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真田行家 照男の部屋に

風呂上がりのアリサ。照代の兄、照男の部屋の前に再び到着する。すると異変が。

「あれ? さっきあったカードがなくなってるよ? 一体どこに……?」

キョロキョロ


「そうね。兄さんがさっき風呂場から逃げた時に、部屋に帰ったのかしら? それで入口でカードに気付いて持っていったのかも知れないわね」


「そうかもね。じゃあもう見れないのか」


「あ、一応携帯で撮影はしてあるわよ」


「そうなの? そう言えば呟いてたもんね! やるじゃない!」


「う……実はまだなんだけどね」


「え?」


「ツイートよ」


「え、そういえばツイート出来たって言ってなかった?」


「あれはフリでござるよ。実際は撮影しただけでそこまで出来なかったでござる……あと一回押すだけで出来たのに急に指が止まっちゃった……」


「え……何でそんなフリを?」


「わからない、でもそういう未来を願っていたのかも……実際は出来なかったけど、いつかは出来るようになりたいって」


「そうなんだ。でも今までは簡単に出来たことが出来なくなるって相当辛いでしょうね。前なんか毒から復活した直後でも起き上がって毒が回って青白くなった顔を撮影してみんなにシェアしてたって言うのにさ。あれは異常だったけど、そこまで出来たおばさんが今はこんなしょぼくれてるんだもんね。人はどうなるか分からないわね」


「そう……その辺はおぼろげではっきりとは覚えていないけど、毎晩楽しみの過去のツイート振り返りタイムの時そのツイート見たけど、自分とは思えないくらい不細工でござった。思わず目を逸らしてしまったでござる。毒って人の顔すら変えちゃうのでござるよね。はあああああ……」

長い溜息をする。


「でも今は見れる顔よ?」


「一応解毒したからね。でも写真撮影したら脊髄反射で出来てたことを躊躇って……それどころかアリサの前で良く見られたくって本能的にツイートするフリなんてしちゃうなんて……我ながら情けないわ。昔は撮影とツイートなんてセットだったのに……出来なくなっちゃったなあ……いつからかしら?」 


「ああ、毒の恐怖のせいでルーティンすら守れなくなったのね……あと老化もあるわ」


「そうなのね……はぁ……もう戻れないのかな……」


「大丈夫、私は来年12でおばさんは31。ただ、それだけの、ことさ……」


「全然大丈夫じゃないでござるうう。嫌でござるううううう具体的な数字を聞きたくないいいいいい」


「涙を拭いて」


「ぐすっ、誰のせいで……で、その暗号もう一度見るの?」


「うん」


「これよ」


「ああ、なんか嫌な感じしてたんだよねこの暗号」


「何がでござる?」


「さっきの毬栗との話を聞いた後だと尚更にね……このカード、


『男女』


って文字が、余計に鼻につくわ……」


「まだ言ってるの? 執念深いでござるなあ。蛇よりもヘビーな……それでいて、スッポンが雷を待つレベルの、強烈な粘着質でござるな」


「雷が鳴っても離さないわよ。この暗号の違和感が解消されるまでは、地球がひっくり返ってもね」


「アリサにだけは敵対しないでござるでござる」


「でも確かに、普通の警告文にしては異様よね」

アリサは画像を拡大し、特に


『女』


の文字に注目する。

挿絵(By みてみん)

「見てよ、この女の文字だけ逆さでしょ? さっきのくノ一の話じゃないけど、分解されたり、裏返されたり……男だけは正常なのにさ、女だけが常に不安定な状態に置かれているわ」


「そう言うことね? でも……ただのプリントミスじゃないかしら?」


「そうは思えないよ意図的にこうしている気がしてならない。それにさっきの話になるけど毬栗は、男は消耗前提の忍者で、女は生存前提のくノ一だって言ったわ。でもこのカードには


『男と女の逆さにした文字はお勧め出来ない』


って書いてある。つまり、使い捨ての男も、温存される女も、どちらの生き方も否定されている……? もしかしてこれ、忍者という職業そのものへのアンチテーゼなんじゃない?」

アリサは名探偵の血と、先ほど毬栗との話の中で起こった


『男:女=9:1理論』


を強引に結びつけていく。そう、まだあの話を引きずっているのだ。執念深さが蛇よりもヘビーだなあ。


「そもそもアンチテーゼが分からんでござるぅ」


「説明しないわよ? 面倒だし……あ、待って。男(9)と女(1)を足して10。だけど、それを


『お勧め出来ない』


そうか、わかったわ! これは10、つまり10という完璧な存在なんてどこにも居ないってことを、あの地獄の閻魔でさえ、自作自演で死んだふりをするような


『欠陥品』


だったわ。だから、この世界に完璧なんて存在し得ないのよ。それをこの支離滅裂なセンテンスで表現しているんだと思うわ」


「ちょっと待って? 閻魔様を欠陥品呼ばわりは酷いし、10という数字が完璧って言うのもアリサの感想ですよね? 証拠はあるんですか? そんな推理破綻してる気がするのよね。さっきの


『もろちん』


辺りから脳の迷走が止まってないでござるよ! お主は何回か倒れているはずでござる。少し落ち着くでござる」


「うるせえ。10は完璧な数字だ! 古文書で見た。それに男が9で女が1。その合計は10だろ? これ以上は膨れ上がらない。だからこの話の中では上限、故に完璧という考え方でいいのね? それに一回間違えただけだろ? 何でそこだけ覚えてんだ?」


「いや、対比を堆肥とか大差を大佐もあるわよ?」


「おいおい……どんだけ私のファンなんだよ……んなこと誰も覚えていないでしょ……熱心なアリサファン乙」

どうしてそうなっちゃうんだあ?


「それは否定しないわ」


「その調子でずっと私の後を追い続け、寿命を迎えなさい。でもそれしか楽しみがない人生って本当に楽しいのかしら? まああんたの価値観だし、私がどうこう言う物でもないけど」 


「それでいい。最早アリサは私の拠り所でござるゆえ」


「はあ、この普通に生きてるだけで溢れ出るカリスマ性……どうにかならないものかしら? でもしょうがないのも認める……持って生まれたあれやこれやだからね……私がなんやかんや努力してもしょうがないんだよね……もどかしいよ……でも、気になるのはこの女がひっくり返っている違和感よ。まるで、自分の性別を拒絶して、女であることを逆転させようとしているみたいな? 違うか? うーん……ダメね、まだピースが足りないわ。一旦ここでストップしましょう」


「そうでござるね。じゃあ兄さんの部屋に入ってみようか? それがメインだもんね。早くしないとお見合いが遅れちゃうし」 


「悔しいけどそうする」


「私もここに入るのは初めてかもしれない……罠が仕掛けてあるかもしれないから慎重に行きましょう」


「そうね」

アリサと照代は部屋を調べることに。ふすまを開けると、12畳程の部屋であった。一人部屋にしては大きめである。正統後継者として相応しい扱いということだろう。そして夏なのにひんやりとした空気が流れ込む。エアコンが常に効いているのだろう。


「あら、ここすごい涼しいわ。寒いくらいよ?」


「いいエアコン使ってるね」


「まあ一応正統後継者だもんね。じゃあ慎重に目の前のマスを武器を振って罠検査しながら進みましょう」

トコネルの大冒険の基本動作であるな。まあ途中から面倒になって突っ切って落し穴に落ちるのがデフォであるが。


「武器もってないよ?」


「素手でも大丈夫よ」

畳敷きの床は無駄な物を排しており、入口のみ数枚の木の板が張り巡らされている。畳とフローリングの混合床なのだろうか? 床をパンチして罠を探すという謎の行動を繰り返し奥に進むと、低い木製の机が置かれている。書斎だろうか? その上には筆と墨、和紙が並んで、書きかけの巻物らしき物が数本転がっている。 かなりの達筆で、上手なんだかそれとも単純にへたくそなんだか分からない。そこに記されているのは、忍術の心得、変装の極意のように見える。PCも一台置いてあった。この辺は現代に合わせているのだろうな。そして何故かイロハ二組の先生の写真が一枚ずつ置いてあった。そして、机の後ろにある本棚には、忍術の本や歴代の忍者の物語、歴史書などが並べてあり、どの本も栞が挟まれていて、読まれた跡があった。どれも中途半端な所に挟まっており、読破する気は見られないな。ここから正確な性格が割り出せそうでもあるな。


「へえ、近代のPCと巻物が混ざっているわ。へんなの」


「まあ仕方ないでござるよ。いつまでも書に残すのは流石に不可能でござる」


「確かにね。巻物だらけじゃいずれは部屋が埋め尽くされるもんね。この巻物もデータ入力後には燃やされるんでしょうね」


「嵩張るしそうなりそうでござるよ」

そして机の横に置かれた木箱の中には、既に完成している真田行流忍武術の忍術 (火遁や水遁など)一子相伝の巻物が納められている。

そして一番違和感を覚えるであろうものが部屋の壁にいくつも存在している。それは、武器類である。それらが整列して配置されている。かなり立派な装飾がなされており、芸術品と見間違えるほどに美しい苦無(くない)が数本、すぐ取れる様に並んでいる。手裏剣もあり、その種類は十字手裏剣、そして刺さったら引き抜きにくい卍手裏剣までもがある。恐ろしい……殺傷能力の高い物をこんなすぐに手に届く場所において危険ではないのだろうか? 地震でも来れば一発で床に散らばるであろう。さらに、壁の一角には直刀が掛けられていた。その刀には名前が……佑助(うすけ)のカタナと書いてある。それらを見渡しながら一歩部屋に入る……すると?


「へえ、それっぽいねえ」

すっ ギイ


「あっ?」


「ふふふw」


「これ何?」

入口の床板の一部を踏むと、部屋全体に軋む音が響く細工だ。流石長兄の部屋だ。これを聞けば一瞬で部屋に忍び込んだ存在を暗闇でも認識可能だな。こんなものまで施されているのか。確かこれはウグイス張りという物だろうか? そう、板の部分はただのフローリングではなかったということだな。この特殊な床の構造は防犯の目的で作られたものか。ただ気になるのは、この部屋意外にその細工は見られなかったということ。まあ兄は恐らくこの屋敷の正統後継者。特別扱いされているのかもしれぬな。


「ええとね、確か……郭公(かっこう)張りだったかしら?」


「それを言うならウグイス張りでしょ? でもこの部屋全体ではなくて入り口だけ音がする床なんだ」


「侵入者除けでござろうなあ。これも罠の一つでござるよ。でも部屋全体がこれじゃ五月蠅くて歩けないでござろう」


「ああ、そういうことね。でも忍びなら自分の部屋でもこんな音を出さないで行けるんじゃない?」


「自室くらいまったりしたいでござろう」


「そうね。こんな所かしら? もう終わりにしよう」

だが、この時点ではアリサはまだ見つけられないが、机の下には秘密の入り口がある。その奥には密書や貴重な道具が収納されている小さな空間が現れている。さらに、その隅にカラクリがあり、それを操作すると隠し武器庫が現れる。中には鎖鎌や吹き矢、分銅鎖(ふんどうくさり)といった特殊武器が揃えられていた。これは……この武器の数々、あの鍛冶屋から受け取っているのだろうな。この量、戦の準備でもしているのか? 分からぬ。

他にも竹筒や薬草が置かれた棚がある。竹筒は水遁術に使うもので、長時間水中に潜む際必要となる道具だ。薬草の中には、速足の薬や傷薬、そして毒薬も含まれている。パソコンやエアコンからのこの落差。不思議な感覚である。

部屋は2つに分かれており、障子の向こうには小さな囲炉裏があり、そこには密偵からの報告書が隠されていることは照男だけが知っている。

一見の炉端の隅に見えるが、火を消し、特定の石を持ち上げると、薄い巻物が顔を出す仕組みになっている。

夜になれば、灯りを落とし、目を閉じて集中する。 香炉には心を鎮めるための香が焚かれ、座禅用の座布団の上で瞑想にふける。 忍者は己の身体だけでなく、精神も研ぎ澄まさなくてはならない。机の脇には囲碁や将棋の盤も用意されており、それは趣味というわけではなく、戦略的思考を磨くためのツールとなる。

そして、いざという時のために、地下室には抜け道もあり、一角にある床板を外に出したら、更なる地下へ続く隠し通路が顔を出す。この道は敵の襲撃時にすぐに脱出する為の物だ。


「ちょっと待って? この書斎なんか本格的ね。意外と堅物なの? ブヒュヒュヒュ野郎は」


「そうみたいね」


「あっ! このパソコン最新型だよ。欲しいなあ」


「盗んだら怒られるよ」


「でも私の風呂を覗きにきたと思いきや、いかがわしい本は一切ないし……なんで?」


「アリサを狙う蚊を退治してくれたんでしょ? 分からないの」


「でもすごい目がいいよね。あんな湿気の多いところに蚊がいるのを見極めてしかも死なせないように真っ二つにするなんてさ」


「一応最強の忍びらしいからね」


「私の印象じゃあ純情な男って感じだったけど、そのギャップがいいわね」


「いいの? それって好きっていうことでござるですね? 36と11のちょっと年の差夫婦だけど兄さんと結婚、出産でござるか? そしたらアリサが姉さんになっちゃうんだね。まあそれもいいかもでござる。友達が姉さん。最高でござる!!」


「それはちょっと……でも、ここ忍者の部屋よね? じゃあどこかに隠し扉なんかがあって、それ専用の書庫になってるかもしれないわよw」


「そうかもねwでも何で先生たちの写真があるのかしら?」


「そういえば皆、私服着てるよね?」


「本当だわ。何でこんな写真が……」


「あの俊足を生かして隠し撮りでもしているんじゃないの?」


「なんでよ?」 


「確かに、何が目的なのかわからないわね。まあ調べられるといったらこれくらいよね?」 


「もうちょっと調べる!」


「そろそろお見合いに行かないと」


「押入れがあるけどここも見たいの」


「もう、しょうがないわね」

そう言いつつ押入れを開ける。

スー


「中は……あら? ダンベル? それにパワーアンクル? ハンドグリップもある! なんで?」


「これで鍛えてるのかもね。それであのスピードを維持しているのかしらね?」


「近代的な筋トレねえ。グッ……持てないわ」


「無理しないでアリサ。もうこの辺でいいかしら?」


「わかったよ、おばさんの人生がかかっているんだもんね。この辺にしておこう」

アリサは未練がましそうに最新型PCを見つめながら、ひんやりとした部屋を後にする。

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