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忍者屋敷に泥棒?

ーーーーーーー照蔵の部屋ーーーーーーーー


「何があったんですか?」


「古流忍術の巻物の写しが無くなっておるのでござる」


「写しなら問題ないでしょ?」


「照代! お前はそんなことすら分からんでござるか!!」 


「え? 何で怒られてるの?」


「ぬう、この時代での写しとは、巻物作成者本人が筆で一筆一筆模写した物なのでござる。本物と何ら変わらぬのでござるよ。2番目にできた本物と言っても過言ではない。予備として記憶が薄れぬ内に、数本記したのでござる」


「その時代では印刷の技術もコピペも何もないですもんね。でも一本目よりは写しの方が価値は低いって感じですか?」


「そうでござるな。漫画でも初版第一発行は高額で取引されるが2番目は一気に落ちる。それと同じでござる。それでも盗まれた写しも300万は下らんでござろう」


「ええ? じゃあ初版版は?」


「1億くらいでござる」


「ええええ? 同じ術を覚えるだけの巻物なのに?」


「まあそうでござる」


「因みにどんな術ですか?」


「筋力増強の印の結び方を記した巻物でござる」


「印?」


「忍術というのは複雑な十六の印を、一秒間に四回の速さで結ぶことで、初めて効果を発揮するのでござる」


「あ、もしかして印って手の形を特定の形にしたら1で、次の形に結び直すと2と言った感じですか?」 


「呑み込みが早いでござるな」


「それを16回も? 記憶力と反射神経を求められる作業ですね」


「そう、それを4秒以内に行えば、たちまち筋力が2倍に増強されるのでござる。遅れると上昇すれどその効果がは1.7倍程度に下がると言う感じでござるな」


「へえ、じゃあ早ければ、熟練している程に効果が高いってことですね? なんかかっこいいですね」


「試しに実践して見せよう。こうやってやるでござるよ? ほい!」

シュシュシュシュ……

両手で印を結ぶ。一個終わったと思ったら即座に別の形に……次々に変え、あっという間に印を結び終える。照蔵の体が青く光る。

ぼわーん


「はや!」


「うむ、力が漲る!!」


「父さん! MPの無駄使いじゃない?」


「MPも減るのね?」


「大したことはないでござる。丁度いい。書斎の模様替えでもするでござる」


「のんきですね! 盗まれたばかりですよ? 犯人の心当たりはあるんですか?」


「分からん。じゃが慌てても返ってこないでござる。ぬん!」

ズズズ

素手で重い机を移動している。今模様替えを行う必要はないのにな。

ポト


「あれ? 何か落ちましたよ? 巻物かしら? ちょっと見ていいですか?」


「ああ、それは瘴影丸の姿を絵師が書いたものでござるな」


「ちょっと見たいです」


「ああ。構わぬでござるよ」

瘴影丸巻物らしい。机の上に広げて見てみる。

挿絵(By みてみん)


「ふーん……あれ?」


「姉さん早く行こう?」


「あ、そうね」


「どこに行こう? 葉隠探すにも心当たりもないし……もう一つ叫び声あったけどどこかなあ?」


「象牙細工があるところって聞こえたわね。じゃああそこかな?」


「案内して」


ーーーーーーーー照乃の部屋ーーーーーーーー


「母さん無事?」


「ああ照代……大変ですよ。象牙細工がいつも飾っている場所にないの。それに天目茶碗(てんもくぢゃわん)も一組消えているわ」


「どれくらいしますか?」


「茶碗一組が1500万円で象牙の方は300万円はします」


「めちゃくちゃお金持ちですね。そんなものを堂々と飾っているなんて」


「今までこんなことはなかったし、ここは罠が沢山設置されている庭の先にあるのに……そんな危険を顧みず盗みに入り込むなんて……信じられないわ」


「言われてみれば……やっぱり屋敷内部の人間の仕業なのかしら?」


「まさか?」


「このパニックを利用して盗みを働こうと思った人誰かがこの屋敷にいると思うんです」


「な、なんてことなんでしょう……」


「でも全く手掛かりがなくって。葉隠もいなくなるし」


「葉隠先生は毒で倒れたのではないの?」


「ええ、その後布団の間で休んでいたんですが突然いなくなってしまって」


「一体何が起こっているのです……」


「くそー、元はと言えばあのおっさんが悪いんだ」


「え?」


「え?」


「あの金属探知機使って私の可愛いいたずらを暴いたせいで大騒ぎになった……それで泥棒が……」


「それ、姉さんのせい……」


「同意ですわね」


「しょうがないじゃん。あんな神秘的な場所に神秘的な石……伝説の勇者を待っている祠なんだって思った。それにどこからともなく


【受け取れ】


って声すら聞こえた。それに従っただけ」


「姉さん自分のこと勇者って思う人なんだ……」


「自分をモブキャラと思って生きる人にはなりたくないわ。自分が唯一無二で特別製と思って生きるのと、そうでないのでは根本的に考え方が全く変わるわ」


「姉さんらしいわ。でも勇者と言うより賢者ね」


「勇者!」


「がんこもの!」


「その性格じゃ成長率低いわよ」


「な、何の話をしているのです?」


「あ、トラクエにはキャラクターに性格があって、性格次第ではレベルアップのステータスの伸びが変わるんです。いい性格はごうけつ。これは力が伸びやすく、きれものは賢さが伸びる。で、がんこものはどの性格も伸びにくいんですよw」


「トラクエですか……存じ上げませんね」


「母さんもやって見たら? 面白いよ?」


「私に出来るかしら?」


「てかこんな状況で勧めてもねえ」


「そうね」


「母さん、茶碗がない、って言ってたけど、どこに隠してたの?」


「え、象牙細工は私の部屋、天目茶碗はタンスの奥にしまっていた筈なのに」


「高額な美術品が二点……ふざけているわね」


「幽霊に盗まれたのかしら?」


「あのねえ……もし本当に幽霊


『瘴影丸』


の仕業なら、霊がやるべきことと泥棒がやるべきことが、根本的に違うでしょう?」


「幽霊がやるべきこと? ま、まあ確かに 幽霊が金目の物を盗むなんて、聞いたことないわ」


「そうよ。幽霊が屋敷の人間を混乱させたいなら、巻物(筋力増強の術)を盗むのはまだ理解できる。だが、わざわざ高額な象牙細工や茶碗を盗む必要はどこにある?」


「幽霊も、骨董品のロマンに目覚めたとか?」


「何言ってんの? 覚醒したとは思えない推理ね。おばさん、照乃さんの部屋も荒らされてた?」


「いいえ、それが全く」


「それよ。それこそが、幽霊ではない、生身の人間が犯人である決定的な証拠だわ!」


「え?  どういうこと?」


「考えてみて、おばさん。幽霊は象牙細工の価値なんて判らない」


「……言われてみれば、確かに不自然ね」


「そう、そして、部屋を物色しても必要以上に荒らさずに、ピンポイントで最も高額な品物だけを抜き取り、しかも痕跡を一切残さない……そんな芸当が出来る人物は、この屋敷に一人しかいないでしょう?」


「まさか……」


「葉隠よ。彼を万物調査で見たのよ。そしたら借金250万を抱えていた男。幽霊の騒動に乗じて、鍵開けのスキルを最大限に利用し、タンスを開けては締め、施錠された場所も開けては締めを繰り返している」


「でも毒で倒れたんじゃ?」


「いい加減にしろ! お芝居に決まってるでしょ!」


「うそぉ……」


「あの瞬間、幽霊が居ないと思わせたくないあまりにあのバカが咄嗟に考えた猿芝居よ! 奴の目的は、盗むことで忍びの幽霊の存在を


『強く』


表面化させると同時にこの騒ぎに乗じて本性をむき出しにした


『借金返済と逃走資金の強奪』


よ! 奴は今、metamaterialの部屋を鍵開けスキルで盗んだ透明マントを着た泥棒として屋敷の中を歩き回っているわ! 多分」


「多分……ね……でも実際に幽霊でなかった?」


「あ、あんなのあれよ……幻覚よ」


「そうは見えなかったよ? それが証拠に私、気絶したもん」


「むう」


「で、それが本当だとしたらどうやって探すの? 葉隠先生マントで隠れてこの屋敷のお宝をある程度盗んだら外に逃げちゃうよね」


「逃がさないわ」


「どうやって? 門番だって見えないのよ? 誰かが入ってきたらその隙にそこから逃げちゃうよ? ずっと門の前で見張ってるってこと? それともずっと閉じて置くってこと?」


「それも急いでお願い。で、奴は今単独行動をしている筈。確かにマントは姿を消せる。

でも、奴の体重は消せない。あいつは今、盗んだ


『巻物の写し』と『茶碗』と『象牙細工』


と言った品物を、一人で運んでいる。それ以外にもへそくりとかも」


「じゃあ耳を澄ませてどこを移動しているかを気付けばいいのね?」


「そう、今は除霊作業でワーワー行っている生徒たちを静かにさせないとね。そうすれば奴の活動音や小銭を持っていればチャリンチャリンって音も聞こえるはずよ?」


「なら今から屋敷全員に静かにしてって書いた紙を渡して実行してもらえばしっぽを掴めるかもしれないわね。

でも葉隠先生もその紙の内容を覗いてこないかな?」


「確かに! 今どこにいるかわかんないもんなあ」


「それに急に静かになったら葉隠先生も迂闊に足音を立てないと思うわ」


「見えない上に移動しているやつをどう捕らえるか……」


「葉隠先生の部屋に盗品をまとめてずらかるかもしれないわね。紙の作戦は中止ね」


「ええ、誰かにこっそり見張ってもらおうか」


「そうね」


「連絡しとくね。ええと葉隠先生の部屋の入り口を見張っていて。それと葉隠先生以外の全員に伝えて欲しいんだけど、静かにしてほしいの。幽霊を追い出す作業は中止ね。今盗みを働いているんだけど、兄さんと同じ方法で姿を消していると思うの。だから足音を探る為にみんなで協力して? そして足音が聞こえたり葉隠先生部屋に何かあったら急いで連絡してね……と、これで良し!」


「フリック入力早いね。しかも結構長文よね?」


「そうよ! 誰よりも早く思ったことを届けたいからね」


「まさかと思うけど、私のツイッターのDM、ほら、あの長ーい手紙もフリック入力で?」


「ええ」


「普通PCで書くでしょ?」


「慣れるとこっちの方が早いわ」


「え? フリック入力ってイライラするのよね。必要な文字を打とうと思ったら離した瞬間戻っちゃう場合もあるし、よろしくって打とうとしたら「よらしく」とか「よるしく」になってしまって……」


「ああ。私もフリック入力初心者時代はそのミス多かったわねw例えば


『ら行』


だと、


『ろ』


がフリックガイドの下に出るけど、らが中央なのよね」


「うん、え? フリックガイド?」


「フリック入力で十字に広がる部分のことよ」


「ああ、あれにも名前あるんだw」


「ええ、で、フリックガイドを下にスライドしたと思ったらを反映されず中央の


『ら』


になって打ち直す必要が出てきちゃうってことね?」


「そうそう。よろしくって打ちたいと思ってフリック入力で打つでしょ? そうすると


『や』


になっちゃう場合もあるんだよね? で、それを乗り越えて


『よ』


を打ち終えても、二文字目の


『ろ』


を打とうとすると高確率で


『ら』


に戻ってしまい、


『夜』


って漢字の予測変換や夜の絵文字が出てくるのよ? 嫌になってくるわ。それにそれだけじゃない。特に問題なのはこの小さい画面を見ながら書くってことなのよ。目悪くならない?」


「姉さん? まさかあなたほどの人がこの程度の位置だって言うの? 驚いたわ……」


「え? 何かおかしいこと言った?」


「ええ、かなりショックだった。姉妹の契りをお姉妹にしようか迷うほどにね……」


「そんな寒いダジャレを言う妹なんてこっちからお姉妹にしてやるわよ」


「じょ、冗談よ……嘘だからね? おかしな考えは捨ててね?」 

成程、照代は姉妹の契りを自分から申し出てしぶしぶ承諾してくれた関係を自ら切っちゃうんだからね! と匂わせ始めたぞ。それをあろうことか脅しの材料として使える! と考えたみたいだな……そんなハッタリが通用するはずなかろう。

アリサには全くデメリットが無いわけで、鎧袖一触振り払おうものなら光の速さで撤回しているのも惨めであるな。だがその浅はかな打算の無さや、秒で心が折れ、前言撤回して無かったことにしようとする幼さは、まさに妹というキャラクターの本質そのものと言える。真田行家で新たに生まれて誰も模倣しようがないジャンルの、


『年上系妹』


のパイオニアとしてこれから頑張ってほしいものである。


「今回だけよ? で、なに?」


「良かった……ええとね? フリック入力超上級者の私が教えてあげるけどね、フリック入力中に画面なんか見ないのよ? どの位置にどの文字があるかを完全に把握しているし、どれくらいの長さをスライドしておけば文字の変換が可能とかも指が覚えている。そんなことは当然として、入力中によく使っている言葉なんかは予測変換で出てくるわね?」


「うん」


「その予測変換が出てくるには何文字打てば出てくるかまでも脳内で把握している。だからほぼノールックで一気に記入することも出来るわ。ある程度書き終えてちらっと完成形を見て、ミスがあったら直す程度。その程度の短時間画面を見たところで視力なんて悪くならないわよ」


「そうなんだ。で、でも腱鞘炎にはなりそうね。くっ……!」(まさかここまで出来るとは……やるわね)


「私は一応新聞記者。書くことに関してはプロなのよ? それに、ブラインドタッチなんて古いわ。そんなのね、古代人の技術よ。

確かに早いかもしれない。でもそれは既に起動されていて、入力できる環境だからよ? もし取材中、偶然事件が起こってその状況をメモしたいとか撮影したい場合は全く違うわ。その現場で起こった一瞬の出来事をメモしたり画像に残したりするためにまさか重いPC鞄から取り出して落ち着いたカフェで起動まで少し待ってメモ帳起動して書いたり、外付けUSBWebカメラで撮影なんてするバカはいないわ」


「か、返す言葉も見当たらないわ……この場合は明らかに携帯のフリック入力の方が早いわ……名新聞記者だもんね……確か」


「あ、よく覚えてるわねその響き! 美しい!!」


「私もフリック入力も勉強しないとなあ……」

照代がアリサを論破する珍しいシーンである。


「姉さんはやってないんだ」


「ずっと脳に書き込んでるから」


「え? なにそれ? 忘れちゃわない?」


「それが忘れないのよ。今のもそうでしょ?」


「名新聞記者か。一話の話だったからもう6年くらい前の話よね」


「いやいやwwそれが起こった日が7月23日で、今が8月2日だから数日前の話でしょwwどんな記憶してんのよ! この馬鹿妹!」

アリサの記憶力は異様なほど高い。しかし連載6年にしてこの世界ではまだ10日しか時が経っていないのか……なんか不思議な気分である。


「そっか、うっかりしてたわ。でもそっちの方がすごい! だって私はただ思ったことを早く書けるだけ。でも姉さんは昔のことでも正確に思い出せる。流石姉さん!」 


「でもフリックより今は音声入力よね。喋ればそのまま文字に起こしてくれるし」


「う……」

言われたくないことを耳にしてしまったか?

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