22. グレイの人気
翌日、グレイは特Aクラスに留学生として入ってきた。
「ティエス帝国から来ましたグレイ・フィリスです。父とこの国のベルイヤ前侯爵が懇意にしており、ベルイヤ前侯爵よりこちらの国の素晴らしさをよくお聞きしていたので、こちらの国で学びたく思い、やって来ました。どうぞよろしく」
そう挨拶した後、優雅に一礼をする。
その仕草にほぅっと令嬢達は惚けるように溜息を吐いた。
「幸いベルイヤ前侯爵の孫であるエマ・ベルイヤさんもこのクラスにいます。ベルイヤさん、フィリス君に色々手伝ってあげて下さいね」
担任の言葉と同時に私に視線が向く。
その視線は主に妬みと羨望、好奇の目。
これで、更に私は周りから遠巻きにされそうだ。
「ベルイヤさん、よろしく」
そう言ったグレイのいい笑顔に、思わず睨みそうになる私であった。
「誰? あの人。見たことない」
「でも、ステキな人だわ」
「どこのご令息なのかしら?」
主にご令嬢方が頬を染めながら、ヒソヒソと話している。
令息達は、見た事のない人物にやや警戒しているようだ。
先生に言われて、学園内をグレイに案内していると、周りからすぐに注目を集めていた。
「ねぇ、グレイ」
「何だ?」
「もう少し、目立たない顔に変えられなかったの?」
「何を言っている? 我を人間化した姿はこの容姿だけだ。そんなに自由に顔貌が変えられるとでも思っているのか?」
はい。思っておりました。
そうか。あのケット・シーを人間にすると、この顔になるのか……。
ケット・シーの時は、ブサカワ的な感じだったのにな……。
グレイは、その容姿とティエス帝国の小公爵という肩書きのおかげ? で、あっという間に学園内で人気者となっていた。
「グレイ様ですわ! いつ見ても素敵ですわね」
「帝国の公爵家の嫡男でいらっしゃるのでしょう?」
「帝国の王族の血をひいていらっしゃるとか。どうりで品があると思っていましたのよ」
「ティエス帝国といったら、この王国より何倍もの広さのある経済大国ですわよね。近年は魔導具にも力を入れ出したとか」
「きっと、こちらの国で魔法学を学んで、もっと帝国の繁栄を担っていくおつもりなのではないかしら」
ああ、また女生徒の令嬢方がグレイを見て嬉しそうに噂している。
入園してからのグレイは、いつも注目の的だ。
もちろん攻略対象者の方々も人気はあるが、それを凌ぐ勢いで絶大な人気を誇っている。
今ではこっそりとグレイのファンクラブ的なものも出来ているようだ。
「いつも傍にエマ様がいらっしゃるわよね」
「なんでもグレイ様のお父上とエマ様のご祖父様が懇意にされているとか」
「まぁ! それを利用してグレイ様の傍に侍っていらっしゃるの!?」
「あの方、まだ婚約者を作ってないそうよ。妃候補を狙っての事ではないかしら」
「アリア様がいるのに、なれると思っていらっしゃるのね」
「妃候補を狙いながらグレイ様にも近づいてるなんて、みっともないですわよね」
そして同時に傍にいる私も違う意味で注目されている。
グレイと違って、ひどい言われ方だ。
「ちょっとグレイ」
「何だ?」
「もう少し目立たないように、何とかしてよ。
そのうちヒロインにも目を付けられるわよ。
その内ヒロインの取り巻きになってしまうかもしれないわね」
「ふっ……それは面白い」
「……」
グレイの返答にイライラさせられていると、セリーヌが私達のところにやって来てクスクスと笑う。
「相変わらず仲がよろしいですわね。グレイ様もエマも目立ってますわよ」
「私はグレイのせいで、違う意味で目立っているのよ」
私の返答に、セリーヌは呆れた顔でこちらを見る。
「もちろんそういった見方をする方もいらっしゃいますけど……自覚ありませんのね」
エマは噂のせいで敬遠されているものの、本来は侯爵令嬢であり、アリアに次ぐ聖属性魔法の持ち主。
しかも、祖母譲りの人目を引く美貌の持ち主だ。
それは年齢を重ねると共に色気も増し、密かに淡い恋心を持っている男子学生も少なくない。
そのエマとグレイが2人で歩く様は、最近は眼福といった感じで見られているのだが、本人達は自覚していなかった。
その2人を忌々しげにアステル達が見ていた。
「殿下。あの二人、グルだったのでは?」
マイクがそう聞いてくる。
確かに図書室でアステル達がエマを責めている時に、絶妙なタイミングでやって来たグレイは、エマの味方なのだろう。
現にエマの祖父と、グレイの父が懇意にしている事を堂々と明かしているのだ。
しかし、同時にグレイはティエス帝国の皇族の血族であるフィリス公爵家の嫡男だ。
くれぐれもグレイを敵に廻さないようにと、陛下から直々に念を押されている。
アステル自身、王太子になる為にはグレイを怒らせない方がいいと判断していた。
「まずは、アリアにちゃんと話をきこう。
ちゃんとした証拠があれば、いくらフィリス公爵令息が味方といえど、言い逃れは出来ないだろう」
アステルの言葉に、マイクとレスターは頷いた。




