9. ヒロイン視点①
その頃、王都にある大聖堂にて、ある1人の少女が周りの注目を浴びていた。
「凄い! あの少女、あの歳で魔力が42もあるぞ!」
「希少な聖属性魔法の適応者だって!」
「しかも、火属性も持ち合わせているなんて!」
「2属性持ちなんて、今までに居たか!?」
まだ12歳という幼い少女が既に魔力42という多めの魔力量に加え、聖属性と火属性の2属性魔法適応者だなんて、未だかつてなかった事だ。
その少女は男爵家の娘で、今日は両親に連れられて魔力検査を受けに来た様子。
男爵家と言っても、ほぼ平民と変わらないような質素な暮らしをしているが、家族仲は良好で、その少女もとても可愛らしかった。
「まぁ! 凄いわ! アリア!」
「アリアは自慢の娘だな!」
父母に手放しで喜ばれ、周りからは羨望の眼差しを向けられる。
アリア・マリーネット
前世で一時期流行った小説“聖なる誓いを胸に”のヒロイン。
女神の加護を受けたヒロインが、幾多の困難に立ち向かいながら幸せを掴む話。
そこには、数多くの恋愛要素もあって、誰と結ばれるか最後まで分からなかったものだ。
アリアこと、生田まりえ
これが前世の私の名前。
会社の事務員をしていた私は、結婚して子供もいた。
でも、まだまだ遊びたくて、会社の男性職員をご飯に誘ってみたり、デートしたりを繰り返していた。
すると、ある時携帯を旦那に見られて浮気がバレそうになった。
すぐに強引に会社の男性に誘われて、断りきれなかったと相手のせいにして、何とか離婚を回避してたんだけど。
相手の男性職員の逆恨みで、私は会社の帰り道で後ろから刺されて死んでしまったのよね。
その男性職員にも家庭があったんだけど、私のせいで奥さんに逃げられたって、叫んでいたっけ。
上手くやらないから逃げられるのよ。
私のせいにして逆恨みで殺すなんて、本当にろくな男じゃなかったわね。
前世で何故か女性職員たちに影でメンヘラ女呼ばわりされてた事は知っている。
でも、私は違う!
ただ気持ちに素直に行動しただけだったのに。
だからなのか、神様がそんな私を不憫に思ってくれて、私に転生のチャンスをくれたのよ!
しかも異世界転生ですって!?
そんなのヒロイン一択でしょ!
他のモブとか悪役とかにしたら、許さないわ!
って、目の前にいた女神様を、ちょ~っと脅したら、すぐにヒロインに転生させてくれた。
女神様なんて、案外チョロいのね。
しかも、この小説の流れはしっかりと覚えてる。
別にそんなに好きじゃなかったけど、流行ってたから、のちに映画化されて、デートの時に映画も見に行ったからね。
とにかくそこに出て来る恋愛対象者の男の子達が、イケメン揃いだったのだ。
このヒロイン、清純を売りにしてる割に、あのイケメン達と色々楽しんでたから、あのヒロインが私だと思うと、これからゾクゾクしちゃう事がいっぱいあるのよね!
あ! でも、冷静になれ私。
転生ものは、逆ざまぁバージョンがあるのを私は知っている。
転生ヒロインは、お花畑脳と言われて悪役令嬢に反対に断罪されるパターン。
きっと、この世界の悪役令嬢こと、エマ・ベルイヤ侯爵令嬢もきっと転生者だ。
あの時、あの女神は最初、エマ・ベルイヤの魂を勧めてきた。
魂の名前ですぐにピンときて、アリアのほうの魂を強請ったけど、あの様子だとエマ・ベルイヤにも転生者を入れるつもりだったはずだ。
だから、慎重に行こう。
決してお花畑脳の転生ヒロインにはならない。
前世と同じ轍は踏まない。
イケメン達が揃い踏みだが、ヒロインの私なら、こちらから動かなくても何らかのアクションはあるだろうし、男達をいかにも侍らすような事もしない。
私は正当なヒロインとして、この世界に生まれて来たのだ。
私の手の中にある、女神から貰った虹色のビー玉。
これを見ると、何故か安心感が出て来るのよね。
だから大丈夫。
この女神のビー玉が私を守ってくれるはず。
今度こそ、私は長生きして、幸せな人生を歩みたい!
物語は学園が始まってからだ。
極力、自分から悪役令嬢のエマには近寄らず、自然に物語に沿った動きをすればいい。
だから、ここでは謙虚なフリをしよう。
誰もが認めるヒロインとなるために。
「アリア・マリーネットさん、もう一度、魔力測定をさせてもらってもよろしいかな?」
この大聖堂の司教がそう言った。
前世の私なら、そこで疑うのかとキレていたと思う。
でも、今の私は違う。
「もちろんです。司教様」
司教様に促されて、今度は違う測定器に乗る。
画面に表れた数値は、やはり魔力42、属性は、聖属性と火属性。
「奇跡だ……2属性ある。
……もしや、女神様の加護を持つ聖女様だろうか!?」
司教様は、そう言い、私達親子を別室に案内して、そこでしばらく待つと、大司教様が現れた。
「お待たせ致しました。教皇様は、ただいま不在にて、私が代わりに確認をさせて頂きますね」
そう言って、3回目の魔力測定を行うと、結果はまた同じ。
「貴方様は、おそらく女神様からの加護をお受け取りになったのでしょう。
この国の聖女となり、我が国のためにそのお力をお貸しください」
大司教様がそう言うと、別室にいた他の司教様や司祭様らも、頭を下げる。
「わたくしなんかで宜しければ、ぜひお役に立たせてください」
私がそう言うと、みんな感激しているようだ。
これでいい。
この調子で、着々とヒロインとしてと土台を築き上げていこう。