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EP03-010 終始、体、重ねて【合宿最終日 マトリクス VS 上位侵略者】


 落ち着けと、大きく胸を膨らませて深呼吸を繰り返す。

 今まで怪獣の攻撃を受けて装甲がボロボロになることはあったけど、腕をもぎ取られたのはこれが初だった。

 パロメータ上に警告の文字が無数に並ぶ。

 レーザーブレードは三分の一程度まで折れている。

 

 ……ミサイルで。


 牽制の意味を込めてミサイルを展開させた。

 だが、円盤が空を駆け回り、全て空中で切断する。

 炸裂音が虚しく響く。


 ふわっと爆風が揺らいだ。

 灰色のカーテンを突き破るように、今度はカイジュウ本体が迫ってくる。

 速い。

 もう目の前に──。

 相手の右拳が疾る。

 躱す。

 が、今度は蹴り──。

 背後に飛んだ。紙一重で避ける。

 ……たった一瞬の攻防。

 でもそれだけで、僕はこのカイジュウにマトリクスでは勝てないのでは? と恐怖が植え付けられる。明らかにこちらのスペックを上回る反応速度。旧式と新型以上の歴然とした差を感じた。


「ヒロ! なにマゴマゴしてるトラ! 早く高出力形態に移行するトラ!」

「移行って、何すればいいんだよ」

「それは……トラもわからないトラ!」

「はぁ? ……ぐっ!?」


 今度は円盤とカイジュウが重なるように迫ってくる。

 計器やスクリーン上の表示に目を走らせるも、高出力形態という文字は見当たらない。


 【独立意思搭載撃墜端末】の文字が流れた。迷わずボタンを押下すると、マトリクスの背中から数機の小型攻撃端末が飛来した。円盤ではなくカイジュウに向かって放つ。ヒュンヒュンッ! と自由に空中を舞いながら向かっていく。……某機動戦士作品シリーズに名称を変えつつ何度も登場する武装だ。

 立体的に飛び交い、四方八方からレーザービームを浴びせる。

 しかし、カイジュウはひらりひらりと舞う木の葉のように容易く避けていた。

 カイジュウの右手の甲から、刀のような細身の剣が伸びていた。

 それで一機、また一機と撃ち落とす。


 だがこの隙に──と思ったところで、迫る円盤が視界に映る。

 受けられない。

 だったら……。

 正面ではなく、角度を付けて折れたレーザーブレードで受け流すようにリングを弾いた。

 ガキィッ!!

 凄まじい音を響かせながらも、背後に吹っ飛んでいく。マトリクスの肩がえぐれたが、戦闘には影響しない──。

 瞬時にレーザーブレードとライフルを入れ替えた。


【超高速弾丸射出装置 圧縮加速形態】


 ライフルの形状が変化する。

 スナイパーライフルのように銃身が伸び、先端にエネルギーを充填する。

 カイジュウは、まだ小型攻撃端末を攻撃している。

 チャンスは、今しかない……。

 ライフルを構えた。

 現在供給可能なエネルギーを弾丸一発に溜め込む。

 ──キィイイイイッ!! と音が振動となって響き渡る。

 カイジュウの顔がこちらを向いた──瞬間にトリガーを引いた。


 ブゥンッ!!


 鈍い音と共に、光の線が一直線にカイジュウの頭部を撃ち抜いた。

 直撃。

 カイジュウの体が大きく震えた。


「……やったかトラ?」


 しかし、カイジュウはぐっと片足で地面を踏み締めて、悠々と立ち上がる。

 多少カイジュウの頭部が凹んだ程度、だった。

 ……装甲も厚いのか。

 グルン、と僕を睨むように顔をこちらに向けた。

 その最中、背中に凄まじい衝撃が走る。

 戻ってきた円盤が高速回転しながら背中を削り、片方のバーニアとミサイルポッドを切り裂いたのだ。


 爆発、マトリクスが吹き飛ばされる。

 ──その衝撃を利用し、前方へ飛んだ。

 カイジュウの足元まで急速接近し、レーザーブレードを切り上げる。

 当たらないッ──まだまだっ。

 続けざまに刃を振るうも、どれも容易く躱される。

 振り下ろしたレーザーブレードを相手の切っ先が弾いた。片腕の無いマトリクスの重心が崩れる。

 カイジュウは背を向ける。なんだ──

 ズドンッ!!

 廻し蹴りが直撃する。


 思いっ切り吹き飛ばされた。

 幸い海だったので被害は無い。けど……もう、打つ手がない。


「諦めるなトラ!」

「最大火力でも凹んだ程度だ。どうするんだよ」

「みんな応援してるトラ! ここが踏ん張りどころトラ!」


 パパパパッ、といつものように無数のスクリーンが浮かび上がる。

 誰もが声を張り上げて応援してる。SNSや動画サイトの実況コメント欄にも無数のコメントが流れている。

 誰もが僕を応援していた。

 マトリクスが追い詰められていることを理解しているのか、マトリクスを鼓舞するようなメッセージが多い。

 その声援も、今の僕にはそよ風のように体をするりと通り抜けていく。


「ユイちゃんだって応援してるトラ」

「……するわけないだろ」

「あの子はいつだってヒロの勝利を願っているトラ。大好きなユイちゃんの期待を裏切って、そんな自分が許せるのかトラ?」


 ありえない。

 だってさっき彼女は僕が目の前にいる状況でも、セックスを優先したんだぞ。一昨日、昨日、そして今日……とザクロは快楽のため、僕とのキスや友人の裸体を教師に差し出して、それであんあん喘ぎながら、大量の精液を注ぎ込まれていたんだ。

 もうわかっている。

 そう、だからこれは……期待してるわけじゃない。

 自分に突きつけるため、だ。

 未だに彼女の視線を浴びると、胸が沸き立つような高揚感を僕は覚えてしまう。

 けど、それ、もういいだろ。いい加減終わりにしたい。

 もう全部理解している。彼女の気持ちはもう変えられない。僕が必死にあがいたところで、手を繋いだこともない幼馴染程度の分際なんだ、勝ち目は一つもない。


 はぁ……

 はぁ……

 はぁ……。

 三回大きく深呼吸を繰り返す。

 僕は、腹を切る気分で、操縦桿の中央に聳えるボタンを押し込んだ。

 

 刹那、警告音が響き渡る。

 それは、僕の頭の中で流れている幻覚、それとも迫り来るカイジュウの脅威に晒されたマトリクスの悲鳴なのか、僕には判断がつかなかった。


 ──ザクロの嬌声が目の前から響き渡る。

 ……何が、応援してるトラ…だよ。


 果たせるかな、浮かび上がるスクリーンには、歓喜に酔いしれるザクロの姿が映し出されていた。


「あれれ〜さっきまで両手を重ねて応援してたはずトラ」


 怒涛の攻撃を仕掛けてくるカイジュウ。

 視界の大半はザクロと教師の欲望で埋まっているが、何故か軽やかに立ち回れた。


『ふぅ……いつにもまして喧しいな』

『……だ…てぇ…さっきこえ…出せなくて』

『いいのか? 外に丸聞こえじゃないのか?』

『…えっ……それは──』


 ザクロは口を閉じようと歯を食いしばるが、まるでこじ開けるように追い詰める。


 二人のベッドの隣にはスクリーンが浮かび上がり、その中でカイジュウに立ち向かうマトリクスの姿が映し出されていた。


 ザクロの視線をスクリーンに固定する形で押さえつけた。

 ザクロはスクリーンのマトリクスを見つめ、その中で操縦する僕を理解しているはずなのに、ザクロは……僕を見ていない。

 快楽で混濁したザクロの瞳には、僕の姿なんかこれっぽっちも写っていない。

 ザクロを追い詰める……はずなのに、今の二人からは別の感情が芽生えている気がした。

 僕を踏み台にして、快楽の向こう側へ……。

 ザクロの視線に晒されるマトリクスは、カイジュウの攻撃を避けてはいるが、全ては防ぎきれない。じりじりと削られていく。まるで僕の感情とリンクしているかのように。


『…だってぇ…ずっとすき……だったのぉっ!!』

『ほぅ、今は?』

『…せんせぇがすきっ……すき…だから──』


 大きく口を開けて、溜め込まれた快感を解き放つ。

 全身で、その体に備わる細胞の一つ一つまで快楽を染み込まて。

 さっきまで必死に堪えていた声、その鬱憤を晴らすかのように……。

 教師は満足げな顔で身悶えするザクロを抱き寄せて、まだ震えるザクロの唇を奪う。ねっとりと舌を絡めると、ザクロは抵抗せずに教師の舌を求める

 ザクロは目を細めてキスを味わっている。

 至福の一時を堪能するように。

 目元から一筋の涙が溢れる。


『ん? 珍しい。今日は苦戦してるみたいじゃないか』


 ザクロの顎を指で抑え、スクリーンを眺めるように顔を固定する。

 呆けた瞳がぼんやりとマトリクスを眺めていた。


『はぁーっ……はーっ……はーっ…』

『いつもセックスばかりで気がついたら終わってるからな。たまには応援してやったらどうだ』

『……ぇ……うん』

『なんだ? まだ中に出してもらえないのが不満か?』

『……うんっ』ザクロはにぃっと子供っぽい笑みを浮かべて頷いた。

『しかたねぇな。……よし、がんばれ〜って言えたら──』

『はぁ、じゃあ頑張って応援するしかないじゃん』


 教師が耳元で囁くと、ザクロは呆れながらも微笑んでいる。

 一瞬時が止まったような感覚の後、クスクスと二人して笑い合う……。

 その意味を薄っすらと察して寒気がする。


 ──シーツを掴んでザクロは甘い声を漏らしていた。

 もう俺のことなんか応援するのも億劫というか、それすら頭の中に残っていない。

 

 不意に、ザクロは体を反転させた。 


『ユイ?』


 じっと教師を見つめ、流れるように唇を重ねる。

 ちゅぱっ……くちゅ…っ、と強く吸い付く音を鳴らす。

 唇が離れると、光の細い線がなって二人の間を繋いでいた。

 ザクロはにこっと微笑み、両手を差し出しながら仰向けに倒れた。

 僕から……スクリーンに背を向けた彼女は、教師だけに熱い眼差しを向けた。


『…大丈夫です……。あたしが応援なんかしなくてもヒロくんは負けません…』

『本当にいいのか?』

『うん…だってあたし…ヒロくんのことを信じてますから』


【……なんちゃって──】


【ごめんねっ……。ホントはもうどうでもよかった】

【ヒロくんのことを考える余裕、今のあたしには一欠片も残っていない】

【それよりも…大好き♡なせんせいと…もっともっと♡♡♡♡♡♡♡♡♡】


 どびゅ…。


 生暖かい感触が、僕の下半身を濡らしていた。

 血?

 と一瞬焦ったけど、違う……。ズボンに手を当てると湿っている。とろっと……太ももを垂れる歪な感触。ズボンの中に手を差し込んで、その液体は……。


 全身を鷲掴みにするような嫌悪感が湧き上がる──。

 僕は、ザクロと教師がセックスする姿を眺めて、オナニーをすることを──射精することだけは、絶対にしないと固く誓っていたのに。

 だって……。

 だって……それは、あまりにも救いようがなかった。

 僕を踏み台にして快楽に溺れて絶頂し合う二人を肯定するみたいで、どうしようもなくイヤだった。

 なのに……どぴゅ……どぴゅ……と情けなく精液が止まらない。正直きもちいい……。腹部から足先までが痺れるような快楽が押し寄せる。自分で触っていないのに、抑え込んでいた僕のザクロへの感情が、二人の果てなき情欲の余波を浴びて、ついに決壊してしまったんだ。


 パキンッ……。


 その時、何かが破裂するような音が聞こえた。

 聞こえたというか、音を認識した。

 まるで、僕の頭の中で響くような感覚。



// 続く

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