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若き元社長の、創造能力。  作者: 大岸 みのる
第二章:一部・若き元社長の、妹。
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若き元社長の、妹。2

 サファリ城下町深夜。街灯が照らす市場は、昼とは違って人がいない。閑散としている、と言った方がいいだろう。

 この土地に四季があるのか、前いた世界と同じ暦に、同じ風が吹く。今は夏場なので、少々温い。

 市場の中心には、祭りなどで使われる太鼓を叩く高台を組み立てている人達がいる。その姿を見て、大地はどこの世界でも祭りはあるんだなぁ、と感じていた。

 職場を追い出される形になった店長大地は、家がある店に帰らずに、ぷらぷらしていた。目的もなく、こういう散策が好きな大地。多分、市場だけでも数十回は周っただろう。

 そんな中、広場のど真ん中で喧嘩をしている、少年と幼女を見つけた。


「だから、なんでお前がいるんだよ! 俺はチョロインハーレムを作るんだって言ってるだろ!」

「知らん知らん! お主にはワシだけがいれば、問題ないじゃろ! だってワシの身体はこんなにもピチピチになったんじゃぞ?」

「うるせー! 俺は優しくて甘い女の子が良いんだよ! お前なんか、ただのロリババァじゃねぇか!」

「なんじゃと!? 第三次世界大戦開始じゃあボケェェェエエエッ!」


 なんというか、大地にとってはとてもおバカさんの会話に見えた。何をそんなに喧嘩しているのかと思えば、ただの痴話喧嘩のようだ。しかし、周囲の人の目が集まるので、そろそろ誰か止めた方がいいような気がする。

 大地は、溜息を吐き、自分が最近はトラブルメーカーなんじゃないかと思いながら、二人に近づいた。


「そこのお二人さん、何を喧嘩しているんだ」

「あ?」

「ん?」


 二人は既に取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだった。お互いの胸倉を掴んで、それはもう、殴る一歩寸前である。

 どうやら、ロリババァと言われていたのは幼女の方で、見た目も確かに若い。ウェーブのかかった空色の髪は美しいし、黄色の瞳はタイガーアイの如く煌めいている。

 見た目的には文句はない筈だが……。


「お主、暇なのか?」

「初対面の人間に、暇なのか、と聞くのは失礼じゃないか」

「む、初対面もクソもないぞ。さっき会ったではないか」

「………………」


 大地の笑顔が引き攣る。


「うん。俺は君など知らない。確かに、俺は老婆とお話はしたけど、幼老婆とはお話していない」

「……あ、そうじゃった。ワシ、若返ったんじゃった」


 どうやら、昼間アビリティや≪十能の皇帝≫について教えてくれた老婆らしい。だが、どうすれば、数時間で姿を変えることなんてできるのだろうか。

 大地はこの世界の不思議に、脳が混乱した。


「ちょっと待ってくれ、アンタ、このロリババァと知り合いなのか?」

「ん、君は……」


 混乱中の大地に話しかけてきたのは、青い双眸に、男子にしては長い黒髪。中背中肉のまぁ高校生と言ったところか。こちらとも、初対面の筈だが、睨まれている気がしてならない。


「俺は二宮 優。この世界のチョロインハーレム王となる男だ!」

「……そうか」

「で、アンタはロリババァの知り合いなのか?」

「ん、多少ね」


 ようやく混乱から解き放たれた大地。


「そっか、じゃあ九星 大地。アンタにこのロリババァをやるよ」

「ふざけるなよぉぉぉぉ! 黙って聞いていれば、お主を助けたのはワシなんじゃぞ!? 恩知らずにも程があるじゃろうが!」


 ロリババァが再び優の胸倉を掴む。

 それよりも、大地は重要な言葉が耳に入り、離れなかった。


「君は、俺の事を……」

「あ? 当然じゃねーか。アンタはあっちの世界じゃ超有名人じゃねぇか。なんたってアストロナイトの創始者だろ。アンタが有名人じゃなかったら、誰が有名人なんだよ」

「……これは驚いたな……」


 大地は少なからず、驚いていた。まさか、自分と同じ世界から来た者がいたとは思っていなかったのだ。

 だが、自然と大地は笑みを浮かべていた。


「それに君は、≪十能の皇帝≫の一人ときたか」

「あ? 何のこと?」

「ちょ、お主待て!」


 ロリババァは大地を止める。

 それからロリババァは、大地に耳打ちをする。


(あれはワシが拾って、ここ数ヶ月面倒を見ていた婚約者なんじゃ)

(婚約者……。それは置いておいて、じゃあ、あれはあれで、俺と同じように特異能力を持っているんだよな)

(う、うむ……だがのぅ……)


 ロリババァは言い渋った。多分、大地がどういう性格をしているのか分かっているから言わないのだろう。ここで、もし強いよ! なんて言えば、大地は喜んで優と戦うのだろう。

 もちろん、ロリババァとしても、折角の婚約者(真っ赤な嘘だが)を殺されるのは困るというものだ。

 しかし、大地の好奇心は止まらない。


「そっか、君は二番を持っているんだね」

「何言ってんだ?」

「俺は君みたいな強い人間が好きなんだ。だから、ここでお手合わせをお願いしてもいいかな」


 怪しく微笑む大地。

 普通の人間ならば、相手にしないのだが、優は大地を敵対視しているのだ。

 なんて言ったって、相手はあの人生ウルトラ勝ち組の九星 大地だ。金はあるし、容姿も最高だし、頭もいいし、なんなら超美人の妹までいる。

 ザ・男の敵である。


「いいぜ」


 ファイティングポーズを取り、優は大地を睨む。ここで大地を殺して、どこかにいる一花をチョロインハーレムに加える事ができれば、願ったり叶ったりである。

 人生の勝ち組に勝った者もまた勝ち組である。

 大地は、好奇心の塊であって、優がどんな能力を持っているのか、知りたくて仕方がなかった。


「ちょ、待つんじゃ!」

「黙ってくれないか。これは男と男の戦いだ」

「お主はただ、好奇心だけで動いてるのじゃろ!?」

「ん、そうとも言う」


 ロリババァが一々、大地に指図する。鬱陶しい奴だな。なんて思いながら、大地は視線を優に移す。


「さっさと始めようぜ!」

「ん、そうだね」


 二人は地面を蹴飛ばす。

 瞬間、その衝撃波が市場にいる少ない人間の髪型を崩す。

 露店の片付けをしていた人々は、大地と優の喧嘩に集まってくる。

 光速とも言える、大地の動き。すぐに拳を硬め、優に向かって走らせた。

 優も光速で動いている。大地を前に畏怖することなく、優も拳を走らせた。

 お互いの拳と拳が激突し、周囲に更なる衝撃が襲う。

 二人の足場は、コンクリートの筈だが、紙のようにグシャッと凹む。

 互いの拳はまるで、上空五千メートルから振り落とされる岩。それが重なり合うのだ。


「やるね。君は身体能力も優れているのか」

「そっちこそ! アンタはただの女ったらしだと思ってたけどな!」

「そうか。だが、どちらかと言えば、俺は珍しいものの方が好きだぞ」

「あ?」


 優は全力で大地に勝つために、押し返そうとしているのに、それが全くできない。なのに、大地は必死な優から視線を逸らす。


「ん、そうだな。例えば、ロリババァとか興味津々だね」

「ろ、ロリババァにぃ!?」


 瞬間、驚きのあまり、力が入らなくなり、優は大地の拳に負ける。そのまま大地のストレートパンチは優の頬を捉え、数十メートル先まで優を吹き飛ばした。


「あ」


 大地はやってしまったな、と思いながら、頭を地面に打って気絶している優を見つめた。


 とりあえず、珍しい能力も見逃したし、一度手当をする為に、大地は家に優を運んだ。もちろん、ロリババァも一緒なのだが、どうも複雑な心境のようで、さっきからブツブツ言っていた。

 大地の家は、店兼住宅である。一人一部屋のルームシェアのような形になっている。

 店の裏から、入ると既に営業を終了していて真っ暗だった。電気を点けると、キチンと整理されていたので、問題はない。

 優を担いだ大地と、ロリババァは家に入る。


「ここがお主の家か。随分綺麗じゃな」

「ん、これもスキルのおかげさ」

「………………」


 ロリババァは何とも言わずに、お邪魔します、とだけ言って上がった。

 先に家に上がったロリババァがリビングの扉を開くと、いきなり飛び跳ねた。大地は優を担いでいるし、ロリババァの背中しか見えていないので、何があったのか分からない。

 大地も急いで靴を脱ぎ、家に上る。


「……過剰反応し過ぎだろ」

「い、いや、だ、だってお主、クリティリィム族の女子が、お、お、男の身体に包帯を巻いているのじゃぞ!?」

「普通だ」


 と、言いながらも、大地の顔は面白くなさそうだった。もちろん、自分でも気付いていないが。

 さっそく優をソファに、投げ捨てる。


「ただいま。フフィ」

「おかえりなさい、大地さん」


 フフィはレイに包帯を巻きながら、返事をした。だが、レイの方は何だか浮かない顔である。というのも、何か迷っているようにも見えた。

 怪訝に思った大地はレイの肩を叩いた。


「どうした?」

「あ、大地さん。おかえりなさい」

「ん、少し様子が変だな。大丈夫か」

「え、あ、はい」


 何かあったな、と思いながら大地はフフィに視線を移す。しかし、フフィはいつも通りである。

 その時、ハーバンが現れた。


「おかえりなさい、大地様」

「ただいま」

「大地様、少しお話をいいですか?」


 すると、フフィとレイが叫んだ。


「「やめてください!」」


 その声にハーバンは肩を跳ね上げ、それきり口を開かなかった。

 この妙な空気は何なのか、気になったが、無理に詮索しても後で怒られるだけなので、やめておこうと思った。

 そんな中、ロリババァが大地の裾を引っ張る。


(お主、ちょっといいか)

(なんだい)


 ロリババァは他の皆に聞こえないように耳打ちをする。


(今、予知を使って見たんじゃが、お主を殺す相手が、この店に来ていたぞ)

(ん、そうなのか)


 大地は特別気にした様子もなく、ただ返事をしただけだった。しかし、この話はハーバンやレイには聞かれていないかもしれないが、一人にだけは聞こえていた。


「い、今何て言ったんですか!?」


 フフィが真剣な顔をして、ロリババァを見つめる。その眼差しは、恐ろしい事を聞いたかのようだった。

 ロリババァは、しくじったな、と思いながら他のレイとハーバンを順に見る。二人とも、フフィの叫び声で、ロリババァに視線が釘付けだ。

 仕方がない、と思いロリババァは口を開いた。


「お主らには申し訳ないが、この男は近いうちに、お主らが会った女に殺される」


 その言葉に、レイ、フフィ、ハーバンは目を見開き、驚愕していた。


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