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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:六部・若き元社長の、記憶喪失。
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エピローグ

 目が覚めると、シャンデリアが写る。

 上体を起こして、周囲に視線を巡らせると、高価そうな置物があって窓も教会のような綺麗な造りだった。どこかで訓練でもしているのだろうか、兵士達の掛け声が響く。

 遠くの方で、噴水の音も聞こえる。のどかな場所。


 ――――俺は一体、どこの誰で、ここはどこで、何をしてたんだろうか。


 男は包帯ぐるぐる巻きの自分の身体を見て、痛みが何故ないのか不思議に感じていた。

 再びベットに背中を預けると、ノックされ、扉が開く。


「あれ? 起きたんだ」


 その人は真っ赤なドレスに身を包み、まるで金貨のような煌めいた金髪を二つに分けて結び、人形のような顔立ちで、四肢から胸板まで細い女の子がいた。

 男はもう一度上体を起こして、彼女に向き直る。


「起きたも何も、ここはどこなんだ」

「助けてあげたのに、お礼も言わないなんて失礼な犬ね!」

「ちょっと待て。俺は何も知らないんだぞ」

「知らないもなにも、あんた空から落ちて来たんだけど」

「落ちた? 空から……」


 全く覚えがない男は、前髪をくしゃくしゃと弄り考えた。だが、いくら記憶の引き出しを開けようとしても開かない。

 ふぅ、と溜息を吐くと、男は起き上がる。


「ちょ、まだ寝てなくて大丈夫なの?」

「ああ、別にこれしき……痛っ」

「やっぱりちゃんと寝てなきゃダメじゃん」

「ん、その意見はボツだ」

「はいはい、さっさと座って、治癒魔法使うから」


 半ば無理矢理ベットに戻されて、男は治癒の措置を受けた。

 なんとも不思議なもので、少女は何も言わずに手を掲げるだけで、男の傷を癒してみせたのだ。


「……何も言わないの」

 

 内心で不思議とは思っていたのだが、男は考えていた事が見透かされたようで、少し肩を跳ね上げる。


「いや、俺そういうの初めて見たから」

「そういうのってどういうの?」

「うーん。魔法、みたいな?」

「それ、この世界じゃ普通じゃん。魔法使えないのっているのかしら?」

「さ、さぁ……」


 しばらく考え込んでしまった。

 男は魔法なんてモノを見た事があるわけでもない……ような気がしていたのだが、なんとなく使い方は分かる気がしている。

 本当に何もかも忘れてしまっているようではあった。


「あ、そういえば自己紹介がまだだったわね。あたしはエイリ・ストロンチナ。このストロンチナ王国の第二皇女よ!」

「……そ、そうか」

「で、あなた名前は?」

「……わからない」

「はぁ? わからない? 何言ってるのよ!」

「いや、本当にわからないんだ……」


 重苦しい空気が響き、男は項垂れる。普通、自分の名前がわからないという人間も存在する筈もなく、いきなり自分の名前がわかりませんとか言われたら自分も返答に困るだろうなと男は感じた。

 だが、エイリは何も言わずに片手を差し伸べてくる。


「それならさ、この魔法が使えるアイテムも知らない?」


 差し出された手には、翡翠色の宝石が埋め込まれた指輪がはめてあった。だが、それを見ても何も思い出せそうにない。

 男は首を横に振るった。


「そう……。まぁいいわ。多分、この世界の事も知らないでしょうから教えてあげるわ。この世界はね、竜の王、竜神によって支配されそうな世界で、今はギルドとか呼んで頑張ってるところなの」

「ギルド? それなら聞き覚えがあるな」

「そう? ギルドっていうのはね、世界各地で困っていることを解決してくれる集団の事を言うのよ」

「そう、なのか」


 この世界では竜神が存在し、その竜神とやらを倒す為にギルドが存在しているように聞こえる。


「それと指輪に何か関係でもあるのか?」

「あるわよ! 魔法を扱うのには、絶対に宝飾が必要なの! それがこのペリドットの指輪――――すなわちアート・ジュエルなのよ!」

「アート・ジュエル……」


 男はなんとなく呟くも、パッとしなかった。


「まぁ、記憶がないからそんな反応よね。あ、そんでアタシ聞きたいことがあったんだよね」

「ん」


 エイリはワクワクしながら聞いてくる。


「あなたの白い服に入ってた、この変な機械って何なの?」


 エイリの手に握られていたのは、黒い端末だった。まるでスマートフォンのような、そんな機械だ。かなり、使用した形跡があって指紋や傷がところどころ目立っていた。

 白い服に入っていたらしいのだが、男には何の覚えもない。


「そんなものが……」

「結局、記憶喪失なのね。つまらないわ」

「すまない」

「別にいいわ。いいけど、あなた何で胸に剣が刺さってたの? 何かあったのかしら」

「………………」


 男は記憶の引き出しを再び叩いた。

 胸に剣が刺さっていた、黒い端末、白い服。何か思い出しそうだったが、激しい頭痛に襲われる。


「……わからない」

「そう。じゃあさ、思い出したら言ってよね。あと、名前がないのも変だから、あなたの名前はダイチね!」

「ダイチ……」

「そそ、思い出したら、ちゃんと教えてよね!」


 エイリはそれだけ言って出て行った。

 ダイチ。自分の与えられた名前を呟き、黒い端末を軽く弄る。


 すると、そこには登録者、九星 大地と表示されていた。

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