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EP03-09 終始、体、重ねて【合宿最終日 マトリクス】


「んぉ?」

「え? ……ここロボットの中?」


 マトリクスの体内にワープすると、僕と同じタイミングでザクロと教師も現れた。

 ……二人とも、全裸だった。

 ザクロと目が合う。

 一瞬彼女の瞳がブワッと広がった。下半身に巻き付いていたシーツも一緒にワープしたらしく、そのシーツを掴んで胸元に引き寄せる。

 何を今更……と思ったが、そうか、僕は常に彼女の姿を観察していたけど、それをザクロは知らない。

 教師も「こ、これはだな……」とバツが悪そうな顔でザクロと少し距離を取る。


「みんなごめんトラ〜! どうやらトラの予想以上に絆が早く深まったことで、上位侵略者への戦闘許可が降りてしまったトラ。カイジュウが出現したのもそのためトラ」

「じゃあ……今から始めるの? 戦う?」ザクロは問う。


 二人の……汗の匂いがふわっと僕の下まで漂ってくる。

 ……スマホの画面から感じられなかった感覚に戸惑う。


「もちろんトラ!」


 僕たちの前に巨大なスクリーンが浮かび上がる。

 これ幸いと、僕は二人から視線を外す口実を得たように、スクリーンに顔を向けた。


 カイジュウの姿がアップで映し出された。

 今まで戦ってきたような動物っぽい風貌ではない。二足歩行の人間型だ。ただ、マトリクスの同型とは思えない。有機的な鱗や四肢の生え方が、マトリクスとはまた異なる存在であることを示していた。


 最も特徴的なのは、その背後に広がる円形の物体だ。

 直径はカイジュウの体長よりも一回り大きい。背中に張り付いているようにも浮いているようにも見えるそれが、ゆっくりと回転していた。イメージとしては、チャクラムという円形状の武器を全体的にゴツくした感じ。

 他のカイジュウと異なり、街中で暴れることなく空の上でじっと佇んでいる。

 まるで、僕を──マトリクスを待っているかのように──。


『……っ!?』


 微かにザクロの声が……。

 頭の中からカイジュウの情報が弾け飛ぶ。

 けど、僕には振り向く勇気がなかった。代わりにスマホを取り出す──。


【ウソでしょ? ……ヒロくんがこんな近くにいるのに、本気?】


 映像を見る勇気も気力もなかったので、記録帳を開いた。

 そこにザクロの心情がリアルタイムで綴られる。


【もぉ…バレちゃうって……♡】


 ……ぬちゅ、と小さな音が響いた。

 全神経を耳に送り込んで集中していたことで聞き取れた。


【見ないで…お願い……ふりかえらないで……】


 熱っぽい吐息が聞こえてくる。

 

【…ヤバっ♡ ……こえでちゃう…っ♡ あぁ、手を掴まないでっ♡♡】

【あの中に入ってないから……聞こえちゃうんだってっ♡】

【だめ♡……っ……だめなの──みないでヒロくん……っ】


 トラは気づいていない、それとも気にせずに喧しい声でカイジュウについて説明しているが、全く頭に入ってこない。

 振り返りたい衝動を堪えながら何も気づいてないフリを装い、スマホを眺めている。

 僕の感覚器官は僕の背後の情報を必死に掬い取ろうとしていた。

 熱気のような何かがふわりと漂ってくる。

 匂いや温度の変化が、空間を滑るように漂って僕に伝わってくる。

「……っ…ふっ……」と食いしばる歯の隙間から溢れる声。

 見ていないはずなのに、なぜか手に取るように理解してしまう。


【ごめんね……。好きだった人のすぐ近くで、中に精子、出されちゃう。後ろを絶対に振り返らないで……。見られたくない。せめて先生に辞めてって言うべきだと思うけど……もう先生のおちんちんに逆らえないの。中におちんちんを突っ込まれると、気持ちよくて意識が飛んじゃうの。今日もね、朝から飽きずにずっとセックスしてた。先生は、何度もヒロくんのことを話題に出すの。ヒロくんの名前を出すと、あたしの締まりがよくなるからだ~って。さいあくだよね。さいあく……。ヒロくんのことを思い出しながら、先生のおちんちんで絶頂してる。あ、昨日なんてヒロくんとキスしながらイカされた。今まで生きてきた中で最高にきもちよかった。狂うかと思った。先生のおちんちんが中に入っていないと物足りない】


「…んぅ……んはっ! ……ん……はぁ……ふっ…ふっ……」


 苦しげな、焦燥感に駆られる荒い呼吸の音が、聞こえてくる。

 僕の後ろで、ザクロは教師とキスを交わしながら──。

 僕が存在する空間で、普通するかよ?

 後ろを振り返りされすれば、すべて……終わるのに。


「──で、上位侵略者はこれまでの侵略者とは一線を画す……ってコラ~~トラッ! トラが一生懸命説明しているってのに、ユイちゃんとゴリ松! なーに交──」「し、してないッ! ……ね、先生、あたしたちもトラちゃんの……はなしきいてた…よ。ね、ヒロくん、そうだよね?」


 思わず名を呼ばれて、僕は恐る恐る振り返る。

 ザクロと教師が──セックスは、していなかった。二人は横に並んで体をシーツで隠すように広げている。


 ぴくっ……とザクロの体が揺れた。

 ザクロの大きな瞳が、教師をじろっと見やる。教師は何食わぬ顔で、笑っている。

 下卑た笑み。

 ……教師のザクロ側の腕が少し持ち上がり、もぞもぞと蠢いていた。

 シーツでお互いの下半身を隠すように覆っているので何が起こっているかは、わからない。

 ザクロはすぐに視線を僕に戻し、引きつった笑みを顔に貼り付けた。

 けど、その瞳には……もう何度も目の当たりにした快楽に染まった色が浮かんでいる。

 スマホで、真実を確認しようにも、ザクロから目が離せない。

 僕は、僕の視覚だけを頼りにザクロを見つめる。

 ザクロの体がカクカクと小刻みに揺れた。

 僕の視界の中で──。

 引きつった笑顔を顔に貼り付けた。時々跳ね上がる快楽に、ぴくっと口元が痙攣する。

 体をよじって逃げようとする。が、教師の指さばきに抗えないのか、次第に視線を落として「はーっ……はーっ……」と肩で息をする。

 すぐに顔を上げた。

 僕の視界に晒されていることを思い出したかのように。

 にこっと力なく微笑む。すると、それを咎めるように教師の肩が揺れた。びくっとザクロが跳ねる。

 ザクロは片手で口元を抑えて、必死に声を我慢した。

 よく見ると、ザクロの股間部分のシーツが僅かに蠢いていた。

 教師の腕の向きから、正面ではなく背後から腕を回して、股に指を伸ばしてザクロを……。

 もうザクロから目を離したいのに、まるで捕食者に噛みつかれているかのように見つめてしまう。

 ザクロは小さく首を横に振る。「ちが……のぉ…ね、…これは……」と何か言い訳を口にしようとしていた。


「もういいトラ! さ、ヒロは操縦室へ移動トラ! 二人も活力供給よろしくトラ!」


 僕の足元からコックピットが生えてくる。

 同時に、ザクロと教師を覆い尽くすベールが広がった。

 ゆっくりとその姿が薄れていく。

 ザクロの表情が苦痛にも似た感じで歪む。


「ヒロ……くん。あ、あの……がんばってね──。応援してるから……っ……応援……あたしたちも……が、んばる……から……っ」


 完全に姿が見えなくなる瞬間、ザクロの体が大きく悶えた。僕から視線が剥がれる。思わず手を伸ばしたけど、教師がザクロを受け止めて二人の視線が重なり合う。そのまま当たり前のようにキスを交わした。

 

☆★☆★


 手が……カタカタと震える。

 ぎゅっと握りこぶしを作ろうとすると、今度は足がぶるっと痙攣する。

 全身がかっと熱くなるような怒りと、僕の目の前であそこを弄られても、それを取り繕うザクロの健気な姿が不気味で仕方なかった。

 スマホの映像越しではない、僕の生身の視界を通しての光景が、いつもよりも鮮明に脳に焼きついていた。

 ドクン、ドックン、ドクンドクンッ! と歪に脈打つ心音に耳を澄ませながら、千鳥足でコックピットへ向かう。


 操縦桿の中央に埋め込まれたボタンに目が行くも、僕は押さずにマトリクスを起動する。

 その瞬間、空高くに浮いていたカイジュウがゆっくりと下降する。

 カイジュウの背部に浮かぶ円盤の回転が加速する。

 ライフルを構えた。

 そうだ、

 僕は、

 もう戦うしかない。

 やるしかないんだ。

 指が白色に染まる程強く操縦桿を握り締めた。そうでもしないと、意識を……自分を保てない。


 ──脳裏にザクロの甘い嬌声が広がる気がした。マトリクスが呼応するように反応するから、二人は……。


 不意に、カイジュウの背中でゆっくりと回転していた円盤が、ふわりと向かって左側に移動する。

 え? と思った瞬間には、空中を疾走する。

 まるで巨大な円盤ノコギリが縦向きに回転しながら迫るかのように、襲いかかってきた。

 ライフルで応戦……いや、弾かれるだけだ。

 レーザーブレードを抜き、受けて──。


 キィンッ!!


 閃光のように散る火花。

 円盤を寸前で躱す……。

 けど、


 ドォオンッ! と地鳴りを響かせて、マトリクスの左腕が地面に突き刺さる。

 ……かろうじでレーザーブレードで受け止めたが、相手の円盤は容易くレーザーブレードを切断し、そのままマトリクスの左腕を肩から切断した。


 円盤は再びカイジュウの背後に戻る。

 はー、はー、と僕の呼吸が速くなる。

 ……いきなり片腕を飛ばされた。

 集中しろ……集中……うっ!

 僕と見つめ合いながらあそこをいじくり回されて、快楽に蝕まれたザクロの笑顔がよぎり、吐き気を催す。

 はは……今更だって。もう何回も見てきたじゃないか。

 そんなことよりも、今は……僕は世界を背負っているんだ。



// 続く

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