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ミトリダティズム?

「うーん」


「どうなされましたか?」


「私が毒で生き残った理由が分かったばかりなのに何を悩んでいるんでござるか?」


「毒を扱ってるんだよね? 誰かに悪用されたりしない? ちょっと怖いなあって思ってさ」


「え? ああ、その点は問題ございません。その毒達は私だけが知る金庫に保管してあります。あっ……これは言ってはいけないことでした……申し訳ございませんが今のは聞かなかったことに……」


「はいっ!」(でも庭にも毒草が生えていたけどなあ。あんな平和な庭に生えた毒草なんてチョイっと摘めちゃうよね……知識がある人なら悪用されちゃわない?)

アリサはいまだに庭が何もないと信じ込んでいるようである。108の罠が敷き詰められた恐ろしき庭なのだが。


「そうだったんだ。私も知らなかったわ」


「口が滑ってしまいました。お嬢様が飲んだ0.1ミリグラムでクジラが死ぬと言われている


『チョットデモクジラシーヌ』


……という銘の毒でございます。それも大切に保管されています」


「すごい分かりやすい名前! あ、庭に沢山の花が咲いていたわ。中には毒草(どくそう)もあったよ? あの庭ってとても独創(どくそう)的よねえ」


「左様でございます。毒草だけに……いえ! 滅相もございません。ごく普通の花壇でございます。ですが私めが厳選した最良のものだけで構成されています。これは主に生徒用に育てています。無農薬で殺虫剤添加物不使用の


『健康的な毒草』


を作っています。少しでも生徒たちに健やかに毒を受けて欲しいので」

うーむ……健康的な毒草ね……何か違和感が……根本的におかしい気がするな……


「なんか矛盾しているようなしていないような……誰かに盗まれたりしないの?」


「アリサ! あんた馬鹿なの? うちに庭の恐怖を知っていれば、毒草を取る為だけに侵入だけはしないでござるよ。それに門番の


『門 盤太』


君なんて合言葉を言わなければ誰も通せないほど強いのよ? 伝説の守護神オリバカーンって言われているんだもの!」


「へえ、ま、いっか」


「先程も申しましたが、今までは半信半疑でございました。でもこの結果、実際に大切なお嬢様の命を救った事実を知り、本当にやっていて良かったと思います。だからこれからも使っていきます。ですが今までとは気持ちが違います。なんと言うか安心感があるのです」


「そうよね。おばさんがこうしていられるのも小さい頃からの積み重ねのお陰だもんね」


「はい! あ、そういえば、そろそろ給食も作らなければなりませんのでこの辺で……」

この瓶の中身は給食に入れる予定の毒なのだろうなあ……


「給食? そういえば学校があるんだっけ? このお屋敷。へえ給食かあ……今は食べられないのよね夏休みだから。結構うちの学校の給食もおいしいんだよ?」


「そうでございますか。私も負けてはいられませんね。で、イロハ二と4つの組がありまして、全員の給食を作らせていただいています」


「流石に一人じゃないよね?」


「はい。数名の忍びが手伝ってくれております」


「だよねえ。この学校、生徒も結構多いんでしょ?」


「一組30人は居るから120人くらいでござる」


「左様でございます。彼らにももちろん毒を与えております。そして、最上級のイ組の生徒達には、通常の4倍の毒を入れております」


「4倍? そんなことをしても大丈夫なの?」


「もちろん大丈夫ではございません。気分が悪くなる生徒も出てきます。これも卒業試験の一環とのことで、気分が悪くなった時点で生徒は退学となるのです」


「そんな! おばさん、結構厳しいじゃない? 今までの毒で耐性が付いているから流石に死亡とまでは行かないとしてもさあ……退学って……3年間やってきた意味が無くなっちゃうじゃん。ねえ、善さん! もう少し毒の量を下げた方が良くない? ……だってさ……これって……」


「ふむ?」

すると、照代がアリサの発言を遮る。


「あ、この学校では半年に一度昇進試験があって、それをクリアしないと次の組には行けないのよ。でも半年でクリアし続ければ、最短で1年と半年で最上級に行けるってこともあるでござる。だから……3年とは限らないんでござる!」

ほう、半年に一度の昇進試験か。普通は一年に一度だと思うが珍しいな。これも個人で運営する学校だからできるルール設定なのかもしれぬ。


「うるせえ!! 屁理屈ごねるな!!!」


「ひいぃ? 突然怒鳴らないでほちい……ただでさえまだ人間不信なのに……」


「ならでしゃばるんじゃねえ」


「ひ。で、でもアリサがこの屋敷に対しての知識がなさすぎるでござる。故に親切心で教えてあげただけなのに……その言い方は酷いでござるよ……」


「アリサさん落ち着いて……」


「でもさあ、おばさん? 親切心って言っても親を切るって書くんだよ? それっておかしいじゃん? 親を切る心でしょ? 怖いよ! それにね? これから先何の役にも立たない知識は入れたいとは思わないのよ。脳には記憶できる限界が……そう、ストレージの限界があるんだからね? 覚える対象も取捨選択するのが人間の……いえ、生物としての常識なのね? ぼうっとしてても猛吹雪のように情報が流れ込んでくるこの世の中よ。インフォメーションダンシャリィは現代人にとって必須科目なのね? お分かり? それってこの屋敷のみに存在する小さい世界のルールでしょ? って……小さいは余計よ!! それをこの屋敷に永住するわけでも、この屋敷内に存在する学校に入学するわけでも、あまつさえ昇進試験なんて受ける理由なんて決してないんだからさ。その屋敷の昔の偉い人が勝手に決めた半年ごとに試験をするという身内にしか知らないガラパゴス化した知識を私が喋っている横からドヤ顔でつっこまれたら誰だって腹が立つでしょう? こんなの常識よ。この常識外れお化け!」


「確かに……そうでござった! でも小さいって言ったのはアリサ自身の自爆でわたしのせいじゃないでござるよ」


「その通りでございます。あ、アリサさん? 親切と言うのは、相手を身近な人のように思い、心をこめて接することの意味でございますよ」


「そうなんだ。でもこの切り返し今使って思ったけどとっても気に入っちゃったので敢えて真の意味は覚えないわ! それを今覚えちゃったらまた使えなくなっちゃうじゃんwwこれぞインフォメーションダンシャリィの極意でござる! でね? 私ね、いらない! って思った情報が与えられた瞬間、拒否反応が出ちゃうのよ。で、今みたいにとっても可愛いヒステリック大妖精女神警察官大臣になっちゃうの。

これってね? アリサ検定初級で出る問題だから必ず覚えておいてね♡」

アリサ検定とは……? それこそいらない! と思える知識ではなかろうか? こんな検定を勝手に作っちゃって……あまりに横柄だと嫌われてしまうぞ?


「そうでござるね……くすん……アリサ検定初級……ヒステリック大妖精女神警察官大臣……インフォメーションダンシャリィ」


「もう勉強してる? 意外と向上心が高い! でもそこは別に覚えるところじゃないからね? それにこんなことで泣くなよ……男ならさ……」


「どこから見ても女でござる! ところでインフォメーションダンシャリィとは何でござる?」


「うるせえ」


「うるせえのは分かってる。でも知りたいのでござる」


「しょうがねえなあ……インフォメーションは情報の英語ね? で、ダンシャリィは断捨離のカタカナ表記で、更に小さい


『ィ』


……でって……小さいは余計よ!」


「この場合は仕方ないと思うわ。この


『小さい』


はこの言葉を説明する上で必須だと思うの。だから我慢して……」


「……この小柄な


『ィ』


を最後に付与することで、かっこよさを増して完成した、情報の断捨離のことを言うのよ。情報の断捨離というより断然かっこいいでしょ?」


「確かに……情報の断捨離……インフォメーションダンシャリィ……断然こっちよ!」


「そう。そう感じられるならあんたの感性は完成している」


「でも断捨離って持っている物を捨ててスッキリィすることじゃなかったでござるか?」


「はあ? 言葉なんて、使ったもん勝ちなのよ。響きが良けりゃいいんだよ!  


『断捨離』


は結果的に物を減らすこと。ならば、脳内にある


『余計な他人の知識』


を減らすことも、生意気にも私の脳に入り込もうとする邪悪な知識を入らないように防ぐことだって立派な断捨離と言えるじゃない? それとも何? あんたは私の脳に無理やりゴミ知識を不法投棄したいわけ? それって、立派なインフォメーションハラスメントォよ?」


「ごめんちゃーい。もう突っかかりませーん」


「あ、あの私に何かを言おうとしていたのでは?」


「ああ、このおばさんのインフォメーションヨコヤリィのせいで大分話が逸れちゃったねwえっと……膳さん? 毒を黙って少量死なない程度に入れるってさ、確かに理屈として語られることはあるけど、現実的にも法的にもアウトじゃない?」


「そうなのですか?」


「例えばハソターハソターのキノレアのあれでしょ? モデルとしてよく引き合いに出されるのは……ほら、少量の毒を小さい頃から飲んで、免疫を付けていたってやつね……って……小さい頃は……」


「あ! また言うでござる!」 


「ギググ……余計……じゃない……わよ」


「!!!」


「よくぞ耐えしのぎました!」


「当たり前じゃない」


「超絶イケメンでござる!!」


「そうね。でもそれは女の子に言う言葉じゃないわ。で、それって


『ミトリダティズム』


って概念なのね? 日本語では耐毒性獲得って言うのよ! 昔、ポントス王国の王様のミトリダテス6世が、毒による暗殺を防ぐ目的で、アヒルに毒草を与え、生き残った個体の血を飲み、他にもあらゆる種類の致死性物質を致死量未満で摂取を繰り替えし、暗殺者が使う様々な化学兵器に対する耐性を徐々に高めていったって伝説が元ネタなの」


「ミトリダデズムウ?」


「ほう、初耳ですね。詳しく聞きたいです」


「いいよ? じゃあ現代日本でこれって可能なの? ってことだけど、人体には肝臓の解毒酵素代謝・排出能力があって、一部の物質に対しては耐性が上がるケースはある。あるにはあるって感じだけね?」


「ならいいんじゃない?」


「うん、でもそれってカフェイン、アルコール、ニコチン。それと一部の薬剤らしいのね」


「え? カへインって毒なの? コーヒーのあれでしょお? アルコールだってお酒のやつだしい」


「まあ大量に摂れば全て毒よ? トマトに入ってるリコピンとかも大量摂取すればやばいのよね」 


「そうなのでござるか? もともとトマトは嫌いでござるがますます嫌いになったでござるよ」


「私もトマトはちょっとね……水っぽくてぶにょっとしてるからねって! トマトさんの悪口を言わない! 逆から読んでもトマトなんだからさ!」


「それは関係ございませんよ……ですがトマトは良いものなら非常に美味でございます。塩だけで美味しくいただけますよ? 私の料理にも欠かせない食材です」


「パスタとかのトマトソースなら許せるのよね。でも丸かじりとなると噛んだ時に中のやつが飛び散って服とか汚しちゃうからねえ」


「それでござる! 嫌いな理由が今はっきりしたでござる!」


「良かったじゃん。じゃあ今度からカットしたものを食べれば良いわ。節度を守ればリコピンはいい成分だしね」


「そうでござるね」


「で、水だって飲み過ぎると水中毒って言うとんでもない症状になり、死に至る場合もあるのよ? 一番人類を殺しているのは水じゃないか? って言われてるくらいだしね。酸素だって、過剰に摂取すれば生体バランスを壊す毒になるわ。でもこのへんは耐性がわかりやすいよね? でも本物の毒になると話が別。毒は耐性がつく前に壊すものがほとんどで、神経、肝臓、腎臓、免疫に蓄積ダメージで先に詰んじゃう場合があるの。この場合の詰むってのは死ぬってことよ?」


「ひええええ」


「で、耐性がつく毒はかなり限定的で、多くの毒 (重金属、農薬、神経毒)は少量でも不可逆ダメージで個体差が大きいんだよ? 特に重金属は体内に蓄積されるため、少量だから大丈夫と言って複数回摂取すると、最終的には多量に摂取することになるの。微量の鉛、水銀、カドミウム、その他の重金属を定期的に摂取しても耐性は生じない上に、体の重要な臓器に深刻な損傷を与える可能性があるのよ。いずれ終わりを迎えるわ」


「確かにそうです……全く考えていませんでした」


「今まで金属系は手を付けていないのよね?」


「恐らくは」


「ちゃんと調べないと危険よ? で、農薬とか神経毒は、同じ量でも平気な人と一発アウトな人で別れてしまう。で、これ、日本では完全に犯罪なのね……親が子どもにやったら傷害罪、もしくは虐待になるわ。もちろん家庭内で行われていることだから発覚しにくいという面も厄介。

それに例え実験的に自分でやっても医学的に自殺未遂扱いされる可能性も。更に言うと毒に強くなると言うより、慣れた気がするだけ? または症状に鈍感になっただけ? もしくは気付かない内に臓器が壊れてる。の、3パターンが多いの」


「そうなのですか……しっかりと耐性の付く毒を厳選しなくてはいけないということですね。勉強になりました。

これからは毒についてさらに勉強しなくてはいけません」


「うん、現実世界の医学+法律では推奨されるものとは言えないかもね。だからまだ続けるならばこっそりやるのよ?」


「何故そんなにお詳しいのでしょうか?」


「うーん……私、一応刑事の娘だからね。六法全書を絵本代わりに読んでいたくらいよ?」


「ほほう……」


「すごいでござる!」


「知らなかったとは言え、そんな危険人物に話してしまった訳だから、気を引き締めてね? 後、毒の特性を十分理解し、使って免疫が増す毒だけにしないとね」 


「か、かしこまりました」

まだ続けてしまうのか……まあ今まで古くから続いていたしきたりを、アリサの言葉のみで止めるのも難しいのだろうな。


「まとめると、現代日本では危険・違法・再現不可だけど、一部の耐性は存在するって感じかしら。おばさんの場合は耐性が付く毒だったんだね。良かったじゃん」


「そうでござるね。私って運が良かったのか。でもインフォメーションダンシャリィを深く考えているアリサもミトリダティズムや毒に対しての知識はダンシャリィしなかったのね?」


「そうね、これは私の中では必須科目かもね。で、神経を壊す毒を少量ずつ与えられていたら今はこの世に居なかったかもよ。それを考えず生徒にずっと与えていたんだからね……そう考えると後先を考えない怖い学校よね」


「いやはや……申し開きも出来ませぬ……」


「で、でもまあ卒業していったら、全員が達人の忍者になれるのよ? ここの毒は天然の素材から作れる健康な毒でござるし、それで免疫が付けば毒殺される心配も完璧にないし、K-1! 選手くらいの格闘技術や侍クラスの剣術も身についているわ」


「天然でも毒は毒よ? それにK-1! よりムエタイの方が強いでしょ? 肘や膝もあるし」


「地上最強の格闘技って言われてるわね。その存在を言われて思い出したわ。じゃあムエタイのラジャナムダン優勝者位の格闘技術も身につくわよ」


「嘘乙! 信用度ゼロよ」


「それくらいこの学校は本格的なの! 400年の歴史よ?」


「中国4000年並みに信用薄いわw」


「どこから4000年なのよって話よねwでもこの家のレシキは本物よ!」


「歴史でしょ!! それってタイポグリセミアじゃない?」


「え? 何それ?」


「あ、ちょっと違ったわ……何でもない」(こんなイージーミスしちゃったよ……疲れてるのかなあ? 早くご飯食べないと……)


「お二人とも落ち着いて……アリサさん非常に勉強になりました。この件は十分考えていきますので」


「うん」


「では、この辺で失礼いたします」

薬師寺は深くお辞儀をして去っていった。


「少し怖かったけど優しそうな感じのおじさんだったね。それにしてもおなか減ったわ。早く食べましょう」

少量とはいえ、毒入りと聞いている筈なのに、微塵も気に留めないアリサ。

一度会っただけで、その料理人を信じ切ってしまったようだ。たとえ自分の内蔵の機能が昨日よりも低下したとしても、その毒が入ったごちそうを食べる覚悟が固まってしまったのかもしれない。だが、食べ過ぎには注意するのだぞ!


「うんそうね、私の小さい頃からうちで働いてくれていたのでござるよ。結婚するならああいう人がいいなあ。なんちゃって、でへへ(///照///)」

薬師寺の話を口にする時、照代の声音には微かな敬意が混じっていた。アリサは名探偵のひ孫。当然そんな僅かな声色の変化も見逃さない。そしてついこんな言葉を口走る。


「4人の独身を差し置いて彼の方選ぶってことお? もうその人でいいんじゃないの?」


「残念ね。あの人はもう家庭を持っているのよ……」


「なんとなくわかっていたわ」(それに引き換え4人の先生は全員独身? どんな奴らなのかしら?)


「じゃあ中に入りましょう」

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