第二十六話 男とネズミと猫と月
少し短いです。
ひたひたひた
男が暗闇の中を歩く。
ひたひたひた
男はふと足を止め、後ろを振り返る。
ネズミが走り、猫がネズミを捕まえる。
薄暗い夜の都。
ありふれた風景だ。
男は考え過ぎかと呟くと、再び歩き出す。
男は暗い色のマントをはおり顔が見えない。
体付きからまだ若い男の様で。
愛梨とアボスを伺っていた男はまた歩きです。
猫は咥えていたネズミをボトッと落とす。
ネズミは猫を見ると頷き、男の後を追う。
男はゴミ箱を漁っている犬を見て、近頃やたら犬や猫が多いと思う。
割と動物好きの彼は餌をやろうとするのだが。
犬も猫も彼の側に寄り付かない。
この前も猫に餌をやろうと裏道路に餌を置いたのだが。
浮浪者に食べられるだけだった。
ちきしょう~~~~~‼
何時かあのモフモフをいじり倒したい。
男は手をワキワキさせた。
ゴーレム猫はそんな男にドン引きしながら屋根の上から男を眺める。
やがて男は空き家に入る。
売家と書かれた張り紙のドアを開けて中に入る。
ぽうっと魔道ライトの灯りがその部屋を満たす。
暖かい明りに、男はほっと溜息をつく。
暖炉に似せた魔道具のスイッチを入れると直ぐに室内が暖かくなった。
どかりと古びた椅子に腰を降ろす。
少し頭痛がするし疲れていた。
無理もない。
あの疲れたおっさん魔導師が出かけたのを見計らって、家の中の道具を数十人の部下を使い木箱に丁寧に詰め。
家の中の隠し扉の金や魔導師ギルドに預けている金を引き出し家を壊す。
襤褸屋とはいえ壊すのも苦労する。
本来なら冒険者ギルドに依頼する案件だが、内密に事を運ぶため奴隷を使った。
壊した廃材をアイテムボックスの中に詰め込む。30個のアイテムボックスが直ぐにパンパンになった。
魔導師ギルドには、予め手下が入り込んでいる。
一人の魔導師を抹殺するのはあの組織にはたやすいことだが。
今回は抹殺ではない。
あんなくたびれた中年魔導師を取り込むには大した手間をかけたものだ。
ガチャリとドアが開く。
ネズミに似た男が入ってくる。
「どういう事だ」
椅子に座った男は唸るような声を出して、ねずみ男を睨み付けた。
「あの魔導師が【ゴーレム使い】と懇意にしているなどと聞いてない」
ネズミ男はへこへこと男に頭を下げる。
「す……すいません。我々も知らなかったもんで」
ねずみ男を責めるのは酷と言うものだ。
下水道で出会うまで愛梨とおっさん魔導師は精々顔見知り程度でしかなかった。
お陰で彼らの計画は滅茶苦茶だ。
本来なら茫然としたおっさんの所に現れてねずみ男が詰め寄るおっさんをボコ殴りにして。
そこに偶然通りかかった彼が助けるはずだった。
なのに現実は魔導師は【ゴーレム使い】が引っさらっていった。
しかも何なんだ‼
あの規格外のアイテム・ポーチは‼
辺りにあった箱をヒョイヒョイとしまい込んだ。
可笑しい。あの大きさのポーチならば木箱一つがせいぜいなのに。
【ゴーレム使い】はさり気なく全部の木箱をアイテム・ポーチの中にしまい込んだ。
しかもおっさん魔導師をずりずりと【タンポポ亭】に引きずり込んだ。
無理無理無理‼
「ゴーレムがウジャウジャいる中からどうやってあの中に入り込めるんだ?」
一般人には分からないが、プロの目から見たら。
【ゴーレム亭】は半ば要塞と化している。
可笑しいやろ~~~‼
彼は思わず叫びそうになった。
情報によればあの中に居るのは女将と女将が養子にした子供達と【ゴーレム使い】の非力な少女とアボスと呼ばれるゴーレムだけだったはずだ。
客はランクの低い冒険者と商人だ。
暗殺部隊で十分対処できる。
はずだった。何だあのメイドゴーレムやゴーレムボーイは‼
ゴーレム騎士と違って戦闘用ではないから戦闘力は落ちるようだが。
それでも冒険者ランクで言う所のBランクだ。
それが表立って居るのは10体ほどだが、女将や子供達や客に気づかれないように100体のゴーレムが働いていた。男の索敵はコックゴーレムや大工ゴーレムなど細かい性能は把握できないが数だけは把握できたのだ。
ちょっと待て‼
確か【ゴーレム使い】が最初に使っていたゴーレム騎士は5体だったはずだ。
しかもその数でダンジョンのスタンピードを止めた。
そのゴーレム騎士は今冒険者や商人に貸し出され出払っているはずだった。
数が合わない。
冒険者や商人に貸し出されたゴーレム騎士は40体を超えていた。
商人の小隊を襲う為の下調べをしていた部下の報告だから間違いはないだろう。
一体あの【ゴーレム使い】は何なんだ?
噂ではあのゴーレムは彼女の祖父が造った物らしいが。
これだけは言える。
その爺は狂っている。
一体何処の国と戦争するつもりだ?
そう言えばどこかの国が魔王を倒すために勇者を召喚させたらしいが……
魔王が出現した森はこの大陸から遠い魔の森だからまだこの国に魔王の被害は出ていない。
表向きには……
恐らくダンジョンのスタンピードは魔王の影響なのだろう。
本当ならこの国はスタンピードで滅びていたのかも知れない。
それを【ゴーレム使い】が阻んだ。
まるで勇者様だな。
勇者?
小さな少女の顔が脳裏に浮かぶ。
あり得ない。
あの娘は生活魔法しか使えないただの一般人だ。
確かに歌はうまかった。だが魔力は無いし、魔力量も普通だ。
恐らく彼女の祖父がどこかの国が秘密裏に召喚した勇者なのだろう。
召喚者の中には錬金術が飛びぬけて高い者も居る。
彼らは空飛ぶ乗り物や転移門を作り上げたらしい。
それらの品は密かに王家に受け継がれているという。
「どうするんですか? 親分?」
「支配人と呼べ」
男は不機嫌にねずみ男を睨み付ける。
「へ……へいすいません」
ネズミ男は萎縮する。
「兎に角あの魔導師が魔導師ギルドに出かけたら攫え」
「あのおっさんに攫う価値があるんですか?」
「あのお方が望まれるのだ。我らはあのお方の望みを叶える為にある」
「へい。分かりました。」
ネズミ男は部屋を出て行く。
男は考える。
今日【ゴーレム使い】は下水道を掃除していた。
巨大なスライムはうごうごと下水を綺麗にしていく。
たまに指輪や折れた剣を置かれた木箱の中に放り込んでいた。
良く躾されたスライムだ。
恐らくあれはすでに見つかっているのだろう。
アジトを変えねばならない。
下手をするとこのダンジョン都市からも撤退せねばならなくなった。
【ゴーレム使い】はまともに戦ってはならない相手だ。
小さい少女が恐ろしいのではない。
彼女の横にいるゴーレムが恐ろしいのだ。
その事をあのお方に報告せねばならない。
あのお方は納得してくれるだろうか?
あのお方に時間が残されているのだろうか?
……
男はため息をつくと椅子から立ち上がり暖炉と明かりを消した。
そして……再び闇の中に消えていく。
一匹のネズミが男の後を再び追う。
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2019/10/18 『小説家になろう』 どんC
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