extra-5 It's a wish in snow-3/3
急に、身体の真ん中を冷たいものが走る。
ぬくぬくと布団の中で丸まっていたあたしは、一気に覚醒して悲鳴をあげた。
首筋にそっと手を添える。眠気と毛布の暖かさで火照っている指先が触れたそこは、ひんやりとしていた。
「なにすんのよーっ」
寝ぼけ半分に怒鳴りつける。あたしを起こした張本人は、今度は寝巻きの後ろから両手を突っ込んできた。氷みたいな手が直に触れ、あたしはたまらず二度目の悲鳴をあげる。家中を満たす冷たい空気を引き裂いて、緊張感のないあたしの声が響いた。
「うっひゃあぁあっ」
全身が寒さで総毛だったあたしは、冷気のカタマリみたいなそいつを跳ね飛ばしてもう一度寝台にもぐりこむ。布団から目元だけ出して睨みつけると、奴は意地悪く舌を出した。
「寒ぅい中一生懸命飛んで来たのにさぁ、なんかぬくぬく平和そうに寝てんの見たらムカついたから」
「あんたがぬくぬく平和そうに寝てる間はあたしの方が働き詰めなのっ!」
冷たい風になぶられて赤くなった鼻先と頬を擦りながら、ディアンが肩をすくめる。
「オハヨ。朝だよ、ちぃ」
宿直のいないこの局では、毎日あたしが宿直の代わりを務めている。ここに住んでいるんだから代わりも何もないのだけれど、そのおかげであたしは毎朝早く起きてその日配達分の郵便物を区分しなければならない。ディアンが戻るのはまだ外が暗い時間帯なので時間的に余裕がないわけではないけれど、こうも冷え込むとさすがに寝台を出るのが辛いなぁ。
「おはよ」
今更ながらに挨拶してのっそりと起き上がったあたしの横をすり抜けて、ディアンが窓の傍らに立った。
「見てみ」
嫌な予感がして、そぉっと窓を覗き込む。
朝を目前にした闇の中、ぼんやりと白い色が浮かんでいる。
あたしがぬくぬく眠っているうちに、あたりはすっかり雪景色になっていた。
* * *
事務室のストーブの上でやかんがしゅんしゅん言い始めたころに、やっとディアンは上着を脱いだ。そうとう寒かったらしく、ストーブの側から離れようとしない。
お茶を入れていたあたしはサービスでちょっとだけブランデーをたらし、ディアンにカップを差し出した。
「生き返るー」
「今まで死んでたわけね」
半眼で言ってから、あたしは通用口を開けてその向こうにある納屋を覗き込んだ。雪のように真っ白な飛竜が、あたしに気付いて鼻面をこすりつけてくる。氷みたいに冷たいその皮膚を撫でながら、あたしはミルッヒに声をかけた。
「おつかれさま。寒い? 火、焚こうか?」
キュウゥという鳴き声の意味はよくわからないけれど、ミルッヒは丸くなって眠るような仕草をする。いらないと言う意味だろう。
「寒くてたまんなかったら呼んでね?」
声をかけ、事務室に戻る。ディアンがカップの湯気に顔をうずめながらぽつりと言った。
「ミルッヒには優しい……」
「はぁ? あの子は自分で火をおこせないんだから仕方がないでしょ」
竜という生き物は、パッと見爬虫類っぽい。だからかなぁ、なんとなく寒さに弱い気がして心配なんだよね。実際は全然そんなことないみたいだけど、そうでなくてもミルッヒって身体が小さいし。
「それにしても、降っちゃったね。畑の方大丈夫なのかな」
寒さに対してあまり強くないお茶が名産品になる程度に、スピリーツェは温暖だ。冬が寒いということ自体は変わらないのだけれど、雪なんて相当珍しい。日が昇れば、はしゃぐ子供たちの声がそこかしこから響いてくるだろう。
大人たちは、もちろんそんなこと言っていられないのだけれど。お茶の品質が落ちてしまえば収入に関わるからね。
「昨日は親父たちだいぶばたばたしてたみたいだし、対策したんじゃないかな」
「そうなの? よかった、収穫時期の売り上げに関わるからねー」
もちろん、収入に関わるのはあたしもおんなじなわけである。
「よい……っしょ」
なんでもない話をしながら凍った身体をほぐすようにストーブの上でマッサージしているディアンを尻目に、あたしは大きく膨らんだ郵袋をよいしょと持ち上げる。いつもより少しいびつに膨らんだそれは明らかに重くて、しかも普段より数が多かった。
「やっぱ降誕祭は量が多いわねー。雪も降ってたし、飛ぶの大変だったでしょ?」
「大変ってか、寒かった!」
なめした皮で作られた郵袋は溶けた雪でうっすら湿っぽくて、ストーブの側に置くとかすかに湯気を立てる。あたしは中の郵便物が濡れていないかを慎重に確認しながら、一つ一つの郵袋を開けて回った。
郵便物は、中央局で大雑把に区分されてからこの局にやってくる。宿直であるあたしはそれを配達員――だからジン、ユウキ、ケインの配達地域別に分けて、更に配達順に並び替える。そこまでしておかないと、たった三人で村中に配達して回るのはほぼ不可能だからね。
「今日のぶん、鞄一つじゃ足りないなー」
配達物の山を眺めてディアンがしみじみと息を吐く。
「うーん、何軒かに預かり頼んどかないと」
村の地図を広げて、あたしは三人のルート別に中間地点あたりに目を泳がせた。
荷物が一度に運べないときは、荷物の半分を鍵つきの郵袋に入れて民家に置かせてもらう。少ないながらに謝礼を出すおかげで経費がかかるため、あんまりやりたくない手段だ。だけど、さすがにこの量は……、ねぇ?
あたしは、半分の関心と半分の呆れでもって本日の郵便物を眺めた。カードの封筒、リボンのついた包み、綺麗な包装紙に包まれた箱。よくもまぁ、人口の少ないこの村宛てに送る人がこんなにいるもんだ。
一つ、手に取ってみる。銀細工の雪の結晶に見覚えがあったのだ。
「これ、流行ってるのかな? 雪の結晶」
ジンからもらったプレゼントにも、ついていた。あたしは流行りに疎いから全然知らないけれど、よく見ると郵便物の中にいくつか似たような飾りが見て取れた。
「なんか有名な工房の、今年のシンボルらしいけど。中央のある繁華街でもよく見たな」
毎日毎日中央局のある都会に行っているディアンは、あたしよりはこういうことに詳しい。受付をしてから実際に授受が行われるまで混み合っているときにはそうとう時間が掛かるので、時間を潰すのに繁華街に出ることがあるようだ。
各町村からやってくるので、毎日やって来る飛竜乗りの数は少なくない。だからだろう、中央局のあたりでは、夜中でも飛竜乗りをターゲットにお店がけっこう開いているんだ。
「貴金属系じゃなかったっけ」
「なんですと! 大切なものは書留で! これ常識!!」
荷物を区分しながらぷりぷりしているあたしの髪をひと房、ふいにディアンが引っ張った。何かと視線を巡らせると、意外と真剣な目でじっとあたしを見ている。
「ジンさんに何もらったの」
「んー? 水晶細工。なんかハンドクーラーかな?」
不思議な光沢を持つ、無色透明なたまご型をした珠。レースのような細やかな模様が掘り込まれていて、籠のように編まれた銀の入れ物に鎮座していた。
ジンのくれた包みの中は、そんな乙女なシロモノ。そういうものとは程遠い生活を送っているあたしとしてはなんか勿体無い気がしてしまう。あんなものもらったって、あたし書類の文鎮くらいにしか使わないよ。まあありがたく使わせてもらうけど。
「ふぅん。兄貴は?」
「ディクス? 特に何も? あ、そうだ、マフラー借りてたんだ、返しといて」
例の上質マフラーを投げ渡すと、ディアンはそれを握りしめて黙りこくってしまった。仕事しろ仕事!
やる気のまったく見られない部下を尻目に、あたしはハイスピードで郵便物を区分していく。最初の頃は住所と地図とを毎朝見比べながらやっていたけれど、今となっては慣れたもので名前を見ればだいたい分けられる。誤配の元になってしまうから慎重ではあるけれど、今日は量が量なのでいつもよりだいぶ急いでいる。
しばらく区分に集中していられたけれど、また、つんと髪が引っ張られる。
手伝いもせずに、なにしているんだこいつは。
イラッとしたあたしは、威嚇するように机を叩いた。
「あのねぇ、ディアン。あたし今忙しいの、邪魔しないで」
言ったあたしに、ずいと手を差し出す。怒ったような顔がうっすら赤いのは、寒さのせいだろう、うん。
あたしはまじまじとその手を見つめた。乾燥のせいで少しカサカサになっている手のひらの上に、ラッピングもせずにちんまりと置いてあるもの。銀色の、クリップのようなヘアピンのような。クリップと言うには大きくて、ヘアピンというには少しかさばる気がするけれど。
そこまで考えて、あたしは思い立つ。
「なぁに? ネクタイピン? くれるの?」
無言でこくりと頷き、ディアンは更にあたしに手を差し出した。
頷いて手に取ると、ずっと握っていたのかそれはあたたかかった。
銀色のシンプルなデザイン。翼をかたどった小さなシンボルがついているだけで、宝石の一つもない。けれどそれは、真っ赤なネクタイや黒いベストに似合う色合いだった。光りすぎず、だけどいぶしたような色でもない。
「ふぅん。……アリガト」
身につけてみると、案の定制服にぴったりだ。なんだか嬉しくなって、あたしはまじまじとそれを見つめた。
「嬉しい?」
「うん」
ディアンが不安そうに覗き込むので、あたしははっきりと頷いた。
それにしても、何がそんなに不安なんだろう。こんなに良い物、嬉しくないわけがないのに。
にこにこしているあたしとは裏腹に、ディアンはさっきからずっと仏頂面。それがだんだん気に障ってきて、あたしは手を伸ばすと皺の寄った彼の眉間をぐにぐにともみほぐした。
人の隣でふくれ面とは失礼な。もっと盛大に笑いなさいよ。
「じゃあさ、ジンさんのと兄貴のと、どれが一番嬉しい?」
アンタはガキか。言いたい気持ちを、ぐっとこらえる。ここでへそを曲げられたら、あたしは一人で残りの荷物を区分しなければならなくなるから。
「ハイハイ、これが一番嬉しいです。だから区分終わらせちゃおう?」
「心がこもってなーい」
あたしは肩を竦め、だけど、言い訳はしなかった。
確かに、心はこもってない。だって、本音は違う。一番嬉しいプレゼントはナルとフィーアの手作りケーキだったもの。思い出すだけでほっぺたがとろけそう。美味しかったなー……
「ちぃってば何ニヤニヤしてんの」
トリップしていたあたしはすぐに我に返って、頬を撫でる。もうちょっと肉を落としたいと思わないでもないけれど、やっぱりほっぺたが溶けたら困るし。
再び肩をすくめてなんでもないことを主張してから、仕事に戻る。
立派な紙質の封筒、キラキラした塗料のカード、大きなリボンが括り付けられた箱、薄氷色の包紙についた雪の結晶。
ルート別の住所リストと郵便物を細かく確認しながら、一つ一つ丁寧に区分けしていく。
なんだか羨ましいくらい、たくさんのカードやプレゼント。こんなにたくさんの贈り物があるのに自分宛のものは何もなくて、自分以外の誰かが喜ぶのを尻目に働かなきゃならないなんて、なんか皮肉だ。郵便物が増えて儲けが上がれば上がるほど、あたしたちは忙しくなるという嬉しい悲鳴。
本当、この時期って忙しい。降誕祭のプレゼントが終わると今度はそのお返しやお礼状の嵐、それがおさまるかおさまらないかのうちに新年の挨拶状。のんびりしている暇なんてないんだから――
ふと、思う。
そうだよ、あたし、のんびりしている暇なんてない。仕事以外によけいなことなんてしていられない。
となると、だ。
ジンとかディアンにお返しどうしよう。他のみんなの料理とかケーキとかってこういうときはお互い様的なものなんだけどさ、あからさまにお金かかってるよね、ジンとディアン。もらいっぱなしというのは悪いし、でも買いに行ってる暇もないしなぁ。
「ディアン、あたしプレゼントないんだけど」
ジンあたりなら「給料増やして☆」とか言い出しそうだけど、こういうときのディアンについては想像もつかない。
ていうか、そもそも、こやつはボンボンである。村一番のお坊ちゃまである。奴が喜ぶようなもの、あたしの懐具合じゃ買えないんじゃなかろうか。ああもうめんどくさいな金持ち。
恐る恐る言ったあたしを、ディアンはちらりと横目で見ただけ。
「そりゃ降誕祭忘れてたくらいだもんな。いいよ期待してないし」
帰ってきたのは、そんなそっけない言葉。
まあ、確かに、あたしは降誕祭なんて忘れてたし、そんなもん関係ないと思っていたし、仕事忙しいし。
わかっちゃいるんだけど。
言われてしまうと、それはそれでショックなものである。あたし、ディアンになーんも期待されてないのかなぁ。
……あれ? てことは、あたしはディアンに期待されたいのだろうか。あたしたちはそんなんじゃないとか、仕事が忙しいとか、そんなことを言いながら。
いったい、何を。
なんか、あさましいな……。
カクンと肩を落としたあたしは郵便物の区分に集中することにした。
集中――
人差し指が小包のリボンに引っかかったので、手を止める。無理して動かしたらほどけてしまう。
手を止めた途端、ぶわっと雑念が膨らんだ。
――で、結局、ディアンの欲しいものってなんだろう。
ぶんぶんと頭を振る。遠心力で雑念が飛んで行ってくれればいいんだけど。
まあもちろんそんな都合の良いことはできないので、あたしの頭の中はぐちゃぐちゃだ。集中しないと配達に間にあわないっていうのに。
――まあ、お金持ちだから、高いものも良いものも美味しいものも慣れてるだろうし。
こめかみを揉み解し、雑念を追い出そうと焦る。焦れば焦るほど、あたしの集中力は霧散していった。
どうして急に、こんなことになってしまったのか、自分でもよくわからない。いつも通り、仕事をしていただけのはずなのに。
うつむいた視線の先に、二つのネクタイピン。一つはいつもしているやつ、そしてもう一つは。
銀色の翼。光加減によっては白く見える、どこかミルッヒを思わせる、それは。
想像していたような速い動悸が襲ってくることはなかった。
ただ、じんわりと、苦しい。
何やってんだろ。
仕事中にあほらしいこと考えて手を止めて、それでいて気がきいたものの一つも浮かばない陳腐な自分が、なんだかすごく嫌だ。
て、いうか、思い浮かばないことより、たぶん、仕事中にこんなこと考えて手を止めてしまう自分が、それ以上に嫌だ。
この苦しさは、嫌悪とはまた違ったもののような気もするけれど。
あたしは、翼から、目をそらした。
「……期待するしないは勝手だけど」
しばらく床とオトモダチだったあたしの目線は、やがて新たなる友を求めてゆっくりと上昇した。さっきからものも言わずに百面相しているあたしがそんなに不気味なのかディアンとの距離がうつむく前より微妙に離れていて、なんだかすごく癪だ。
足を伸ばして無駄に長いシルエットを蹴飛ばすと、しゃがんで作業していた彼はバランスを崩して尻餅をついた。
「ディアンが喜ぶプレゼントの一つや二つあたしだってできるんだからね、単に降誕祭を忘れてただけで」
びしっと言い放ってみる。突然あたしがそんなことを言い出すとは思ってもみなかったのだろう、ディアンはきょとんと目を丸くしてあたしを上から下まで何度も何度も眺めていた。なんだか居心地が悪くて、かぁっと頬に血が上る。
やがてその目がぴたりとあたしの顔で止まったので、いたたまれなくなってぷいと顔を横に背ける。
「あんたさぁ、あたしのこと馬鹿にしてるでしょ。あたしだってねぇ」
言葉を飲み込む。ごまかすようにごにょごにょ口の中で言いながら、あたしはこっそり胸の中で繰り返した。
馬鹿にするんじゃないわよ。
あたしだってねぇ。
「 」
その先が口にできるほど、恥ずかしげもなくストレートな人間だったらたぶん今頃苦労してないのだろう。仕事も何もかもほっぽって、なんか色々できるのだろう。
できるのだろうけれど。
――誰が言うか。
誰が、仕事を投げ出すもんか。
そんな『なんか色々』、あたし、いらない。
だから、言わない。
あたしだって、あんたの喜ぶようなもの、プレゼントできるんだから。
――言いたいような気もするけど、でも、言わない。
* * *
「馬鹿にはしてないけどさ……」
あたしの真似をしたわけじゃないだろうけど、ディアンも何か口の中で呟いていたみたいだった。
――ジンさんがどうの、言っていた気がしたけれど、あたしは上の空だった。
* * *
結局、微妙な空気感のうちに開局時間になってしまった。
結局、降誕祭もやっぱり仕事仕事の一日になりそうだ。ま、それがあたしだし、予想通りだ。別に嫌じゃないけどね。
ディアンはこころなしかいつもより長く局にいた気がするけれど、仕事が上の空なあたしがルティシアに散々怒られているのを見て諦めたようにドアの向こうへ消えた。
「さむっ……」
せめてと思って見送りに外へ出たら、再び雪が降り始めたところで。
灰色の空から重さを感じさせないほど静かに、だけど終わることなく次々に、白いものがふわふわと落ちてくる。寒いだけでいいことはないはずなのに、むしろお茶農家さんには死活問題で悪いことがあるはずなのに。
降誕祭にこうやってふわふわ降られると、すごく特別なもののように感じる。
夜の間に静かに積もったものと今舞い散るものとで、あたりは白くキラキラと光っていた。
思わずぽかんと口を開けて空を見上げたあたしの隣にわざわざ戻ってきて、ディアンは照れくさそうに笑った。
「寒いから早く戻った方がいいよ。風邪ひいちゃう。わざわざ見送りアリガト」
「どういたしまして。ゆっくり休んで」
にこ、と、ディアンが屈託なく笑う。
雪のように音もなく降ってきた唇は、冷たかった。
煙草をくわえているわけじゃないのに白い息が、重なり合って冷えた空気に溶けていく。ぼんやりと狭まっていく視界の端に映るそれを、あたしは視界が閉ざされるまで眺めていた。
* * *
これは、余談。
ジンにお返しはなにがいいかと聞いたら、意外なことにもうもらったからいいよと照れ笑いを浮かべて言われた。あんな水晶に見合うようなものをジンにあげた記憶はなかったけど、ふと、思い出す。
わー、ありがとう! なんだろう、可愛い包み!
記憶の中のあたしは、ジンのくれた包みがあまりに可愛らしくて、中が何かもわからないままジンに抱きついた。すぐ目の前にあった頬にキスをして、もう一度ありがとうと言ったら、ジンはものすごく満足げだった。
あ れ か 。
てか、なんて無欲なんだ、ジン。あれしきのことでいいのか。
で、同時にわかってしまった。
ちょっと金額かかってそうだしお返し何にしようかなんて悩むことなかったかもなぁ、なんて。
だってさ、結局、渡さなくたって自分で勝手にもらっていったって、そういうわけでしょ?
安いもんだ。
男ってのは。




