10. 王都へ
「ほう! 王都で聖女候補が発現されたのか。12歳で魔力42の聖属性と火属性の2属性持ちだそうだぞ」
朝、食堂で祖父母と共に朝食を食べ、今は食後のお茶を楽しんでいる。
そこで、いつも祖父は日刊情報紙を読むのが習慣となっており、今日もその情報紙に目を通しているのだが、その記事を読んで大層驚いていた。
「まぁ、2属性持ちだなんて、そんな事あるのね。
12歳で魔力42なら、その方次第で今後はもっと上がるのではないかしら」
祖母もそんな風に驚きながら話している。
「でも、うちの孫も魔力では、そんなに大差ないぞ! なぁ、エマ」
「勿論ですとも! エマも聖属性だし、もしかしたらエマも聖女候補と認められるかもしれませんわね!」
いやいや、祖父母よ。
孫贔屓はやめましょう。
言えませんが、あなた方の孫は悪役令嬢の役ですよ。
なるつもりはありませんが。
「私には、そんな器はないです。それに私はいつまでもここでお祖父様とお祖母様と暮らして行きたいので、聖女様になりたいとも思いませんよ」
そう。王都に帰らず、ずっとここで暮らして行けば王立学園に通わなくてもいいのではないだろうか!
どうしても学園に通わなくてはならないなら、他国という手もある。
父母には聞いて貰えない事も、祖父母なら説得すれば聞いてくれるかも。
祖父母は私の言葉に嬉しそうに頷いてくれているし、希望はある!
部屋に戻った私は、その事をグレイに相談した。
「ねぇ、強制力って、そんなに強いものなの?
例えば、私が他国の学園に通って18歳までこの国に帰って来なければ、ヒロインとは接点がなくなるから、断罪は回避出来るんじゃ?」
グレイは私のベッドの上で身体を丸めて眠っていたが、私が話しかけると眠そうにこちらを見る。
『まぁ無理だろうニャ。まずお前の能力は国に報告されているニャ。
その能力をみすみす他国に渡らせる事はしないニャ。
幼い頃からガッツリと国に縛り付ける為にも王立学園への入学は、余儀なくされるだろうニャ』
「えええ~。なら、目をつけられない程度にもっとグレイが調整してくれれば良かったのに~」
私がそういうと、呆れた目でグレイは私を見る。
『お前、あれだけ大勢の前で重傷者を治したくせに、それが通じるとでも思うのかニャ?』
あ、そうでした。
やっぱりちょっと無理があるかな……。
いい考えだと思ったのになぁ。
そう考える私に、グレイは更に追い打ちをかける。
『それに、お前の両親がお前の能力を知ったら、親の権限を利用して、絶対に王都に呼び戻すだろうニャ』
有り得る。
いかにも俗物なあの両親なら、大いに有り得る。
それから、数週間後。
やはりというか、王都の両親から祖父母宛に手紙が届いた。
「ルイーズめ。エマの能力を知ったようだ。
王立学園入学に向けての準備があるから、すぐにエマを王都に連れ戻すと言ってきたぞ」
「まぁ! 今までなんの音沙汰もして来なかったくせに!? 本当に我が息子ながら見下げ果てた考えの持ち主ですわね」
祖父母は案の定、そんな両親を嫌悪していた。
『な、逃げられないんだ。宝玉を壊さない限り強制力は絶対だ』
頭の中にグレイからの念話が送られてくる。
私は軽く溜め息を吐きながら、覚悟を決めなければならないと自覚した。
手紙が届いてから1週間後、領地に私を迎えに父が訪れた。
「父上、母上。長らくエマを預かって頂き、ありがとうございました。
エマも十分に領地について学ぶ事が出来た事でしょう。
来年には王立学園の入学もありますし、そろそろエマを王都に連れて帰りますね」
そう言って、挨拶もそこそこにすぐに私を連れてトンボ帰りをしようとする父。
「お前は……。今日はここに泊まって、せめて明日に出発なさい。もうすぐ日も暮れますよ」
呆れながら祖母が父にそう話す。
父も少し無理があると感じたのか、祖母の言葉に素直に了承した。
「分かりました。では、明日の朝に出発します。
エマ、明日すぐに出発出来るように、ちゃんと準備しておくように」
父の相変わらずの言葉に、出そうになる溜め息を何とか飲み込んで「はい」と短い返答をした。
そして、その後すぐに思い出す。
グレイの事、父になんて言って連れて帰ればいいのか?
そんな事を考えていると、グレイからの念話が届いた。
『我の事はお前の父に話すな。
我は姿を消してお前に付いていこう。
お前の父は、ここの住民たちのように純粋に我をもてなさず、何か利用する事を考えそうだからな』
納得。
(分かったわ。バレないように付いてきてね)
私も念話でグレイにそう送った。
その夜は、祖父母と暮らす最後の夕食を楽しみ、いつもよりゆっくりと、食後のお茶をしながら祖父母との時間を大切にした。
そして、グレイの事は父には話さずに、グレイは姿を消して付いてきてくれる事になった事を祖父母に伝えた。
「あぁ、その方が良いだろう」
「グレイ様は姿を消すことも出来るのですね。さすがは幻獣様だわ」
祖父母は、そう言って、グレイを知っている屋敷の者たちにも父には話さないように箝口令を敷いてくれた。
「エマ、何かあったらすぐに連絡をしてくれ」
「いつでも、ここに帰ってきていいのですからね」
そして祖父母にそう言われ、魔石通信器を手渡してくれる。
「エマ、これは儂らからの贈り物じゃ。これでいつでも話が出来るでな」
それは、最近隣国で作られたばかりの希少な魔石通話器。
ピアス型のその通信器は、そこに魔力を流せば、对になっている通話器が反応し、それを持つ相手と話せるようになっている。
「お祖父様! これはまだこの国には入ってない最新のものでは!?」
びっくりする私に、祖父母は笑顔で答える。
「まだまだ、儂にもこれくらい用意する力は残っているぞ」
「エマ、気にしないで。それでいつでも連絡ちょうだいね」
祖父母の深い愛情を感じ、とても嬉しくなる。
前世では母しか家族を覚えていないことから、父や兄弟はいなかったのだろう。
祖父母や親戚なども、居たとしても疎遠だったのかも知らない。
だから、今世の祖父母は、私にとって初めての大切な家族だ。
この大切な家族の為にも、絶対に宝玉を壊してもらって強制力を阻止する。
そうしたら、その後は少しでも祖父母に恩返しが出来るように、何か喜んで貰える事を考えていかなきゃ。
そう固く決心して、父との会話もほぼ無い状態のまま、王都に戻っていった。




