二〇二五 〇六二六 一六三〇
二〇二五 〇六二六
一六三〇
キモチワルイ
毛むくじゃらの太い指は巨大な蜘蛛。
分厚い唇はナメクジかよ、すっごいテカってる。
はぁ……キモいキモいマジキモい。
不快、生理的にムリ!
でも、先生の指先が触れた箇所からボワっと熱が広がった。
トン、トン──軽く触れた箇所から、あたしの中で波紋が広がる。
昨日の記憶が、その時の熱と湿り気を帯びて、鮮明に蘇る。
先生の顔がゆっくり近づく。
頭の中でヤだ〜〜ッ! って叫ぶ。
ありえない、キモっ、変態教師、ロリコンッ! って罵倒の嵐。
けど、あたしの体は逃げなかった。
むしろ……。
──このロボット? を動かすためにはセックスが必要。
タチの悪い冗談にしか思えない。
動くエネルギーを生み出すために、セックスじゃなくてキスでいいなら、キスで済ませたい。とあたしは昨日……ヒロくんに再会する前に先生にお願いした。
先生はあきらかに不満だった。はぁ? ありえないでしょ? 世界を救うために、あたしが犠牲になるのは耐えられない。
キスだけ。
今日みたいなセックスは、もうしたくありません。あたしは涙ながらに頭を下げた。先生は何か言いたそうだけど、睨んで黙らせる。
で、今日……またカイジュウが現れた。
あたしと先生は、キラキラ光るベールに包まれたセックス・ルームにワープする。
操縦席にはヒロくんが座っているらしい。ここからは見えない。
彼は、世界を守るために、戦っている。
だから……あたしも、彼の力になるために──。
あたしたちが座るベッドの前に、映像が宙に浮いてる。タブレット端末がそのまま浮遊してる感じ。未知の技術コワ……。
その中で、ロボットとカイジュウが向かい合っていた。
キスをした途端、先生の指が太ももを這う。
やめろって言ったじゃん! 払い除けようとしたのに、軽く掴まれた。
……指がスカートの中に潜り込む。
──っ!
あぁもう……。
ホンットにやめてください。
唇を離すと、あたしの首や耳辺りの匂いを嗅ぐように顔を寄せてくる。
ギラつく男性の性欲をひしひしと感じた。
ゾワゾワって鳥肌。
グロすぎ。
自分よりも一回りも年下の女子に、しかも生徒ですよ? 理性落とした? ってか、先生は授業や部活の時は普通のいい先生だったじゃん。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!
たすけてたすけてたすけてたすけて!
手首を掴む指に力が籠る。
じゅっ、と触れた箇所から燃えるみたい。
ドクンドクンドクンっ! と心臓が深く脈を打つ。これ絶対わかってるよ。先生と目が合う。ヒリヒリと首から目の奥が炙られる。理性がスパッと途切れて──。
けど、そこでトラちゃんが現れた。
今日の戦いは終わったと元気に宣言する。
「……そう。…じゃあ、はい…おしまいです……おしまいっ」
……危なかった。ほっと胸を撫で下ろしながら先生から距離を取る。先生は名残惜しそうに手を伸ばす。
逃げるように転送をお願いした。あっという間に自室に到着する。線香の匂い……。乾いた匂いがキライ。扉は閉じてるのに、なぜかいつも染み込んでくる。
ベッドに倒れる。
スマホで雑に時間を消費しようとしても、すぐにスマホを放り投げた。
消えない……。
触られた箇所が、膿んで痛みを発するみたいにジンジンする。
皮膚から肉、そして骨の奥底まで。
じわっと頭の中に侵食してくる。
お腹が空くみたいに、
喉が渇いたみたいに──あたしは、あたしは……。
ため息をつきながら自分の体をまさぐる。
──あたしは、性欲が薄い方だと思ってた。
漏れてるみたいに湿った箇所に、指先を当てる。
時々ふっと泡立つ感情を覚えることもあるけど、すぐに消える。タイプの男性を見ても、やらしい話を聞いても、そよ風みたいに通り抜ける、だけ。
胸を強く揉む。
でも……今は……。
昨日の記憶をほんの少しでも思い出すたびに……。
先生の力強い指の感触を考えるたびに……。
先生と見つめ合いながら、あたしの体の奥深くまで入ってくる熱を──。
やめよう。
だめ……。
忘れて、ダメなのに……。
再現しようと、指先で記憶を穿り返そうと溝を掻くのに、あの時全身で味わった快楽の100分の1にも満たない。
一睡もできなかった。
一晩中、あたしは先生とのセックスを思い起こしながら自慰にふけっていた。
少しは発散できればとか考えたけど、余計に強く深く先生への感情があたしの中で脈打つのを感じた。
翌日、学校で殆ど寝てた。
でも夢の中にも、先生とのセックスが現れる。
ずっとイカされてる……。
でも、夢だからかな、気持ちよくない。
客観的に犯されるあたしを眺める。両腕を引っ張られて、お尻をひっぱたくように腰をバコバコ押し付けるあたしが心底羨ま……ありえないキモい。
先生のこと、考えないように努力するけど逆効果。
──ヒロくんと、キスしたその直後に先生とセックスして、死にたいくらいの罪悪感を覚えた。
でも、今はその罪の意識を、あたしの中の見えないところにそっと隠した。
それよりも ──それよりも?
そんなことより──そんなことよりも?
……先生に逢いたい。
逢いたい。
──放課後、ロボットの中でやっと先生に出会えた。
先生を見つめると、先生は驚いたように目を広げてあたしを眺める。
ドクンドクンドクン……というあたしの心音と重なるように、ロボットも脈を打っていた。
けど、先生から距離を感じる。
理性、取り戻しちゃったか……。
そっか、
ま──ですよね。
いや、先生が正しいです。教師と生徒、普通に法に引っかかります。歳だって一回り以上も離れてる。キスで十分って……言ったのはあたしか。あー、先生の困った顔、なんかあたしまで傷つく。
戦いはあっという間に終わった。
あんなに先生と会いたかったのに、たった数分は短過ぎる。
また今日も……一人で、するの?
ヤだなぁ……。
「ねぇ、トラちゃん」
呼ぶと、どことなくトラちゃんが現れた。「お願いがあるんだけど──」
マンションの一室。
綺麗に整えられた玄関で靴を脱いだ。
「お邪魔しまーす」と言った瞬間、扉を開けて先生が現れた。びっくりしてる。ですよね、自宅に突然生徒が現れたら焦るでしょ。
じ~~っと先生を見つめる。
先生は何も言わない。
あたしも。
引っ張られる。
色々言い訳が頭の中に浮かぶけど、全て薄れていく。
お互いの磁力に惹かれるように体を重ねた。指が肩に食い込む。痛いはずなのに、その力強さが心地良い。当たり前のように唇を重ねた。
先生の部屋に連れ込まれた。ベッドの上に倒れた。
……先生の濃い匂い。
おっさん臭い激臭だったらヤだけど、匂いにも気を遣っているのかあまり気にならない。ってか結構いい匂いなのがなんかヤだなぁ。
☆★☆★
……そのまま、先生の家に泊まっちゃった。
「……学校行きたくない」
先生の胸に抱かれながら嘆くと、わかる……と先生も頷く。
時間ギリギリまで、先生とキスしたり抱き合って過ごした。
もちろん二人一緒に登校なんてありえないから、トラちゃんには一度自宅に戻してもらった。祖父母には気づかれないように、何食わぬ顔で朝の支度を終えて、登校する。
今日も、一日中、先生のこと、考えてた。
授業なんか何も頭に入りません。
友達に彼氏ができた時、彼氏ファーストになって友人の私を適当に扱うようになった。あたし達の友情はその程度かーい……って悲しくなったけど、今ならその気持ち、わかる。
廊下で先生を見かけた。思わず声をかけそうになった。なのに先生はぷいっとあたしから目を逸らし、さっさと消えてしまう。
その反応だけで、ザクっと胸に刃物が刺さった気分。
悲しみと怒りの輪廻がぐるぐる頭の中で回転する。
昨日あんなにえっちしたのに……。
あたしの中にバカみたいに精子出しまくったのに……無かったことにする気?
──もしも今日、ロボットの中で『悪い、昨日のは一種の気の迷いだ。全て忘れてくれ』なんて言われたら……ショックで泣きそう。考えただけで辛い。今になってキスだけ……と拒否した時の先生の傷ついた顔が哀しく悲しくてかなしくて胸が張り裂けそう。
でも、杞憂でした。
お昼休み、屋上へ来いと先生に呼び出された。ヒロくんは部室にいるらしい。他の生徒は上がってこない。
先生と二人きり……。
雲一つない青空の下で、先生と抱き合ってキスを重ねる。
お昼休みは一瞬で溶けた。
午後の授業サボってセックスしましょうよ、って泣きながらお願いしたのに、普通に断られた。
……じゃあ、放課後ロボットの中で。
あ、でも最近……ヒロくんはすぐにカイジュウをやっつけちゃうんだよなぁ。
──まるで、あたしたちの時間を引き裂くように。
あ……。
なるほど……そういうこと。
ヒロくんの感情が手に取るようにわかる。
ヒロくんには、キスしかしてないと言った。──キスする瞬間を見られたから。言い逃れできない。だから白状した。
あたしと先生が、キスはしてると思ってる。
キスしかしてないと信じてる。
だから、キスだけで終わらせようとしてるのかも。え、待って? キスだけ終わらせているのを、知ってるの? ──もしかしてあたしたちのこと、見てる? ……まぁ、どうでもいい……。ヒロくんのこととか、この世界の行く末とか……先生とのセックスと比べたら些細な物語。
// 続く




