19.学校初日1
ノエールお嬢様のお世話を終えて、私は選択授業を何にするか考えていた。
この学園の選択授業は将来の就職に直結する。
領地をもっている貴族たちは、領地経営学は必須科目。
他にも、騎士を目指す人たちには騎士課、魔術師を目指すコースとして魔法学科、魔法技術科これは実際に魔法を使うやつ、錬金術課、侍女課、淑女課(これは貴族女性の嗜みである裁縫や刺繍をメインにマナーなんかも学ぶ)がある。
何を取るか本当に悩む。
大学の時も悩んだ記憶はあるが、ここまでではなかった。
今の私、メイドをしているので侍女課にいってもよいと思ったが、何のことはない公爵家で合格をもらい、その後も教育を受けたせいで、学校で学べることなど何もない。
カリキュラムを読む限り取る意味はない。
なんなら講師ができる。
それはそれで面白そうだな。
では、魔術系はどうかというと、実践系は使える魔法を増やす授業なので、すでにゲームにある魔法をコンプしている私が受けても意味はない。
魔法学なら少しは意味がありそうだが、すでに一本論文を書ける聖属性魔法の使い方をしているわけで、入ったとたんにおいだされそう…それでもいいか。
騎士課、剣より拳。
所属生徒の心と剣をバキバキにしてやろうか?あ、それも面白そうだな。
ということで、侍女課と騎士課、卒論のために魔法学科を選択することに決めた。
明日は、侍女課と騎士課の授業がある。騎士課の授業はノエール様と一緒だ。
ノエール様は淑女課と騎士課、魔法技術科を選択するそう。
ノエール様も先生方をボコボコにするつもりなのだろうか?
ただし、ノエール様は女魔法騎士になる予定だそうで、光の戦士としての体術から剣術に切り替えるんだそう。
大丈夫だろうか、今までと同じ感覚で身体強化すると、剣が負けて折れちゃうぞ?
あ、だから魔法技術課で調整するのか。
翌朝、私とノエール様が選択授業の希望コースを出しに職員室へいくと、なぜか拍手喝采で出迎えられた。
「飛び級制度を活用して座学の卒業資格を取ったのは、君たちが初めてだ!」
校長先生の白髭の爺様が祝福してくれた。
「君たちは、最優秀生徒の一人として王城へも報告されている。希望の授業は間違いなく受けられるよ」
たしか人数制限があるから、希望を出しても通らないことがあるといわれていたのだが、全部行けるのか。
「ノエール君は、女性騎士になるのが夢と聞いたが、公爵令嬢なのによいのかね?」
「えぇ、校長先生。私は民を守る為、兄を助けるために”魔法騎士“になることにいたしましたの」
「そうですか。ブロッサム公爵家はまとまりがありよろしいですな。して、そちらのエリーカ君」
「はい、校長先生」
「その年で、公爵家の侍女もやっていると聞きましたが?」
「はい、ノエール様の専属侍女をさせていただいております」
「と、言うことは、騎士課志望は護衛も兼ねるということですかな?」
「いえ、男子生徒の心と剣をへし折ってやろうかと」
「…」
おっと本音をしゃべってしまった。まぁいいか。
「そんなに強いのかね?」
「エリーカには私も勝てませんわ。なにせ聖属性の最強魔法であるエクスキューショナーが使えるのですから」
校長先生を含め、職員室の先生方の目が点になっている。
「ほ、ほんとうですかな?」
「今日は騎士課の初めての授業があるそうですから、そこで模擬戦をお見せしても、よろしいですか?」
私が答えると、二つ返事で校長先生が許可をくれた。
初日から模擬戦とか、おらワクワクすっぞ。
職員室を後にした私たちは、一度ホームルームのために教室に行くことになった。
3年生は座学さえなんとかしていれば、選択授業のみとなるので、朝のホームルームぐらいでしか全員で顔を合わせる機会はないのだとか。
私たちは、担任の先生であるハウンゼン先生の後ろについて教室へ入った。
ちょっとざわざわしていた教室がすぐに静かになる。
「みんな、おはよう。今年もよろしく。さて、話は聞いていると思うが、飛び級で新入生が入ってきたので紹介する。二人は前へ」
私とノエール様がカーテシーをする。
「紹介する、ノエール・ブロッサム公爵令嬢と、その従者でもあるエリーカ・フローレンス男爵令嬢だ」
「「よろしくお願いいたします」
ぱちぱちとまばらに拍手をもらう。
「この二人は、すでに座学の卒業試験を80点以上で合格済みだ。基本的には選択授業とホームルームでしか顔を合わさないと思うが、何か困っていそうであれば助けてやってくれ。君らのほうが年上で先輩なんだからな」
またちょっとざわついてる。
3年生で座学の卒業資格を持つ生徒は半分ぐらいだと聞くので、それはそうかもしれない。
「二人の席は、あそこだ。ではホームルームを始める」
先生が3年生への注意事項を説明している。
3年になると半分は座学の授業を完了しているので、授業がない時間で羽目を外しすぎないようにだそうだ。
大学の時にも、休み時間にゲームや麻雀に興じて、単位を落とすダメ学生がいるので、当然の注意だろう。
部室とか居心地がいいもんね。
サクッとホームルームが終わると、カナン様ほか男子生徒たちが構内を案内してくれると申し出てくれたが、断った。
もう知っているし、面倒くさい。
見知らぬ女の子が来たからって、いきなり粉をかけてくるな、火をつけて燃やすぞ。
というわけで、早速選択授業の移動教室へ向かう。
私は侍女課へ、他の先輩方が今度はガードのごとく取り巻いてくれた。
輪形陣とはなかなかやる。
男爵令嬢なのに、なんでそんなに頭がいいのかとか、いろいろ聞かれたので、幼少期から本を読んでいたせいか、よい家庭教師を御爺様に紹介してもらったからだと答えておいた。
御爺様がフローランス伯爵だとわかると、なんだか納得した顔の人が数名いたので、怪しまれずに済んだだろう。
ちなみに、年上のお姉さま方が、ノエール様じゃなくて私を守るように布陣してくれた理由が、ちっちゃくて、かわいらしくて、壊れてしまいそうだから、とのこと。
私の性格と真逆のことを言われた気がする。
本性出すのは控えよう。
ちなみに私、12歳なわけだが、他の子より実は頭半分ほど小さいままだ。
ノエール様と並ぶと姉妹に見えるとはよく言われる話。
幼少期の魔力駄々洩れ事件が後を引いているらしく、童顔、ロリ体形なのだ。
うまくやれば、成人後も光の戦士をしながら、合法ロリごっこができそう。
それはともかく、私たちが移動教室につくと、そこには見知った顔のメイドさんがいた。
「あれ、ミシェル様。どうしてこんなところに」
「おや、エリーカさん。侍女課の授業を取られたんですか」
そこにいたのは、ミシェル・ハーパー子爵夫人。
ブロッサム公爵家の侍女長その人である。
そういえば、平日の午前中時たまいなかったのは、先生をしていたからか。
「はい、カリキュラムを見て講師の実力によっては、ぶっ飛ばしてやろうかと思いまして。ですがミシェル様が講師では無理ですね」
「全く、エリーカさんは気を抜くとすぐ言葉が悪くなる」
「申し訳ございません」
私はぺこりと腰を45度におり、侍女の謝罪の礼をする。
「それでいて作法は完璧なのですから、困りものです」
「ミシェル先生、エリーカ様をご存じで?」
「ご存じも何も、公爵家にメイドとしてやってきたその日に、侍女として合格を出したのは、この私です」
一緒に来ていた生徒たちが一歩後ろに下がる。
「ですが、その後は1年、みっちりミシェル様にしごかれました。おかげでミシェル様から皆伝をもらえましたが」
あははーと笑うと、周りの生徒たちの顔が青くなっている。
あれ、なんだろう皆ミシェル様にしごかれたことあるのかな?
「まぁエリーカさんがこの授業を取ってくれたことは、私としては助かります。私一人では全生徒を見切れませんから、手伝ってくれますよね?」
あ、これ拒否権ない奴だ。
「わかりましたミシェル様のお役に立てるよう頑張ります」
一歩引いていた同級生の皆様方から、ススーッと遠巻きにされる。
なんぞや。
「妹より小さそうなのに、ミシェル様から皆伝…」
「下手をするとミシェル様が二人に…」
「…地獄がまた始まる」
そういえば、貴族学校で侍女課を取るのは、伯爵家以下で次女とか三女のはず。
結構甘やかされて育ってきた彼女たちが、高位貴族や王宮で働くためにミシェル様から厳しい教育を受けているのだろうから、心が折れたこともあるのだろう。
「エリーカさん、今日から助手をお願いしますね」
「ではメイド服に着替えますか?」
「持ってきているの?」
「はい」
私は変身魔法でメイド服に着替える。
ぱっと光って、それが収まると私は公爵家のメイド服を着ている。
「「「「な!?」」」」
お、お姉さま方が驚いている。
そらそうか、変身魔法なんて普通使えないもんな。
「はぁ、常識はずれ」
「失礼な!」
「まだ、あれは続けているの?」
「やってますよ」
「そう、まぁノエール様にご迷惑をかけないようにね」
「はーい」
ミシェル様は私が光の戦士をしていることを知っているので、そのことだろう。
授業がはじまると、私は結構忙しくなった。
昨年は基礎を教えているとのことだけど、春休みの間におさぼりでもしていたのか、結構みんなダメなところがあるのだ。
ミシェル先生と一緒に、先輩方にダメ出しをするという、如何ともしがたい授業時間を過ごすことになった。
なお、この授業の後で私に対する輪形陣はなくなった。
コイツは守らなくても何とかなると思ったらしい。
解せぬ




