだと思うの」


 早足で歩き始める彼女。


 俺の方を振り返り


「そういえばあなたのランクは?」


 ・・・此処で隠していても隠しきれないような気がしたので俺は素直に答えた。


「Eランクだ」


「・・・え?」


 唖然。


 困惑。


 そんなような驚愕の表情で此方を見やるライネさん


「・・・嘘を付かないで」


 何だか凄い剣幕で詰め寄ってくる彼女。


 ・・・先程までの距離感はどこへいった。


 ちょっと怖いし。


「ほら、俺のギルドカードだ」


 何なんだ一体。


 Eランクで悪いか。


 ギルドカードを見て目を見開く。


「え・・・嘘・・・いや・・・最低でも同じくらいのランクだと思って・・・」


 ・・・何やらゴニョゴニョいっているが

 同じくらいのランク?


「・・・とするとEランクか?」


「・・・・Bランクよ」


 彼女のギルドカードが目の前に差し出される。


「ええ!?」


 俺が驚く番だった。


















 ーーーーーーーーーー


















 どうしよう。


 ーーーどうやらライネは一流と呼ばれる部類の冒険者らしいのだ。


 そんな冒険者と一緒に歩くEランク。


 ・・・凄い目立つよ


 まずったかな。


 しかし、それだけではない。


 ーーー彼女もそれなりに有名だと自分で公言しており


「孤高の爆塵姫」という異名で周りから密かに呼ばれているらしい。


 何それ。


 恥ずかしい。


 ライネも一応自覚しているらしく「その名で呼ぶのは辞めて」と言われてしまった。


 ーーー驚きだったのは、彼女に「年の割には落ち着いているな」と俺が何気なく言った一言でに対してで


「21歳よ」


 と答えたのが衝撃的であった。


 いや、だって貴女。


 14、5歳くらいにしか見えないよ?


 ーーーと、そんなことを考えているうちにギルドの建物が見えてきてしまった。


 ・・・このままだとまずいことになる。


 俺は急に立ち止まった。


 ライネが立ち止まって歩みを進めようとしない俺に対して「どうしたの?」と声を掛けてくるがーーーとりあえず無視して今後、自分の身の振り方について考える。


 このまま彼女と一緒にギルドへ蟷螂の報告しに言ったとしよう。


 ーーーそして相談の結果。討伐パーティがギルドによって組まれたなら、ライネはこの街でも数少ない高位の冒険者なので恐らく討伐隊に加わることになってしまう可能性が高い。


 此処まではいい。


 問題なのはここでその一流たる冒険者であるライネが権力者や大勢の人間の見ている前でランクに見合わない俺の実力を前面に押し出したり、討伐隊に推薦するようなことをすることなのだ。


 それが怖い。


 Bランクのライネに付き添っているEランク程度の奴が何を粋がっているんだと思ってくれるのならそれも嫌だがまだそれはいい。


 俺に絡んでくる馬鹿共は何とでもなるし、そういう奴等になら支配スキルや操作スキルを使うことを躊躇うことはないからだ。


 ーーーそういう奴等だけならいい。


 しかし、世の中の奴等の中には金なり権力なりに力を注ぎ、必ずモノの価値を計るために向こうから俺に対してその気で仕掛けてくるような面倒くさい奴もいるのだ。


 コレは流石に「あっ、そう」とは無視できない。


 それらの存在に俺の能力が知られてしまうといままでの平穏な生活は瞬く間に終焉のカウントダウン刻んでいくという事になる。


 ーーーそんなのは嫌だ!


 俺は自由気ままにこの世界を見て回りたい!


 冒険者はいわゆるこの世界でのステータスみたいなモノだ。


 どこかの国や組織の下に所属するのは元の世界ーーー日本の現代社会でで味わっていたのでそんな生活をこっちのファンタジー世界でも同じなモノにすることはない。


「さっきから何をぶつぶつ言っているの?」


「ハッ」


 真正面にライネの顔。


 ・・・今此処で彼女に俺のことを口止めしておかなければ、あらゆる害悪を招きかねない。


 此処で話しておかねば。


「・・・ライネ、話がある」


「え?」


 キョトンとした顔をする彼女。


「・・・始めに言って置くが、俺はこの件に関して表立って手を貸してやれない」


「・・・!」


「・・・ついでにギルドへの報告も俺に関すること・・・つまりライネを窮地から救ったことも伏せておいて欲しいんだ」


 本当はその魔物モンスター討伐を手伝ってあげたいのは山々なのだが今後のことを考えるとどうも踏み切れない。


 ーーーそんなことを言った俺はライネから何かしら言われることを覚悟していたのだが


「・・・勿論、そのつもりよ?」


 彼女はあっさりと承諾した。


「え?」


 ライネはクルリと前を向くと歩き始め


「・・・個人的に本当は手を貸して欲しいところなのだけれど、Eランクのあなたがそんな実力を持っていると言ってもすぐ信じてくれない人が多そうでややこしいことになりそうだし・・・」


 困った顔をしながら彼女は「それに」と言い


「動けないところを救って貰った礼もあるから・・・あなたに何かしらの理由があるって言われても、私はその事について詮索なんてしないわ」


「・・・そうか、悪いな」


 そして彼女は思いだしたように


「・・・あ、でも1人でこの後こっそり蟷螂を見に行くって言うのは無しよ。危険だわ」


 ジト目で俺を見てくるライネ。


「・・・そんな危ない真似はしないよ」


 俺がそう言うと前に向き直り


「・・・そう、それなら良いわ」


 ーーーそうして彼女はニコリと微笑み


「・・・今日は本当に有り難う」


 それを言った後に直ぐ顔を俯けながら、ふと決心したような顔で俺の事を真っ直ぐ見て「この借りは必ず返すわ」とも言うライネ


(・・・面と向かってこんなに良い笑顔で言われると恥ずかしい物があるな)


 ーーー自分自身はそんな大したことをしていないと考えるが


 ふと、今まで生きてきた人生の中で彼ーーー佐野渡は他人からこんなにも善意と感謝を向けられた経験が乏しかったことに気づき「ああ」と思い


「・・・どういたしまして」


 彼はそんな言葉が自然に出たのだった。





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