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精神安定剤? 前 2

 

 頬の熱さを冷まして教室に帰ると、いつもと違う風景が目の前にあって驚いた。


「お先に食べてるよ、井上さん」

 お昼休み、私はいつも凜と一緒に、たまに他のクラスメイトの女の子たちと、机を並べてお弁当を食べてる。

 今日はそこに、派手めな顔立ちの、きつさを感じさせる目元が印象的な女の子も混じっていた。

 凜の横に机を並べて座り、私の姿を見つけると軽く手を挙げ、律儀にそんなことを断ってくる鈴木さんの姿に、そういえば、と私は昨日のことを思い出していた。

 

 お友達よろしく、したんだった。いろんなことあって、忘れてた。

 いつも鈴木さんの傍に居る二人も、凜と鈴木さんの席に机をくっつけて一緒にごはんを食べてる。

 私の席は、お誕生席で凜の机の横に用意してくれていたので、ありがたく私は席に座ると鞄からお弁当を取り出した。


 うーん、なんだか他のクラスメイト達の視線を感じるぞ。

 今までなかった珍しい組み合わせに、好奇心を含んだ視線がちらちらとこちらに向けられてるのがわかる。

 まあね、鈴木さんが氷室のファンだってことは割りと周知の事実だし。

 で、どちらかというと女子を敬遠しがちの氷室が、なんとなく私と話す機会が多いのも、きっと(不本意だけど)皆知ってること。そんな状況だから、皆も興味津々なんだろうなぁ。

 なんて考えながら、お弁当を箸でつついている時だった。


「―――そういえばさ、井上さんって隣のクラスの高橋君と仲いいの?」

「・・・・っっ」

 妙に和やかに凜と談笑していた鈴木さんが、ふと何の前触れもなく私の方を向いて、そんなことを言い出すから。

 ぶほ、と思わず口の中でもぐもぐしていた卵焼きさんを吹きそうになってしまった。

 ていうか鈴木さん、昨日も思ったけどいっつも直球だよっ。

「ま、愛那、大丈夫?」

 凜が慌てて私にお茶の入ったコップを渡してくれる。

 ありがたく受け取ってごくごくとお茶を飲み干せば、つりあがり気味の瞳をきらり、と光らせた鈴木さんと目が合った。

 う、まずい。何がまずいって、鈴木さんが何かを期待してるってことだよ。

 ほら、うずうずとした雰囲気が口元から伝わってくるし。

 どうやら、聞きたくて聞きたくて堪らなかったのをずっと我慢して、タイミングを見計らっていたらしい。

 しまった、女子ってこういう話大好物なんだよ・・・!私だって逆の立場だったら質問攻めしてるよ・・・!だってどういう接点?とかまず思うじゃない。

 捕まった・・・!思わずじり、と椅子の上で後ずさる私に、鈴木さんは笑いかける。


「やっぱり知り合いなんだ?そうだよね、出なきゃあんな場面でいきなり現れたりしないよね。

 ―――昨日、井上さんが走って行ったあと、高橋君、工藤さんと一緒にすごい勢いで校舎裏に飛び込んできたんだよ。こーんな、すっごく怖い顔して。」

「そ、そうなんだ」

 鈴木さんが自分の目尻を両方の人差し指で吊り上げて、『怖い顔』を再現してくれた。

うん、そりゃあ怖かったでしょうね、高橋君ってば見かけはほんと、背は高いし逞しいし、その上顔立ちも優しさとは無縁と言っていいくらい男っぽくて鋭いんだもの。

 心の中でだけそんなことを呟きつつ、私は敢えて下を向いて弁当のアスパラのベーコン巻きをつついていた。

 もうこっちはお母さんやら昨日の凜の反応やらで懲りてるんだもん、変な反応返してネタを提供することない。

 とか決意を固める私を置いて、鈴木さんといつも一緒にいる女の子たちもうんうんと頷きを返す。


「いっつも怖そうな雰囲気だけど、二割増しくらいに怖かったよねー」

「うん、なんかこう思わず千切っては投げ、くらいされるかと思ったよ私」

「あー、わかるわかる!すごい迫力だったよね」

「ええーっと・・・」

 私は思わずぶすり、とさつま芋のレモン煮に箸を突き刺していた。 

 うん、気持ちはわかるけど絶対そんなことはないと思うんだよ。高橋君、女の子には手を挙げないと思う。

 そんなことを考えながらさつま芋を突き刺す私の頭上で、会話は続いていた。


「ていうか、隣のクラスだからあんまり知らないけど、高橋君っていっつも眉間に皺寄ってるよねえ。なんというか、近寄りがたいっていうの?話しづらい雰囲気あるよね」 

「うん、話しかけても相手にされないイメージ」

 ・・・そんなことないよ、話しかけたら、高橋君はちゃんと最後まで人の話を聞いてくれるよ。

 眉間に皺は寄ってるかもしれないけど、ちゃんと話終るまで、待っててくれる。

 なんだかあんまり楽しい話運びじゃなくって、知らず、私の方が眉間に皺が寄ってしまっていた。

 だってなんだかむむむ・・・っとした気持ちになっていたから。

 ぶすりぶすりと、さつま芋を突き刺してそんな気持ちを紛らわせていた私なんだけど、続く言葉に我慢できなくなってしまった。


 

「もうちょっと愛想が良かったらねえ」

 あ。駄目だ。

 私は、そこで思わず箸を机に置いて顔を上げていた。

 さつま芋さんは哀れぐちゃぐちゃの刑だ。

 驚いた表情をしているみんなに向かって、一気に喋る。


「違うよ、高橋君って確かに怖いし、眉間に皺がデフォルトだけど、ああ見えて実は優しいんだよ!

 あんな怖い顔して甘いもの大好きでケーキ好きだし、愛読書(多分)べりー・ボターだし!」

「・・・ベリー・ボター・・・」

 鈴木さんが小さくそう呟いて。

 それを合図にぷっとみんなが吹き出した。

 え。あれ。

 くすくすと凜が軽やかに笑い声を上げながら、目尻を下げて私を見る。

「そっかあ、高橋君って、甘いもの、好きなんだ?」

「ふぁ、ファンタジー、読むんだ彼。似合わないー!」

 鈴木さんの肩が震えている。

 あれ。なんか私間違った・・・?

 ひとしきり笑った後の皆の反応を見て私は自分の失言に気づいた。 

 だって、凜以外の鈴木さんたち三人、顔を見合わせて口元にすっごく嫌な感じの笑みを浮かべて私の方を見てくるから!ていうか凜もなんだか生温かい視線をこっちに寄越してるし・・・! 

 あ、あ、しまった、なんて学習能力ないんだ私、なんか嵌められたんじゃない、これ?

「ふうーん?」

「そうなんだあー。よく知ってるんだね。高橋君、隣のクラスなのに。そんな話す機会なんてあったっけ?」

「え、えとあのっ、違う、違うから。高橋君とは、黒ネコさんの縁で」

「黒ネコさん?」

 必死になんとか言葉を言い募ってると、さらにきらりと鈴木さんの瞳が光った。

 あ、あれ。なんだろ。なんか余計に要らないこと言った気がするよ・・・!私のばか・・・!


「どんな縁か、聞かせてほしいなー」

「うん、ぜひとも」

 にこにこと、妙に迫力のある笑顔で鈴木さん達が私に迫ってくる。

 そんな賑やかな昼休みを過ごしたおかげで、私達は更なるクラスメイトの注目を集めることになってしまった。

 そんな最中、途中で教室に戻ってきた氷室が驚いた顔で私達を見つめていたのにも、気づいてしまって後で後悔した。だって、驚いた後はあいつ、すごい目つきで睨みつけてくるんだもの。

 うう・・・疲れる・・・!





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