エピローグ
瓦礫が多く積まれた街。
そこは一ヶ月前、津波に襲われ、台風に襲われ、大火事に襲われ、落雷に襲われるという大災害に遭った地である。
これは千年に一度の災厄、という事で世界には伝えられた。
この街は一ヶ月前経った今も、多くの家が崩れていた。
しかし、そんな家を建て直す為に、スラムの住人が動いた。
仕事がない、彼らは必死に働き、一般人の家を建てることによって、給料が発生し、王国からも激励賞として、スラムに住んでいた者達も家を自ら建て、仕事を貰っていた。
おかげで、スラムがこの街から消えたのだ。
王国も税金を引き下げる、という行動に出たのだ。その理由は、まぁスラムの人々が働いてるのを見て、感動したのか。それとも、近隣の国から何か言われたのに違いはなかった。
そんな城下町の市場近くに、とある店がオープンしていた。
名前は〈ナインスター〉。美男美女が店員で、尚且つスキルを売り買いする奇妙な店だ。
現在、開店前だからか。店内には従業員が集まっていた。
「フフィ、ハーバン。レイを抑えろ」
「「はい」」
命令したのは、社長の九星 大地。白いスーツに白い手袋をした人間だ。
彼が命令したのは、猫耳を生やした亜人種のフフィ・クリティリィム。メイド服を着用した姿は、可憐であり、一ヶ月前とは別人かと思えるほどのプロポーションを誇り、多くの男性を虜にした、まるで花のような女性だ。
もう一人は、赤い宝石のヘアピンをした、絶世の美女。カーバンクルの希少種。現在は人間に変身していて、メイド服を着こなしている。彼女の魅力は、まるで薬。一度目にすれば、誰もが求めるほど。例えるのなら、宝石だ。
そして、抑えられたのは、レイ・キサラギ。一月前に消滅したギルド、サファリ・ラジーナの元副団長である。サファリ・ラジーナも謎の解体があって、働き口もない彼はこの店で従業員として雇ってもらっていた。
彼は大地から逃げる。
「君は分かっていないな」
「分からなくていいです! そんな物着なくていいです!」
「そういうわけにも行きませんよ、社長の命令ですから」
「フフィさん、僕は男ですよ!?」
「社長命令は絶対、ですよね。大地様」
「ん、そういうことだハーバン」
メイド服姿の美女二人に、取り押さえられるレイは頑なに拒否していた。
大地の手にはメイド服。容姿端麗で女性的な顔立ちのレイには、メイド服を着てもらおうと思っているのだが、さっきから却下され続けている。
「なら大地さんもメイド服着てくださいよ!」
「ん、確かにそれは名案かもしれないな」
レイの苦し紛れの提案に、大地は頷いた。
大地がメイド服を着る姿を、フフィとハーバンは想像する。
だが、二人の美女はすぐに顔を横に振る。
「「絶対ダメです」」
二人はレイの提案に、却下をした。
大地は頬を膨らませながら、文句を言う。
「俺だって似合うと思うのだが」
「そういう問題じゃないんです」
フフィが猫耳を立てながら、大地を睨みつける。『七神魔法』を使ったフフィは大人になっている。そのせいか、前よりも迫力がある。胸の膨らみはあるし、背丈もハーバンと同じくらい。
全く知らない女性へと変わっていて、最初その姿を見たときは驚いたものだ。
「ん、でも、レイもメイド服なわけだし……」
「その意見はボツ、です」
ハーバンはウィンクしながら大地に言った。
大地はいたたまれない気持ちになりながらも、レイに近づく。
「そういうわけだ。レイ。君も男ならやるしかない」
「男だからしたくないんです」
「そう言うな。これは社長命令だ。これを着なければ、君を社員として認められない。よって給料はなしになるぞ」
「そ、そんなぁ……」
「そういうわけだ。フフィ、ハーバン。頼む」
「「はい!」」
こうしてレイはメイド服を着ることになるのだが、本人が女性服を着ることに目覚めるのはまた別の話だ。
メイド服姿のレイにフフィとハーバン。
そして、その三人を前に大地は言った。
「こうなってしまったのは、仕方のないことだ。俺達に一兆リーの支払いを要求してきた王国への仕返しだと思ってくれ」
世界では天災だと言われているが、王国にはフフィがやったことだと、バレていたのだ。多分、逃げ延びたバジリーナの仕業だが、それは仕方のないこと。
その負債を返す為に、店を建てたのだ。
「そろそろ時間だな。開店だ」
「「「はい!」」」
三人の気合が入った声が響く。
一ヶ月前。大地はカプセルを開けることに失敗したと思っていた。
だが、カプセルは開いていた。
アビリティでカプセルを壊すことに成功していたものの、ダメージを受け過ぎた大地は、確認するまでには至らなかった。
そして、大地はフフィに救われ、この一ヶ月は回復に勤めていた。
そこでの借金もあり、結局大地は働かなくてはいけなくなった。
それでも、恩人が三人もいる。この三人に恩を返しながらも、この世界で生きていこう、そう大地は神に誓った。
「大地さん」
「どうした、フフィ」
フフィは笑顔で言った。
「ありがとうございます」
大地はフン、と照れ隠しに笑う。
ハーバンとレイが、店の扉を開くと、そこは客の行列ができていた。
そして、大地も含めた皆は言った。
「「「「スキル屋、〈ナインスター〉へようこそ!」」」」
誰かが言った。
その店は、この世界では夢のようなモノを売っていると。
それはスキル。
魔物がいるこの世界では、必需品であると共に、誰もが強いスキルを求め、ダンジョンに潜る。
スキル屋は開店したばかりだ。
【若き元社長の創造能力】
◆◇◆第一章・完結◆◇◆
ここまでお付き合いいただけて、ありがとうございます。
これにて、第一章は終了です。他に二話ほど外伝があるので、よろしければ見ていただけると嬉しいです。
第二章は未定です。
よろしければ感想をいただけると、ありがたいです。




