真田行家 忍術学校イ組教師 毬栗 家夢
イ組の前に来ると静かだった。
「隣のイ組は、卒業間近の生徒が勉強する所で、より実践的な……例えば真田行流忍武術の中でも特に剣術、格闘術、忍具の扱い方、大勢に囲まれた時に逃げ切る技術なんかを教えているって聞いたわ」
「へえー、本当に忍者の学校なんだねえ。でも剣術や格闘技をやってるとは思えないほど静かじゃない? 神隠しにでもあったのかしら? 忍者屋敷だけに」
「関係ないでござるよ」
「でも普通
『やあー』
とか
『とおー』
とか聞こえるのにね。でもよく考えたら室内で剣術って危ないよね?」
「実技は庭でやるはずでござるよ」
「そうなの? じゃあ教室内では基本的な型とか? そんなことを教えているのね?」
「その筈だけど……先生の声も聞こえないわ。あ、そういえば瞑想の授業なのかしら? お邪魔していいのかしら?」
「瞑想? 忍者には必要ないんじゃない?」
「うち独自の教育なんだって。瞑想はいいでござるよ?」
「誰にそれを教えてるのよ。私は迷走……瞑想のプロなのよ? 釈迦に説法よ」
「そうなんだ。でも言葉のプロとは言えないわね。だって今、言葉の選び方で迷走していたわ」
「誰だってミスるでしょ」
「でもね? 気づいたら書き直しておけばいいだけなの。それを怠った時点で言葉のプロではないわね」
「吉備、厳しいねえ」
「まだ迷走してるみたいね」
「なんか脳が疲れてるのよね」
「あれだけ微毒入りのごはんも食べれば眠くなったって感じか……でもまだ瞑想終わっていないみたいね。どうしようかしら? 早くアリサに先生を見てもらいたいし、ちょっと覗いて様子を見てみましょう」
スー
ふすまを10センチほど開けて覗き見する。
すると薄暗い教室の中で生徒全員正座して瞑想していた。だが、台本でもあるかのように。
「よし! 瞑想終わり」
との声が響く。
「あ、終わったみたい。じゃあいってみよう!」
ふすまを開ける。
「こんにちは! ちょっと見学に来たのだけど今大丈夫?」
「これは照代さん。今日も綺麗ですね。今、丁度瞑想が終わって休み時間なんで授業はないですけど話なら出来ますよ。おや? お嬢さん、初めまして。拙者、毬栗 家夢と申す。イ組の教師をやっています」
「毬栗さん? 初めましてアリサです。人間です」
ロ組を見た後で、普通の人間が出てきたのもあり安心し、種族までも言ってしまう。
「え? なんだいそれ? 変な自己紹介だね? そんなの見れば分かるよ。それともアリサちゃんはそう言わないと何かと間違われるとでも思ったのかい?」
「べつに」
「そうだよね? どう見ても人間だよ? で、人間のアリサちゃんは忍術に興味があるんだ? でもここは上級クラスだ。格闘技や、剣術、忍具の扱い方、忍犬の調教方法や忍び料理の調理法など、実戦に必要な知識を教える所さ。まだここを受けるにはちょっと早いかな? 二組から頑張ってくるんだね」
「そうですね、頑張ります。人間ですもの」
適当に返すアリサ。
「よし、その意気だ! 君は良いくのいちになるぞ」
「くのいち?」
「あ、ごめん。女の忍者のことさ。僕としたことが素人相手に専門用語を使ってしまった……」
「専門用語ってほどじゃないでござるよ」
「そうですか? 一応説明します。アリサちゃん? 女って漢字は3画で、
『く、ノ、一』
の順に書くでしょ? そこから女の忍者のことをくのいちと言うんだ」
「へえ、「く」はひらがな、「ノ」はカタカナ、「一」は漢数字なんだね。バラバラで支離滅裂。なんか嫌い。それにどうして女って漢字をばらしたものが忍者として使われるの?」
「ああ、そう言えばそうだよね。うーん……そこまでは考えたことないなあ。でも昔の人は良く思いつくよねー。すごいと思う」
「この殺……頃からなんだね」
ぬ?
「ん?」
「え?」
「男尊女卑」
「んん??」
困惑する毬栗。
「どうしたのアリサ? また迷走? 今、殺す言いかけてなかった?」
「うるせえ、気のせいだ」
「ならいいんだけどさ……でもなんかくノ一に関して文句があるように聞こえちゃったよ。でも気のせいだったかあ。よかったよかった」
「ああ、違うんだ。それはある。しっかりと」
「な、なんだい?」
「男は忍者。忍ぶ者。かっこいい響きよ。それに引き換え、女はくのいち。漢字一文字をバラバラにしてこじつけて……要するにただの女じゃない、酷いと思わないの? だったら男の忍者だって、二つに分けて田力と書いて「でんりき」とか、三つに分けて口 十 力とかにするべきなのよ、平等……いいえ?
『公平』
にするのならね。
昔から、女だけこんな風に虐げられてきたと思うと吐き気がするわ」
「くノ一ッて差別用語なの? 毬栗先生?」
「そ、そんな……知らないよ。でも、考え過ぎだと思うけどなあ……くのいちは響きが良いじゃない? それに引き換え田力はまだいいとして、口十力は言いにくいしかっこ悪いよ」
「今までそうやって女を蔑んできたんだから、その反省も込めてこれからはそのかっこ悪い響きで名乗るようにしなさい」
「い、いやそれは僕の一存では決められないし」
「女だって分解して読んだんだ! 男だって同じ目に遭うべきよ!」
「ちょっと! 考えて見てよ! 忍者って普通男がやるものじゃないか?」
「そうなの?」
「そうだよ! 辛い任務は全部男の仕事なんだ!」
「例えば?」
「うーん……そうだね……城・砦・敵陣営への潜入、夜間偵察、護衛の動線確認、兵数・武器・食糧の調査。それに、火付け・陽動、伝令・連絡役と結構体力が必要なんだ。これって全部危険度が高めなんだ。発覚すれば即、死が待っている」
「へえ」
「流石先生! 博識ねえ! かっこいい!!」
「え、そうですか? でへへ……で、それに引き換えくノ一は使用人、下女、侍女、芸者・遊女、商人の妻・娘として入り込み、家中の人間関係、主人の癖・弱点、秘密の会話、女同士の噂話を自然に集める。情報収集とかが主な仕事なんだ。当然普段着で忍者らしい姿ではないよ?」
「ふむふむ」
「世間一般の忍者のイメージと言ったら、戦ったり忍術で隠れたりするものだと思ってはいるだろう。だけど結構地味だけど危険なものが多い。それをこなせるのは基本男であり、それをわざわざ男忍者なんて言う必要がないんだって。それに女の忍者は男よりも少ない。これは、長期潜伏、身分偽装、生活への完全同化が必要だから、一人育てるのにも相当時間がかかり、使い捨てにはできないんだ」
「むう」
「だから数は増えにくい。これは忍者を目指す女性は珍しいからくノ一って言う別名を名付けただけで、悪気はないんだって。男尊女卑なんてないんだ! 忍者は消耗前提で危険度が高いし数で回す。つまり任務に出る度に死が付きまとって回る仕事。それを覚悟を必要とする職業なんだよ。それに引き換え女忍者は生存前提でなくてはいけない。精密任務で情報の質が最優先。だから
『いてくれないと困る存在』
なんだ。役割こそ違えど0では困る。でもそこまで多くある必要はない。それがくノ一なんだ! それに、いち! そうだよ あなたが一番ですって敬意をこめて、くの『いち』って呼んでいるんだよ! きっと! ね? そう思わない?」
アリサの勢いに押されそうになるが 解決の糸口を提示し、一安心する家夢。
「成程ね。分かったわ。でもまだ疑問は残っている」
「何?」
「毬栗さんは今、くノ一の
『一』
だけは説明してくれたね? だったら後二文字
『くの』
はどう説明するわけ?」
「んんん?」
「今あんたは、くノ一は一番ですって言う誰でも見破れるシンプルな嘘をついた。だけど、それは一の説明をしたに過ぎない。そう、
『くの』
の説明を省いているわ。一に一番の意味があるってことは、くのにもそれ相応の意味がなくてはいけない。ゆえに、一が一番と言う意味ではないということが分かるわ。この嘘つき死ね。じゃあどう考えるか……それはね?
『くの1⇒9のうち1』
とも言い換えられない?」
「わき……わからないよ」
思わず噛んでしまう毬栗。
「わきらないのね? 臭そうな響きね……ま、そんな言葉はないけれど、名探偵のひ孫であるこの私、アリサ様ならこの程度の謎などニュアンスで汲み取ったわ。分からないって言いたかったんだよね?」
「そんなの誰でも分かるだろう……で、9の内1って言うのは? 分からないんだ教えてくれ」
「じゃあ教えてあげるわ。つまり、男の忍びはフルパワーで沢山の仕事が出来るスッゲエ存在。数値化すると9ポインツものステータスがあるけれど、情報収集しか出来ねえ弱ええ女は1ポイント止まり。そう、女なんて男の9分の1程度の実力しかないんだよっていう暗示では? くのいちって言葉、組み合わせれば女と言う聞き心地の悪い響きになり、分解した状態では男より遥かに能力が低いという暗示を含めて蔑む。最悪だよ。あー、つまんねえ」
そうなのか……確かにそういう解釈も……あるわけなかろうもん!
「か、考え過ぎだよ」
「ねえ毬栗? ……私、そもそも『くノ一』って呼び方、あんたから聞いた瞬間に好きじゃないって気づいたの。
だってそれ、名前じゃないでしょう。ただ『女』っていう言葉を、バラバラにしただけ。
『おんな』
って響きも、昔からちょっと苦手。
誰かとして呼ばれているんじゃなくて、まとめて箱に入れられているみたいで。
人じゃなくて、性別だけを指さされている感じがするの。
男の忍びは忍者。忍ぶ者。これ、普通にかっこいい。
ちゃんと一つの言葉で、完成した存在として呼ばれている。だのに、女だけどうして分解されなきゃいけないんだろうって思う。
しかもね……
『くノ一』
って、響きはいいんだけど、偶然数字が2つ入っていて、それが男と女の堆肥……対比に見えてしまったのよ。10点満点として男は九。その内の一が女、ってね。9:1よ? これって結構な大佐じゃない? 大差じゃない?」
「うう」(今この子、堆肥と対比を間違えた……その後も普通の顔して大佐って言った! 中佐の上の! しかも悪びれることなく自然に言い直した! でもつっこんだら怒られるつっこんだら怒られる)
「毬栗も気付いたんだよね? えらいぞ? そうなの。そう読めなくもないでしょう? もしそうだとしたら、男は十の内、九つ分の力を持っていて、女は最初から一つ分しか与えられていない、って言われているみたいで……どんなに努力したって男には勝てないんだぞ! って言われているみたいで……もろちん……もちろんそんなつもりで作られた言葉じゃないって分かってる。
でも、そう考えてしまう余地があること自体が、私は少し、悲しい。名前って、本当はその人を守るもののはずなのに。
呼ばれた瞬間から、少し小さくされてしまうみたいで……それが、どうしても好きになれないの……って小さいは余計よ!」
「もろちんはだめだよ」(しまった! 我慢できなかった!)
「うるせえ。あれだけ長いセリフを吐いている途中でちょこっと間違えただけで突っ込むな。でもその部分しかつっこめなかったんでしょ? 他が正論過ぎて」
「もろちん」
「お前も間違えてるじゃん。お前は言葉数が少ないのにその少ない言葉を全部間違えちゃあ駄目だ。お前は本当にダメな子なんだね。そんなお前に質問だ」
「なんですか?」
「さっきアリサの考えた田力とかは響きはどうなの? 素晴らしい響きでしょ? 早速辞書に登録してもらおうと動き出さないの?」
「そんなこと思いつくわけないだろ」
「ああ、お前も所詮女子供が考えたことなんて受け入れて貰えないのね……結局この時代でも女子は差別されるのね……」
拗ねてしまうアリサ。
「で、でででででも確かに女忍者だけくのいちって別名があるのは不思議だよね。今度実家に古い書物が沢山あるからその中に答えがあるかもしれないので調べてみるよ」
「そう言えば毬栗先生は実家は一体どこなの?」
どうやら照代も知らなかった様で尋ねてみる。すると……意外な答えが……
「実家は東京です。江戸城」
「え? 泥鰌?」
「江戸城ですよ。実家が泥鰌なんて人間居るわけないでしょう? 僕どれだけ小さいんですか?」
「小さいは余計よ!」
「TPOをわきまえて下さいよ……今の小さいはどう考えてもアリサちゃんに言った言葉じゃありませんよ! それに実家が生きている泥鰌だとしたら普通に食べられてしまうでしょう?」
「いいねえそのツッコミ。でも小さいは妥当よ」
「そ、そうですか? じゃあでもって言わないで下さい。あ、アリサちゃんてもしかして小さいは○○よ! って言いたいだけなんでしょ? アリサちゃんの一つのネタとして言いたいからそのワードが出る度に言うんでしょ? もうつっこみませんよ?」
「好きにしろ」
「でね、私は徳川の血を引いているんですよ 毬栗と言うのは母方の名前で、本当は徳川家夢なんですが、病院とかで呼び出される時に目立つので母方の姓を名乗るようにしています。
病院で、徳川家夢さん3番診察室においで下さいなんて響いたらみんなに注目されてしまいます」
「じゃあ江戸幕府が続いていたら将軍様だったってことなのね。すごい人がうちにいるじゃない! 因みに何代目なの?」
「28代目です」
「え? 28代目ぇ? 江戸から今までえっと……157年でしょ。前の15代までが260年かかってるんだから、普通に計算すれば今は24代目あたりが妥当よ。なのに28代目ってことは……あんたの先祖、よっぽど短命だったか、あるいは不祥事でも起こしてコロコロ代替わりしたってことでしょ? 伝統があるんだか無いんだか分かんないわね!」
「そんなこと言ったって……たしかにそうだね。何でだろうね?」
「分からないでござる」
「うーん……ま、いいか。でね、僕は以前、自衛隊に所属していました。そこでのノウハウと、徳川家の残した忍術を融合させたものを私は編み出しました。名付けて、
『冥王笑止千万流』
というんです! 素晴らしいでしょ? ここで教師をやろうと思ったのは、生徒にもこの忍術を体得してもらい、幕府再興の足がかりとするためです。
沢山の冥王笑止千万流を会得した忍者を世に出し、日本の自衛隊と肩を並べる迄成長させ、日本を守る部隊にして実績を積み、ゆくゆくは防衛省に忍者庁という外局を作りたいのです。
今ある忍者の資格は、言っても趣味の範囲から出ることの出来ない中途半端な資格です。
忍者庁では、新しい、より実戦的な強い忍者部隊を作ることも考えています」
何がなんだか分からないが、とにかく意識が高いことを言っているのはわかる。
「冥王笑止千万流て……あなた何歳なの……真面目な人だと思っていただけにショックだわ。真田行流忍武術をその流派で上書きしようとしていない? 伝統がこいつの流派で崩されるかもよ?」
アリサが食いついたのはそこだけだった 毬栗はアリサの言葉を無視し
「そして、日本の政治にも介入し……」
まだ喋るつもりである。
「もう分かったわ アリサも大体分かったかしら?」
「え? これからいいところなのです」
「うん、いいと思うよ。十分分かったわ。じゃあ出ましょう」
外へ出て最後のプチ会議を行う
「アリサ、毬栗先生どうだった?」
「第一印象は最高ね。でも、いいところのお坊ちゃんって所が出ていたし、中二病を未だに患っている気がしてならないわ。一歩間違えれば世界征服を企む様な組織のトップになりそう」
「ふーん 色々な見方があるのね、私はそんな風に見えなかったもの。と言うか4人の中でどの人が良いと思う?」
アリサの考えは決まっていた。
「うーん、路募山先生かな?」
どんな家庭を築くのか。そしてどう破滅していくのか? 知的好奇心から一択であった。
「え? そうなの?」
意外そうな顔をする。
「ところでおばさんは誰が良いと思うのよ? はっきりしなさいよ」
「そうか、アリサは路募山先生がお気に入りか」
いや、違うのだが、と言いたい気持ちを抑え冷静に……
「うん。彼は誠実だし、プ。おばさんをきっと守ってくれると思うよ」
笑いを堪えつつ言うアリサ。
「そうか、そうよね! まだ決定ではないけど参考にするわ。
私は、まだどの人にするかは決められていないわ……お見合いで決めないといけないわね」
「優柔不断ー」
「一生に一度の問題だし、しっかり考えなさいってあんたも言っていたでしょ」
「人によっては一度で済むとは限らないんだよなあ」
「うるさい! 離婚前提で話す馬鹿がいるか! 夢が砕けるわ!! あら、もうこんな時間ね。だいぶお腹も減ったし、夕食に行きましょ」
4つの先生の教室を見ているうちに日が落ちてきている。二人は昼食を食べた部屋に戻る。支度はすっかり整っていた。昼には居なかった照代の両親も着席していた。
「あ、初めましてアリサです。うわー、昼とは全く別のメニューじゃない! こんなご馳走見たことないー。ほんとに良いねこの家、ずっと住みたいわ」
色とりどりの和食に目移りが止まらぬアリサ。
「おお、噂通り可愛い探偵さんでござるな。拙者は照代の父 照蔵でござる。
こちらが妻の照乃でござる。昼は会えなかったでござるな。ちょっと病院へ行っていたのでござるよ。寄る年波には勝てないでござるからなあ」
「どこか悪いんですか?」
「ちょっとばかり腰が言う事を聞かないのでござる。もう3年目になるでござるが……なかなか良くならんでござる」
「そうなんですね、お大事に」
いい子ぶるアリサ。
「おお、賢い上に優しいんでござるなあ。兄の嫁に欲しいくらいでござるよ」
「え? 年が離れすぎてますって……」
「だ、だよね。そして、噂の彼も今も高速移動しています。名前は照男です。これ、自己紹介しなさい照男」
ヒュヒュヒュヒュ。音が近づく。
「照男さんって言うのね? 何度か気配は感じていたけど、初めまして。こんなに近くにいるのに見えないってすごい技術ね。アリサよ、よろしく」
ブヒュヒュヒュヒュ ブヒュヒュヒュヒュ 空間が赤くなる。
どうやら鼻血が出てしまったようだ。音が遠ざかりふすまが閉まる。
「鼻血出して逃げちゃった。なんか可愛いわね……ん?」
と、ここでアリサは妙な感覚に捕らわれる。
「照蔵の妻、照乃です。娘が世話になったわね、沢山食べてってね」
「はい、よろしくですう。あれ? そういえば……まあいっか」
だが、空腹のせいでそれを振り払う。
「じゃあ食べよう。お腹が減ったし、これからお見合いですもの」
昼食同様少量毒が入っている事実を頭に入れつつ、腹八分で終える。
「ごちそうさまでした。はあ、幸せ」
「アリサ、お見合いもうすぐだし、一緒にお風呂にいこう」
「え? 眠いのに……でも今回はいいか」
アリサは知っていた、食前に湯船に浸かると、全身を巡っていた血液が消化器官に集まるまでに時間がかかるため食欲が抑制されることを。入浴は、食事前に済ませておかないと胃や腸に集まっていた血液が入浴によって全身に分散されてしまい、消化がスムーズにいかずに、体が苦しいと感じてしまい本当はいけないのだ。だが今はそんなことを言っている場合ではない。
豪華な屋敷のお風呂。一度くらいその決まりを破っても大丈夫。この経験をするために今まで健康的な生活を続けてきた。ここでチートデイ発動だあ! と快く返事をするのだった。
「はいっ!」




