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ノベロニア・アンソロジー【第一章・第二章 合併版】  作者: ノベロニア・アンソロジー実行委員会
■■■ ノベロニア・アンソロジー【第弐章】 ■■■
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【第一走者】嵐山林檎

 町で一番高い建物のそのまた最上階の町を一望できる部屋の中。タオ・スーは本革張りのソファに腰かけて、先日手に入れた古文書と向き合っていた。

 ページの端々が綻んだこの古文書はいったい誰が書いた物なのか、いつの時代の物なのかもわからない。わかっているのは、とんでもないお宝の隠し場所が記されているらしいことだけだ。

「ああ、頭が痛くなるネ」

 テーブルの上に古文書を放り投げる。タオ・スーは長い脚をソファに投げ出してゴロリと横になった。

 桃の花が刺繍された深紅のチャイナドレスの裾がはだけて、スリットの割れ目から白くて長い脚がチラリと覗く。

「わかんない、わかんないヨ」

 タオ・スーは駄々っ子のように足をバタつかせた。

「タオ・スー様」

 部屋の扉が開き、ハオルンがすっと顔を覗かせた。

「な、何あるネ! 入ってくるときはノックするあるヨ!」

 ガバッとソファに座り直してドレスの裾を直しながら、タオ・スーは顔を赤くした。

 黒いスーツを着て、黒髪をオールバックに撫でつけ、黒いサングラスをかけた男。ハオルンはタオ・スーの執事にしてボディガードである。

「これは失礼しました。何やら騒がしい音がしましたので、よもやトラブルかと思いまして」

 ハオルンは慇懃に頭を下げ、タオ・スーが投げだした古文書を指差した。

「実は、その古文書を解読できるという学者が見つかりまして」

「本当ネ⁉」

「はい。その者は学者であり、発明家でもあります。建物の裏のスー商会の研究所に待たせております」

「わかった。すぐに行こう」

 タオ・スーは古文書を左の脇に抱えると、ソファから飛び降りて部屋を飛び出した。


「古文書が読めるというのはお前ネ」

 研究所でタオ・スーを待っていたのは、白衣を着た黒髪の女だった。

「いかにも。私はアルキメデス。これから諸君は、私の知識と発明の力を目の当たりにするだろう」

 アルキメデスが右手を大きく振りかざす。ひるがえった白衣の下は、焦げ茶色のビキニ姿だった。

「大丈夫なのか、こんな露出狂で」

 タオ・スーが背中のハオルンを振り返る。

「露出狂ではない。ただ暑がりなだけだ」

 照れる様子もなく、アルキメデスは快活に笑った。

「まあいいヨ。それで、古文書には何と書いてあるネ」

 尋ねながら、タオ・スーはアルキメデスの白衣の下の肢体を見た。長身で引き締まったウエストに、すらりと伸びた脚。顔もなかなかの美人だ。

 もしエセ学者だったら、うちのクラブで働いてもらおうか。すぐにナンバーワンになれそうあるネ。

「オセロニア!」

 いきなりのアルキメデスの大声に、タオ・スーはハッと顔を上げた。

「白と黒に分かれる、戦いの世界。様々な種族、勢力、国が存在し、絶え間なく争いが続く世界。オセロニアの世界は、白の大地と黒の大地によって成っている。白の大地は草木が生い茂る恵の大地。黒の大地は常に薄暗く、昼夜の区別のない不毛の大地。

 そして白の大地には白の塔がそびえ立ち、その頂上に隠された宝を手にした者は、世界の支配者となるのだ」

「それは本当ネ⁉」

「もちろん。私は無知の知を知る者。このアルキメデスにわからないことはない」

「それで、そのオセロニアの世界とは、一体どこにあるネ」

「それはわからない」

 真顔で答えるアルキメデスに、タオ・スーは詰め寄って喚きたてた。

「今さっき、わからないことはないと言ったあるネ!」

 まあまあと、ハオルンがタオ・スーを背後から抱えて後ろに引きずる。タオ・スーは子供のように足をバタバタとさせた。

「放せ、このパンダ! こんなインチキ野郎は放っておけないネ」

「どこにあるかはわからないが、どうやったら行けるのかはわかっている」

 アルキメデスはニヤリと笑った。

「この世とオセロニアの世界では、時空と空間が異なる。その歪みに生じた隙間を進めば、あちらの世界に行けるのだ」

「もっとわかるように説明するネ」

 ハオルンの腕を振り払いながら、タオ・スーはアルキメデスの黒い瞳を見つめた。嘘をついているわけではないようだ。

「時空と空間の隙間に入り込む乗り物を私が作ってみせる。この研究所を一週間、私に貸してほしい。そうすればオセロニアの世界、白の塔の頂上へとあなたを行かせることができるのだ」

 アルキメデスは両手を広げて、研究所の中をぐるりと見渡した。

 乗って損な話ではないようだネ。

 タオ・スーはハオルンに目配せして頷いた。


 その日からトンチンカンチンと町に騒音が響き渡った。近隣の住人から苦情がくるたびに、タオ・スーは大金を払って謝った。

「これだけ元手をかけたんだ。作れなかったでは済まないあるネ」

 アルキメデスと対面してから一週間後の正午。タオ・スーはハオルンを連れて建物の裏の研究所に出向いた。

「いいタイミングだ。ちょうど今、最後の調整が終わったところなんだ」

 研究所の重厚な扉を開けると、アルキメデスが仁王立ちで二人を待っていた。アルキメデスの背後には、黄色い小舟のような屋根付きの乗り物がある。

「見てくれ。これがオセロニアの世界への乗り物、イエロー・サブマリン号だ!」

 アルキメデスが後ろを向いて、黄色い乗り物を指さした。

「サブマリン? 潜水艦あるネ」

「そうだ、時空と空間の隙間に潜ることができる潜水艦なのだ」

「その名前とデザイン、どこかで見たことがあるネ。確か四人組の楽団が乗っていたような」

「細かいことはいいではないか! 目的地はオセロニアの世界、白の大地にセット済みだ」

 自信満々のアルキメデスの姿にタオ・スーは満足した。とにかくオセロニアの世界に行ければ、潜水艦の名前なんかどうでもいいのだ。

「ご苦労だったあるネ。報酬は後ほどスー商会から振り込んでおくヨ。それではハオルン、イエロー・サブマリン号に乗り込むとするネ」

「ちょっと待った!」

 潜水艦の側に歩み寄るタオ・スーを、アルキメデスが右手で制した。

「実はだな、イエロー・サブマリン号は一人乗りなのだ」

「なんだって!」

 タオ・スーとハオルンは口を揃えて叫んだ。

「ボディの素材に使用したチタンインゴット、チャンドララヴァルマン鋼、ヒヒイロカネ鋼が想定より重くて、二人で乗ると重量オーバーで動かないのだ。ちくしょう……」

 白衣の腕を組み、眉間に皺を寄せて、アルキメデスは悲しそうに下を向いた。小刻みに肩が震えて、編み上げサンダルを履いた足元にポツリと彼女の涙が落ちた。

「よしわかったヨ! 一人乗りでOKネ。あたしが乗って行くあるネ」

 慌てたハオルンが口を挟む。

「いけません。そんな危険なことをタオ・スー様にさせるわけには参りません。行くなら、この私が──」

 ハオルンが言い終わる前に、タオ・スーが潜水艦の上に駆け上がった。天井のハッチを開いて両足を船内に入れる。

「大丈夫あるネ。あたしは天下のタオ・スーさ。お宝をゲットして帰ってくるから、それまでスー商会をよろしく頼むヨ!」

 二人に向かってウインクすると、タオ・スーは船内へと滑り込んでハッチを閉めた。船内の壁の計器がチカチカと光っている。両手を水平に伸ばせないほど中は狭いが、座席はフカフカとして座り心地がいい。

 周りを見渡すと、座席の向こうに「Go To Travel」と書かれた赤いボタンが輝いている。

「いざ、オセロニアの世界。白の塔へ!」

 タオ・スーは目の前のボタンをポチッと押した。

 ウインウインウインウインとモーター音が鳴り響き、タオ・スーの目の前がパッと真っ白になった。

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