EP02-03 ザクロの選択
「……んっ…うぇ……ウェェっ!!! ……はぁ…はぁッ!」
吐いていた。
屋上の隅で、込み上げてきた衝動を抑えきれず、胃の中に残っていた物体がどろっと吐き出される。
「大丈夫トラか!?」
トラがフヨフヨ浮きながら声をかけてくる。飛び交う蚊を振り払うように手を振り回し、スマホをトラに突きつける。
「これは……はぁ…な、なんだよ……はぁ……ふぅ…」
「あぁ、思考解析記録帳を読んだトラね」
「ザクロの……この文章は、ザクロが書いたのか?」
「違うトラよ。ニンゲンが思ったことを解析して、ニンゲンが読める形に出力して記録してるトラ。……特別に操縦者のヒロだけが読むことが可能トラ!」
「じゃあ……これは、一昨日と昨日の……記録──事実ってコト?」
トラは頷いた。
あぁ、だからザクロは昨日今日……と眠たそうだったんだ。
一晩中殆ど繋がっていたと書いてあるから、つまり……。
「フェイクだろ。わかった、AIだ! それっぽい文章を書いただけだ」
「人間の行動原理や思考の流れを連結した世界の記録より推察して、その結果を出力してるトラだから……まぁ、やってることは近いトラ。ただ、この世界の生物すら生み出せない単純で幼稚な構成と異なり、再現率は完璧トラ。この文章に記されていることを、ユイちゃんは考えたトラ」
「そんはずない……ザクロが先生のことを」
「因みに、その記録帳は文章だけじゃないトラ。ほら、ここを見るトラ!」
トラの小さな指先がスマホをタップする。
途端に映像が広がった。
薄暗い部屋の中、ベッドが……その上で──。
……その華奢な肩のラインや腰の括れは見覚えがある。
「見覚えも何も、ザクロとゴリ松だってばトラ。ゴリ松の家にお泊りした時の姿トラね」
「……これも、カメラを仕込んだわけじゃないんだろ」
「当時の記録を元に、映像として再現したトラ」
「完全に再現してるわけじゃないんだよな?」
「ううん違うトラ」トラは呆れたように体を横に振る。「完全な再現トラ。いー加減、そろそろヒロもトラの技術力を信用してほしいトラ……。何度も言うけど、ニンゲンの行動は全て完璧に把握してるトラ。この世界だけじゃないトラ。数多の無数の……100とか10000とかじゃないトラよ、無数の無限な世界を観測・分析してるトラ。ニンゲン……というか、その世界で起こりうるありとあらゆる事象を全て把握してるトラ。……で、それらの情報から推察することで、ニンゲンがどのような行動を取るのか、その時の声色や感情の揺れ、どのタイミングで絶頂してビクビクしちゃうかまでも、ぜ〜〜〜んぶわかっちゃうんだトラ」
映像の中のザクロは、教師の指を恋人繋ぎで掴みながら甘い声を漏らしている。
ザクロは教師の首に手を回し、お互い激しく唇を重ねる。
唾液塗れの舌がまるで触手のように蠢き、二人の感情を吐露するように激しく舐る。
重なる唇がアップで映し出され、僕の目に差し込まれるようにザクロのキスが……。
反射的に、自身の唇を触っていた。
脳裏にザクロと僕とのキスシーンが蘇る。けど、数日前の鮮明な記憶のはずなのに、目の前のギラギラした映像と比べるとボヤけた幻に変わり果てていた。絶対に忘れたくない思い出のはずなのに、僕の意識は二度と再生しないよう、記憶の片隅に封じ込めようとしていた。
【好き】
ザクロの心の声が、口から発する音声とは別に聞こえてくる。
【好きっ】
【好きッ】
【…好き♡】
【好き…っ!】
【好き♡】
【すきっ…】
【──好き】
【好き。中で爆発するみたいに先生のおちんちんが膨れ上がって、火傷するようなあっつい精子が中にびゅーって吐き出されるの、大好き。最初は中出しOKって話を聴いても妊娠するかもって怖くて仕方なかった。でも今は射精してほしい。奥までおちんちんを差し込んで、思いっきり、どびゅーって。一回ゴムつけてやったけど、生とはぜんっぜん違う。あんなのセックスもどき、オナニーってる方がマシ。それに……先生の赤ちゃんなら、いいかも……。もう戻れない。せんせいのおちんちんがないといきていけない。ごめんねヒロくん。せめてイク時にヒロくんのこと、思い浮かべようとしたけど、先生の顔しかわかんないの】
映像の隅でピコっと何か光る。
アイコンが表示された。
タップすると、映像の端に、テレビのワイプ映像のように別の小さな映像が表示された。
断面図だ。
縦横無尽にピストンする荒々しい姿が描写されていた。
ザクロの嬌声と連動していた。
──つまり、これは「ユイちゃんの膣道を再現してるトラ!」
エロ同人誌などで見かけることはあったけど、いざこうして目の前で描写されると……わからない、ああ……もうどうすればいいんだ。もう僕の感情の逃げ道が残されていない。
なんかすごくリアルだった。
唇を重ね、絡み合う舌と見つめ合う視線。
スマホで鑑賞している僕が惨めとすら思うのも烏滸がましいほど、二人は愛し合っていた。
……なかに……
ザクロはそっと首を伸ばして軽くキスを交わす。
でも、さっきの熱狂が溶け合う暴力的なキスとは違い、お互いの唇で会話するような淡いキスだった。
絡み合う指先。
見つめ合う視線。
汗が滴る体を擦り合わせながら、二人の間に流れる甘く濃密な空気が、僕の胸に深々と突き刺さった。
『……明日もカイジュウ来ますか?』
『俺は知らないよ』
『また、キスだけにしますか?』教師が返事を返す前に『もしも長引いたら……。はぁ、どうせ……今日みたいに強引にしてくるからなぁ……』
『強引ってな、お前が勝手にウチに来るからだろ?』
『違います、トラちゃんが勝手にワープさせるんです』
『そうなのか? おーいトラ次郎、ユイが言ったことは本当か?』
『ウソに決まってるトラ! ユイちゃんが早く早く! ってトラを急かすんだトラ』
『だとさ』
『トラ次郎~!』
『というかトラ次郎ってなんだトラ。おーい、トラの質問に答えるトラ! すぐイチャイチャするなトラ!』
トラがふよふよ浮いている真下で、二人は再び唇を重ね始めた。
もうトラの姿も目に入らないようだった。
愛おしげな仕草に、僕の胃の中のモノが再び込み上げてくる。
わかった……。
わかったよ、
もう……なんか……いいよ、わかった……。
『で……ロボットの中でも、しても、いいですよ』【というか、もうキスだけじゃ絶対に止まらない】
☆★☆★
──ドドドドッ!!!
地響きに続いて鳴り響くサイレンの音。
僕はスマホから顔を上げて、夕焼けにカラッと染まるカイジュウを見やる。
次の瞬間には、マトリクスの中に移動していた。
ギラギラと輝くコックピットがやるせない。
深々と座席に腰を下ろすと、迷いなく操縦桿の中央にあるボタンを押し込んだ。
──僕は、初めて戦闘で手を抜いた。
ザクロに手加減してる? と思われたら嫌だったので、気づかれないように苦戦するフリをしながら、カイジュウとのらりくらりと戦った。
初めはキスだけ。
しかし、もう戯れるような雰囲気、親密さを見せつける。
ザクロは笑っている。
教師の股の間に座り、背後から教師の両腕が伸びる──。
スクリーンを眺めていたが、次第に我慢できなくなったのか……お互いの顔を眺める。
キスを交わす。ザクロは「はぁ……」とため息をつき、うっとりとした瞳で教師を見やる。
ザクロは教師の腰の上に跨ると、勃起したペニスを愛おしげに撫でて、そっと自らの──。
// 終
R18版はノクターンノベルズに投稿中です。
https://novel18.syosetu.com/n1016le/




