拘束具の名工
霧隠れの炉の室内で絵本を発見するアリサ。それを鍛冶屋の飛影竜王に読んでもらう。
「おほん、じゃあ読むぜ? 分かりやすくするために絵本の本文の部分は『』で囲ったところだからな?」
「うん、知ってるよ」
「そうか、物分かりのいいやつだ。では、読むぞ」
『こんにちは、私は田滝鉄男と申します。祖先は剣や鎧等の戦争で使う武器防具を作っていましたが、終戦を機に需要が一気に減り、畑仕事をしていた時の話です。
戦争では勝ったものの、
「捕虜が暴れて困っている。彼らを抑制する道具を工場で作れないか?」
と役人が訪ねてきました。
「作ったことは無いけどやってみよう」
と二つ返事で開発を決意したのは私の祖先の田滝仁鉄。彼は、国内でも右に出る者が居ない程に優秀な武器職人でした。
武器作りから応用し、手錠の原型となる腕に装着する重りや、足に付ける鉄球、いわゆる拘束具を次々作り出していきました。その素材は20歳の時、彼の手で初めて作られた金属は、とても不思議で素晴らしい力を持っていました。
それはとても見事で、芸術的価値もある程に細工が施してあるにもかかわらず、何をやっても壊れることがありません。その秘密は仁鉄は別々の金属を合成し、新たな特殊な合金を作り出し、その合金の魔力により強固な拘束を実現したのです。そしてその金属は悪の心を見抜く力までも持っていました。
その金属の名は【邪感鋼】と名付けられました。その金属は意思があるのです。そして彼にしか作れない物として、重宝されました。時々勃発する一揆にもその材料で作った剣や鎧は身に付けた兵士に力を与え、容易く鎮圧させることが出来ました。
その力とは、正義の心に反応し、更なる力を引き出し持ち主を守る。そんな装備を作っていたのです。
当然その拘束具にも邪感鋼で作られていました。
そして邪感鋼にはもう一つの効果があります。それは、悪い心に反応すると強度や重さが増し、拘束している相手の動きを奪う効果があります。ですが逆に正義の心を持っていると、その心に反応し、とある変化が起こるらしいのです。
もし、正しい心を持っている人がこの拘束具にて悪人に捕えられている時は孤立無援であり、もしもその拘束具を解いたとしても逃げ出せるとは限りません。外している所を見られようものなら、また拘束されるだけです。
下手すれば逃走罪で罪が重くなるばかりか、警戒は厳重になります。そこまで考えた仁鉄は、拘束具自体に、正義の心に反応する仕掛けを施し、一人でも戦うことの出来る力を付加しました。そして、正義の心を持つ者に、後に記す
『解除の言葉』
拘束具を目覚めさせたら拘束具自ら詠唱者に幾つかの質問をすると、かつてない力を手に入れることが出来るとのことです。その質問とは、
1 解放された時、其方の魂が最初に求める悦びは何だ?
2 其方の歩む道を照らす、先人の言葉を一つ示せ
3 其方の背負う命の中に、己より重きものはあるか?
4 其方が描く未来は、この世に何色の光を灯すか?
5 檻に繋がれたる己の不徳を、恥じる心はあるか?
6 解き放たれた後、この世界に其方の生きた証 (善行)を一つ刻むと誓えるか?
7 最後に……この呪われし鉄塊に、其方の命を預ける覚悟はあるか?
の7つで、この質問に邪感鋼の意思に反する答えが一つでも帰ってきたら、力は解放されないのです。
全ての質問に正解することで、どんなに厳しき監視の中も逃げ延びることの出来る力が手に入れられるのです。
この時代は冤罪で牢獄に閉じ込められている無罪の人も多い。そんな運の悪い人達でも窮地から脱することの出来る仕掛けらしいのです。
その製法も金属合成の割合もそして、その仕掛すら息子の岩鋼にすら伝えることは無く、彼の書いた一つの暗号文が記された古文書に秘密があると言い残しこの世を去りました。岩鋼も必死にその暗号を解こうと努力しましたがどう頑張っても解けず筆者で、仁鉄の曾孫である私も分からずじまいです。
その暗号を全文公開します。
『ろくでなしの息子岩鋼へ。私の作り上げた邪感鋼の作り方をここに記そう。
ぜひ読み解き、作り上げて欲しい。だが、ただこの文章を最後
まで読んだだけでは混乱してしまうだろうな。
ではどうすればよいか? それは最後のキーワードと共に考えればよい。
三歳児ではむずかしいかもしれない。だがもう立派な大人である筈。
対応力の強さを見せて欲しい。それを解き明かした時、
七色に輝く虹を見た時よりも感動するであろう。
素材はたったの二つだ。それを一定の割合で混ぜると作ることが出来る。
火の様に燃え上がった心を持つ君ならば、この文章に隠された
素晴らしき秘密に辿り着ける筈だ。この金属で作られた防具を着ければ
魔なる存在の力を弾き、この金属で作られた剣で戦えば
堕落した天使でさえ切り捨てることも可能であろう。
ところが、数グラムでも狂えばその金属は完成しない。正しい配合であれば
銀色の金属になるが、間違えると赤茶けた物体に成り下がる。
留意せよ。
素材が正しくとも何より重要なのは配分なのだ。
理解できただろうか? それではお別れだな。私は天国から君の活躍を
見守ることにしよう』
【時には流れを逆らうことも必要だ。もしこの暗号を解き、その金属で足枷を作ったなら、それは善悪を見極める足枷となり、装備者のカルマに呼応し、時には
『最高の足かせ』
に、時には
『そなたをいかなる災厄からも守る鎧』
と化すだろう。どうなるかはそなた次第。自らの業の潔白を疑わぬならば、ここで唱えるがよい
『アミド』
と】
これが暗号文の全てです。全く分からず困っています。私もこの金属の素晴らしさを実際に手にしてみたいのです。
そうすればより良い世の中になるのではないかと思っています。
もしこの暗号を解けた方メールでもツイッターのDMでもお葉書でもいいので教えて下さい』
「と、まあこんな感じだ」
「文字ばかりの絵本だったね。その上暗号で終わりなんだ。でも暗号なら私の出番ね」
「ほう? 一応獅童も呼ぶか?」
「大丈夫だよ。一人の方が集中できるわ。でもその呪文? アミドってさ、ダアイのダアイ冒険の不死騎団長の不死身のファンケルの鎧の魔装を解除する時に唱える呪文に似てるねww」
「そうだ。トラクエの漫画だったよな。ヤバン流刀殺法……ヤバンパトラアアアアアッシュ! ってな」
「うるせえ」
「ぬお! でもこの暗号さえ解くことが出来れば、邪感鋼をそんな鎧に加工することだって出来る訳だが……さっぱり分からないんだよなあ」
「でも、暗号としては単純だったよ」
「だよな……単純だからこそ苦労するんだよな……ん? い、今おめえなんつった?」
「もう解けてる」
「はあ? ま、まさかおめえ、一回見ただけで分かっちまったのか?」
「推理クラブの副部長だしね」
「すげえなあ。俺も入部したいぜそうすりゃ俺だって……」
「あそこは小学生までよ」
「冗談だ。まあ半分くらいな」
「そんなに悔しかったんだ」
「俺が30年は悩んだことを一瞬だぜ? 自分の馬鹿さ加減に愛想が尽きちまうぜ……で? もしよければ教えてくれねえか?」
「教えてもいいけど、自分で解かなくてもいいの? 謎ってネタバレされた瞬間虚しくなるよ?」
「俺の才能じゃ無理だ……諦めるぜ……」
「そっか……まって? まずは手紙を書く」
「そうか。絵本の作者もこの製法を知らないんだよな。まずはその人に教えるってか?」
「そうね。あ、お葉書ある?」
「おう」
「書き書き……出来た! 後はポストに入れるだけね」
「いや、その必要は無いぜ?」
「え?」
「それを紙飛行機型に折って投げれば書いた住所のポストに届くぜ」
「え? どうして?」
「これは俺が発明したテレポートレポートだからな。まあはがきよりもメールとかいろいろ手段はあるだろ?」
「凄いじゃん! あ、でも切手は? それにこれ一枚どれくらいの値段なの? こんなすごい機能が付いてる紙だから相当高価じゃない?」
アリサは、自分が書いた葉書を指先で回しながら、飛影を疑いの眼差しを送る。
「こまけえことは気にすんな」
「こまかくないよ! そもそもこれ、一枚いくらなのよ。もし60円程度だとしてそれにそんな転送機能がついてるなら、世界中の物流が崩壊するわ。郵便屋さんも運送業者も全員失業よ」
「……う、うるせえな。値段のこととか言うんじゃねえよ」
飛影竜王は、愛用のハンマーを置いて、煤けた顔を拭った。
「知りたい!」
「うぬう……いいか、これはあくまで
『試作品』
だ。この紙の繊維には、極小の発信機と、重力を一時的に中和する超伝導体が練り込まれてるんだよ。一枚作るのに、材料費だけで数万……いや、十万は下らねえ」
「……じゅ、十万円!? たった一枚の葉書が!?」
「ああそうだ。だから郵便屋が廃業する心配はねえよ! 富裕層の道楽か、俺みたいな特殊工作が出来る人間のみが使える贅沢品だ。流通させるつもりもねえ。だが飛ばした後にワープするのを直接見たいから買う奴もいる」
飛影は少しバツが悪そうに、火箸で炉の火を弄った。
「それって何回も使えるの?」
「送ったらエネルギーが切れる。片道分しかない」
「神風特攻隊なのね」
「なんちゅう比喩だよ……まあ、戻ってこねえって意味じゃ、それくらい覚悟の決まった内容を書くだろうな」
「ラブレターとか?」
「分からん。それに、あれだ……さっきの邪感鋼の話だ。三十年も解けなかった暗号を一瞬で解かれちまって、俺の自尊心はもうボロボロなんだよ。せめて自分の発明品くらい凄そうに見せたっていいだろ?」
「……そんな理由で十万円の紙を私に渡したの?」
「おめえの推理への授業料だよ! ほら、さっさと投げろ。屋敷の外壁にある磁気ガイドに乗れば、目的地まで音速で飛んでいくからよ」
「同じ十万なら現金で欲しかったよ。はあ……」
アリサは呆れ果てて溜息をついた。 この男、技術は超一流だが、性格はアリサに負けず劣らずの負けず嫌いのようだな。
「絵本作家さんにの長年の留飲を下げてやるんだろ? 感謝される」
「わかったわよ……投げればいいんでしょう、投げれば」
アリサが頬を膨らませる。その横で、飛影は
「あーあ、俺の三十年……」
「あーあ、私の十万円……」
「真似すんじゃねえよ……ったくよお」
「くよくよすんなwでもなんか楽しそう。こういうのは私絶対に作れないわ」
「頑張りゃできるさ」
「そうかしら? 私はそうは思わない。人にはそれぞれに自分に合った役割があるんだよ。全部が上手にできるようになりたいって思うのは難しいんだよ。できないと思ったら悔しいかもしれないけどできそうな人に頼ってもいいと思うよ?」
「ああ、なんか色々教えてもらっちまったな。ありがとさん」
「どういたしましてさん」
「投げてみ?」
「はいっ!」
ポーイ ヒューン ビュワビュワビュワ―ン
「わー消えたよ! 大丈夫かなあ?」
「大丈夫だって。じゃあ教えてくれるな?」
「いいよ。最後に逆からみたいな話があったでしょ?」
「あったな」
「その通りに文章の一番初めの文字を一番下から逆に読むの」
「な、なんだと? そ、そんな単純だったのか」
「そうするとミリスル銀とダマスクスを7対3で混ぜればいいって書いてあるのよ」
「そう言うことだったか……おめえスゲエわ。ありがとな」
「喜んでくれたみたいで良かったわ。じゃあそろそろ昼ごはんに行ってくるわね」
「おう! じゃあな!」
「あ、アリサ! 中々出てこなくて心配したわよ?」
照代も心配して入り口で待っていたようだな。
「ごめんごめん。おばさん私ね、鍛冶屋になるわ」
「えええええええ?」
「竜王師匠に1から学ぶ」
話を聞いていた時は素っ気なかったのに、結構気になっていたということか?
「あ、後でね。今は私のお見合い見届け人を勤めてよ」(影響受けやすい人なのねえ)
「仕方ないなあ。その前に食事でしょ?」
「ええ」
「じゃあ行こう」




