EP01-06 セックスしないと起動しない巨大ロボット、大地に立つ!
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どれだけ時間が経過したのか、僕にはわからなかった。
倒れたカイジュウはいつの間にか泡となって消えていた。
コックピットの座席で項垂れていたはずなのに、いつの間にか外の瓦礫に腰をかけていた。
崩壊したコンクリートの破片が砂塵となって舞っていた。
視線を持ち上げると、沈みゆく夕焼けが、最後の力を振り絞るように煌めいている。
──茜色に染まる、ザクロの姿があった。
フラッシュバックする光景。
けど、ザクロは制服を着ていた。胸も露出していない。普通のいつものザクロだった。
そっか、そうだよ、なるほど僕は戦っている時にアドレナリンが脳内に噴出して、如何わしい妄想を始めてしまったのだ。ほら、命の瀬戸際に瀕すると子孫を残そうとする、とかその手の類いの現象。
でも、背後から教師も歩いてくる。
ザクロと会話をしていた。
何か冗談でも言ったのか、ザクロは冷めた目で教師を見やる。けど、その視線の端々に、温かい何かを感じ取った。
ザクロ睨み。
ぞわっと僕の体は恐怖で震え上がる。傍から見ると、こんなにも好意が混ざった視線だったのか。
僕にだけ向けられていた眼差しを、教師にも……。
──ザクロの普段完璧にセットされた髪型は大きく乱れていた。頬も妙に赤い。汗もかいている。まだ顔から……情欲の痕が、抜けていない、気がした……。
「ヒロくん」
ザクロは駆け寄ってくる。教師は少し離れたところで立ち止まった。
僕は後ろを振り返って全力疾走して逃げ出したい気分だ。
だが、足が動かない。どうにか立ち上がり、ザクロと向き合う。
砂埃が僕たちの間を舞う。
ザクロの姿が一瞬見えなくなるのに、その大きな瞳だけは爛々と輝き、僕を逃がしてくれない。
ザクロは一瞬だけ、視線を足元に下げる。けど、即座にじっと僕を正面から見つめて、口を開いた。
「……あの、さっきは……ごめんね。でもアレは……その だけだから」
「え?」
聴こえなかった、いや僕が声を意味として理解するのを拒んだ。
「ほら、トラちゃんに変な薬かけられたじゃん? 頭がクラっとして、なんかゴリ松に吸い寄せられて……うん、ごめんなさい。……告白受けた直後に、ヒロくんのことを……裏切って。あたし、ホントに最低最悪な人間だと思う。あの、ヒロくんも傷ついてるよね? 本当にごめんなさいっ! ……でもね、あたしはキスだけしか、してないから」
──それは、僕とはキス程度の関係だから、教師とラブラブセックスしても問題ないよね? ってこと?
それとも「ゴリ松とは、キスだけ……なの」あーそっちか。
その瞬間、僕の頭の中はまるで機械がショートして煙を上げたかのようにフリーズした。脳がぼかん! と音を立てて破裂した気分。そりゃそうだよ、ごくごく普通の人間、ラノベやなろうの主人公にもなれないモブにも満たない一般人の17歳の男子高校生が、突然街に巨大なカイジュウが出現して、突然パイロットとしてカイジュウに立ち向かい、突然最愛の女の子が目の前で他人のちんこで犯されて絶叫しながら絶頂しまくって中出しされたんだ、もう理解が追いつかないよ。
……はぁ、そんなわけない。
そこまで鈍感じゃない。
コイツは……この女は、僕に嘘をついたんだ。
何か喋ろうとした。いい加減なこと言ってるんじゃねぇ! 全部、僕は見ていたんだよ、と糾弾したい。
けど、彼女に睨まれると喉がきゅっと閉まる。
僕は、まるで許しをこうかのように、ただただ頷いていた。
彼女がそう言うのなら、そうであってほしい。僕もそれを信じたい。
──なぜ蝶の翅に描かれる眼状紋を、鳥が嘴でつつくのか、その意味がやっとわかった。
恐いから。恐ろしいモノを前にすると、攻撃せざるを得なくなる。僕は足元に転がっている尖った瓦礫を、じっと、見つめていた。
// 終
// 次話予告:
二人はいつものように舌戦を始めた。僕も普段ならそれは違うよ、と参戦するのだが、やはり頭が動かない。黙って眺めていると、次第に話題がそれて──「ンアー、枕が──」と井上が某ネットミームで騒ぎ始めた。ハルもゲラゲラ笑ってやがる。
──その時、「ねぇ、それって学校では恥ずかしいことなんだよ!」
一人の女子生徒が声をかけてきた。叱るというよりも軽く嗜めるような口調で。
「…ぁ…スっ…」「…はぃ…」井上とハルは蚊の鳴くような声で頷く。
その女性生徒は嬉しそうにニコリと微笑んだ。
なんて愛らしい笑顔なんだろう。
背後のカーテンが風で靡き、麗らかな青空をバックに笑顔を浮かべる。
思わず三人で見惚れていた。が、「ちょっと……こっち」とその子は他の女子生徒に腕を引かれて教室の隅に連れて行かれた。まるで僕たちを腫れ物扱いするかのように。
「……まさか朝から笠置さんに声をかけられるとは……。しかも乗ってくれた……。くぅ、たまんねぇ」「……うん」「これから毎日淫カツしようなっ」「うんっ!」「……おいっ」
「おっはよーっ!」
二人を諌めていると、今度は教室の扉付近からぱっと張りのある声が響いた。クラスメイトもその声に返すように口々に挨拶を交わす。
元気を体の内側から発散するかのように、その女子生徒はクラスの男女に構わず声をかけている。「お、ロボ研はいっつも一緒だ!」と僕たち日陰者にも平等に。
自然と彼女を中心に輪が生まれる。強烈なカリスマ力はいつ見ても眩しい。
「陽キャの王、だな」「流石うちのクラスのトップスリーの一角」「それ言ってるのお前ら二人だけだから……」
「なにを言ってる! 我がクラスのトップスリーは男子の誰もが内心崇めているんだぞ。男子が無遅刻未欠席、不登校はゼロ、カーストは存在するもイジメも無くみんなそれなりに仲良く健やかな学園生活を送ってるのも、全部トップスリーが存在するからだっ」隣でハルもうんうん頷いている。
そんな馬鹿な……と否定したいところだが、男子生徒がそっと彼女らを眺め、各々喝を入れてる瞬間を目撃し、あながち間違えじゃないかも……と信じそうになる。
「で、最後の一人が──」
井上が僕たちだけに聞こえる声量で一気に捲し立てた後、ふと僕の背後を見やる。
背中に突き刺さる視線。
僕はゴクリと唾を飲み込み、覚悟を決めて振り返る。
「おはよう……ザクロ」




